第3話
そして時は進み放課後。二人は一旦家へ帰り着替えてから、ゲームセンターで待ち合わせる事にした。ゲームセンターへは自転車で向かう。
自転車の前に取り付けられた、格子状になっている針金の篭にティアがしがみ付いている。周りの風景が見えて尚且つ風を切って気持ちいのだろう。しかし、運転している側としては、段差に乗り上げた時の振動で落ちてしまわないか心配になり慎重になってしまいスピードが出せない。
ティアにとって外の世界は新しい物ばかりだからだろう。キョロキョロと周りを見ては気になった物は「あれは何?」と聞いてくる。そのせいもあってゲームセンターには想像以上に遅れて到着することになった。
「よぉ! 遅かったじゃないか〝おにいちゃん〟」
「まったく、レディーを待たせるものではありませんわよ〝おにいさま〟」
俊輔とニーナが昼休みの事で未だにからかう。あの後色々と説明したのだが、始めの魔が差していた時点で弁解しようがなかった。
「なぁ、頼むよ二人とも。その呼び方やめてくれないか?」
「でもティアからは〝おにぃたん〟って呼ばれてるじゃないか? いいだろ減るもんじゃないし」
俊輔がニヤケ顔で追い討ちをかける。
「うっせぇ。ティアは可愛いから良いんだよ」
「おにいたぁ~ん」
俊輔が裏声で可愛く言ったつもりだろうが、あまりにも酷すぎて吐き気を催す。
「蹴っ飛ばすぞ」
俊輔を軽く睨みつける。
「おぉ怖。さて、おふざけはこれくらいにして。……っとあの筐体が空いてる。他の奴等に取られないうちに座っちまおうぜ」
俊輔はそう言うと小走りで筐体へと向かっていった。
「やれやれ、やり方とかわかるのかな?」
俊輔の後を追い、もう片方の空いている筐体へと腰掛ける。筐体はエアホッケーの台を彷彿とさせる。台の中心には神姫をセットするリフトと、バトルまでの指示を映し出すモニター。モニターの左右には半円の膨らみが、それぞれ一つずつ。
そして目の前には、プレイヤーの頭に装着するバイザーのような機械がある。膨らみには手形のガイドラインが描かれている。
この膨らみに手を置き、バイザーを装着して神姫を操作するのであろう。
ティアをリフトに置きバイザーを装着し、手を膨らみに置く。
「宏彦、準備できたかー? 良かったら行くぞー?」
向こう側の俊輔が回りの雑音に負けないくらいの大声で言う。
「よし! 行くぞティア! 初戦だからって負けないからな!」
今回相手の俊輔も今回が初対戦。それにアクションゲームのセンスでは宏彦の方に分がある。
「うん! 行って来ますなの!」
ティアが手を振るとリフトが沈んでいく。
「よーし。行くぞ俊輔! ライド・オン!!」
宏彦が叫ぶとモニターに〝RIDE ON〟の文字が表示された。次の瞬間、感覚と意識が一瞬途切れる。
「う、ん……?」
気づくと目の前には荒れ果てた建物。ガラスの殆どが割れている。人の気配は全く無い。それは正に廃墟と呼ぶに相応しい光景だ。空気や感覚は本物のそれと同じと言っても過言ではない。本物と間違えるほど現実味を帯びていた。
試しに自分の手に力を入れてみる。すると、まるで自分の体の様にティアの手が握られる。
色々な姿勢を取るなどし、一通り体を動かしてみる。面白いくらいティアの体を自在に動かす事ができた。
「すげぇ……まるで自分の体。感覚も本物みたいだ。……するとやることは一つだよな……」
ゴクリと生唾を飲み、よし、と意気込む。そして、そっとティアの胸に手を置き一揉み。
「イエス! トロピカル!」
「……お、おにぃたん? な、なにしてるの?」
ティアの困惑した感情がダイレクトに伝わってくる。はっと我に返る。
「ご、ごめんなんでもないよ。はは。それよりすげーな。本当にティアと繋がってると言うか、一身同体って感じだな」
気まずい雰囲気を、なんとか誤魔化そうとする。
