第5話
「よっしゃー五連勝だぜー!」
勝利に喜びガッツポーズをしているのは俊輔だった。
「おにぃたん。ごめんなの……。また負けちゃったの……」
「ティアのせいじゃないよ。俺がもっと上手にティアを動かせたら……」
「宏彦君どうしたの? 動きにキレが無いけど、何か考え事でもしてるの?」
博が聞いてきた。考え事をしてないと言えば嘘になる。先日、例の初心者狩り、赤城輝春との戦闘時に起きた現象。ティアの左肩のキズがエメラルドグリーンに輝いた後、力が湧いてきて、普段よりも数倍速い移動速度が出せたあの現象を再現したかったのだ。
「ああ。実はこの前のバトルの時の……」
その時だった。
「ちょっと良いかな? そのパーティオのマスターは君かな?」
突然見知らぬ男に声をかけられた。見た目は宏彦達よりも少し年上、大学生といった所だろうか。
「……何の用ですか? それにあなたはいったい……」
赤城輝春を倒した後だ。もしかしたら仲間がいて、仕返しをしに来たのかもしれないと思い身構える。
「あ、警戒しないで。僕はただの神姫マスターだよ。」
と、クールな笑顔で言った。
「っと自己紹介がまだだったね。僕は富沢 遼。それでこっちが僕のパートナー神姫。ストラーフMkⅡのライラさ」
ストラーフMkⅡ。悪魔をモチーフとされた、黒がメインカラーの神姫だ。
富沢遼の肩に乗っていたストラーフMkⅡはよろしくと短く挨拶をした。
「富沢遼……ストラーフMkⅡのライラ……ってこのゲームセンターのランキング一位の神姫マスターじゃないですか!」
突如として現れた人物がランキング一位と気付いた博は驚き叫んだ。
「マジで! それじゃあ俺と一回バトルしてくれよ! 一位ってどれくらい強いのか体感してみたいんだ!」
俊輔が遼にいきなりバトルを申し込んだ。
「いくらなんでも無謀過ぎでしてよマスター?」
ニーナが呆れ半分で言った。
「ごめんね。君とはまた今度。今日は宏彦君……。君にバトルを申込みたい」
「え? 何で俺の名前知ってるんですか? それと今は俺よりもこっちの博や俊輔の方が強いと思うんですが……」
「いや、君はあの初心者狩りと有名だった彼、赤城 輝春を倒した唯一のルーキーだからね。君の健闘がネットにアップされていて、そこで名前も知ったんだよ」
上位になってランキングに名前が載り有名になるならいざ知らず、誰かに撮られた動画によって名前バレするとはプライバシーの保護もあったものではない。バレた理由の大半はバトル中、大声で名前を叫んだ俊輔のせいだろう。
当の本人は一位の遼への挑戦を断られてしょんぼりしていた。
「彼は初心者狩りとして有名だけど、そこそこ実力のある神姫マスターだった。その彼に勝てた宏彦君に興味があるんだ。見たところ〝秘められた力〟があるような気がしてね」
さも意味有りげに〝秘められた力〟と遼は言った。もしかしたら何か知っているのかもしれないと思いその挑戦を受ける事にした。
今までどおり、ティアを筐体へセットしライドする。
気がつくと目の前には〝コロシアム〟と呼ばれるステージが広がっていた。天井から等間隔で垂れ下がる六本の柱。そして中央には女神を連想させる巨大な石像が四体設置されていた。
少し離れた所に今回の対戦相手、軽装の漆黒パーツを装備した遼のライラがいた。
本来、フルアーマーならば、ヘッド、ボディー、レッグ、リアといった感じに武装されているのだが、ライラはヘッドパーツとリアパーツを装備していなかった。
「さて……君達はあの赤城 輝春を倒した。だが私達からすればまだまだヒヨっ子だ。そこで君達にハンデをあげようと思う」
ライラがそう言うと右手に光が集まり、次の瞬間その手には巨槌〝ジレーザ・ロケットハンマー〟が握られていた。そして、そのハンマーの柄の部分を足元に突き立て地面を砕いた。
「武器はこのハンマーだけで戦う。君達は好きな武器を使うといい」
先日、ジーンとの戦いで使われたハンマーの凄まじい破壊力を思い出す。ガードしたにも関わらず大ダメージを貰う事になった恐ろしい武器だ。
他の武器と組み合わせて使うと脅威だが、その重量から素早く動けず小回りが効かない。対してこちらはスピード重視の戦いが得意だ。勝機はある。
「攻めて来ないのなら、こっちから行くぞ!」
そうライラが叫ぶと一直線にこちらへ向かってくる。思った以上に早い。だが避けきれない程でもない。
ハンマーが振り下ろされる直前、ティアは軽く後ろに跳躍し回避する。
今いた場所に深々とめり込んだハンマーに、その破壊力を思い知らされる。
「ま、これくらいは避けてもらわないとな」
ライラは地面に深くめり込んだハンマーをゆっくりと引き抜く。が、表情は余裕そうだった。
「見てるだけでは勝負には勝てないぞ!」
