第14話
宏彦と遼の二人は薄暗い階段を降りていた。網状になった鉄製の階段は足をつける度に音を立てる。
一体何段降りたのだろうか。ようやくコンクリートの地面に足がつくと目の前には一つの扉。宏彦と遼は顔を見合わせると小さく頷き、ゆっくりと扉を開く。
部屋に入ると目の前には映画館のスクリーンと見間違えるくらいに大きなガラス。その向こうには、もう一つ部屋が存在しているようだった。
ガラスは見た感じ開きそうにない。この部屋は窓ガラスしか無く、入ってきた扉以外の出入り口も見当たらない。
二人は巨大なガラスへ近づく。
ガラスの向こうに広がる部屋。中心には奇妙な機械。そこから伸びるコード。三本のコードの先には目を閉じ、まるで寝ているかのような神姫を見て二人は叫んだ。
「ティアっ!」
「ライラ!」
そしてもう一体、黒羽 柳の神姫、エリスも同じ様に機械に繋がれていた。
「くそっ! ティア! ティアっ!」
宏彦は名前を呼びながらガラスを叩くがティアは目を覚まさない。
「無駄だよ。そのガラスは強化ガラス。人の手では割る事はおろか、ヒビを入れる事すらできない」
聞いたことがある男の声がした。
突然ガラス向こうの部屋に見えた扉が自動で開き、その中から声の主が現れた。
背が高くスーツを綺麗に着こなす黒縁眼鏡の青年。
「黒羽……柳……さん……」
宏彦のその声は怒りに満ちていた。
「やあ。そんなに怖い顔をしないでもらいたいな。彼女達は〝今の所〟無事だ」
柳は巨大な機械に繋がったパソコンの前に移動し、慣れた手つきでキーボードに入力していくと、ティア達に繋がっていたコードが自然と抜け落ちた。
すると、ゆっくりとティア達の目が開き始めた。
「ティア!」
「……おにぃ……たん? うん……おはよなの」
呑気に伸びをするティア。いつも通りのティアで安心する宏彦。
「ライラ!」
「ん……マスター。ここはどこなのだ?」
ライラは辺りを見回し呟く。
「その質問には私が答えよう」
柳が口を開くと更に続けた。
「ここは私の開発実験室だ」
「実験……? ここで何をしていたんだ!」
「慌てなくとも教えるよ。何せ君達の神姫のおかげで〝完成〟したのだから」
「俺達の神姫のおかげ……?」
「そう! これが、私の求めていた最強の神姫! 私の理想! そして野望!!」
再び柳はパソコンを操作すると、床の一部が静かにスライドする。
丸い穴が空いたかと思うと〝ソレ〟が乗った、円筒状の台が上がって来た。
「何だあのデカイの……」
宏彦は台に乗った〝ソレ〟を見て言った。
それは、まるで闇を纏ったかの様な漆黒。神姫の五倍はある巨大な人型のロボット。
「これぞ! 私がようやく完成させた〝玉座型神姫ガルガンチュア〟だ!」
人型ではあるものの、ガルガンチュアは神姫の様に、完全なヒトの女性を模してはいなかった。
体があり頭が付いていて手と足生えている。しかしそれは無骨で神姫と言うよりは巨大ロボット。そうとしか言えない容姿をしていた。
「それに僕達の神姫とどうゆう繋がりがあるんだ!?」
「良くぞ聞いてくれた! ガルガンチュアはその巨体故、消費エネルギーに問題があった。通常の神姫では扱う事は出来ない。かと言って、神姫を使わない完全自立ロボットにすると柔軟性に欠ける。神姫は優秀な知能を持ち、自分で考え、最適な答えを導き出せる。だから神姫である事に拘り続けた。しかし会社の人間も、工場ラインも徐々に諦め始め、次第に不可能だと諦め、開発チームから去る者も現れた。……ここまでが、私の父でグランドアーツ社長の話だ」
「えっ?」
最後の一言で呆気に取られる。
「父はある時突然海外に行くと言う置き手紙を一枚だけ残し姿を眩ませた」
父親の失踪。前にアゲハも言っていた事だ。
「父が残して行ったガルガンチュア計画……。失踪と共に完全にストップした。それを私が引継いだ!」
段々と興奮する柳。語りに熱が入って来ている。
「なんだ。父親思いの良い奴なのか? 神姫を拉致するのはどうかと思うけど……」
「そして私は君達の言う所のクロス・フォースを見つける。最初はエリスの不思議なエネルギーだった。クロス・フォースは私の野望の鍵になると思った。だが足りなかった。エリスだけでは不十分だった。私は探した。様々な情報を集め、全国を回った。そして、それは意外にも身近な所に転がっていた。気分転換で覗いたゲームセンターに君がいた」