「むつかしい事は分からないけど、がんばるのなの!」
いよいよバトル開始だ。あらかじめ登録しといた武装。今回はティアをお迎えした時に同封されていたもの。言わば初期装備だ。ボディーパーツとフットパーツ。そしてナックルとダブルナイフの役目も果たすリストパーツ。短剣として使うこともできる尻尾の様なリアパーツ。他にもハンドガンもあったがが、今回は使わない。
武装を選択すると光の粒子がそれぞれ装備される場所に集まり実体化した。
「さて、俊輔の奴はっと……」
「おにぃたん! 上なの!」
動いたのはティアの声を聞いた直後だった。条件反射でその場を離脱する。相手がどの様な武器を持っていて、どの様な攻撃方法を仕掛けてくるのか分からない以上、上を取られた状態でその場に留まるのはあまりにも危険と感じたからだ。
その判断が功を奏したようだ。俊輔の神姫、鷹型ラプティアスの武器の一つ、ハンドガンのレッドスプライトから打ち出された弾丸は、今までいた地面に無数の小さなクレーターを作っていた。
「てめー俊輔! 奇襲だなんてキタネェ事してんじゃねぇよ!」
「何言ってんだ。勝負は土俵に上がった瞬間から始まってるんだぜ! いや、上がる前からかな?」
正にその通りであった。胸を揉んだりしなければ奇襲など、されなかっただろう。
「それでは、ここからは新米同士、正々堂々と勝負でしてよ!」
ニーナが華麗に地上に降り立つとすぐにハンドガンをティアに向ける。
「まずい! ティア、逃げるぞ!」
なるべく予測されないように左右に動き回避行動をする。
高速で移動し回避するも、数発かすめた。
「くっ。このままじゃジリ貧だ。一旦どこかに隠れて体制を整えないと……」
毒付いたその時だった。
「マスター! もっと良く狙ってくださいな! それと棒立ちだなんて考えられなくってよ!」
「え、あスイマセン……」
俊輔がニーナに怒られた時、一瞬だけ攻撃が途切れた。この隙に距離を取り建物の影に隠れることができた。神姫バトルはライフポイント制で、ダメージを負う度にそれが減って行き、ゼロになった時点で負けが決定する。
ライフポイントを確認すると、先ほどかすめたハンドガンのダメージは大した事無かった。
「なぁティア、ティアの得意な戦闘スタイルって何だ?」
ティアの得意な戦い方で攻めて勝機を見いだそうとする。
「えっとね、素早く攻撃を避けたりするのが得意なの」
「ふむふむ、なるほど。どおりで攻撃が回避しやすかったわけだ。……それならば作戦はシンプルに〝攻撃を避けつつ懐に潜り込む〟だ」
建物の角から少し顔を覗かせると俊輔とニーナは攻めてくる様子は無かった。よくは分からないが作戦会議をしているようにも見えた。ならば作戦がまとまる前に攻めたほうが良い。意を決して建物の影から飛び出ると、すぐさま姿勢を低くしてニーナへと駆け出す。
ニーナがハンドガンで攻撃してきたが、それらを軽々回避する。先ほどとは違いニーナは後方に引きながらハンドガンを撃ってくる。これが先ほどしていた作戦なのだろうか。だが移動スピードはティアの方が上だ。蛇行しながらの移動でも、十分に追いつける。
もうすぐ接近攻撃を仕掛ける事のできる距離だ。リストパーツに装着された、ブレードの役目を果たすウィンディツインズを展開し、「やぁっ!」というティアの掛け声と共に地面を蹴り一気に懐へ入り込む。ブレードによる斬撃攻撃をお見舞いする。が、寸での所でニーナの左手に装備されたシールド、コヴァートアーマーに防がれてしまう。
「直線的。見え見えですわよ?」
ニーナが不敵な笑みを浮かべている。その右手にはナイフのフェザーエッジが握られていた。
「まずい! 下がるぞティア!」
ティアが攻めてくる事を予想していたのだ。カウンターを想定していなかった為、反応に遅れが生じた。
対応の遅れが命取りとなり、ナイフで腹部を切られ、勢いで吹き飛び地面を転がる。
