武装神姫Cross Force   作:浦尾 有

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失踪と潜入
第12話


 大会が終わり一週間がたった日曜日。これと言った事件も起きず、平和な日々を過ごしていた。それと同時に、神姫バトルもあれからやっていない。勿論、大会で貰った景品は一度も使用していない。

 そう言った訳で、今日はゲームセンターで俊輔と待ち合わせ、久しぶりに神姫バトルをする事になっている。

「あれから一週間経つんだよな。アゲハちゃんとか今何してるのかな?」

「またクーちゃんに会えるかな?」

 例のごとく自転車の籠にしがみつくティア。

「そうだな……連絡してみ……」

「どしたの? お電話しないの?」

 ティアは不思議そうに宏彦を見つめる。

「いや、よく考えたら俺、女の子と電話とかした事無い……そう考えると何か緊張してきた……」

「おにぃたん、もしかして……すきな」

「アーっ! 待て待てそれ以上言わなくて良い! 大丈夫だから!」

「むーっ」

 台詞を途中で遮られたのが不満なのか少々不機嫌そうだった。

「ごめんごめん。ちょっと喉乾いちゃった。ジュース買ってくるから少し待ってて」

「いってらっさーい」

 笑顔で手を振るティア。どうやらもう機嫌は治ったようだ。

「いや目の前だから自販機」

 自転車を自動販売機の前に停め、小銭を投入する。

「まったく、ティアったら、たまにストレート過ぎるんだから……」

 ティアには聞こえないくらいの小声で呟きながら飲み物を選ぶ。

 自動販売機からジュースを取り出し自転車に跨がる。

「お待たせ。それじゃ行こっ……っ!?」

 世界が止まったかの様に宏彦が凍りつく。手に持った缶ジュースが真っ直ぐ落下し地面に中身をぶちまけた。

「うそ……だろ……?」

 先程まで籠にしがみついていたティアの姿が、そこには無かったのだから。

 

 

「落ち着け! だから落ち着けって!」

「落ち着いていられるか! ティアが盗まれたんだぞ!」

 あの後、すぐに俊輔と合流し今に至る。

「とりあえず博と遼さんに連絡してみよう! 人手が多い事に越したことは無いだろ? 俺は博に連絡してみるから」

「わ、わかった」

 ポケットから携帯電話を取り出す。アドレス帳を開き富沢遼の名前を探し出し電話をかける。

 数秒としないうちに繋がりはしたのだが。

『ごめん! 今忙しいんだ! 後にしてくれ! ライラが行方不明なんだ!』

 普段の様子からは想像できない程取り乱しているのが電話越しで伝わってきた。

「えっ!? 遼さんも!?」

『〝も〟って言うことは……?』

「実は俺のティアも今さっき行方不明になって……」

『何だか嫌な予感がする……その場に誰かいるかい?』

「俊輔がいます。あと多分博も来るかと」

『それなら、そっちと合流しよう。場所は?』

「いつものゲーセンです」

『わかった。十分くらいで着くと思うから少し待っててくれ』

 

 

 しばらく待っていると、息を切らせた遼が到着した。それと、ほぼ同時に博も合流する。

「とりあえず皆落ち着いて、話を整理しよう」

 博が冷静に場を仕切る。

「まず、いなくなったのは宏彦君と遼さんの神姫だけだけだね?」

「基本、神姫は無断でマスターの元を離れたり、いなくなる何て事はしない。つまり事件か事故に巻き込まれたか、窃盗の可能性が高いんだ」

 博も走ってきたのか、肩で息をしながら言った。

「やっぱりティアは誰かに盗まれたんだ!」

「それはいつ頃どう言った状況で?」

 博は続けて聞く。

「三十分前くらいに自販機でジュースを買う時の一瞬目を離した隙に……でも周りに誰もいなかったな」

「なるほど。遼さんは?」

「僕は一時間程前、場所は自宅の二階で、トイレから戻ったらいなくなっていた」

「家で、それも二階か。となると、どちらも神姫を使った犯行の可能性があるね」

「神姫を使って悪さをする奴とか許せねぇな!」

 俊輔のいつもの正義感が出ていた。

「それじゃあ神姫ショップに行こうか。僕に良い考えがある」

 博は眼鏡をクイッと持ち上げた。

「神姫ショップに行ってる暇なんかっ!」

 宏彦は博に食ってかかった。

「落ち着いて。これが一番の近道なんだ!」

「……わかった。博を信じる」

「うん。じゃあ急いで行こう。っとその前に、神姫IDは覚えてる?」

 

