武装神姫Cross Force   作:浦尾 有

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出会い
第1話


西暦二○三六年。

第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、二○一三年現代からつながる当たり前の未来。

その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。

 

神姫、そしてそれは全高十五センチのフィギュアロボである。

〝心と感情〟を持ち、最も人々の近くにいる存在。

多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。

 

その神姫に人々は、思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。

名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。

オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを人は『武装神姫』と呼ぶ。

 

そして、二○四○年。

バーチャルリアリティ技術の革新によって、人は擬似的に神姫と一体となり意のままにコントロールできるようになった。

これを〝神姫ライドシステム〟という。

 

そして、ここに新たな神姫マスターが誕生しようとしていた……。

 

 

 ここは武装神姫の武器やパーツ、メンテナンス製品まで取り扱っているホビー店。いわゆる神姫ショップだ。

 そこに一人の少年が入店してきた。少年は辺りを見渡すと一直線にレジへと向かう。

「あのぅ、すみません……」

「はい、何かお探しでしょうか?」

「いえ、昨日この店で買ったこの神姫なんですけど……」

 そう言うと少年は手に持っていた袋から一つの箱を取り出した。その箱を開け、中から一体の神姫を取り出した。

「ここ、初めからキズみたいなのが付いてたんですよ……。それで、セットアップはまだしてないんですけど、交換とかできますか?」

 店員はふむ、と呟くと神姫を手に取りキズの具合を確認した。ボディー部分、人の体で例えると、左の肩の部分にバツ印のキズが深々と刻まれていた。

「確かにこれは酷いね。わかりました、在庫を確認してみます。もし在庫が無かった場合は、申し訳ありませんが取り寄せいたしますので、後日お渡しになると思います。それでは少々お待ちください」

 店員はレジの奥に消えていったが待つこと数十秒、一つの箱を持って戻ってきた。

「お待たせしました。ちょうどコレが最後の一つでしたよ」

 少年はキズモノを渡し、新品を受け取ると少年は一言お礼をすると、足早で去って行った。

「やれやれ、傷不良品か……。神姫の素体は簡単に傷つく物でも無いんだが、さてこれ、どうしたものか……」

 店員は独り言を呟きながら神姫を箱に戻した。

「とりあえず裏に置いておくか。これをどうするかは後で考えるとしよう」

 

 

 満員とは言えないが、座席が全て埋まる程度には混んでいる電車に乗っていた。二○四○年。技術改新により、あらゆる物が機械化、自動化された現在。その中で、昔から殆ど代わり映えのしなかった物の一つが、この電車だ。

 デザインの変更や、ホームが新しくなる事はあったが、根本的構造は昔のそれと変わらない。昔といっても、見た事があるのは十数年前までだ。もっと昔の事は知識として知っている程度だ。

 かれこれ二時間は電車に揺られている。もうじき目的の駅に到着するだろう。携帯電話で時刻を確認する。待ち受け画面のデジタル時計は十二時三十分を表示していた。

『次はー秋葉原ー、秋葉原です』

 昔から変わらない、あの独特な声の車内放送が流れた。電車は秋葉原駅で停車すると、車内放送と共に扉を開けた。

「やっと着いたか。しかしまた早く来ちまったな」

 今日はここ、秋葉原で中学からの友人二人と買い物をする為、一時に駅前で待ち合わせをしている。だが、宏彦は癖で約束の時間より三十分ほど早く着いてしまう。時間に遅れるのが嫌で、三十分前行動を心がけているからだ。しかし今日待ち合わせている友人の一人は、待ち合わせ時間の三十分ほど遅れて来るのだ。その為、結局一時間近く待つ事になる。

「さて、待ち合わせ場所の改札口はこっちかなっと」

 これまた昔とさほど見た目の変わらないパスモをかざし、改札から出たところで驚きの人物が目の前にいた。

「よぉ宏彦! 早いな、待ち合わせ時間より三十分早いじゃないか」

 遅刻の常習犯の俊輔が先に待っていたのであった。

「それはこっちのセリフだ遅刻常習犯。普段より一時間早いじゃないか。雪でも降るのか?」

「いやぁ今日はちょっとした物の発売日でワクワクしちゃって。気づいたらこんな時間に着いてたのさ」

「妙にテンション高いな。一体何の発売日なんだ?」

「実は今日発売する新型の武装神姫があってさ」

「武装神姫? 博が持ってるやつか?」

 銃器や戦車なんかに詳しい。いわゆるミリタリーオタク。今日、一緒に買い物するメンバーのもう一人だ。

「お前も銃器に目覚めちゃったのか?」

「言っただろ? 今日は新型の発売だって。武装神姫は色々な種類があって、アイツの持ってるやつはその中の一種類って事だ。……って、最近知ったばかりの俺がドヤ顔で言うのもなんだけどな」

「そうだよな。萌え系アニメオタクのお前には似合わねぇしな」

 俊輔は自分の好きなアニメをやたらお勧めしてくる。対して博は銃も好きだがプラモデルを作る。主にアニメ等に登場するロボットのプラモデルだ。この二人と長く遊ぶにつれ、今まで興味は無かった萌えアニメを見るようになり、更にはプラモデルも作るようにもなった。いわゆるオタクの世界である〝こちら側〟に来てしまったのだ。