ライラがそう叫ぶと再び攻めてきた。今度は横振りだったがこれも軽く回避。
ハンマーを振り終わった後に反撃に入ろうとしたその時だった。振りきったかと思われたが、ライラは遠心力を利用し、体を回転させ縦振りの姿勢にさせていた。
「まずい!」
遠心力も追加されたハンマーが振り下ろされる。ティアはその一撃を寸前の所で回避した。
「ほう。今のも回避するか」
ハンマーは先ほどよりも深々と地面にめり込んでいる。あんな物をくらえばひとたまりも無い。だがおかしい。ジーンと戦った時より、威力もスピードも桁違いだ。
「驚いているのか?」
ライラは再び地面からハンマーを引き抜く。
「このハンマーはその名の通りロケットハンマー。加速用のブースターが備え付けられている。そこいらの武器とは一味違う」
ライラは再び攻撃の構えをとる。だが今の二度の攻撃で分かった事がある。最後の縦振り後は確実に攻撃が一旦ストップする。ここを叩く事ができれば。
「ティア! 回避に専念だ!」
再びハンマーの連続攻撃が始まる。しかし攻撃は読める。いくらスピードの速いハンマーでも振り始めで予測が可能だ。
「いつまで避けているつもりだ?」
ついにハンマーを振り上げ、加速ブースターを起動させた。
「ここだ!」
今まで後ずさりで回避していたがこの瞬間は横への回避。すぐさま体制を立て直し、腕に装着されたブレード、ウィンディツインズをがら空きの胴体へおみまいする。……はずだった。
「あまいな」
ライラは足を上げ、レッグパーツを使いその一撃を防いだのだった。
「そんなっ」
そのまま足を少し押し返すと、ティアの体はいとも簡単にはじかれてしまい、宙に投げ出さた。空中では回避行動は取れない。
無防備になった所に容赦の無い回し蹴りがティアの体を捕らえる。
「かっはっ!」
ティアの体が地面を転がる。
「おい! 卑怯じゃねーか! ハンマーしか使わないんじゃないのかよ!」
ギャラリーの俊輔が遼に抗議していた。
「武器はハンマーだけと言った。あれは技の一つで戦術にすぎない」
遼の落ち着いた反論で俊輔はぐうの音も出ないようだった。
「ティア! 立って!」
先ほどの俊輔との連続勝負の影響からか、ティアの動きが鈍い。ようやく立ち上がると、目の前にはハンマーを振りかざすライラの姿があった。
ライラの瞳は獲物を捕らえた狩人のそれと言った鋭さだった。
蛇に睨まれた蛙とは、まさにこの事だろう。こんな時、どう動けば良いのか分からない。考えがまとまらない。
結局何もする事ができず、とうとう重い一撃がティアの横っ腹に入る。凄まじい衝撃でステージ端まで吹き飛ばされ壁に突っ込み煙を巻き上げる。
「ティア!!」
圧倒的な実力の差。経験の違いが出ている戦闘だ。
「弱い……。この程度とは、赤城を倒せたのは偶然だったのか」
バーチャル空間で戦ってる為壊れたりはしない。だが可能ならば今すぐにでもティアの元へ駆けつけたい。煙が晴れるまで安否を確認できないのがもどかしい。鼓動が早くなる。
「ティア……ティアっ!」
「……ふん。興ざめだ」
捨て台詞を吐きライラが後ろを向いた時だった。砂煙の中から物凄い速さでティアが飛び出した。
「っな!」
ライラは反射的に防御の姿勢をとりハンマーの柄でティアの腕に装着されたブレード、ウィンディツインズを受け止めた。
「ティアっ!」
宏彦はティアが無事だった事に安堵した。
「ティア、一旦引いて体制を立て直そう!」
が、指示を出してもティアは引こうとしない。それどころか、そのまま攻撃を続けた。
「ど、どうしたんだ!? なんで言う事を聞いてくれないっ!」
先程の一撃でティアの回路やCSCが破損してしまったのではないかと思うと再び不安に襲われる。
ティアの攻撃は更に激しさを増す。一方的な連撃はライラに反撃の隙を与えなかった。その様子はあの赤城 輝春を倒した時とよく似ていた。物凄い速さ。そして良く見ると左肩のキズがエメラルドグリーンに輝いていた。
決定的に違うのはティアが言う事を聞いてくれない事と、ティアの感情が一切分からない事だった。
そして更なる異変が現れた。
左肩のキズから、エメラルドグリーンに輝く光の筋が体を浸食し始めた。
「どうやら〝力〟は本物のようだな。……だが……」
防戦一方だったライラがつぶやいた。同時にハンマーの持久力に限界が来たのか真っ二つに折られた。折られたハンマーは光の粒子となり消え去る。が、ライラは身じろぎせずティアを睨む。
「全く使いこなせていない!」
ライラが吼える。再びティアの腹部に蹴りが入れられ吹き飛ぶ。が、今度は空中でクルリと回転し体制を立て直した。
「マスター!」
ライラが遼を呼ぶ。
「良いだろう。ただし、加減はするんだぞ」
