武装神姫Cross Force   作:浦尾 有

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正義と友情
第4話


「へへっ。そんじゃあ勝負しよぉぜぇ。ルールはお前のご希望通りだ」

 今回の宏彦の対戦相手は。ガタイが良く、さらにはスキンヘッドと言う、関わる事を躊躇したい容姿だ。

 しかしこの男は、三日前に、このゲーセンの前で話していた例の初心者狩りの張本人であった。

 あれほど関わらないと話していたのに、こんな事になってしまったのには訳があった。それは少し時をさかのぼり、朝礼より少し前の教室での出来事だった。

 

 

「宏彦~! 博~! どうしよう~」

 普段より少し早く登校してきた俊輔であったが、教室に入るやいなや乱心状態で宏彦と博に助けを求めてきたのであった。

「お、落ち着け俊輔! 何があった?」

 ここまで取り乱している俊輔は珍しい。当然ながら友達として放っておく事などできない。どうしたのか俊輔に聞いてみるのだが本人は「どうしようどうしよう」と連呼するばかりで会話にならなかった。

「仕方ありませんわね。まったく、見ていられなくってよ?」

 俊輔の鞄の中からニーナが飛び出し宏彦の机の上に着地する。

「あたくしから説明いたしますわ」

 ニーナは喚いている俊輔を無視しつつ淡々と語り始める。

「実は先日、皆さんが話していた、初心者狩りの張本人と、その者の犯行現場を目撃してしまいましたの」

「それで俊輔君がでしゃばって返り討ちにあったと」

 落ち着いた声で博がつぶやく。

「恥ずかしながら、ご名答でしてよ」

 ニーナは肩をガックリ落とし言った。

「そんなことじゃないかと思ったよ。あれほど注意して首を突っ込まない方が良いと言っておいたのに。でも、神姫が無事で良かったじゃないか」

 今度は半ば呆れた様子で語る博であった。

「良くねーんだよ! 武装は全部取られちまったし、あのガキには絶対に取り返してやるって言っちまったんだからよぉ!」

 どうやら俊輔のいつもの悪い癖が出ていたようだ。今まで何度か失敗したことのある俊輔なのだが、ここまで焦っているのは初めてだろう。そんな俊輔を見ていると、だんだん放っておけなくなってきてしまった。

「……わかった。俺がなんとかする」

「宏彦君まで! ……僕は手を出さないよ? 面倒事はごめんだからね」

 博はそう言うと自分の席に戻ってしまった。

「なんだよ博のやつ、冷たいな……それより宏彦、作戦とかあんのか?」

「作戦か……話し合いで返してくれは、しないよな……」

 結局勝負するしか方法は無いのだろう。

 

 

 そんなやり取りをその日の朝にして放課後、ゲームセンターでその初心者狩りを見つけ今に至ったのだ。

「あぁ。確認だけど、ルールは負けた方が武装を渡す。あんたが負けた場合、中学生から奪ったサンタ型ツガルの装備、それとこの俊輔から奪った鷹型ラプティアスの装備を俺が貰うからな」

「あぁ良いぜ。だが、こっちが二種類出してそっちがソイツの、ちんけな装備だけってのは割にあわねぇーよなぁ?」

「おい! どうすんだよ宏彦! 俺もお前も他に武装無いし博だってこの場にいないんだぞ!」

 宏彦はしばし悩み沈黙する。

「お? どうした? 怖くなっちまったか?」

 初心者狩りの男はいかにも余裕と言った感じで煽ってくる。

 目の前にある筐体の上で準備しているティアを見る。すると、視線に気づいたのかこちらに振り向く。

「ティア……」

「わかってるの。大丈夫なの。おにぃたんを信じてるから」

「ぶっ! なんだソイツ。おにぃたんとかマジ笑えるわ」

 呼ばれ方の恥ずかしさを堪え、すうっとひと呼吸し覚悟を決める。

「俺が負けた場合、俺の神姫、パーティオのティアも賭ける。これで良いだろう?」

「おい! 正気か宏彦! せっかく手に入れた神姫なのに」

「わかってる。でも、やるって決めたんだ。もう後戻りはしない。それに、ダチが困ってるんだから助けないとな」

「お前……」

 俊輔の目にうっすらと涙が浮かんでいた。

「くくっ。良いぜ。その条件で良いだろう。おにぃたんなんて気持ち悪いから貰ったら即リセットしてやるよ! これも優しさだぜ? 前の主人の事を忘れちまえば寂しく無いもんなぁ!」