 

 博の提案で神姫センターへと場所を移した。

「ところで、なんで神姫IDが必要なんだ?」

 俊輔が博に聞いた。

「神姫は高級品。それでいて頻繁に持ち運ぶ物。だから盗難も少なくないし、神姫が迷子になる事もある。だから神姫にはそれぞれGPSが搭載されているんだ」

「なるほど! それならティアとライラの場所がわかる訳だな!」

「でもそれって、わざわざ神姫ショップ来ないとダメなの?」

 宏彦は疑問を投げかけた。

「神姫を使ったストーカー行為防止の為に普通のパソコンじゃできない様になってるんだ」

「つか博はなんでそんなに詳しいんだ? もしかしてストーカーの前科あり?」

「俊輔君は失礼だね! そんな事しないよ!ただ僕の親は全国の神姫ショップを束ねている社長だから、たまたま知ってるだけだよ?」

「社長!? マジで!?」

「あれ? 言ってないっけ?」

「金持ちなんじゃないかと思っていたが、本物の富豪じゃねぇか! なんで今まで隠してたんだよ!」

 今の時代、神姫ショップは全国各地に点在している。それの社長ともなれば収入が悪い訳が無い。

「別に隠してた訳じゃないんだけどね。言うタイミングが無かったといいますか……」

「それじゃ、あの時のスーツ姿の人達は……」

 前に赤城 輝春に逃げられそうになったが、黒スーツの男達が捕らえてくれた時の事だ。

「あれはうちで働いてるボディーカードの人達。僕のじゃなくて親のだけど、数人借りてきたんだよ」

 そこまで説明すると博は店員の方へと向かって行った。

「すみません、この二人の神姫が盗難にあった可能性があるみたいなので〝神姫サーチャー〟使いたいんですけど……」

 おそらく、その名の通りに神姫サーチャーと言う物が神姫を探す物なのだろう。

「わかりました。結果を警察に届け出しますか?」

「いえ、二人とも確信は無いみたいなんで一応見るだけで」

「そうですか。それではお二人はこちらの機械にIDを入力してください」

 そう言われ、二台の小さなノートパソコンのような物を出して来た。これが神姫サーチャーという物なのだろう。

 電源を入れるとIDを入力する画面が映し出される。

 宏彦と遼はそれぞれIDを神姫サーチャーに入力していき、決定キーを押すと地図と検索中の文字が表示された。

 しばらく待つと、ピコンと軽快な音と共に地図上に赤い点で居場所を表示した。

 その赤い点が示す場所を見て宏彦と俊輔は顔を見合わせる。

「ここって……」

「なんだか、きな臭くなってきたね……」

 二台の神姫サーチャーは、両方とも先週行った〝グランドアーツ〟を指していた。

 

 

「間違いねぇ! 柳の野郎が宏彦と遼さんの神姫を盗んだんだ!」

「でも、何の為に?」

 博は疑問に思っているようだが、宏彦はある仮説を立てていた。

 黒羽 柳の神姫であるエリス。遼のライラ。そしてティア。共通する点はと言うと〝クロス・フォース〟だ。

 そして思い出す。先週の大会でエリスが最後に言った言葉。

「マスターの……野望の……為?」

「宏彦?」

「多分、柳さんはティア達を使って何かをしようとしているのかも……」

「何かってなんだよ?」

「わからない……。でも嫌な予感がする」

「急ごう。ライラとティアが心配だ」

 遼の一言で四人は走り出した。

 神姫を救う為、黒羽 柳のがいるであろうグランドアーツへと向かうのだった。

 

 

