武装神姫Cross Force   作:浦尾 有

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暴走
第6話


 筐体から一旦離れた四人とその神姫達は休憩所にいるのであった。

「プハー! タダで飲めるジュースはやっぱり美味いぜ!」

「俊輔君、それかなり失礼だから」

 俊輔の失言に対し即座にツッコミを入れる博。

「マスター、最低ですわ。器が知れてましてよ」

 更にはパートナーのニーナにまで言われる始末。

「うぅ……反省します」

「で、まずは宏彦君だ」

 話を切り出したのは遼だった。

「はい……」

「そんなに緊張しなくて良いよ。リラックスしよう。そこまで大した話じゃないからさ」

 そう言われ、多少だが力を抜いた。

「まあ、教えるとは言ったけど、実際、大した事じゃないよ。結局、ちょっとずつ慣れていくしか無いんだ」

「そんな単純な……」

「でもそれだけじゃない。一番大切なのは神姫との絆、そして信じる事なんだ。どんな時でも神姫を信じる」

「ティアの事なら信じてます!」

「勝てないかもしれない。そう思ったりはしなかったかい?」

 図星を突かれる。確かに、圧倒的な実力の差で勝てないと思った。

「思い当たる節があるね? そんな時でも神姫を信じてあげるんだ。どんな状況でも絶対に負けない、絶対に勝てる。そう信頼してあげる事が力の源と制御なんだ」

「……俺に、できるかな……」

 不安になる。ちょっと負けそうになったら勝負を捨ててしまうかもしれない。いや、そう思わなくとも、心のどこかで諦めているかもしれない。

「できるかなじゃない。やらなきゃいけないんだ! その神姫、ティアの事を守る為にも!」

「ティアを……守る……」

 肩に乗るティアの方をみる。無邪気に足をパタパタさせている姿がなんとも可愛い。

「にゅ? どしたのおにぃたん?」

 ティアが不思議そうに見つめてくる。

「そうだな。できないかもじゃなく、できるようにしよう。ティア、一緒に頑張ろう!」

「うん! おにぃたんと一緒に頑張るのなの!」

 満面の笑みで微笑むティアの表情は何物にも例えられないくらい可愛い。

「この笑顔を、一つの命を守る為に、俺はどんな時でもティアを信じる! 信じ抜いてやるんだ!!」

「決意は固まったかな」

「はい! ティアの為にも頑張ります!」

「だが、そう簡単ではない。なにせ私も」

「こらライラ! 昔の事を勝手に喋るんじゃない!」

 突然口を挟んだライラを叱る遼だった。

「もしかして遼さんも昔は……」

「ほら、食い付かれちゃったじゃないか。ライラのせいだぞ」

「それはマスターが未熟だったからだ」

「ふふっ……あはは。なんだ、遼さんにもそんな時期があったんですね」

 先程まで敵だったライラとそのマスターが、こんなにも普通に話している所を見て、つい笑ってしまう。

「笑わないでくれよ。大変だったんだから。当時は力の発動も暴走の原因も分からなかったし」

「あ、そう言えば気になる事があるんですけど」

「ん? なんだい? 僕に答えられる事ならいくらでも答えるよ」

「それじゃあ、えっと、この力の名前、何でクロス・フォースなんですか?」

「かっこいいじゃん」

「へ?」

 予想外の即答だった。

「……って言うのは冗談。まあ半分くらいは」

「半分は本気なんですね」

「クロス・フォース……交わる力。マスターと神姫の絆が本当に交わった時の力。僕はそう思って名付けた」

「え、本当に遼さんがつけたんですかその名前!?」

「そうだよ。だって公式ではないからね、この力は。それに、どの神姫でもできる訳じゃない」

「なんだ、俺のニーナもパワーアップするのかなって思ってたけど無理なのか」

 がっかりした様子で俊輔が言った。

「マスター! その様な努力もしないで強くなろうだなんて虫が良すぎてよ!」

「って、ニーナが言ってるんだがどう思うよ宏彦、ティア」

「ま、マスター! それは卑怯でしてよ! そんな事言ったら前言撤回するしか……ですが、そうするとマスターが楽をしようと……ああもう! マスター覚えていてくださいな! 後ほど説教でしてよ!」