柳は宏彦を見つめる。
「そして君達を監視しているともう一体のクロス・フォース持ちと思われる神姫が現れた。それは、いつかの大会で戦った事のあるマスターの神姫だった。パズルのピースが揃った気分だった」
「そんな事なら拉致しないで言ってくれれば協力したのに」
宏彦の言葉には一切反応せず続ける柳。
「すぐに私は、クロス・フォースのエネルギーを抜き出す装置を開発した!」
部屋の中心にある巨大な機械を指差した。
「そして全てが揃った今、クロス・フォースのエネルギーで作り出した最高のCSC。〝SuperCSC〟を完全させ、ガルガンチュアは完全な兵器となる!!」
ギラリとガルガンチュアの両目が光り出す。
「なっ!? 兵器だって!?」
宏彦が声を上げる。
「完全したコイツを世界に出す! 神姫を凌駕したガルガンチュアは戦争において最高の道具となるだろう! 戦争に使われれば膨大な資金が得られる。それを使いグランドアーツを更に大きな会社へ育て上げる! ……そして私は父を超え、一歩先を行き社長の座を手に入れるのだ!」
「神姫を戦争の道具にしようだなんて……前言撤回。あんた嫌な奴だ」
「そうだ! 神姫は友達で、信頼し得る最高のパートナーだ!」
宏彦と俊輔は思い思いの事を口にした。
「それではメインディッシュだ! 光栄に思いたまえ! 君達は、偉大な研究成果の第一見届け人となれる事を! ガルガンチュアの性能を君達の神姫で実証しようではないか!!」
「はあ!? ふざけんな! 俺たちを、俺たちの神姫を巻き込むんじゃねえ!!」
宏彦は再び大声を上げるが柳の耳には届かない。
「さあ! 今宵、最高のロンドを始めようではないか!」
柳は両手を天上へと掲げた、その時だった。
「マスター……」
柳の足元へ歩み寄る神姫。エリスだった。
「なんだお前か。巻き込まれたく無ければ下がれ。お前はもう〝用済み〟だ」
「……え?」
「聞こえなかったか? お前はもう不要だと言っている」
「そんな……」
その一言を聞いたエリスは虚脱状態になる。
「邪魔が入ったな。それでは気を取り直して……ガルガンチュアの性能をとくとご覧あれ!」
柳の言葉に反応し、ガルガンチュアの右肩の上部装甲が開く。
「ティア!」
直後、ガルガンチュアの右肩から何かが上方へと大量に射出される。
真っ赤な円筒状の物体。大量のミサイルだった。
ミサイルはティアとライラを目指し飛来する。
「逃げろライラ!」
武器を持たないティアとライラは避ける事に専念する。走り、飛び、伏せ、ミサイルを回避し続ける。
何とか全てのミサイルを避けきるとミサイルは地面や壁に当たり爆発した。その時だった。
「聞こえたの……」
ティアが突然脈絡も無く言った。
「どうしたティア」
「クーちゃんの声が……助けてって、言ってるのなの。きっと近くにいるの!」
「黒姫が!?」
宏彦はおろか、遼やライラも聞こえてはいなかったようだ。
「興味深いな。何故その神姫にはわかるのか。ま、確かにその通りだ。ここに黒姫は確かにいる。このガルガンチュアの中に!」
「なっ!!」
「三つのクロス・フォースを扱うには、通常の神姫では処理しきれない。だからハイスペックの黒姫を利用したのだ」
「利用って……アゲハちゃんは納得してるのかよ!」
「ああ。気前良く差し出してくれたぞ。お兄様の望みとあらば、とな」
「そんな事……あるわけがない! あんなに神姫を大事にしていたアゲハちゃんが……バトルで傷がつく事すら嫌がっていたあの子が、戦争の道具にするなんて事、絶対に無い!」
「良い事を教えてあげよう。世の中に絶対は無い。現にアゲハは黒姫を差し出した。つまり過程や考え方はどうであれ結果は結果だ」
「……あんたがそう言うなら……ティア!」
「クーちゃんを……助ける!!」
姫がお守りとして託した蝶の形をしたネックレスを、ティアはギュッと握りしめた。
「助ける? ははっ、無駄、無理、無謀。君達は何も武器を持っていない。このガルガンチュアに傷を付ける事など不可能だ! 行けガルガンチュア! フルバースト!」
ガルガンチュアの両肩、そして両足の装甲が開きミサイルが発射された。その数、先程の四倍以上。ガラスの向こうで見ている宏彦達の視界ですらミサイルで埋め尽くされたようだった。
