第10話
宏彦と俊輔は待機室にて試合を観戦していた。
「俺たちはBブロックの方しか観戦できないんだな」
俊輔は二人の事が気になるのか、さっきから終始ソワソワしているのだ。
「そうだね。でも心配しなくても二人は勝ち上がるよ」
「まあ、確かにあの二人に限って初戦敗退なんて事は無いよな。っと、そろそろ決着つきそうだな。次は俺たちだ。行こうぜ宏彦」
二人は神姫を連れ、会場へと向かった。
会場への扉をくぐると、そこは正に戦場と言っても過言ではなかった。
観戦者の熱気とやかましいくらいの声援。その二つが会場をより一層熱くした。
目の前で行われている試合はどちらも譲らない状況だ。
両チームとも相方が戦闘不能となり、一対一で最後の踏ん張りを見せていた。
片方は鳥の様な大きく白い翼を持った紫色のヒロイックな神姫、セイレーン型のエウクランテ。空中戦を得意としたスピード型の神姫。
対する神姫は戦闘機を模した灰色の武装と巫女装束を掛け合わせたかの様な、戦闘機型神姫の飛鳥だ。こちらもエウクランテに劣らない飛行能力を持っている。
両神姫は互いに後ろを取ろうとドッグファイトを仕掛け、激しい空中戦を繰り広げていた。
背後を取り、有利なのは飛鳥の方だった。
エウクランテの後方から機関銃を撃つ飛鳥。飛鳥が機関銃の弾を装填する一瞬の隙にだけ振り返りショットガンを撃つエウクランテ。
どちらもギリギリの所で回避する為、中々勝負がつかないでいた。
その時だった。エウクランテが姿勢をグッと持ち上げ急ブレーキをかけた。
突然の出来事に対応できずに通り過ぎてしまい、今度は飛鳥が後ろを取られる。
「なにっ!」
「いつだか見た戦闘がこんな所で役立つとはねっ!」
エウクランテはそう言うと全ての武器と一部の武装を組み合わせ、大型合体兵器である〝テンペスト〟を作り上げた。そこから放たれる極太レーザーが飛鳥を襲い、とうとう決着がついた。
決着と同時に会場はドッと歓声を上げ、更にヒートアップした。
「フフン。これで、咬ませ犬だなんて言わせないわ」
エウクランテは人差し指を掲げポーズを決めた。
「盛り上がってるなぁ」
「俺達で本当に大丈夫なのか……?」
会場の雰囲気に圧倒され気味の二人は小さく呟いた。
「おにぃたん!」
「マスターもでしてよ!」
喝を入れさせる為か、それぞれの神姫が声を張り上げた。
「そうだな。始まる前から弱音なんて吐いても仕方ないよな。よし! 行こう俊輔!」
「おうよ相棒!」
両人は神姫を筐体にセットする。仕様はゲームセンターに置いてあるそれと一緒のものだった。
「ライド!」
「オン!」
二人の掛け声と共に一瞬視界が途切れる。次に目に入る風景は草原だった。
所々に木が何本か生えているだけで、その他は踝以下の背の低い草が彼方向こうまで広がる平坦なフィールドだった。
体を撫でる気持ちの良い風。春を思わせる暖かい日差し。ここで昼寝をしたらどんなに気持ちが良いだろうか。
しかしながらこれはバーチャル。更に言えば、戦闘は始まってはいないものの、バトル自体は既に始まっているのだ。
「それにしてもよ宏彦、相手出てこないな」
フィールドがいくら広くとも、隠れる場所など無く、見通しが良い。それなのに相手を目視できない事に警戒をする。
その時だった。突然フィールド全体が闇に包まれた。
「な、何だ!? 停電か?」
バトルフィールドは機械で再現している。その機械に電力が供給されなければ当然視界は失われるだろう。
しかし、おかしな事に神姫と問題無くライドできていて、感覚ですらいつものライド状態と変わりないのだ。
気付くと一箇所だけ、まるで上空からライトアップされているかの様に明るい場所があった。
そこに二つの影が飛び込み姿を現した。
「何だ!? 停電か? と言われれば」
「答えてやるのが世の情け」
どこかで聞いたことのある様なフレーズを言うのは、緑色のアーマーに身を包んだ犬型神姫のハウリン。もう一方も似たような形状をした橙色のアーマーを装備した猫型神姫のマオチャオだった。
そして二体の神姫は更に続けた。
「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実の悪を貫く」
「ラブリー・チャミーな敵枠」
ハウリンとマオチャオは交代で台詞を言いながらポーズを決めて行くが。
「それ以上はっ!」
「言っちゃいけないっ!」
宏彦と俊輔が叫ぶと同時にティアとニーナはハンドガンを乱射し、登場シーンを妨害する。
突然攻撃されたハウリンとマオチャオは慌てふためき、ドタドタと転げ回りながら弾丸を回避していた。
「コーラーッ! 登場シーンの攻撃はご法度なんだぞー!」
体制を立て直したハウリンが叫んだ。それにマオチャオも続く。
「そーだそーだ! せめて名前くらい言わせろなのにゃー!」