 日もすっかり沈み、外は既に暗くなっていた。時間で言うと、残業が無ければ社員は既に帰宅し始めているだろう。

「だからっ! 黒羽 柳の野郎に合わせてくれって言ってんだよ!」

 先週と同じオフィスレディーのハルカに大声で怒鳴る俊輔。

「何度も申し上げていますが、アポイントを取って頂かない事にはここを通す訳にはまいりません」

 まるで鉄の仮面でも被っているのか、表情一つ変えないハルカ。その彼女の対応が気に食わないのか、俊輔は当事者の宏彦や遼よりも一層怒りを表に出している。

「もう良いよ俊輔君。何回言っても無駄みたいだ。日を改めよう」

「ざっけんな! 宏彦と遼さんの神姫ぐぇっ!」

「いいからっ!」

 博は俊輔の襟を無理やり掴み、引きずる様に外へ出て行った。

「ゲホッ! 何て事しやがる」

「僕に作戦がある。正面突破が無理なら裏から行くしかない」

「けどよ博、場所わかるのかよ? それに裏口って言ったって普通カギがかかってるだろ?」

「場所はこの前の大会の時にたまたま見つけたんだ」

「早く来すぎたから博君と二人で散歩がてら回っていたんだよ。でもその時は確かにカギがかかっていた」

「そう。遼さんと裏口を発見した。当然その扉は開かない。けど僕にはそれをどうにかできるかもしれない」

「わかった。案内してくれ」

 裏口の場所を知らない宏彦と俊輔は博と遼について行く。正面の入り口から見ると、丁度真裏に当たる場所にその扉はあった。おそらく非常口等に使うのであろうぶ厚そうな扉が。

 その扉に俊輔は手をかけ、ドアノブを回そうとする。しかしそれはピクリとも動かない。

「ダメだ。やっぱりカギがかかってる。どうするんだよ博?」

「まぁ見てて。マリンカ!」

 博は鞄からマリンカを取り出した。

「はっ! 了解であります!」

「神姫で……マリンカでどうするつもりだ? もしかして扉ごとぶち壊すのか!?」

「まさか。そんな事はしないよ。内側から開けて貰うのさ。この扉は〝電子ロック〟でカギがかかってるんだ」

 博は扉の側にある電子機器を指差した。それにはICカードをかざすパネルと、暗証番号を入力するボタンが付いていた。

「それってもしかして……ハッキングするのかい!?」

 博の作戦を聞き遼は驚いた。

「すげぇ! 博の神姫はそんな事もできるのかよ!」

「だめだ博君! そんな事をしたら、きみの神姫はっ……」

「わかってる。ハッキングプログラムは違法ツール。神姫にインストールした時点で保証対象外になる」

「それってつまり……」

 今までテンションが上がっていた俊輔が急に静かになる。

「修理に出したりできなくなるね。でも覚悟はできてる。だからここに来る途中にインストールしておいた」

「なにもそこまで……」

 宏彦は小さく呟いた。

「僕はね、決めたんだ。友達が困っている時、今度は手助けをしようってね」

「博……」

「そんなに思い詰めないでよ。僕の親は神姫ショップの社長だよ? ちょとした修理くらいなら何とかできるよ」

 博はニッコリと笑う。

「僕はあの時、俊輔君が困っていたのに逃げ出した。もし失敗したらって思って、怖くなった」

 あの時……俊輔が武装の全てを赤城輝春に取られた時のことだ。

「だから今度は逃げない! 失敗なんて恐れない! 僕は友人と、マリンカを信じるんだ!」

「では、行くであります!」

 マリンカは端末機器に飛び乗った。

「アクセス!!」

 マリンカが端末機器にてを当てがうと小さな稲妻がはじける。

「中々優秀なセキュリティーであります! しかしこのハッキングプログラムならばっ! ……ICセキュリティー解除! パスコード0983!」

 博はパスコードを入力すると扉の鍵が解除される音が響いた。

 俊輔が再びドアノブに手をかけると、すんなり扉が開いた。

「すげぇ。本当に開けちゃったよ」

「よし! 行こう!」

 宏彦の一声で四人はグランドアーツへと乗り込む。

 時間帯のせいか、社員の気配は感じ取れなかった。

「入れたのは良いけど、どこに行けば良いんだよ」

 神姫サーチャーでも施設内の場所まではわからなかったのだ。

「だいたいこういう展開だと選択肢は二つ」

 走りながら博は眼鏡をクイッと持ち上げる。

「て、展開? 選択肢?」

 俊輔が困惑しているのを無視し博は続けた。

「一つはその施設やビルの一番上の階。もう一つは一番下の階」

「なるほど! アニメで言うラスボス展開か!」

「そう。だからここは二手に分かれて……」

「まって!」

 博の案を遮ったのは宏彦だった。

「こうゆう場合、アニメ基準だと一番上とか屋上は格闘バトル物が多いし、向こうが待ち構えてる状況だと思う。そして一番下は世界を左右するような実験とかをしている研究室だと思う」