「てめぇ! それじゃあ宏彦はどうなるんだよ! お前にティアを奪われた事はずっと忘れられないんだぞ!」

 俊輔が今にも飛びかかりそうな形相で大声を上げた。

「あぁーん? んなもん、勝ちゃ良いんだよ。敗北者は黙れってな」

 敗北者と言われぐうの音も出ない俊輔。

「大丈夫。ティアをリセットなんかさせない。だから安心しろ。お前らの武装もきっと取り返して見せるから。行くぞティア! ライド・オン!」

 気がつくとそこは砂漠フィールドであった。神姫バトルでよく使われるフィールドの一つだ。バーチャルで再現された小さな砂丘。そこには遺跡があったと連想される、砕けた柱や壁だった物の瓦礫などが存在する。

「今回の獲物はソイツだ。派手にやっちまいな! ジーン!」

 ジーンと呼ばれた相手の神姫は、小柄で褐色の肌。地獄の番犬の名にふさわしい獣を模したヘッドパーツ。三つ首を彷彿させるリアパーツ。ヘルハウンド型のガブリーヌであった。

「よう。地獄へ行く準備はできたかい、お嬢ちゃん」

 ガブリーヌのジーンはそう言うと、手に身の丈程の長細い槍、テュポーンを出現させた。

 先日の俊輔との戦闘を思い出す。無謀な事はせずに相手の出方を見る。

「がうぅ! 来ねーならコッチから行くぜ!」

 するとジーンは一直線に攻めてくる。長い槍はこちらの位置を的確に狙い貫こうとする。

 だが攻撃は直線的だ。横へと移動し、容易く避ける事ができた。ジーンの槍は空を貫き、横を通過する。

「今なの!」

 腕に装着されているウィンディツインズを展開させ、横にいるジーンへ攻撃を仕掛ける。

「あめぇよ、お嬢ちゃん」

 ジーンはそう言うと槍を地面に刺す。それを軸に、体全体を駒の如く回転させる。槍を使用した特殊攻撃だ。

「なっ!」

 裏の裏を読まれた。既に攻撃モーションに入ってしまっている。回避はできない。直後、遠心力を追加した強力な蹴りに襲われる。

「ひあっ」

 カウンターの直撃を貰ったティアは悲鳴を上げる。体は勢いよく転がり砂を巻き上げる。

「反撃を誘ったカウンターは基本中の基本だぜ?」

 ジーンはそう言うと再び槍を構え攻撃を仕掛けてくる。

「おにぃたん!」

「わかってる! 一旦引いて体制を立て直す!」

 直ぐ様立ち上がり距離を開けるために走り出す。速さではこちらの方が勝っている。徐々にだがジーンとの距離も開けてくる。

「がうぅぅ! 逃げんじゃねぇ!」

 逃げ回る事で相手の動きを短調にする作戦でもある。

「だー! 逃げねぇで戦いやがれってんだー!」

 ジーンが叫ぶと左手の指先五本をこちらに向くように掲げてきた。

「くらいやがれ! インフェルノ!」

 つぎの瞬間五本の指先からマシンガンの如く弾丸が発射された。予想外の出来事に足を止めてしまう。

「しまった!」

 無数の弾丸がティアを襲う。咄嗟に腕を交差させガードの姿勢に入る。距離が離れていたおかげで弾丸はバラけ、直撃したのは僅かであった。

「ワォォ――ン!」

 突然ジーンが大きな遠吠えの様な声を発した。するとジーン体がオレンジ色のオーラに包まれる。

「まずい!!」

 アレは良くないと宏彦の動物的勘が警告してくる。

「ヘルクライム!!」

 リアパーツのエキドナに装着されている、二つの獣の顔が展開する。そして体を回転させた。次の瞬間放たれたのは、追尾性のある弾丸だ。それを四方八方にバラまく。その弾丸全てがティアに向かって来る。一瞬にして目の前がオレンジ色の弾丸色に染まる。まともに受ければただでは済まない。ガードも無意味だ。少しでも被弾を避けるべく回避行動に移る。

