武装神姫Cross Force   作:浦尾 有

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よみがえりし力
第15話


 高らかに笑う柳だったが、その笑みは直ぐに消え失せた。

 砕け散ったと思っていたシルバー・ゲットオーバーのパーツに赤色のラインが走り発光し始めたのだ。

「こ……この光は……クロス・フォース!?」

 そう。そしてシルバー・ゲットオーバーの光に呼応し、ライラの左足にできたバツ印のキズも赤く輝いていた。

「そうだった……。僕が守るって言い出した。きちんと責任を持たないと……コロナの為にも!」

 刹那、バラバラになったシルバー・ゲットオーバーのパーツが宙へと浮かび上がったかと思えば、今度は一直線にライラへと飛来する。

 パーツは吸い込まれるようにライラの身体に装着されていった。

 腕、足、胸、背中、そして頭部。

 それはまるで銀色の鎧を身に纏う騎士のようだった。

「ただの重たい盾だと思っていたが……それに、ライドしていない神姫がどうしてっ!」

「決まっている! 私とマスターのやりたい事が一致したからだ!」

「ライラの言う通りだ。僕はもう逃げない。守るんだ。仲間を! 神姫を!」

 銀色の鎧に入った赤色のラインは鼓動するかの様に明暗を繰り返していた。

「ライラ! 戦おう、一緒に! そして守ろう! 神姫の命を!」

「そうだ! それで良い! それでこそ私のマスターだ! 共に行こう!」

「ああ! ライドしていなくても心と絆は一つだ!」

 ライラの右手に赤いクロス・フォースの光が集まり槍を形成した。それはまるで太陽の表面を揺らめくコロナの様に光り輝く槍。

「「コロナスピア!!」」

 遼とライラは同じ武器名を同時に叫ぶ。

 以前、遼がパートナーにしていた天使型アーンヴァル、コロナの名を冠した炎の槍。

「行くぞ! 神姫を戦争の道具になどさせるものか!」

 鎧の重みを感じさせない跳躍をするライラ。それどころか普段よりも俊敏に思える。

「くっ! ガルガンチュア!」

 八機のビットを再び正八角形に整列させ、エネルギーシールドを展開させた。

「無駄だ!」

 ライラはコロナスピアでエネルギーシールドを一挿し。それはガラス細工の如く砕け散る。

「くそっ! 何て馬鹿げた攻撃力なんだっ!」

 柳が毒付くと同時にガルガンチュアの目の光が緑色に変わる。

「はあぁっ!」

 気迫に満ちた雄叫びを上げ、コロナスピアで胴体へと打突。

 しかし、ガルガンチュアはその巨体からは想像できない速さでライラの突きを回避した。

「早いな。ティアと同じクロス・フォースか……」

 ライラは落ち着いて分析した。

「ちっ! スピードのクロス・フォースを使っても回避しきれないか……」

 ガルガンチュアの胴体装甲には鉄が高温で溶かされた様な溶解痕ができていた。

「行ける! 行けるぞマスター!」

「ああ! 思いっきり行こう!」

 間髪入れずに再び飛び上がり攻めるライラ。

 エネルギーシールドと高速移動で回避するガルガンチュアだったが、装甲には浅傷がいくつもできていた。

「ちょこまかと!」

 ライラの攻撃は事毎く回避され、深傷を与えられず決定打に欠けていた。その時だった。

「ライラ! 上だ!」

 頭上で八機の攻撃型ビットがライラを狙い射撃体制に入っていた。

「甘い!」

 放たれるレーザーをライラは飛躍して回避。

「そんなもの、くらうものか!」

 空中にいるライラをガルガンチュアは緑色に光る目で注視すると、その輝きを増した。

「それは慢心だな」

 柳が呟くとガルガンチュアは高速で移動し、空中で身動きが取れないライラを蹴り付ける。

 蹴られたライラは吹き飛び、砂煙を立てながら壁に叩きつけられた。

 と、その時だった。

 煙の中から飛び出すは無傷のライラ。

「なっ!?」

 早すぎる立て直しに柳は驚きを隠せないでいた。

 完全に無防備なガルガンチュアにコロナスピアで貫く。

 身体を捻らせ直撃を免れるガルガンチュアだったが、一歩間に合わず、胸部装甲が完全に破壊される。

「慢心はお前達の方だったな」

 華麗に着地し、振り向く。

 ライラが見たものは胸部装甲が無くなり内部が露わになったガルガンチュア。そこにいたのは操縦席でガルガンチュアを操る黒姫の姿……ではなく、目まで覆われたヘッドギアを付け、何本もの黒いケーブルが接続され絡み合い、身動きなど取れない状態の黒姫だった。