「おにぃたん……」
「さすがにコレは……」
目の前のミサイルの壁を見て絶望する。これより少ない量で何とか回避しきる事ができたのに、それの四倍となれば不可能と言っても良い。
「こうなったら……ティア! クロス・フォースをっ!」
「ダメ、できないなのっ!」
「そんなっ!」
失意のどん底に叩き落とされた気がした。その時だった。
銃声と共に目の前にある巨大ガラスの一部が砕け、神姫が一体通れるくらいの小さな風穴ができた。
その穴に何かが飛び込む。
「バレット・カーニバル!!」
右手にガトリング、左手にショットガン。リアパーツにバズーカとランチャーを装備したゼルノグラード。フル装備のマリンカだった。
マリンカはリアパーツのランチャーで遠距離のミサイルを破壊し、バズーカで複数のミサイルを爆風で巻き込む。撃ち漏らしたミサイルは、両手に持ったガトリングとショットガンを上手く使い破壊していった。
瞬く間に視界は爆炎に包まれた。
「す、すげえ」
何が起きたのか状況が把握できない中、宏彦の口から出てきたセリフは凄いの一言しかなかった。
「ほう。その神姫。中々の火力のようだな」
「当然であります! 火器の全てが隊長のオリジナルカスタマイズ製! 火力、連射力、重量から排熱までどれをとっても一般に入手できる火器よりっも」
「マリンカ! ごめん長くなりそうだからそくらいでっ」
マリンカに重火器を語らせると止まらなくなると宏彦は知っている。この時ばかりは中断してもらう事にした。
「ところでマリンカ、博は?」
まだまだ語り足りない様子のマリンカに宏彦が聞いた。
「隊長なら無事であります。負傷により若干遅れているものの、俊輔殿と合流しこちらに向かっているはずであります!」
途中別れた二人が無事と聞いてひとまず安心する。
「それより……このデカブツは一体何でありますか!?」
ガルガンチュアを見たマリンカが今更声を上げた。
「玉座型神姫ガルガンチュア……中に黒姫がいるみたいなんだ。ティアが言うには助けを求めてるらしくて……」
宏彦は大雑把に説明する。
「お願いなの! クーちゃん助けるの、手伝ってほしいの!」
「……状況は大体把握したであります」
マリンカは両手に持っていたショットガンとガトリングを下ろし、腰に装備していたハンドカンとコンバットナイフをティアに手渡した。
「サブ武装で申し訳ないであります。しかし、他の火器はクセが強く……」
「ありがとなの! これでクーちゃん、助ける!」
ハンドカンとコンバットナイフを握ったティアはガルガンチュアに向かって走り出した。
「……ってまだ説明は終わってないであります!!」
マリンカはショットガンとガトリングを急いで拾い上げティアを追いかける。
「マスター武装を! 私も加勢する!」
ライラも戦う意思をみせるが。
「ダメだ! 戦っちゃ……ダメなんだ……」
「なっ……マスター! なぜだっ!」
遼はライラが戦う事を拒んだ。
「僕は……神姫を失いたくない……リアルバトルは……ダメなんだ……」
遼は頭を抱えてその場にしゃがみ込み下を向く。
「遼さん……」
今戦えばライラを失うかもしれないという感情が、過去にアーンヴァルを失った時の事を甦らせるのだろう。
終いには遼の体はガタガタと震え出していた。
「クーちゃんを返してなのっ!」
「ふん! ゼルノグラードはともかく、そんなチンチクリンなナイフとハンドカンではガルガンチュアに近づく事すら叶わないぞ!」
ガルガンチュアの目が青色に変わり光り出す。かと思うと背中から八機のビットと思われる兵器が射出された。
八機の兵器は空中で不規則に飛行しながらレーザーをティア目掛けて放つ。
回避性能が元々高いティアは何とか避けるがレーザーの弾幕により中々進めなくなっていた。
「援護するであります!」
マリンカがランチャーで次々とビットを撃ち落として行く。が、一向にレーザーの弾幕が減らない。
「あいつ! ビットが破壊される度に補充してる!」
背中からは絶えずビットが射出されていた。
「これはイタチごっこでありますな……ならば、コレに賭けるしか、ないであります!」
マリンカは腰に付けていた丸い何かを空中に投擲した。
それは綺麗な放物線を描き、ティアの真上付近まで飛んで来る。
「フラッシュ・バンであります!」