遼の了承を得たライラは力を溜め始めた。すると今までは気付かなかったがライラの右の太もも辺りに、ティアと同じ様なバツ印の傷があり、それが赤く光り始めた。発光と同時にティアが一直線にライラへと突撃し始める。それを見てライラはすぐ近くの柱の傍へと移動する。
「はああぁぁあっ!!」
ライラは柱に向かって回し蹴りをする。まるで小枝を折るかの如く、いとも簡単に折られた柱は真っ直ぐティアの方に飛んでいく。
予想外の出来事に反応しきれなかったティアを巻き込んで柱はフィールドの壁に突き刺さる。
ライフポイントのゲージを見るとゼロを指し、画面には〝YOU LOSS〟の文字が映し出されていた。
◆
バトルが終わり筐体からティアが出てくる。
「ふえぇ~。おにぃたんゴメンなの。また、負けちゃったの……」
出てきたティアはいつも通りの様子だった。もし今の戦いがリアルファイトだった場合、どっちに転んでも破損は回避できなかっただろうと思い背筋がゾッとする。
「ティア……よかった、本当……よかった……」
情けない事にティアが無事だった事に涙する。
「おにぃたん、どしたの? お腹痛いの?」
泣いてる所を誰かに見られるのは男として恥ずかしい。誰かに見られる前に袖で涙を拭き取る。
「いや、大丈夫。もう大丈夫だから」
言われてから腹部が痛いと思い始める。おそらく、この痛みはティアの事で不安になっていたからだろう。
「やあ。お疲れ様」
話しかけてきたのは先程戦っていた遼だった。
「何ですか? 俺の実力なんて結局こんなもんですよ。それともまだ何かあるんですか?」
「君の神姫の力について教えてあげようと思ってね」
涼しげな笑顔でそう言った。
「神姫の力……ただそれだけの為にあんな危険なバトルをっ! それなら最初から!」
宏彦は反射的に遼の胸ぐらを掴んでいた。
「まあまあ落ち着いて。実際に戦ってみないと分からない事もあったし。ネットの情報あ当てにならないからさ。百閒は一見に如かずってね。それだけの事さ」
「それだけって……でもそのせいでティアは暴走したんだ! 今回は無事だったけど、もしもの事があったら!」
「その、もしもの事を起こさない為に僕はここに来たんだ」
遼は落ち着いた様子で手を振りほどく。
「それは……どう言う……」
「言葉の通りさ。あの力、〝クロス・フォース 〟は強力だ。しかし、リスクもある」
「それじゃあ、さっきのは……」
「文字通りの暴走ってやつだ。だが、それを掌握する事ができれば大きな力となる」
「じゃあ遼さんの神姫は……」
「その通り。僕達はクロス・フォースをほぼ完全に使いこなせると言っても良い」
「そう……なんですか。……じゃあ俺たちは今後バトルは控えた方が良いのかな」
またあんな事になったりして、暴走したまま戻ってこないなんて事があったらと思うと、とてもじゃないが耐えられない。
「だからその制御方法を教えてあげようと思ってね」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていたかもしれない。それほどに予想外の台詞を言われたのだ。
「おーい宏彦ー!」
そこへギャラリーで観ていた俊輔と博がやってきた。
「惜しかったな宏彦。途中のティアのラッシュで、ハンマーへし折った時は勝てると思ってたんだけどな」
俊輔が不器用なフォローをする。しかし今回の勝負は負けて当然と思っていた。
「いや、あんなの、ぜんぜん惜しくないよ。負けて当たり前だ」
「宏彦君!」
今まで静かだった博が声を張り上げた。
「宏彦君の神姫は……ティアは君の為に体を張って頑張ったんだ! それを負けて当たり前だなんて、酷いよ! マスター失格だよ!」
「マスター……失格」
その言葉が深々と胸に突き刺さる。それはティアを暴走させてしまったからでもある。
「まぁまぁ、ここでいがみ合ってるのもなんだ。他の神姫マスター達も待ってる。あっちの方でちょっと休憩しよう。ジュースぐらい奢ってあげるよ」
「マジっすか!?」
俊輔がすぐさま反応した。
「現金な奴だな、お前」
「じゃあ、休憩が終わったら俺と一戦いいっすか遼チャンプ!」
「はは、チャンプはよしてくれ。一位と言ったってこのゲームセンター内での順位だ。全国や世界で考えたら僕の実力なんてたかが知れてる」
「またまた、ご謙遜を」
こうして四人とそれぞれの神姫達は一旦その場を後にした。
◆
「運が良いな。こうも短期間に二体目が見つかるとは」
先の戦闘を観ていた、フードを深く被った青年が呟く。
「どうするのですかマスター? もう、やってしまいますか?」
肩に乗った神姫が囁いた。
「いや、まだアレが完成していない。それに、焦らずとも私の手元に揃う事になる」
そう言うと青年とその神姫はゲームセンターを後にした。
「クロス・フォース……交わる力か。……洒落た名前を付けたものだ」