第11話
ついにやって来た決勝戦。対戦相手はカスタマイズされた高性能神姫のシュメッターリングのリペイントバージョン。黒羽 アゲハの神姫、黒姫。そしてその兄、黒羽 柳の神姫は以前遼から聞いたのと同じ、アルトアイネス・ローザ。名前も同じエリスだった。
一度リセットされたアルトアイネスと恐らく同じだろう。
つまりそれはクロス・フォースを使用できる可能性が高いと言う事だ。
「俊輔。あのアルトアイネスには気をつけよう。多分、クロス・フォースが使える」
「ああ。わかってる。前に遼さんが戦った時は暴走したみたいだけど、もう使いこなせる様になったのかもしれないしな」
遼の昔はエリスが突然暴走した為対応できなかった。だか今は違う。ティアが暴走しかけた時も落ち着いて対処し、難なく遼が負けたとなると、黒羽 柳の実力か、クロス・フォースを完全に使いこなしたかだ。
どちらにせよ未知の強敵に変わりは無い。
「大丈夫だって! ティアだってクロス・フォース使えるんだし、何より俺がついてる!」
「そこまで大見得を切ったのですから、足手まといにはなれなくってよマスター?」
「あ、う……まあ何とかなる……かな?」
そんな話をしながら、黒羽兄妹の待つ決勝戦試用の特別な筐体の席に腰掛け待機している時だった。
「二人とも、待っていたよ。僕は以前から君達を見ていた」
背後から黒羽 柳が突然現れ、話しかけてきたのだ。
「前から俺達を見ていた? どう言う事だ?」
疑問を抱いた宏彦は柳に聞いた。
「言葉の通りさ。だから今回君達を招いた。晴れ舞台で君達と本気のバトルをしてみたかったんだ」
「私も……宏彦と戦いたい……」
柳の横で立つアゲハは今にも消えてしまいそうな声で呟いた。
「なるほど。今までバトルなんてした事の無いアゲハが突然大会に出たいなんて言うのはそう言った理由が……」
「べっ、別に理由なんて無いんだから!」
アゲハの顔が少し赤面していたように感じ取れた。
「わかったわかった。それじゃあ、アゲハが先に戦う。その間、僕はもう一人の方と戦う。その戦いが終わったら僕が相手をする。良いね?」
「……わかったわ」
少々不満そうなアゲハだったが、兄には逆らえないのだろう。
「何だよ、俺を倒すまでが時間制限みたいに言いやがって! ニーナ、あの野郎に一泡吹かせてやろうぜ!」
「あら、珍しくマスターと意見が合いましてよ。」
「それじゃあ初めよう、最後のバトルを……」
『『ライド・オン!!』』
四人は一斉にライドする。
気づけばそこは今まで見た事の無いフィールドだった。乾いた砂の様な色の壁と柱に囲まれた、円形闘技場。それはまさにローマのコロッセウムだ。
「それじゃあ宏彦、俺はあの若社長の野郎をぶっ飛ばしてくるからよ!」
「わかった。でも、無理はするなよ? チーム戦なんだからな」
「無理なんてするもんか。それじゃあ、お前も頑張れよ」
そう言うと俊輔が動かすニーナは跳躍しローザへと向かって行った。
「今度は……負けないわ!」
すぐに声がした方を見ると、パラソル型の槍で突撃してくる黒姫の姿があった。
前回、アゲハの扱う黒姫と戦った時も初手は槍の突撃だった。
その突撃は赤城 輝春の神姫、ガブリーヌのジークと比べると、キレがあった。
真っ直ぐ迷いの無いそれは、まるで的に吸い込まれる矢の様に。
だが、その突撃をティアは小剣で受け流し、横へと回避する。
「真っ直ぐ過ぎるぜ! それじゃあ前と変わらなっ……」
その時だった。
通り過ぎたかと思った黒姫はブラックパラソルの柄の部分を変形させライフルとして使用できるようにした。すぐにティアへと狙いを定め弾丸を放つ。
「なるほど……。でもっ!」
宏彦は落ち着いた声で呟く。
ティアは後ろを振り向かず、再び回避行動を取った。
そして着地と同時に小剣を後ろへと振り抜く。刹那、重い衝撃がティアの右手を伝わる。
