第17話
男が四人と、そのパートナー神姫が夏の河原の土手に寝そべっていた。
直射日光が強く暑すぎる為、今は大きな樹木の日影に避難している。
「なぁ宏彦。思い返してみるとさ、神姫が俺達の所に来てから、色々な事があったよな?」
隣で寝そべる俊輔が聞いてきた。
「そうだな。あっと言う間に一年間近くたった……んだよな」
空を見たまま返事をする宏彦。
「遼さんとも一年くらいの付き合いなんだよね」
博もまるで独り言の様に呟く。
「あの頃はまともにクロス・フォースも扱えてなかったよね」
茶化すかの様に言う遼だったが、宏彦は目を閉じ、そうだったな。と一言呟いたその時だった。
「こんな所で男四人、いったい何をしているのかしら?」
突然頭上から聞こえてきた、聞き覚えのある声。
目を開け、首を上げるとそこには黒い蝶の装飾のフリルと黒い傘を持つ少女、黒羽アゲハが立っていた。
「くそう。見えないか」
黒いフリルのスカートの先にある聖なる三角形の布を拝む事は出来なかった。
「眼球踏み潰すわよ?」
「ごめんなさい」
顔は笑っているが声に殺意を感じ、すぐさま謝る宏彦。
「それより何でこんな所に? あとその服暑く無いの?」
「たまたま通りかかっただけよ。あと暑く無い訳がないわ」
暑いならやめれば良いのにと、その場にいた誰もが思っただろう。
「そんな事より、その……この前の、お礼言ってなかったと思って……えと……ありが……」
だんだんと小さくなる声で呟くアゲハ。
「んん? 何だってー? 聞こえないよぉ! もう一回!」
俊輔の頭に硬いローファーのつま先が突き刺さると土手を転がり落ちて行った。
「あと、会わせたい神姫がいて……」
アゲハの手の平に飛び乗った一体の神姫が可愛くポーズを決め自己紹介を始めた。
「どーも! 始めましてっ! 私がブラックバタフリーこと黒姫だよっ! よっろしくぅ! キラリーン!」
自ら効果音を口にする痛々しい神姫。見た目はそのままでも中身が全くもって別人格の黒姫だった。
「クーちゃん!?」
ティアもその声を聞き、寝ていた体を突然起こした。
「えっとー。一応、改めてよろしくね……ティア」
「えっ?」
今、間違いなくティアの名前を呼んだ。
「どうしてティアの事を覚えているんだ……? あの時CSCは壊れたはずじゃ……」
CSCが壊れれば新しいCSCを用意するしかない。だがそうすると神姫は全てリセットされ、記憶も消去されるはずなのだ。
「黒姫は私が思っていた以上に優秀な子だったわ。大事な記憶だけ外部記憶領域に保存していたみたい」
「そうなんです! ……前の記憶は無いけど、ティアとの思い出はちゃんとここに残っているわ!」
黒姫は右手をCSCの上、人で言う心臓の辺りに置いた。
「黒姫は変わってしまった。けれども、私の中の思い出は消えないし、いつまでも黒姫は私の神姫で変わらないし、代わりもいない」
「そっか……」
それを聞いて宏彦が少しだけ安堵した時だった。
「く――ちゃ――ん!!」
ティアは感動のあまりか、黒姫の胸元に飛び込み抱きつくと赤ん坊のように泣き出した。
胸の中で泣くティアを黒姫はそっと抱き返し髪をやさしくなでる。
宏彦達はその様子をしばらくの間、無言で見守っていた。
◆
気づくと夕暮れ時。少しだけ涼しくなった気がし、西の空を見上げれば青色の空が真紅の雲に飲み込まれていた。
泣き疲れたのだろう。ティアは宏彦の手の中で小さな寝息を立てていた。
「貴方の神姫も可愛いわね……」
寝ているティアを見たアゲハはポツリと呟いた。
「そりゃ、一目惚れした神姫だからな」
「ティアが羨ましいわ……私も……」
「えっ? 今何て言ったの?」
「べっ、別に大した事じゃないわ! そ、それよりも! また、貴方達とバトルしてあげてもいいわよっ!」
取って付けたような約束をするアゲハの顔は夕焼けの赤に染まっていた。
「おーいアゲハ! そろそろ行くぞ!」
遠くから聞こえた声はアゲハの兄、黒羽 柳だった。
「わかりました。お兄様! ……それじゃ、約束ね」
アゲハはゴスロリ衣装を、ふわりとゆらして柳の方へと向かって行った。
「なんだかんだで、仲の良い兄妹なんだよな……」
柳のすぐ横に止まる真っ白なリムジン。
「……さすがは社長の息子だな……」
颯爽と登場した高級車に乗り込む二人を見ていると、一瞬だけだが、柳の肩に仲良く座る赤いアルトアイネスと青いアルトレーネの姿が見えた。
二人とその神姫を乗せたリムジンは静かに夕焼け空に消えていった。
「……俺たちも帰ろうか?」
リムジンが完全に見えなくなった所で宏彦は言うと、他の三人も了解し帰ろうとした時だった。
「やあ。また会ったね」
いつからそこにいたのか。突然声をかけられ驚く一行。声の主は背の低い子供だった。
「えっと……きみは……」
どこかで見た事があるような、と首を傾げる俊輔だった。
「もしかして、秋葉原の神姫ショップの入り口でぶつかった子?」
記憶を遡り以外な人物が現れた。
「ピンポーン。そして僕があのパーティオをショップに置いてきた張本人さ」
「……返せって言われても返さないからな」
宏彦は小さな子供を大人気なく睨みつけた。
「そんな事は言わないよ。けど、中々面白い事になっていたみたいだね?」
面白い事とはグランドアーツでの出来事だろうか。
「何者なんだきみは……」
「とある研究者の弟子……と言った所かな?」
「研究者? 一体の誰の……」
「さあね。でも、大人になった君達が神姫を好きでいられたら、また会えるかも知れない。今回はそれのほんの挨拶さ。それじゃ!」
そう言うと少年は走り去ってしまった。
「なんだよあのガキ。かわいくねぇ……」
本音をこぼす俊輔。
「なぁ俊輔。俺達、大人になっても神姫の事、好きでいられるのかな?」
「何言ってんだ宏彦! 俺達のパートナーなんだぜ」
当然だと言わんばかりに声を張る俊輔だった。
「そうだな。……そうだよな!」
好きでいよう。何があっても。この手の平に収まってしまう程に小さな命を宿した神姫達を……。