マリンカが叫ぶと、それは爆発し凄まじい光を放った。
閃光手榴弾。強い光で視界を一時的に奪う事のできるアイテムだ。
「ビットに通用する確信は無かったでありますが、効果は覿面であります!」
それまで、激しく動き回っていたビットが、今はその場でフワフワと漂うだけになっていた。
「今のうちにっ!」
閃光手榴弾が炸裂した瞬間、とっさに目を瞑り、腕を顔の前に出し眩耀をまぬがれていた。
「たぁ――――っ!!」
ティアはビットの攻撃が止んだこの隙に走りだした。ダンッと地面を蹴り、ガルガンチュアの頭部の高さまで跳躍する。
「なっ……」
柳も咄嗟の出来事に驚いている。
コンバットナイフを突き出し、頭部を貫く。
「……んてね」
つもりだった。
コンバットナイフは目の前に突然現れた半透明な桃色の壁に遮られていた。
「ガルガンチュアのビットが攻撃だけだと思ったか?」
目の前の壁は、八機のビットが正八角形を作り、その内側にエネルギーシールドを生成していたのだ。
「ガルガンチュアは攻撃用と防御用で、それぞれ八機搭載されている」
その時、攻撃用だったビットの機能が正常になったのか、それまでフラフラしていたのがピタリと止まり、一斉にティアの方へと銃口を向けた。
「マズイ!」
宏彦の声よりも早く八機のビットからレーザーが一斉照射される。
八機分のレーザーが直撃したティアはフラリと力なく落下する。
それをガルガンチュアは掴み取り握りこんだ。
「ティアっ!! くそっ! ティアを放せよ!!」
「そうか。放してほしいのか。良いだろう……やれ」
ガルガンチュアの目が赤く発光する。同時にティアを握った腕を振り上げ、宏彦の方へ凄まじい勢いで投げつけた。
投げられたティアは宏彦の眼前にある強化ガラスに叩きつけられ、ガラスに張り付く様な形で大の字になる。
頑丈なガラスにはティアを中心に大きなヒビを作り上げていた。
「ティア! ティアっ!」
呼びかけるが全く反応が無い。次第に目頭が熱くなり視界が滲む。
ガラスに張り付いていたティアが前のめりに、ゆっくりと落下していった。
カシャンという軽い音を立て床に転がりピクリとも動かなくなる。
「嘘……だろ……」
宏彦の身体がガクガクと震える。このままずっと動かないのでは、壊されてしまったのではないか……死んでしまったのではないかと……。
そう思うと、何とか押さえ込んでいた涙がついに頬を伝った。
「そんな……」
目の前で起きた出来事に宏彦は愕然としていた。
「くっ! ……マスター! どうして私を戦わせない! 私が加勢していれば結果は違ったはずだ!」
ライラはとうとう声を荒立てた。
「う、うるさい! ライラに……僕の気持ちがわかるもんか!」
「おやおや? 仲間割れ、もといパートナー割れかな?」
柳は性格の悪そうな笑い方をする。
「さて……次はこちらの攻撃だ」
ガルガンチュアが両手を上げる。すると不規則に空中を飛び交っていた八機の攻撃型ビットが一斉に集まり、エネルギーシールドの時と同じ八角形を作り上げた。
すると、突然それが円を描くように回転を始める。
「あれは……マズイであります……」
回転する八角形の中心にエネルギーが蓄積され続け、不吉な赤黒い光とプラズマを絶えず漏出させ続けていた。
「対戦車用ハイレーザーだ。文字通り戦車の装甲に風穴を開けられるように開発した兵器だ。良く見ておきたまえ。神姫の最後の瞬間を!」
「やめろぉぉ――――っ!!」
叫ぶも無慈悲に発射される赤黒いハイレーザー。
轟音と同時に、研究室を飲み込むのでは無いかと思われる程の大爆発、そして地響きと爆風。
爆風でライラとマリンカが吹き飛ばされる。
ライラは何とか受け身を取ったが、マリンカは爆風で壁に叩き付けられ気を失ってしまった。
研究室は一瞬にして煙に包み込まれた。
これまで見てきたレーザーの全てが、まるで子供だましの様に思えた。
「ちっ! 照準が甘いか……修正課題だな」
煙が晴れると、レーザーは壁だけを刳り貫いていた。
「ティアはっ!?」
爆風に吹き飛ばされたのか、煤で所々黒ずんでいるティアの姿を見つけるが、相変わらず起き上がる気配は無かった。
「小さな的を射抜けないのならば、これならどうだ?」
ガルガンチュアが右手を真上に掲げる。瞬間、手のひらから膨大なエネルギーが放出され、ブレードを形作った。