「な、なるほど?」

「黒羽 柳さんは三体のクロス・フォース神姫を集めて何かをしようとしている。つまり可能性からすると、地下の方が高いと思うんだ」

「でも地下なんてあったっけ? 前に来た時、エレベーターは一階から十八階までだったぜ? 社内マップにも地下は無かったけど……」

「発言の許可を頂きたいであります!」

 マリンカが珍しく会話に入ってきた。

「いいよ。何? マリンカ。」

「はっ! 先程ハッキングした際、一緒に、会社全体の構図も調べていたであります!」

「本当!?」

「はっ! この建物には確かに地下が存在するであります。それもかなりの規模で、その部屋へ行くのも隠し通路を通る事が判明しているであります」

「それで、その隠し通路の場所は分かったの?」

「案内するであります!」

「でかした! さすが博の神姫だ!」

 俊輔が褒めるとマリンカは少し照れ臭そうに髪の毛をかいていた。

「お褒めの言葉をいただき、光栄であります。っと、次の角を右へ、その先三つ目の部屋に地下へ行く階段が隠されているであります!」

「この部屋か。中に誰かいたらお終いだよなぁ……」

 俊輔が呟く。だが妙な事に、ここに来るまでに誰一人として通る事もなく、まるで誘い込まれている様な気分になる。

「ここまで来たら後戻りなんて出来ない!」

 宏彦は覚悟を決め、思いっきり扉を開いた。

「誰も……いない……?」

 そこには大きな机とソファー。それに観葉植物があるだけの地味な部屋だった。

「来客室かな……この部屋のどこかに隠し通路があると?」

 遼が呟くと他の三人は辺りを調べ始めていた。

「どこかにスイッチでもあるのかな?」

「ソファーの下に隠してあるとか?」

 宏彦と博はそう呟きながら探していると。

「大きな部屋でもないんだから片っ端から調べりゃ良いだろ」

 俊輔はそう言うと観葉植物に手をかけ、持ち上げたその時だった。カチリと言う音がしたかと思うと近くの床が静かに動き、下へと続く階段が現れた。

「な?」

 得意げに言う俊輔はそっと観葉植物を元の場所に置いた。

「何が、な? ですのよ。たまたまではなくて?」

 即座に突っ込みを入れるニーナだった。

「うん。たまたまだ」

「そう、堂々と言われると逆に清々しくってよ……」

 呆れるニーナ。はぁ、と、ため息をつく。

「そうだろそうだろ?」

「褒めていなくってよ」

 冗談を交えつつ、一行は暗い階段を降りて行った。

 下へ進めば進むほど、辺りは闇に蝕まれていく。

 宏彦が明かりを灯そうと携帯電話を取り出そうとした丁度その時だった。独りでに蛍光灯が光をともし、真っ暗だった階段の全貌を照らす。一番奥には一つの扉が見えた。

「やっぱり、誘われてるのかな……」

 遼は小声で呟くが、狭い通路だ。声が反響してよく聞こえる。

「例え誘い込まれているのだとしても、俺達はもう止まれない。絶対にティアを助け出す!」

 宏彦は小走り気味で明るくなった階段を駆け下りた。

「待って! 単独行動は危険だよ!」

 博が叫ぶのと同時にドアノブを回し、扉を開ける。刹那、小さな物体がヒュンっと風を切る音が宏彦の耳に届く。ソレは頬に真っ直ぐな切り傷を作った。そこから伸びる一筋の生温かい血が頬を伝った。