槍の突撃からライフルでの射撃までは牽制。本命の攻撃は背後から近接技を行うと踏んでいた。それでいて、正確過ぎる黒姫の突き。だからこそ予測ができ槍の突撃を止める事ができたのだ。
「その攻撃パターンは知っていた」
今まで何度も見て来た牽制攻撃から、回避先に攻撃を仕掛ける戦法。同時に学んだ事もある。
「ここなのっ!」
ティアはナイフの装着されたリストパーツ、ウィッディーツインを空いた左手だけに装着させ、そのまま黒姫を突き刺す。
否、突き刺したつもりだった。
手応えは感じられなかった。突き刺したと思った黒姫は無数の黒い蝶となり舞い散った。
「幻影!? 神姫ってそんな事も……っ!」
気づくと四方八方、黒姫の槍がティアの方へ刃先を向け空中を浮遊していた。
「なんじゃこりゃああ!!」
「おにぃたん!!」
ティア目掛けて一斉に飛来する傘型の槍は正に黒い雨だった。
槍の雨は次々と砂色の地面に突き刺刺さり、轟音と同時に地面の欠片を大量に巻き上げた。
巻き上げられた小石と砂は地面へと落下し、パラパラと乾いた音を奏でる。
「今回は正確性に囚われないでランダムに攻撃してみたわ。これならちょっとした動きでは避けられないでしょう?」
どういった原理なのか、パラソルを開いた黒姫が空中をフワフワと漂っていた。
やがて視界がハッキリすると、辺り一体全ての槍が地面へと刺さるだけで、ティアの姿は無かった。
「どういう事……」
さすがの黒姫も、目の前の状況に驚いている様だった。
「まさか、この攻撃を全て回避したとでも言うの!?」
「アタリ……なの!」
遠くの方から物凄い速さで近づいて来たティアの声に黒姫はブラックパラソルを閉じる。浮力を失ったのか急降下する黒姫。ティアの攻撃は空を切るだけの空振りに終わった。
「もちょっとだったのに!」
お互いに着地し、一定の距離を取った。
「……それが、あなたのクロス・フォースなのね」
黒姫の言う通りで、ティアはエメラルドグリーンのオーラを纏っていた。
クロス・フォースの力を使い、移動速度を上昇させ槍の雨を回避したのだ。
「能力は移動速度と回避力アップ。と言った所ね」
黒姫がクロス・フォースという名前を知っている事に違和感を感じる宏彦だったが、今はそれど頃ではなかった。
「それじゃあ、こんなのはどうかしら?」
そう言うと黒姫は身に着けるゴスロリ衣装のスカートをたくし上げた。
すると、中から黒い折り畳み傘がいくつも出てきた。
その傘は一定の所まで落下したかと思いきや、ふわりと上昇し空中を漂った。
傘は全部で八本。綺麗な円を描きながら黒姫の周りで待機しているのは自立可動型ビットの類いだろう。
ビットと言えば、使用神姫の援護射撃が主だ。攻撃の合間合間に射撃を差し込み、相手の攻撃を妨害する等と厄介な武器だ。
しかし、空中に漂うビットを操作するのは神姫自体だ。操作には相当の演算能力を必要とする。その為、使ったとしてもビットは二機程度。多くても四機だ。
それ以上になると、神姫の行動に支障が出る。
つまり、通常より倍のビットを使用する黒姫の演算能力は単純に考えて、普通の神姫の倍と言う事になる。
「厄介だな……」
宏彦が呟いたのと同時に黒姫は右腕を上げる。
「行って……」
黒姫の掛け声で傘型ビットは動き出す。
不規則に攻撃してくるビット。合間に槍で攻める黒姫。クロス・フォースを発動し回避に専念しなければ槍に突かれるか、ビットに撃ち抜かれる。いずれも後の大打撃は目に見えていた。
「あれ?」
しかし、一つ気付いた事がある。攻撃してくるのは四機のみ。残りの四機は黒姫の後ろに追従しているだけだった。
「もしかしたら……ティア! ハンドガンだ!」
「わ、わかったのなの!」
ティアの右手にハンドガンを出現させ、黒姫に向けて撃つ。
「甘いわ」