ホログラムの為、傷が付いたり壊れたりする事は無いが、ライフポイントは確実に削られてしまった。
「これが……神姫バトル……」
ダメージを受けたティアがゆっくりと立ち上がる。その姿を見るのがとても苦しかった。
傷は付いてなくともティアの表情は痛みを堪えた感じだった。自分が初めての神姫バトルでちょっと上手く攻撃を避ける事ができたくらいで調子に乗ってティアに辛い思いをさせているのではないかと思うと胸が締め付けられる。
「ごめん……ティア……俺……」
「へ、へいき……なの。まだ、戦えるの」
彼女の頑張っている姿に涙が出そうになる。心なしかティアが切られた部分と同じ腹部が焼けるような痛みを感じた。
悔しい。負けたくない。勝ちたい。そういった感情が徐々に高まっていく。
「これで、トドメでしてよ!」
ニーナは空中へと飛び上がり再びハンドガンで射撃攻撃を仕掛けてきた。
「ティア!」
雨のように降り注ぐ弾の、いくつかが地面へ着弾し、ティアは瞬く間に砂煙に包まれる。
ハンドガンによる攻撃を止めたニーナが地面へと足を付けたその時だった。砂煙の中から突如現れ、疾駆するティア。
「早い! けれど、単純でしてよ!」
リストパーツに装着されたブレードによる攻撃を、紙一重で空中へ飛び上がり回避するニーナ。そのまま宙で体を回転させ、ティアの背後へ着地し、間髪入れず手に持ったナイフで反撃を仕掛けた。ところがティアは疾駆の勢いを殺さず、地面に手を付ける。
間髪入れず腰を上げ、器用にもリアパーツの尻尾型ブレードのキレールォでフェザーエッジを弾いた。逆立ちしたティアは手を軸に回転し、その遠心力を追加した蹴りをニーナへとお見舞いする。
大したダメージは期待できない。だか、ニーナは予想外の出来事に体制を崩す。
明らかに焦りが見える。しかも今の蹴りで武器を叩き落とす事ができた。チャンスは今しかない。
「今だティア! レールアクション! エンドレスパーティー!!」
レールアクション。それぞれの武器や神姫に設定されている特殊行動。それはスキルポイントというゲーム内で指定されたエネルギーを消費して発動する強力な技だ。
フェレット型パーティオ専用の必殺技、エンドレスパーティー。両手のウィンディツインズがほのかに光を帯びる。姿勢を戻し、一気に懐へ飛び込む。左右のブレードを交互に使った連続攻撃。最後に両ブレードで挟み、切り裂く。
「はぁ……はぁ……」
ティアの両手に装備されたウィンディツインズから光が消えた。必殺技を発動し終えたティアは肩で呼吸をしていた。
ニーナは力無くパタリとその場に倒れた。
「っく……体が……参りましたわ」
宏彦の目の前に〝YOU WIN〟の文字が浮かび上がっていた。
「やった……初バトルで、俊輔に勝った! やったなティア!」
初めての神姫バトルで初めての勝利は、その場で飛び上がりたくなるほどに嬉しかった。
「がんばったのなの」
ティアが武装を解除し、ピースを作り微笑んでいた。
「だ――! チクショウ! もうちょっとだったのにぃ! 何だよあれチートかよ!」
向こうでは俊輔が負けたことによる悔しさからか筐体をバンバンと叩いている。
「くそう! もう一回勝負しろ宏彦! 次はゼッテー負けねぇからな!」
それからと言うもの、二人とその神姫は時間も忘れバトルを続けるのであった。勝敗は五分五分。まだまだ経験不十分だが、お互いに少しずつ上達していた。
「まさかとは思ったけど本当にまだやってるとは思わなかったよ」
用事を済ました帰りなのだろう。博が二人の前に現れた。
「さっきのバトル見てたけど、二人共随分と上達してるね。もう初心者とは思えないくらいだよ」
「そうだろそうだろぉ? これで俺もイッチョ前だぜ!」
俊輔が少し褒められたくらいで調子に乗っているようだった。背伸びしたい年頃だろうか。