 左右の移動とバックステップを駆使して回避していく。だが避けられたのは初めのうちだけだった。一発が右足をかすめるとバランスを崩してしまい残りの弾がティアを襲う。

「ひやぁあー!」

 着弾時に爆発を起こす。ティアは悲鳴と同時に弧を描きながら吹き飛び、そのまま受身も取れず地面に落下する。

 かろうじて体力は残ってはいるが、もう何発も受けられないだろう。

「オラオラー! 寝てるとやられちまうぞぉー!」

 ジーンの手には巨大なハンマー、ライトヘラクレスが握られていた。獲物を叩き潰そうとこちらに走ってくるのが見える。

(まずい……逃げなきゃ)

 そう思いティアを立ち上がらせようとする。が、思った以上にダメージが大きかったのか、右足の関節が小さなスパークを放ちガクンと膝をついてしまう。ジーンはもうすぐ近くに来ている。

「ウオラァ! 食らいやがれぇ!」

 ブオンと風を切る音をさせながら縦に回転させそのまま振り下ろす。

「っく」

 やむを得ず手をクロスさせガードする。しかし思った以上にハンマーの威力が強かった。

 凄まじい破壊力で、腕に装着されたリストパーツは粉々に粉砕され、電子的な光となり消滅。ガードしたにもかかわらず衝撃を殺しきれなかった。

 致命的なダメージを受け、砂の上にうつ伏せに倒れるティア。

「なんだぁ? もうへばっちまったのかよぉ。もっとオレ様を楽しませてくれよぉ」

 そう言うとジーンはティアの頭に足を下ろし踏みつける。

「きゃ、うっ……」

「っへ、お前ら負けたらパーツ取られるんだろ?」

(そうだ……取り返すって俊輔と約束したんだだけど、もう……ごめん俊輔、俺……)

「立ちやがれ宏彦ぉ!」

 ギャラリーで観ている俊輔の声だった。

「俺の……ニーナの武装やガキの武装なんかどうでも良い! だけどお前の、ティアの記憶は、思い出は無くしちまったら二度と手に入らない物なんだぞ! お前らの〝思い出〟が、〝絆〟が! ここで終わっちまうんだぞ!!」