 その姿は操縦と言うよりは、さながら拷問席に縛り付けられている様だった。

「なんて酷い事を……」

 ライラは、その所行に怒りと恐怖を覚える。

 神姫の意思を一切尊重せず、物としか思わない、その残酷な行為。

「酷い? 違うな。これは最善だ。有効的かつ効率的に利用しているだけだ」

「そんな事をしていたら、神姫に負担が掛かり過ぎるだろう!」

「負担? 壊れれば新しい物に取り換えれば良いだけだろ? 替えが利くのはマシンの利点だろう?」

「はは……新しい物に取り換える? ……そうか、なら! 私がその間違った利点を破壊して教えてやろう!」

 コロナスピアを構え、一直線に飛びかかる。

「とうとう頭に血が上ったか? ……いや、神姫に血は無いか」

「ダメだライラ! そんな一直線で攻めたらっ!」

 遼は抑止しようとしたが、既に飛び出したライラはもう止まらなかった。

「破壊されるのはきみの方だ」

 ガルガンチュアが空中にいるライラを右手で握り捕まえた。

「しまっ……」

 手の中でもがくライラだが、ガッチリと握りしめられ、逃げ出すのは不可能だった。

「これならどうかな?」

 柳が不敵な笑みを浮かべると、ライラを握った手の周りには四機のビットがやって来ていた。

「まさか……やめろ! そんな事をしたら!」

 柳はライラを握ったまま強化レーザーブレードを出し、ゼロ距離で当てるつもりなのだ。

 四機のビットがガルガンチュアにエネルギーを送り始めた。

「腕の一本くらいくれてやろう!」

 ガルガンチュアの右手が直視できないほどの光を発する。

「ぐあぁぁあっ!」

 発光と同時に、耳を覆いたくなるようなライラの苦痛に満ちた悲鳴が響く。

 その時だった。ライラを握ったガルガンチュアの右手が、部品を吹き飛ばしながら大爆発した。

 爆風の中からは、銀色の鎧が剥がされ、半壊状態のライラが放り出された。

 ライラは放物線を描きながらティアの横たわっている付近に落下する。

「ライラ!」

 ライラはどうにか起き上がる事ができたが、そのボロボロな身体では四つん這いで何とか身体を支えられている状態だった。

「ちっ……いい加減しぶとすぎる」

 ガルガンチュアは右手からどす黒い煙を上げながらゆっくりとライラとティアがいる方へと歩み寄る。

 ライラは顔を上げると漆黒の死神が近づいて来る様に見えた。

 が、突然死神との間に何かが割って入ってきた。

「マスターっ! もうやめてください! マスターの野望は叶いました! ガルガンチュアを完成させて、シルバー・ゲットオーバーを超えた! もう十分ではないですか!」

 現れたのは柳の神姫、エリスだった。

「どけっ邪魔だエリス! 私をコケにして、ガルガンチュアの右手を破壊させた報いは受けてもらう!」

「どきません! 本当はマスターもこんな事したく無いのではないですか!?」

「……!?」

「マスターが本当は優しい人だと知っています。リセット前のメモリーはありませんが、リセット後も私をずっとパートナーとして、側に置いてくれていたのが何よりの証拠です!」