「いってえ!」

 咄嗟に下がり壁の陰に隠れた。

「宏彦君!? 大丈夫!?」

 宏彦を心配し駆け寄って来た博はハンカチを取り出し流れ出た血を拭き取った。

「ありがとう。大丈夫。傷は深くなさそうだし、血はもう止まったみたいだ」

 大事に至らずホッと胸を撫で下ろす博。

「そう……良かった。でも今のはいったい……」

「恐らく、砲台型神姫、フォートブラッグの長距離砲撃かと思われるであります!」

「という事はこっちの道で正解なんだな。さて、どうしたものか」

 宏彦が部屋へ入ろうとした瞬間に砲撃された。つまりは侵入者を排除する役目なのだろう。

「でも近くにマスターの気配は無いな」

「多分、完全自立のスリーパー神姫なんだよ。簡単な命令だけを遂行する。射程圏内に入った侵入者を攻撃する。それ以外はずっとスリープ状態で待機してるんだと思う」

 博の予想が当たっているのか追撃して来る様子は無かった。

「でもどうするんだよ? これ以上進めないって事か?」

 恐らく対人用の装備だ。神姫の攻撃とは言え、当たり所が悪ければ最悪の事態を招く。

「それに多分、神姫は一体じゃない。単純な命令しか実行していないとすれば、神姫自体の数が多いと考えて良いと思う」

「それじゃあ、この部屋に入ったら蜂の巣なんじゃ……」

 しばしの沈黙の後、博が口を開いた。

「僕が囮になる」

「ざっけんな! そこまで体張る必要無いだろ!? ただでさえ神姫を保証対象外にしてんのに!」

 余りの自己犠牲に苛立ったのか俊輔は博に対して怒声を飛ばす。

「大丈夫。僕だって撃たれたく無いよ。痛いのは嫌いだからね」

「でもよ……」

「まず僕が部屋に入る。僕を狙う神姫をマリンカが撃って倒す。その隙に三人は向こう側の扉の先に行く。オートコンバット神姫の狙いは正確でも追跡性能はさほど高くないんだよ。だから動き続ければ……」

「だめだ! 危険すぎる!」

 遼も首を縦には振らない。

「……わかった。博と、マリンカを信じる」

「宏彦っ!」

 一人だけ賛成する宏彦に驚く俊輔。

「ただし約束してくれ。絶対死ぬな。ヤバイと思ったら無様でも良いから逃げてくれ」

「元よりそのつもりだよ」

 博の瞳は自信に満ち溢れていた。

「五秒数えて。ゼロになったら三人は真っ直ぐ扉を目指して。マリンカも準備は良い?」

「はっ! 無論であります!」

 博は顔を半分だけ出し部屋を覗いた。

「うん。遮蔽物になりそうな物はあるね」

 部屋は射線を遮れそうな真っ白な机と、十年以上前に使われていたであろう旧式のパソコンが置かれていた。

「マリンカ、敵の数は?」

 続いてマリンカも部屋の様子を伺った。

「はっ! アイ・スコープをサーマルイメージャーに切り替えるであります!」

 マリンカの目が赤くなる。神姫の発する熱を探知し、場所と数を壁越しに特定しようとしているのだ。

 しかし、それでも姿勢等を完璧見透かせるわけでは無い。そこに何かがいる。動いている。その程度しかわからないが、今の状況ではそれですらも有力な情報となる。

「敵戦力、その数は八かと思われるであります!」

「八体か……マリンカ、スナイプ・レールガンで行くよ!」

「了解であります!」

 ビシッと綺麗な敬礼をすると、博の手を借りながら武装を装備していく。

「ゲームとは違って、随分とアナログだな」

 宏彦はマリンカに武装を装着していく博を見ながら呟く。

 ゲームセンターでは光が集まり、一瞬で装備できるが、今はゲームでもなければ遊びでも無い。破損もするし、CSCが破壊されれば機能停止もあり得る。同じ所があるとすれば、それは武装の性能だけだろう。

「でもちょっと待って。確かスナイプ・レールガンって全部で五発だよな? 全部一発で倒しても三発足りないぞ?」

「何を言ってるんだい俊輔君。今はバーチャルじゃ無いんだよ? 制限も無ければルールも無い」

「つまり?」

「隙をみてリロードする」

「お前……呆れを通りこして尊敬するよ」

 武装の装着ですらアナログで時間がかかる。それなのに神姫用の射撃武器に弾をこめると言うのだ。

「大丈夫、慣れてるから」

「いや、そういう問題じゃ無いから」

「よし! セットアップ完了。行くよマリンカ! 一発七千円の特殊徹甲弾の威力、しかと味わってもらおう!」

「シカトかよ。てか、え? 何その超高級な弾!?」

 俊輔を無視してマリンカを肩の上に乗せた。

「じゃあ皆、準備は良い? 五……四……三!」

 三で部屋へ飛び込む博。すぐさま数多の銃声が響く。

 だが博の言う通り、弾丸は走り去る博の後方に被弾。地面や壁に小さな弾痕を作るだけだった。

「そこであります!」

 博の肩に乗ったマリンカの武器一体型スナイプ・レールガンが微かに発光。エネルギー充填の完了と共に射出されるプラズマを帯びた弾丸がフォートブラッグCSCに風穴を開けた。