 そんな話をしていると、ほぼ時間どおり、十二時五八分に博が現れた。

「お待たせ! って俊輔君、今日は早いじゃないか? どうしたんだい遅刻常習犯」

「チクショウお前もそれかよ! そんなことよりまず神姫ショップ行こうぜ! 俺のパートナーが待ってるんだ!」

「そんな事言って、神姫ショップの場所すら知らないでしょ?」

 博が的確なツッコミを入れると、俊輔は苦虫でも噛み潰したかのような顔をしていた。なにせ彼は武装神姫をこれから始めるのだ。神姫ショップの場所も知らない。そのため神姫に詳しい博を誘ったようだ。

「どうだ宏彦、お前も俺と一緒に武装神姫始めてみないか?」

 図星を突かれた俊輔が話をそらす為か宏彦へ話をふった。

「うーん。とりあえず見てみない事にはわからないからな」

 俊輔をそこまで動かした物だ。一応気にしてみるのも悪くないだろう。そんな事を考えながら神姫ショップに向かうのだが、そこであんな恐ろしい事が起きるだなんて、この時は思いもよらなかったのである。

 

 

 大きな通りから、少しだけ薄暗く細い道に躊躇無く博は入っていく。

 そこは大通りと比べ人通りは少ないものの、決して誰もいない訳ではなかった。

 そして、その殆どが神姫を持っているようだった。

 ある者は肩に。また、ある者は頭の上に乗せていた。

「見てくれよ俺の種子! オリジナルカスタマイズで更に防御力を高めてあるんだぜ!」

「ぼ、僕はシャラたんに服を自作してあげたんだな!」

 ここでは神姫談義に花を咲かせる人が多く見られた。確信は無いが、その全てが神姫をパートナーとした、神姫マスターと呼ばれる人達なのだろう。

「さ、着いたよ。ここが神姫ショップだ」

 博が指を指す先には大きく神姫ショップと書かれた看板が一際目を引いた。

「こんな分かりにくい場所なのに意外と大きいんだな……」

 俊輔が思ったことをそのまま口にした。

「逆に言えばそれだけ需要があるって事だよ」

 博はそう言うと店の中に入っていった。

「俺達も行こうぜ宏彦」

「そうだな」

 博を追いかけて宏彦と俊輔はショップの自動扉をくぐり入店しようとした時だった。宏彦の体に伝わる衝撃。突然の出来事に対応できず少しよろめく。

「おっと……」

「あっ! ごめんなさい!」

 目の前には小学生か、中学生くらいの少年。おそらく、ショップを出ようとして宏彦とぶつかったのだろう。

「きみ、大丈夫?」

 少年の手には小さな紙袋。この少年も神姫マスターなのだろうか。

「はい。大丈夫です。それじゃ、僕はこれでっ」

 そう言うと少年はショップを出て行った。

「二人ともー何してるのー?」

「今行くよ!」

 博に呼ばれ入店する二人。

「ほぉーこれが神姫ショップかぁー」

「見たことも無い部品とかも置いてあるんだな」

 宏彦と俊輔はそれぞれ思った事を口にしていた。

「そう。ここが神姫ショップ。神姫は勿論の事、神姫の武器やアーマー、メンテナンス用品から神姫用の服やアクセサリーまで何でも揃うのさ」

 博が何故か少し自慢げに説明する。

「そんな事よりさぁ……」

「俊輔君の探している新型コーナーはあそこだよ」

 博が指を指して場所を教えると俊輔は一目散にそこに向かって行った。

「さて僕は、ん? ……おぉ! こ、これはM49ショットガンのカスタム版じゃないか! なぁマリンカ、これどう思う?」

 いつの間にか博の肩に乗っている神姫は火器型ゼルノグラードのマリンカだ。

「しかし隊長、それは中古品であります! 中古というものは信用性に欠けるであります!」

「だが考えてみろ、信用性に欠けるピーキー品を使うのはロマンではないか?」

 どうやら二人だけの世界に入ってしまったらしい。こうなるとしばらく不毛な話し合いが続くのである。しかたないので宏彦は一人で店内を回ってみることにした。

「これが神姫専用の武器かぁ……。武器って何に使うんだろ? 動き回るからプラモデルみたいにポーズつけて飾るって感じもしないからなぁ。しかし細かな所までよくできてるな」

 武装神姫というのは体長十五センチ程度の人型ロボット。それらが扱うとなると武器も比例して小さく細かくなるのだ。銃で言えばトリガーを引けば、専用の銃弾が発射されるといった感じで、凄く繊細な構造をしているようだ。

 さらに辺りを散策していると、神姫が展示されているショーケースにたどり着いた。

 様々な物がモチーフとされた神姫達が処狭しと飾られている。動物から食器や楽器、更には幻獣などの実際には存在しないものもいた。それらがポーズを決め展示されている。手に持っている武装も様々だ。