黒姫の周りに漂っていた傘型ビットの一つが開きティアの放った弾丸をはじき返した。
「このシールドビットはどんな攻撃も通さない。もう、あなた達の攻撃は私に届かない」
「でも攻撃の手が止んでるぜ」
そう。シールドを展開してからは、ビットの攻撃はピタリと止まっている。
「つまり、そのビットは、攻撃か防御、どちらかしかできない。そうだろ?」
「流石……と言いたい所だけど、このままだと、あなたの相方は私のお兄様にやられてしまうわよ?」
「そうかもしれないな。けど!」
ティアは走り出した。黒姫の周りを高速で、円を描くように移動しながらハンドガンを撃ち続けた。
「無駄よ」
四機のシールドビットが展開し、黒姫の四方を覆った。
ティアの放つ弾丸は虚しくはじかれるのみ。しかしその足を止める事は無い。徐々にスピードが乗って来たのか、ティアの走った所は砂埃が舞い上がり始め、次第に巨大な竜巻を作り上げた。
「何を企んでいるかは知らないけど、このシールドを貫く事はできないわ」
ティアの弾丸をはじき続けていた時だった。
突然砂埃の竜巻が弱々しくなっていく。同時に射撃の移動速度にも衰えが見えた。
「どうやらエネルギー切れのようね?」
クロス・フォースも無限に使えるわけでは無い。それ相応のエネルギーを消費する。
砂埃の竜巻が消えかかったその時だった。
「やああああああああっ!」
「なっ!? 上っ!?」
黒姫は声のする真上を向くと、そこには今にも小剣で斬りかかろうとするエメラルドグリーンのオーラを纏ったティアの姿。
黒姫は回避しようとしたが、自身の周りに展開されたシールドビットのせいで身動きが取れない。真っ直ぐ振り下ろされるティアの小剣キレールォは黒姫のボディーを切り裂く。
振り下ろされた小剣の衝撃は、周りに浮遊していたシールドごと黒姫を吹き飛ばした。
「くっ! 何故上から……回りながら射撃していたのでは……っ!」
砂埃の竜巻が完全に消え、現れた物を見た黒姫は〝してやられた〟と言いたそうな表情をしていた。
「プチマスィーン……」
プチマシーンではなく、正式名称がプチマスィーンと言う支援型ビット。簡易的な浮遊台座と小型砲台。その上に、ちょこんと乗っかる小さな白い猫の様な生き物。ティア等のケモテック製神姫に装備される事が多いビットだ。
性能としては通常のビットより若干劣る性能だが、その分必要演算性能も少なくて済む。
「竜巻の風に乗せて移動速度をカモフラージュしたのね」
プチマスィーンの移動速度はお世辞にも速いとは言えない。だが竜巻の風に乗り、移動速度を得たおかげでティアの代役を演じる事ができた。
「そう。そして展開中のシールドビットの弱点、頭上からの攻撃をした」
砂埃で目隠しができたのは運が良かったと言える。地面が乾いた砂だった事が有利に働いたのだ。
「やっぱり強いわね……でも、勝負はこれからっ!」
黒姫がそう叫んだその時だった。
「そこまでです!」
バトルフィールドに響き渡る声。その声にティアと黒姫は動きを止め振り返る。そこには所々に蒼色のクリスタルがはめ込まれた深紅のアーマーに身を包む神姫。アゲハの兄、黒羽 柳の操るエリスが立っていた。
「俊輔!」
「ニーナ!」
宏彦とティアが同時に叫んだ。エリスのリアに装備された巨大な服腕がボロボロのニーナを担いでいたからだ。
「わりぃ宏彦、負けちまった……あいつの強さ、半端じゃねぇ」
黒姫にやっとの事で一撃を与える間に、エリスはニーナを完膚無きまでに叩きのめしていたのだ。
「約束だ。アゲハ、黒姫を引かせるんだ」
「……はい」
アゲハは渋々黒姫を下がらせた。
「さあ、始めましょう? 楽しいワルツを」
エリスはそう言うと服腕で抱えていたニーナを雑に投げ捨てた。
「許さないの……ニーナを、いじめた!」
ティアは小剣を構えるとエリスに向かい駆け出した。