「俺にだって負けてるうちは一人前でも何でもないだろ」
「はぁ? 何言ってんだ、俺の方が一回多く勝ってるんだから俺の勝ちだろう」
正にどんぐりの背比べである。
「お前、何言ってんだ? ちょっと無茶だぞ?」
「ハハハ。じゃあ今度は僕と対戦しよう。神姫歴では先輩の僕が二人を鍛えてあげるよ」
「望むところだぜ!」
俊輔は意気込んではいたがこの後、宏彦も含めた二人は博とマリンカに一勝もできずボロボロにされてしまうのであった。
その後も三人は時間を忘れひたすら神姫バトルに励むのであった。ふと気づくと、当たりはすっかり暗くなっていた。
家庭によってはもうとっくに夕飯は終わっている時間であろう。
「いやー楽しかったなー。宏彦もそう思うだろ?」
確かにここ最近やったゲームの中で一番楽しかったと言えた。
「ああ。面白かった。けど疲れるな、神姫バトルって」
「そうだね。二人はずっとやってたもんね。僕もこんなに遅くまで神姫バトルをやっていたのは久しぶりかも」
後から参戦した博はさほど疲れてはいないようだ。さすが慣れてるだけのことはある。
「そう言えばさ博、学校で、初めのうちは危険だとか言ってたけど何でだ? バーチャルなんだから負けても壊れたりしないだろ?」
「あぁそれね。実は最近、敗者の装備を奪う人がいるんだ。酷い時は神姫を壊したりするとか……。僕は実際に戦った事は無いんだけどね。その人の腕は、そこまで上手くはないらしいんだ。だから初心者を狙うらしい。それで手に入れた装備は売ってお金にしてるって噂なんだ」
「きたねぇ奴だな! なぁそいつ、俺らが懲らしめてやろうぜ!」
俊輔のたまに出てくる正義感であった。この正義感は困ったもので、名前も知らない隣のクラスの生徒が、上級生にお金を返してもらえてないと困っていた所、俊輔が善意と言って回収してくるくらいだ。その時はたまたま上手く行っていたが無謀な事もやらかす俊輔を見ていると不安になる事がある。
「懲らしめるのは良いけどな俊輔、アニメや漫画みたいに、それで改心するほど実際の世の中甘くないんだよ」
「宏彦君の言う通り、これに関しては窃盗に入る違法なことだから警察も動いてる。僕らの出る幕は無いよ」
「ちぇ、なんだよ二人とも、乗りわりぃーなぁ」
一般人、ましてや高校生がそう言った事件に首を突っ込む事は得策じゃない。やれる事と言えば、そういう輩に気をつけるくらいだろう。
「さて、もう暗いしお開きに……ティア、どうしたんだ?」
先程から肩に乗っているティアが辺りを気にしているようだったので聞いてみた。
「ん。あのね、さっきから誰かに見られてる気がするの……」
さっきの初心者狩りの話もあり少し怖くなった。もしもティアの身に何かあったら嫌だ。破壊されるティアを想像してしまいゾッとする。たった一日に満たない思い出であっても、それはとても大事で、せっかく仲良くなれたティアと別れるのは辛すぎる。そんな事を考えながら辺りを見回してみる。だが人影どころか三人以外に人の気配も感じなかった。
「気のせいじゃないかな。そろそろお開きにしよう。さすがに寒くなってきたぜ」
気のせいと自分に言い聞かせる宏彦。ホラー映画とかは苦手ではないのに、この時ばかりは恐怖に煽られていた。
その後三人は別れ、それぞれ自分の家へと帰宅した。
◆
「あんな奴が本当に〝力〟の所有している神姫なのか? 確かめる必要があるな……」
誰もいなくなったゲームセンター前。暗闇から突然湧いて出たかの様に何者かが現れた。
痩せ型ではあるが背は高い。黒い服を着ていて、夏も近いというのに長袖の上着。さらに深々とフードをかぶっている。見るからに不審者だ。
「だけどもし、彼女が本当にマスターの言うソレなら、また〝アレ〟完成に一歩近づきますね」
さらに茂みから一体の神姫が現れた。出てきた神姫はその者の肩に飛び乗り、共に暗闇へと消えっていくのであった……。