 中には宏彦の存在に気づき手を振ってくる神姫もいた。

 しばらく眺めていると一体の神姫に目が行った。黄色が基調のボディーカラー。薄紫の髪と瞳。周りの神姫と比べて武装も貧相で少し小柄な彼女に釘付けになってしまった。

「か、かわいい……」

「お? なんだ? 気になる子でもいたか?」

 いつの間にか戻ってきた俊輔に突然話しかけられ少し驚いた。

「う、うん。まあね。それより俊輔は何買ったんだ?」

 俊輔はフフフと言いながら手に持った袋から一つの箱を取り出した。

「じゃーん! これぞアキュート・ダイナミックス製、鷹型ラプティアスさ! いやもうね、一目惚れって言うか、ネットで見た時になんかこうビビッと来ちゃったわけよ。俺のパートナーはこの子しかいないってね」

「一目惚れ……ね。なんか、わかるような気がするよ」

「おやおや? 宏彦もなのかい?」

「あの黄色くて紫色の髪の神姫、……すごくかわいい」

「それはフェレット型パーティオだね」

 いつの間に話し合いが終わったのか、マリンカを肩に乗せた博が後ろに立っていた。

「パーティオもなかなか可愛いよねー。でもそれ結構前に出たやつだからもしかしたらもう無いかも。神姫との出会いは一期一会とも言われているしね。一応店員さんに聞いてみるのも良いかもしれないよ。取り寄せとか融通聞く店だからここ」

 一期一会、もしかしたら次は無いかもしれないという事か。こういう美少女フィギュアは買った事がない為、宏彦は恥ずかしさを覚えた。

「よし! 男は当たって砕けろだ! ……えっとパーティオで良いんだよな?」

 恥ずかしさを押し殺しレジへと向かう。

「すみません。あの、あそこにあったフェレット型パーティオってありますか?」

「うーん。あることにはあるのですが……」

 店員は何かを悩んでいるように見えた。

「……少々お待ちいただけますか? 先ほどの男の子がキズ物だったと返却してきた物なんですが……」

 そう言うと店員はレジの奥に入っていった。

「それってもしかして……?」

 宏彦は入り口でぶつかった少年の事を思い出してた。

 しばらくすると店員は一つの箱を持ち出てきた。その箱の中から一体の神姫を取り出す。それは間違いなく、あのショーケースで見たパーティオだった。

「こちらになるのですが、見て頂くとわかるように、左肩の部分にキズがあるとして返却された物でして……」

「ください! 買います! いくらですか?」

 店員がまだ最後まで言い切らないうちに購入宣言をしていた。

「実は、返却された不具合品をお売りすることはできないんですよ……」

「えっ! そんな……」

 あまりも酷い仕打ち。完全に一人でぬか喜びをしていた宏彦はガックリと肩を落とした。

 その宏彦の姿を見てか店員は続けて言った。

「でも僕はね、神姫は起動する前から命があるものだと思っているんですよ。処分され、その命が失われてしまうと考えると、何とかして助けてあげたいと思うんです」

 神姫に命。確かに人工知能を搭載してはいる。おそらくこの店員は小さな命と、それぞれが持つ自我を尊重し、人のそれと同じ価値があると考えているのだろう。

「ちなみに、神姫は原価だとこれくらいします……」

 レジのモニターに映し出された金額に驚いた。今の持ち金では足りない。神姫とは、こんなにも高額な物なのかと嘆く。

「さっきの話、聞こえていましたよ。お客さん、神姫は初めてなのでしょう? ご予算はおいくらでしょうか? 中古、ジャンク品として特別サービスしますよ。」

 店員が少し小声で呟く。

「本当ですか!? えっとですね…………」

 

 

「やったな! ついに俺たち神姫オーナーだぜ! 共にがんばろうぜ相棒!」

「勝手に俺を相棒にすんなし!」

 俊輔が肩を組んできた。だが、お互い今日が神姫オーナーの第一歩である事は間違い無い。

「ところでがんばるって何をがんばるんだ?」

「そうだね、とりあえずは神姫を可愛がってあげる所から始めるといいよ。神姫はちゃんとした人格と人工知能を持っているから色々と世界を教えてあげるといい。絆が深まったら服を着せてあげたりするのも良し。ゲームセンターでバトルするのも良し」

 博が少し長めの説明をする。が、大体の事はわかったような気がする。

「へー武装神姫ってゲーセンでバトルするのかー。それよりさ宏彦……」

「ん? 何?」

「お前それ買ったのはいいけど、本当は別の物を買いにアキバ来たんじゃないのか?」

「……」

「……」

「あ――――!! そうだった――――!! 俺、プラモとゲーム買いに来たんだった――――!!」

 その後三人は色々な店を周り夕方には秋葉原を後にしたのであった。

「本来の目的すら忘れさせる武装神姫、パーティオ。なんて恐ろしい子」

 だけども後悔は無い。それどころか清々しい気分ですらあった。なにせ初めて一目惚れした子をお迎えできたのだから。

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