相手の出方を見ている暇は無い。ティアのクロス・フォースがいつまでもつか分からない。少なくとも長期戦になれば不利になるのは目に見えていた。
「たぁぁっ!!」
ティアの攻撃が命中するすんでの所でエリスは視界から消え去った。
「なっ! 予備動作も無しに!?」
それは黒姫の残像とも違う回避方法だった。
「ふふっ。こっちですよ?」
振り向くと、そこには持ち手の両サイドに蒼色のクリスタルの大きな刃が取り付けられたダブルブレードのジークフリートを振りかざすエリスの姿がそこにはあった。
「くっ!」
クロス・フォースの恩恵もあり、間一髪の所でダブルブレードを小剣で受け止めた。
その一撃は、今まで受け止めた事のある大剣やハンマーと比べると重みが無いのは、持ち手が中心にあり、ブレードが左右に装着されているのが、若干の扱い辛さを出しているからだろう。
それでも、その大きなブレードは一撃の強さを安易に想像させる。さらに二つのブレードは連続攻撃も可能としているだろう。
「ティア!」
ダブルブレードをはじき返し、高速移動でエリスの背後を取り反撃を入れる。
が、先程と同様、いとも容易く回避されてしまう。
「やはり本気のバトルは楽しいですね」
エリスは後方の遥か向こうに立っていた。
「全然攻撃が当たらないの」
「一体どんなトリックだよ……」
予備動作無しの回避だか、エリスはクロス・フォースのオーラをまだ纏ってはいない様だ。つまりこれは神姫自体の性能か、操るマスターの実力。或いは両方かもしれない。
「でも、楽しい時間は必ず終わってしまうもの……だから、行きますよ!」
突然エリスの首元が青白く輝き出し、それに続いて武装にはめ込まれたクリスタルも発光し始めた。
あの輝きは間違い無くクロス・フォースだと感じ取れた。
エリスは手に持ったダブルブレードをリアパーツに装備された副腕に持たせる。そして空いた手にはダブルナイフのラーズグリーズを出現させた。
「ティア! 来るぞ!」
エリスは姿勢を低くしたかと思うと、凄まじい速度で真っ直ぐな突撃を開始した。
「ティア!」
後ろへ移動しながらハンドガンで迎撃を試みた。動きを止められるとは思ってはいない。せめて足止めさえできればと考えていた。
だが、その弾丸はエリスへ当たる直前、何か見えない壁でもあるかのように弾かれていた。
「あれは……もしかしてルートレールアクション!?」
レールアクションとは、神姫毎に決められた必殺技であったり、武器によって変わる特殊な技がある。それとは別に、どの武器や神姫でも使う事ができる移動のみのレールアクションが存在する。それがルートレールアクションだ。発動と同時に、レールに乗っているかのような正確かつ高速で移動する。
そして真っ直ぐ相手に突撃するレールアクションも存在する。それは相手の射撃をオートでガードする特殊効果がある。
「ティア! 射撃はダメだ! 近接で応戦しよう!」
「わかったの!」
ハンドガンの使用を中止し、新しく両手にウィンディツインズを装備しブレードを展開。
後退も止めてエリスの方を向き対峙する。
「ティア、タイミングが重要だからな」
エリスとの距離がみるみる狭まってくる。
「……今!!」
刹那、お互いのナイフ同士がぶつかり合った。
「くっ! 重い……」
同じダブルナイフとは思えない程のパワー。
「良いです! とっても良いですよ!」
エリスは叫んだかと思うと突然視界から姿を消し。
「ひゃんっ!」
背後からの衝撃。ティアは背中を斬られる。
「またレールアクションかよ!」
ティアは地面に手をつき受け身をとりエリスの方をみる。
だがその直後、再び視界から姿を眩ませる。
「ティア! 後ろだ!」
予想通り、背後に回ってきたエリスがダブルナイフで切りかかって来ていた。