 CSCを撃ち抜かれた神姫は糸の切れた玩具の様に力無く崩れる。

「二……一……今!!」

 博の掛け声で他の三人も部屋へ入り、次の扉目掛けて全力疾走。

「くっそ! この部屋広すぎるだろ!」

 宏彦達の後ろに続く弾痕は、まるで小さな足跡が着いて来る様だった。

「サポートするであります!」

 再びマリンカがスナイプ・レールガンを放ち、二体目のフォートブラッグを静める。

 また一体、また一体と連続して命中させ、残りは四体となった。

「すごい……全部一撃で、しかもただでさえ小さい神姫のCSC部分を正確に当ててる……」

 宏彦が感心していると後ろで博が叫ぶ。

「その扉の先は一本道みたいだから!」

「わかった! 博もちゃんと来いよ!」

 そう返事をした時だった。

「いぃっ!!」

 フォートブラッグの弾丸の一発が博の右足首を貫いた。

「隊長!! ……くっ! リロードが……」

 スナイプ・レールガンは排熱とエネルギー充填を行う為、連射する事ができない。そのタイムロスが博を危険な目にあわせる事になったのだ。

「大丈夫か博!」

 俊輔は振り返り、博の方へ戻ろうとした時だった。

「大丈夫! ちょっと掠めただけだから!」

 とは言ったものの、博は近くの机の陰に力無くもたれ掛かる。

「くそっ! ニーナ! 博とマリンカを守れ!」

 神姫ならば物陰に隠れやすい上に、小さい為撃たれにくい。

「承知いたしましたわ!」

 ニーナは大盾、シルバー・ゲットオーバーを両手で持ち博のいる方へと飛び、向かって行った。

「やっぱりこの盾、重過ぎでしてよっ!」

 いつもの飛行よりも速度が落ちているのは一目瞭然だった。が、神姫一体を覆い隠す程大きな盾は四方八方から飛来する弾丸はニーナへ命中する事はない。

「援護しましてよ! さあ、今のうちに体制を!」

 やっとの事で博の元へたどり着いたニーナ。足を撃たれ動けなくなった博の周りを飛び回り弾丸を防いでいく。

「ありがとうニーナ。……っ!」

 博は持っていたハンカチを撃たれた場所に巻きつけ応急手当てをする。

 同時に博の左肩を一発の弾丸がかすめ、服の一部が持って行かれた。

「隊長を、これ以上負傷させないであります!」

 最後の一発を撃ち、博に狙いを定めていたフォートブラッグを倒す。

 その後、すぐに博の手元へと来たマリンカ。

 それを見た博は手慣れた手付きで特殊徹甲弾を装填していく。

「残り二体……ニーナ、ありがとう。この場は僕とマリンカで何とかする。だから俊輔君達と一緒に行って」

「ご協力感謝するでありますニーナ一等兵!」

 弾丸の装填が完了すると、マリンカは残りの二体を倒しに行ってしまった。

「あたくし、いつの間に階級が付いたんですの? あと、一等兵ってかなり下ではなくて!?」

 同刻、俊輔達が扉を開き転がり込んだ。

「ニーナっ!」

「了解いたしましたわ!」

 再び大盾を持ち上げ、俊輔の元へと帰還する。

「無事かニーナ!? 撃たれた所とか無いか!?」

「問題無くってよ。それより先を急ぎますわよ?」

「そうだな。すまねぇ博。後でちゃんと合流すんだぞ!」

「僕の事は気にしないで先に行って! ここは僕達で平気だから!」

「今更死亡フラグ立てんな!」

 俊輔がそう言うと博とマリンカを残し、三人とニーナは次の部屋へと向かった。

 

 

「騒がしいな……あと少しで完成すると言うのに」

 薄暗い部屋のモニター前にいる男は、あの黒羽の兄。黒羽 柳だ。

「……どうやら侵入者のようです。お兄様」

 その後ろで立っているのは妹のアゲハだった。

「わかっている。どうせ御剣宏彦君達だろう?」

「……」

「まぁ良い。アゲハ、迎撃部隊の増援を出しておけ」

「わかりました……」

「あと最後にもう一つ、お前に仕事を言い渡す。できるな?」

「……はい。お兄様」

 

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