マオチャオはそう言うと、真っ直ぐ突進を開始する。同時にハウリンの方も走り出した。
「相手は頭に血が上って冷静な判断ができていないはず。俊輔!」
「ああ! 神姫に血は無いと思うけど行けるぜ!」
ティアはリストパーツに装着されたブレードを展開。ニーナは両手にナイフを出現させ重心を低くし獲物を狩る姿勢。
「今なの!」
「「クロスナイフ!! 」」
ティアとニーナは同時に叫ぶ。タイミングを合わせ、突撃する二体の神姫の正面を同時に切り抜け残光を走らせる。
二つの残光はクロスし、エックスの文字を映し出した。
光が消えると同時にハウリンとマオチャオは膝から崩れ落ちた。
「ま、丸パクリは良く無いよな」
俊輔は倒れた二体の神姫に向けて言い放つ。
「これも……二次創作……にゃ……ガクッ」
マオチャオが何やら意味不明な発言をしていたが誰も気には留めていなかったようだ。
「ま、何はともあれ初戦白星ゲットだな」
「あ、ああそうだな」
しかし会場は先の戦闘ほど盛り上がってはいなかった。
「呆気なく終わらせちゃったからな」
どうやら俊輔も会場の雰囲気に気づいたようだ。
「なんだか来る所間違えちゃった感が……」
「とりあえず待合室に一旦戻ろうか」
二人は逃げ変える様にその場を離れ、待合室へと向かった。
◆
その後も難なく勝ち続け、気付けばAブロックでの最終バトルとなった。
「いよいよAブロック最後のバトルだな。これに勝てば全勝だ」
「ああ。でもまぁBブロックの人達、皆ネタ勢っぽいから楽勝じゃね?」
「それは慢心と言うものでしてよマスター?」
「その通りですわ!」
ニーナの言葉に反応した相手の神姫が言った。
「私達だって今の所全勝だぜ!」
相手の神姫の一体は、赤いボディーに桃色の髪。気の強そうな喋り方の神姫はハイスピードトライク型のアーク。
「この勝負、あたくし達が華麗に勝利を頂くのですわ!」
相方は水色のボディーに紫の髪。こちらは高貴なお嬢様と言った感じのハイマニューバトライク型のイーダ。二体ともスピードを重視した神姫だ。アークは直線に強いのに対しイーダは曲線が得意と言う、対の存在となっている。
このペアのバトルを待機室で観戦していたが、他とは違いスピードも実力も有していた。
「悪いけど、俺たちは簡単に負けたりしないからな!」
挑発するかのように俊輔は言った。
「いや、お前達は負ける。お前達に足りないもの、それは! 情熱、思想理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりもォォォオオオオッ! 速さが足りないっ!」
これまたどこかで聞いた事のあるセリフをそのまま使ったアークは、宏彦達を真っ直ぐ指差した。
「もう、こんなんばっかかよ……」
宏彦は頭を抱え呟いた。
「気に入らなくてよ……」
ニーナは怒りを込めて呟いた。
「どうしたんだ突然……?」
「あの水色の神姫! あたくしとキャラが被っていますのよ! それに色も!」
「え? そんな理由?」
「そんなとは聞き捨てなくってよ! ああもう! マスター、早く準備して下さいな!」
どうやらニーナは相当気が立っているようだった。
「お、おう。それじゃ行くぞ!」
「「ライド・オン!」」
宏彦と俊輔が同時に叫ぶ。
今回のフィールドは、まるで筒状のトンネル中に閉じ込められたかのような場所。チューブと呼ばれるフィールドだった。
「どうやら勝利の女神はあたくし達に微笑んだようですわね」
「どう言う事……」
自信満々のイーダにニーナは恐る恐る聞いた。
「薄々勘付いてるんじゃないのか? チューブはスピードが強化されるギミック付きさ! つまり、私達には追い付く事はできない! ロードファイター!!」
アークは自身の武装を三輪バイクの様な、ハイスピードトライクモードへと変形させた。
「無様に踊らされるが良いですわ! スリルドライブ!」
続いてイーダも変形し、ハイマニューバトライクモードへとなる。アークは前輪が一本で後輪が二本の直線スピード型。対して、イーダは前輪が二本ある。そのためアークより小回りが効くのだ。
エンジン音を響かせると、砂埃と排ガスを巻き上げながら二体の神姫は走り去り姿を消した。
「けほっ! けほっ! 武装が変形するなんてびっくりなの」
咳き込むティア。
「そちらがが変形ならこちらは……ティア! あれ、やりましてよ!」
「わかったのなの!」
爆音を響かせながらチューブ内を颯爽と走るアークとイーダ。
先頭はアークでその少し後ろにイーダが付いていた。
「ちゃんとついて来てるか?」
後方を一瞬見てからアークは聞いた。
「貴女に引けを取るつもりはありませんわ。それより運転中は、ちゃんと前を見て下さいな!」
互いに心配し合う様は、まるで仲の良いレーサーのようだ。
「大丈夫だって。お互いのドライブテクは自分が良く知っているはずだろ?」