それをウィンディツインズで受ける。が、先程とは違い真っ向から受けるのでは無く受け流し衝撃を緩和した。
「なるほど、やりますね。それでは、これはどうです!」
エリスは続け様にダブルナイフで追撃を開始。
息もつかせぬナイフを用いた連続斬りを行う様は正に鬼神の如く。
しかしティアも負けじとブレードではじき応戦する。
「良いです! 良いです! 良いです! 待ち望んでいただけの事はあります! ずっと我慢してきた! ずっと戦いたかった!!」
「どうしてそこまでティアに執着する!?」
「マスターの……為……あの日、ゲームセンターで見かけた時から……」
「え??」
「終わりにしましょう」
エリスの姿が再び消え失せる。
「くっ! レールアクションの発動頻度が多過ぎる!」
おそらく、エリスのクロス・フォースはレールアクションを無尽蔵に発動できる事だろうと推測した時だった。
「こっちですよ?」
その声は頭上からだった。見るとエリスの副腕が持つダブルブレードを構えていた。
「ヤバイ!」
とっさにガード体制に入る。
「行きますよ!!」
エリスは体を少し捻じったかと思うと副腕のダブルブレードを前に構え、高速回転をかけながらの落下攻撃。ダブルブレードのレールアクションだ。
左右に装着された蒼いクリスタルの刃と回転により凄まじい連続攻撃を生み出す。
「うっ……くぅ……」
ガードをしたは良いものの、並外れな連続攻撃に体制を崩すティア。
「う……あああぁっ!」
ガードは崩されダブルブレードの連撃がティアを襲う。
圧倒的な力の前にティアは力無く地面へ倒れこむ。
「ティアっ!」
「これで幕引きです」
エリスのスカートアーマーが変形し、二つの巨大な鋏へと変貌した。
「シザース・ガリアス・ドミニオール……」
エリスのアーマーに装着された蒼いクリスタルと、その身に纏っているオーラが一層輝きを増す。
次の瞬間、エリスの大型鋏がティアを挟み込み、切り刻み、引き裂き、投げ飛ばす。
「っちっくしょおぉぅ!」
宏彦の眼前には〝YOU LOOS〟の文字が浮かび上がっていた。
◆
全てのバトルが無事終了し、再び参加者がホールへと集められる。
演説台には、先のオフィスレディーがマイクを持ち立っていた。
「それでは表彰式を行いたいと思います……が、その前に副社長から一言あるようてす」
「勝てた方も、そうで無い方も、本日は楽しんで頂けたでしょうか? 優勝したのが主催である私と言うのはどうかと思うかもしれません。ですが、お互い全力を出し、正々堂々バトルするのが礼儀だと私は考えます。よって、全力で戦ってくれた御剣宏彦君と和田俊輔君には感謝の気持ちも込め、特別な武装をプレゼントしたい。ハルカさん、あれを」
どうやら進行役をこなしている、受付にいたオフィスレディーの名前はハルカと言うようだ。
ハルカは無言で頷くと、小さな箱を黒羽 柳に渡した。
「二人とも、こっちに来てもらえないだろうか?」
整列している人達を掻き分け、言われた通りに黒羽 柳の元へと行き着いた宏彦と俊輔。
「この武装を、君達の神姫へ贈呈したい」
黒羽 柳は、小さな箱の蓋をゆっくりと開ける。その中には鞘に収まった、西洋で使われていた物を連想させる真っ直ぐな剣。そしてもう一つは、神姫を覆い尽くしてしまいそうなくらいに大きく、分厚い盾だった。
「優勝チームに渡す予定だった物だ。どちらも我が社の未公開商品のプロトタイプだ。好きな方を持って行ってくれ。剣タイプはゼロ・インフィニティー。そして大盾はシルバー・ゲットオーバーと言う。両方とも父が付けた名だがね」
「剣と盾か……俊輔はどっちが良い?」
「それじゃあ俺、盾で良いか? 宏彦は苗字に〝剣〟って文字入ってるから、そっちの方が良いだろ?」
「ダジャレかよ……」
「まぁ良いじゃんか。ニーナ」
俊輔はニーナを大盾の前に立たせた。