 そうだ、負けてしまえばティアも取られて、離れ離れになってしまう。それどころか、ティアの記憶も消されてしまう。

「嫌だ……負けたくない! ティアと離れたくない!」

「わか……てる、なの」

 ティアの頭を踏みつけているジーンの足を少し押し上げる。

「わたしも、おにぃたんと、サヨナラなんて、したくないの!!」

 ティアが叫んだ瞬間、左肩部分に付いているバツ印のキズがエメラルドグリーンの光を放つ。

「な、なんだぁ? うをっ!」

 先程までティアの頭を踏んでいたはずのジーンの足は、気付くと砂漠の砂を踏みつけていた。

 辺りにティアの姿は無い。

「く、くそう! どこ行きやがった!」

 ジーンは辺りを見回し、ようやく後ろにいる事にやっと気付いたようだ。

「あ、あんな所に! い、いつの間に移動しやがったんだぁ!?」

「怯むなジーン! 相手はもう虫の息だ。遠距離攻撃でも当てれば勝てる!」

 相手マスターの指示だった。そんなやり取りをよそにティアは自分の尻尾パーツを引き抜き、短剣キレールォとして使用する。

「ティア、足……大丈夫か?」

「大丈夫なの。それにこの光、なんだか力が溢れてくるの」

 左肩をみるとバツ印のキズは絶えず光輝いていた。これが光った時、ジーンの足から抜け出す事ができた。なにより今までにない速さで移動することができた。

「よし! 反撃だティア!」

 短剣を正面に掲げ、姿勢を少し低くし構える。

「行くのなの!!」

 瞬時にトップスピードで駆け出した。その早さはジーンとの距離をまたたく間に縮める。

「く、くっそう! い、インフェルノ!」

 指先のマシンガンを乱射してくる。だが先ほどとは違う。何故なら弾丸がゆっくり飛ぶように、しっかりと見えるからだ。

 指先から放たれた弾丸はしっかりとティアを捉えているように見える。だがそれは残像であり、実際には全く当たっていない。

 弾幕をくぐり抜け、ついに懐へ入った。

「てやー!」

 一閃。加速の衝撃も追加されジーンは後ろに吹き飛ぶ。つぎの瞬間、空中にいるジーンの側へ高速で移動し、横から追撃を加え打ち上げ攻撃。

「がはっ……」

 そして打ち上げられた先で待ち構えるティア。

「ラストなの!」

 目にも止まらぬ速さで振り下ろされる小剣はジーンの腹部を切り裂く。

「ぐわあぁぁ!」

 地面へと叩きつけられるジーン。つぎの瞬間勝利を告げるべく目の前に〝YOU  WIN〟の文字が表示される。

「やった……勝った!」

「やったなの! 勝てたなの!」

 ティアはバトルフィールドで嬉しさのあまりピョンピョンと飛び跳ねている。

「そう言えば、あの緑色の光はなんだったんだろう」

 今の戦闘を思い返した。筐体から出てきたティアの左肩のキズを見るが既に光を放ってはいなかった。

「ちくしょう……ありえねぇ……ありえねぇ」

 勝負に負けた赤城輝春が一人ぶつぶつと呟いていた。

「さぁ! 約束通り武装返しやがりな!」

 俊輔が赤城輝春に食ってかかる。が、そんな俊輔の声も聞こえていないようだ。

「ありえねぇ……こんなの、ありえねぇー!」

 そう叫ぶと急に立ち上がりその場から逃げ出す。

「あっ! 待て! 武装返しやがれ!」

 逃げた赤城輝春を俊輔が追いかける。しかし向こうの方がゲームセンターの出入り口に近く、とうとう外に出られてしまう。だが外に出た瞬間、何者かの足につまずき大胆に転ぶ。

「っと。この人捕まえちゃってください」

 スーツにグラサンの男三人が赤城輝春を取り押さえる。

「博! この人達はいったい……、てか関わらないって自分で言ってたのにどうして」

 赤城輝春の足を引っ掛けたのは博だった。

「えっと、この人達は……ぼ、ボディーガードみたいな感じ……かな? あの後マリンカに説得されちゃってさ」

 博はバツが悪そうにハハハと笑う。

「ボディーガード雇ってたなんて、やっぱ博の家って金持ち? それはそうと、助かったぜ。宏彦と博のお陰で解決、大団円だな」

 俊輔が満足そうにふんぞり返る。

「何が大団円ですって? マスター、先程あたくしの武装なんてどうでも良いなんて言ってましたわよね? それは一体どういう意味でして?」

 突然ニーナが現れ俊輔を問い詰め始めた。

「あ、いや……それには深い意味は無いというかその場の勢いだったというか」

「マスター! 自分の言った事に責任は持たなければいけなくてよ?」

「ひえぇ~ごめんなさい!」

 ニーナと俊輔のやり取りはしばらく続くだろう。

「ありがとうな博。お陰で俊輔達の装備を取り返すことができたよ」

 宏彦が礼を言う。

「お礼だなんて。それよりごめん。僕は友達が困っているのに手を差し伸べなかった」

「何言ってんだ。最後の最後に美味しい所で手伝ってくれたじゃんか!」

「そう……かな。……あのさ、また、僕ともバトルしてくれるよね?」

「当たり前じゃん? 友達だろ?」

「そっか……うん! そうだよね。ありがとう!」

 かくして赤城輝春は警察へ連行され、見ず知らずの少年の持ち物だったツガルの武装、そして俊輔のニーナの武装は無事取り返す事ができた。こうして初心者狩り事件は幕を下ろすのであった。

 

 

「やはり、あの神姫……間違い無いな」

「これでやっとマスターの野望が果たせますね」

 宏彦とティアの戦いを見ていた一人の男とその神姫が言った。

「ああ。だがタイミングが重要だ。今はまだその時期じゃない。計画の実行は全てが揃い、アレが完成してからだ」

「はい。マスター」

 一人の男と神姫はそっとその場から姿を消すのであった……。

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