「うるさい黙れ! お前も私の邪魔をするならっ!」

 ガルガンチュアは目の前にいるエリスを力一杯蹴り上げた。

「がっ……!」

 壁へと吹き飛び崩れ落ちるエリス。

「マスター……どうして……」

 その様子を見ていたライラは意識を失っているティアに向けて呟く。

「おい、ティア。いつまで寝ているのだ? お前が助けると言ったのだろう? 目を開けて周りを見ろ。誰かを救うために傷つき倒れて行った神姫達を……」

 ライラは倒れているティアの手を握った。

「残念だが、これでジ・エンドだ」

 ガルガンチュアの両肩から大量のミサイルが射出された。

 ライラの視界は瞬く間にミサイルで埋め尽くされる。

 ティアの手を力強く握り締めた。

「諦めない……私は、最後まで……諦めるものかっ!」

 迫り来る大量のミサイルを睨み付け叫ぶライラ。

「いいや諦めろ! これが現実だ!」

 柳が言ったその時、ライラの握ったティアの手がピクリと動く。

 ミサイルは二体の神姫に容赦無く降り注ぎ、一瞬で爆炎に包まれた。

「そん、な……」

 遼はショックのあまり虚脱し、膝から崩れ落ちヘタリと座り込んでしまう。

「……まだだ」

 宏彦の瞳はまだ絶望していなかった。瞳は真っ直ぐに、目の前で立ち込める煙を見据えて。

「宏彦君……?」

「俺もライラと一緒の気持ちなんだ。諦めない。最後まで……」

 揺らめく煙が徐々に晴れて行く。

「なっ……まさか……」

 柳が声を漏らす。そこにはピラミッド型のエネルギーシールドによって守られたティアとライラの姿があった。

 ティア達の無事を確認し安堵する。

 そしてティアがゆっくり瞼を開けていく。

「ティア! 無事かっ!?」

 ライラが声をかけるとティアは完全に目を覚ましたようだった。

「ん……大丈夫……。ライラとおにぃたんの声、聞こえたの。私も、クーちゃん助けるまで諦めないなの!」

「俺は信じてたよ。ティアが無事で……最後まで諦めてないってね」

「それより、このシールドは……」

 遼が首を傾げるとピラミッドの頂点と四つ角から何かが飛び立ち、シールドが解除された。

「あれは、ビット!? でもどうして……」

 ビットが飛んで行った方を見ると、そこに巨大な影が現れた。

「あ、あいつは……」

 柳は動揺で声が裏返り震えていた。

 現れた巨大なシルエット。

 ガルガンチュアとは対照的で、禍々しさは一切ない真っ白なカラーリング。人の形により近い丸みを帯びた流線形の装甲をしていた。

「そう。諦めなければ夢も理想も叶えられる。このパンタグリュエルのように!」

 次に現れたのは、無精髭をはやし髪の毛もボサボサな中年男だった。

「その白い機体がパンタグリュエルだと!? どうやって出力不足問題を解決させたんだ! 答えろ親父!」

「親父!? ……と言うことはあの中年髭親父がこのグランドアーツの社長!?」

「開発室にほぼ缶詰だったものでね。この通り清潔感は無いが、私がグランドアーツ社長。黒羽 喜紀だ」

「御託はいい! 早く教えろ!」

 大声を上げ、急かそうとする柳に対し真は自分のペースで話す。

「全く、久々の再会だと言うのに。いや、すまないね。どいやら私のバカ息子が迷惑をかけたようだ」

「かけたと言うより、現在進行形な気がしますが……」

「いい加減にしろ親父っ!!」

 無視され続け頭に血が上る柳は怒鳴りつけた。

「あー分かった。分かったよ」

 黒羽 喜紀はやれやれと首を振った。

「私は海外の優秀なメカニック、プログラマー、それに製造メーカーを三ヶ月かけて見つける事はできた。だが、そこからが長かった。数々の不具合と失敗。それらを乗り越え一年前、ようやく製作に取り掛かり始め、つい先日、この試作型パンタグリュエルを完成させる事ができたんだ!」

「そうか……完成させたのか……ならば、それも破壊して、ガルガンチュアの方が上だと証明するまで!」

「いつもの負けず嫌いが出てるのか」

 黒羽 喜紀はハァとため息をついた。

「あんた製作者だろ? 何か弱点とかないのかよ?」

「私の設計図通りなら弱点は無い。だが対処法はある。シルバー・ゲットオーバーとゼロインフィニティーだ」

「この刃の無い剣が……?」

 宏彦は持ってきていた刃の無い剣、ゼロインフィニティーを取り出して見せた。

「その二つの武器には無限の可能性が秘められている。特にゼロインフィニティーはガルガンチュアに対抗できるように製作した物だ」

 先程まで、シルバー・ゲットオーバーは分離し、ライラのアーマーとなっていた。重く、頑丈なだけではなく、装着したライラ自身の基本スペックも向上されていたように思えた。ならばゼロインフィニティーにも何かしらの隠し要素があるのかもしれない。

「そう言う事なら……ティア! 受け取って!」

 マリンカが登場する際、強化ガラスに開けた小さな穴にゼロインフィニティーを差し込み、ティアのいる部屋へと落とす。

 ティアはパシリとその剣を掴み、鞘から刃の無い剣を抜いた。

「はっ! その刃の無い剣がガルガンチュアに対抗できる武器だって? 笑わせる」

 ガルガンチュアの破壊された手とは逆の左手からレーザーブレードが形成された。

 それをティアのいる場所へと振り下ろそうとしたその時だった。

「黒姫―っ!!」

 響き渡る幼い少女の声は訴えかけるように名を叫んだ。

 それに反応したのか、ガルガンチュアの腕はピタリと止まった。

「アゲハ……ちゃん……」

 少女の頬には涙を流した痕跡。目は充血していた。

「お願い黒姫! もうやめて! 私の事が分からないの?」

「アゲハ……きみも私の邪魔をするのかい?」

 柳は額に青筋を浮かび上がらせていた。

「お兄様っ! でも、なにもここまで……」

「うるさい!!」

 必死に訴えるアゲハを恫喝した。

「今の黒姫は私の物だ。私の命令を聞く機械だ」

「そんな……お願いします……私の黒姫を、返してください……」

 頬の涙の痕が再び濡れる。

「アゲハちゃん……」

 刃の無い剣を掴むティアがアゲハの方へ振り向き言う。

「私と、おにぃたんで、クーちゃん助けるの」

「ほんと、に……?」

「ああ。俺とティアで助ける。助け出すまで諦めないから!」

「……っ!」

 声を上げることもできずアゲハは涙に沈む。

「さて、妹であっても幼い女の子を泣かすのは許せないな」

「何を言うか。アゲハは勝手に泣いているだけだろう?」

「ったく、とことん根性腐ってやがるな」

「おにぃたん……」

「ああ。見せてやろうぜ。俺達の絆の力を!!」

 

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