「ったく……わかったよ。ティア」
同じくティアも剣の前に立つ。
「まだ開発途中な所もあるからね。使う機会があったら是非使い心地を教えてほしい。それじゃ、受け取ってくれ」
ティアとニーナは同時にそれを持ち上げる。
「お、重すぎ……でしてよ」
両手で、どうにか持ち上げられるくらい、神姫には重たいようだ。
戦況がめまぐるしく変わるようなバトルで両手が塞がるシールドというのは使い勝手が悪い可能性がある。
ティアの持った剣は重いといった事は無く。問題無く片手で持ち上げていた。が、鞘から剣を抜こうとしたときだった。それは引き抜くと言うより、ポロリと抜けた感じだった。
それもそのはず。なぜならその剣に刃がついていなかったのだから。
「おいおい、盾の方はまだしも、この剣、明らかに不良品じゃねーか!」
俊輔が柳に向かって声を張った。
「プロトタイプなので完璧とは言えない。だがどちらも使う事は可能だ」
対し柳は平然と答えた。
「それと、その武装の制作は私の父だ。本来の性能がわからないまま父は海外に行ってしまってね。だから正しい使い方が判明したら教えてほしいんだ」
「えっでも、それってこの武装、凄く大事な物なんじゃ……」
「心配には及ばない。設計図はちゃんと保管してあるし、このプロジェクトも父が戻るまでは何も進まないんだ。それに、君達とのバトルにはそれだけの価値があった。楽しかったよ。ありがとう」
「そういう事なら……」
「開発の手助けって感じかな?」
宏彦と俊輔は顔を見合わせた。
「それでは、改めまして、表彰式に入らせていただきます。まずは優勝したチーム…………」
◆
閉会式も終わり辺りは僅かに薄暗くなる。四人とその神姫は帰宅する為に駅へと向かっていた。
「最後はまけちまったけど楽しかったよなニーナ」
「そうですわね。いつもと違う方達とのバトルは新鮮でしたわ」
「そう……だね……」
「どしたの、おにぃたん?」
「なんだか煮え切らない表情をしているね」
「うん。最後のバトル、黒羽さんの神姫……えっとエリスが最後に言っていた事が気になって」
「マスターの為のって言っていたやつだろ? 俺たちと戦いたかったんじゃねーの?」
「でも、少なくとも一度は俺達の事を近くで見ていた。いつでもバトルを挑めたはずだ」
「確かに……でも、結果としてバトルしたかったって事なんじゃない? 例えばあの神姫、エリスは正規のゲームセンターだと使えないとか? ほら、遼さんとのバトルで一度暴走してるからとかさ」
「そんなもん……かな?」
小骨が喉に刺さっているような気分になる宏彦。
「そうだぜ! あんな大きな大会で準優勝だし、武装だって一応貰えた訳だし!」
「エリスはマスターの……為のって言っていた。間に何か言おうとしてたのかなって……確信は無いけど」
「宏彦君、気にしすぎじゃないかな?」
博が宏彦に向けて言う。
「確かに気にしすぎかもしれないな。忘れよ忘れよ!」
「そうそう。負けたけど最後に楽しんだ奴が勝ちなんだよ!」
俊輔がそう叫び終わると今度は誰かの腹の虫が辺りに響き渡る。
「マースータァー?」
「ニーナっ! おまっバラすなよ恥ずかしいじゃんか!」
「何をおっしゃりますの? こんなマスターを持ったあたくしの方が恥ずかしくてよ?」
「まぁまぁ時間も時間だし、どうする? せっかくだし、どこかでご飯食べてから帰る?」
「宏彦ナイス提案! よーし皆、夕食探しに行くぞー!」
そう言うと俊輔は当ても無しに歩き始めた。
「ちょっと俊輔君! 僕、親に夕飯食べて来るとか言って無いんだけど!」
俊輔を追いかけ博も行ってしまった。
「ハハハ。メールでも電話でもすれば良いじゃないか」
「家庭には色々ある物だよ宏彦君。僕たちも行こう。二人を見失ったら大変だよ」
三人は俊輔を追いかけ夕焼けの中を駆けるのだった。