「レーザーブレード……こいつで直接貫いてやろう」
ガルガンチュアは右手をゆっくりと下ろし、少しだけ腕を引く。
「終いだ」
レーザーブレードでティアを突く。
「そうはさせなくってよ!!」
天上のエアダクトから飛び出しティアの前に着地したのは、シルバー・ゲットオーバーを携えたニーナだった。
グンッとティアに向けて突き出すレーザーブレードをニーナが間一髪で受け止めたのだ。
「ぐぅっ……」
だが、既に傷だらけだったニーナは肩で息をしていた。
「良かった! 何とか間に合ったみたいだな」
宏彦の背後から声が聞こえた。振り向くとそこには俊輔。そして肩を借りて何とか立つ博がいた。
「俊輔……博……」
「って宏彦何泣いてんだよ! そんなに俺たちが心配だったの……」
「ティアが……ティアが……!」
「嘘……だろ……?」
俊輔もティアを見つけると絶句した。
「まだでしてよ! まだ、希望を捨てるには早くてよ! ティア! いつまで寝ていますの、このお寝坊さん!」
ニーナが倒れているティアに向かって叫ぶ。
「それは、シルバー・ゲットオーバー……。全く、次から次へと邪魔が入るな」
ガルガンチュアはレーザーブレードを一旦引く。かと思いきや横になぎ払う。
「キャッ……!」
「ニーナっ!」
急な横からの攻撃に対応できず、シルバー・ゲットオーバーごと吹き飛ばされた。
元々限界が近かったのか、ニーナも動かなくなる。
「くそっ! マスター!」
ライラがいい加減にしろと言わんばかりの声を上げる。
「ダメだよ……あんなの勝てっこない……」
「はぁ……」
ついにため息をつくライラ。
「もういい。マスターがそんな腰抜けだったとはな。見損なった。マスター失格だな」
ついにライラは遼の言うことを無視し、シルバー・ゲットオーバーを拾い上げティアの前に立ちはだかった。
「よすんだ! ライラ!」
予想外の行動に遼はガラスを叩き叫ぶ。
「残すは君だけだな。遼君だったか? いつだかの大会では神姫を再起不能にしてしまったな。ま、今では謝る気も無ければ反省すらしていないがな。あれは事故だ。どうする事もできない、運命だったんだよ」
「運……命……?」
「そう。ここで他の神姫や、君の神姫が再び破壊される事もまた運命!」
レーザーブレードの付け根に四機のビットが集まる。それぞれがエネルギーを送っているようだ。
エネルギーが送り込まれたレーザーブレードは太く、そして長くなり、その輝きを増した。
「このビットにはこういう使い方もある。シルバー・ゲットオーバーでさえもこれならば破壊できるだろう」
ガルガンチュアは再びレーザーブレードで突く体制に入る。
「私は、運命なんて信じない!!」
ライラは叫ぶとシルバー・ゲットオーバーを構え、姿勢を少し低くし、ガルガンチュア攻撃に備えた。
レーザーブレードの突きが、大盾を持つライラへ襲いかかる。
「っぐぅ!」
シルバー・ゲットオーバーで受ける事ができたが、ガルガンチュアのパワーの前にライラはジリジリと後ろへ押されていた。
「ちっ! これでも壊れないのか。だが、いつまで持つかな?」
「ライラ! どうして……どうして僕の気持ちを分かってくれないんだ! どうしてそんなに危険なことを!」
「決まっている! 守るべき仲間がいるからだ!」
「守るべき……仲間……」
「私達は見ず知らずの神姫でさえも救う為にクロス・フォースを掌握しようと尽力して来た。だが! それ以前に仲間を守れないで何が守れると言うのだ!」
「仲間? 守る? ……ふん。実にくだらない。虫唾が走る。神姫など替えはいくらでもいる。神姫は消耗品だ」
柳の目には神姫が歯車の一部にしか見えていないのだろう。
「もういい。うんざりだ。私の研究の邪魔をする奴も認めない奴も……そして親父も……。その大盾を破壊してピリオドだ!」
ガルガンチュアはレーザーブレードを振り下ろす。
ライラはシルバー・ゲットオーバーを真上に掲げ、一直線に振り下ろされるレーザーブレードを真っ向から受ける。
ズンッとライラの足場にヒビが入り陥没した。
「うっ! ……がぁぁぁ!」
雄叫びを上げるライラだったがゆっくりと押し込まれて行く。
「ライラ!」
遼がライラの名を叫んだ時だった。シルバー・ゲットオーバーがバラバラに砕け散り、地面に散乱する。
「やったぞ! これで親父を超える事ができたぞ!」