「そうでしたわね。……ですが、あまり過信しすぎると足下すくわれましてよ?」
イーダが後ろを見ると、そこには一つの影が着いて来ていた。
「おもしれぇ! ギア上げるぞ!」
アークの一声で二体のトライク型は更にスピードを上げた。
「このスピードについて来れる奴なんて……」
そう言った瞬間、アークは目を疑う光景が飛び込んできた。
「まだついて来ている……だと!?」
イーダの後ろに食いつく〝ソレ〟を。
「それより……アレは……神姫が、神姫を背負っているだなんて、信じられませんわ!」
ティアがニーナを背負い、走って追いかけているのだ。
「追いつきましてよ! これがあたくしとティアの合体技! ライドバックでしてよ!」
そう言うとニーナはナイフをイーダの後輪目掛けて投擲した。
ナイフはタイヤに突き刺さり、真っ直ぐ走れなくなったイーダは転倒。
壁に激突して爆発大炎上。走行不可になった。
「やりましたわ! これでキャラかぶりはいなくなりましてよ!」
「ニーナ、多分、他にも同じような神姫、たくさんいるぞ?」
俊輔がすかさず訂正しようとするが、当の本人は高揚して耳に入っていないようだった。
「畜生! やりやがったな!」
アークは更にスピードを上げた。アークとティア達の距離は徐々に開かれて行った。
「ティア! もっとスピードを上げて下さいな!」
「これ以上は無理なの!」
「どうすれば……」
ニーナが思考を巡らせていた、その時だった。アークが急旋回し、ティア達のいる方向へと機体を振り向かせた。
「くっ! 仇は取ってやるからな!」
アークのトライク前部に装着されているランチャーの砲身に光が集まりエネルギーがチャージされて行く。
「このままでは発射までに間に合わなくてよ! ティア!」
「わかった……なのっ!」
ティアはニーナの手を掴み、
――投げた。
投げられたニーナは、慣性と投擲のエネルギーで横回転しながらアークへと突っ込んで行く。
「ファイヤーッ!」
ランチャーから放たれた真っ赤なレーザーはニーナを捉えた。
が、ニーナは新たに出現させた二本のナイフと回転力でレーザーを切り裂き散らす。
「はあぁぁあっ!」
衰えを見せない回転でそのままアークを切り刻む。
切り刻まれたアークはトライクから弾き飛ばされ地面に倒れた。
が、アークは今にも崩れてしまいそうな程に震える足で立ち上がった。
その様子から相当なダメージだったとみて取れた。それもそのはず。何せ武装はほぼ全てトライクに使用されている為、神姫本体は無防備と言っても過言では無い。
「……まだだ! まだ、倒れない! 倒れたとしても、それは前のめ……り、だ」
最後にそう言うとアークは、宣言通り前のめりに倒れ動かなくなった。
「貴女は速かった。でも、バトルは速さだけでは無くてよ」
この瞬間、Aブロックでの全勝チームが決定したのだった。
「やったな俊輔! 俺達が全勝だよ!」
宏彦は飛び跳ね喜んでいたが。
「うぅえ……気持ち悪い……マジ酔った」
神姫ライドシステムは感覚の共有だ。俊輔の神姫、ニーナはティアにまたがり高速で移動し、挙句投げられ回転までしたのだ。神姫は酔わないが、ライドしたマスターには相当負担がかかった様だ。
「頼むから二度と回さないでくれ……」
これ以上無いくらいに俊輔の顔は青ざめていた。
俊輔を休ませる為、休憩場に行きお茶を飲ませた。
しばらくゆっくりしていると、徐々に俊輔の顔色が良くなってきていた。
「ありがとな宏彦。だいぶ楽になったよ」
「どういたしまして。それより遼さん達の方はどうなたっんだろう?」
「そうだな。……っお! 噂をすれば」
俊輔が指差した先には、二人の歩いている姿が見えた。
「おーい二人ともー!」
二人はどうやら俊輔の声に気づいたようだった。
「お疲れー。そっちはどうだったー?」
俊輔が揚々と聞いた。
「最後の最後で負けちゃった」
いつもより声のトーンが低い博。負けたのが相当悔しいようだ。
「他の神姫マスター達も強かったけど、最後に戦った彼は尋常じゃない強さだった」
「ん? そっちの相手は皆強かったのか?」
俊輔達が戦った神姫マスター達は皆妙なのばかりだった。
「そうだけど……なるほど、受付のチェックは戦闘力だったり、戦闘経験で分ける為だったのかもしれない」
その推測に合点がいった。宏彦も俊輔も、神姫マスターになったのはつい最近だ。ただ、暇さえあればゲームセンターで練習を重ねてきた二人だ。初心者の中に入ってしまえば頭一つ飛び抜けるのも納得する。
「そうだ、二人が負けた相手ってどんな奴なんだ?」
「僕達が負けたのは黒羽兄妹だ。兄の黒羽 柳には気を付けて。彼の神姫は……」
遼が最後に何か言おうとした丁度その時、決勝戦を始めると言うアナウンスが入る。
「っと、呼ばれちまった。んじゃ、行ってくるぜ!」
宏彦と俊輔は急ぎ足でホールへと向かった。