 いつもは落ち着いているニーナが今はあたふたしていた。

「マリンカ、君はどう思う? あの力、欲しい?」

 博がマリンカに聞いた。

「は! 他がどうであれ、自分は正当方で勝利を掴みたいと考えるであります!」

 マリンカは敬礼しながらハキハキと答えた。

「うん。そう言うと思ったよ」

「遼さん。ずっと気になっていたんですけど、どうして俺にクロス・フォースの制御方法を? 遼さんには何のメリットも無い様に思ったんですが・・・・・・」

 教えた所で何も得をしない。通常の神姫より強い能力を使いこなしてしまえば戦った時に脅威になる。つまりゲームセンターランキングで不動の一位が危うくなる恐れすらある。

「……僕はね、神姫が好きだからさ。……話、ちょっと長くなるけど良いかな?」

「はい。聞きたいです」

 遼はすうっと息を吸い語り始める。

「昔、とある大会に出場したんだ。そこまで大きな大会ではなかったけど、そこそこ観客が集まるくらいの人気はあった。そこで僕と当時のパートナーだった天使型アーンヴァルのコロナは決勝戦にまで行ったんだ」

 

 

 バトルフィールドに佇む二体の神姫。一方は、全身真っ白な武装と、主翼が目立つ天使型アーンヴァル。

 もう一方はと言うと、赤いアーマーフレームに青色のクリスタルが配置されているアルトアイネスのリペイントヴァージョン、アルトアイネス・ローザだ。

『さぁ! 盛り上がってまいりましたー! 富沢 遼選手の神姫は遠距離の戦闘が得意な天使型アーンヴァルのコロナ! 旧型ながらも粘り強い戦いで、とうとう決勝戦にまで勝ち上がった! 近年、旧型でここまで上り詰めた事は過去に例を見ません! 対する黒羽 柳選手の神姫は最新型の神姫、アルトアイネス・ローザのエリスだ! 圧倒的なパワーと速さを掛け持つ、まさに技術の結晶とも言える神姫! 旧型の意地と、培って来たプレイスキルが勝つか、あるいは最新技術が勝つのか!? これは非常に見ごたえのある対戦カードだ!』

 実況により会場はより一層熱気に包まれる。

「勝ちましょうマスター。勝って優勝を頂きましょう!」

 遼の神姫。アーンヴァルのコロナが言うと、すぐさまレーザーライフルを敵へ向け構える。

「ああ。この勝負勝てるよ。あのアイネス・ローザは機動力が高く、接近戦は凄まじく強い。だが、遠距離の攻撃手段は持っていない。こっちは速度を生かして遠距離から攻撃すれば勝てる!」

「はい! それでは、行きます!!」

『おぉっと始めに動き出したのは遼選手のコロナだ!」

「当たってください!」

 空中を高速で移動しながらレーザーライフルを撃つ。狙いは正確だった。しかし、光線が届く前にアルトアイネス・ローザのエリスは既にそこにいない。

 凄まじい移動速度で懐に入られ接近戦に持ち込まれる。そう誰もが思っていただろう。だが、近づいてくる事を予想してコロナは機関銃のアルヴォPDW9に武器を変えていた。

「その行動は読んでいました!」

 エリスに向けて機関銃を乱射。けん制によりエリスの動きが一瞬止まる。

「今です!」

 再び高速移動で距離を取りながらレーザーライフルで構える。

『おーっと、エリスはコロナに近づかせてもらえない! これは厳しい! 何とか接近戦に持ち込みたい所だがどうする柳選手!』

 コロナは再びレーザーライフルによる射撃。が、これも先程同様回避されてしまう。

「ここです! サラマンダーチルドレン!」

 機関銃から発射された弾丸が炎を纏い、まるで生きた龍の如くエリスに襲い掛かる。

「うわぁぁぁっ!」

『あーっと! エリスがサラマンダーチルドレンの直撃を受け、地上へと落下していく! 早くもピンチか!?』

「とどめです! ハイパー……」

 レーザーライフルの先端に光が集まってゆく。エネルギーチャージが臨界へ到達と同時に引き金を引く。

「ブラストォ!!」

レーザーライフルから放たれたハイパーブラストは通常のレーザー攻撃よりも強力な一撃だ。必殺技と言っても過言ではない。強力なレーザー砲がエリスを捉えた。会場にいる誰もが終わったと思っただろう。

 だが、そこには副腕のシールドで受け止めるエリスの姿があった。

「まさか、あれを受け止めるなんて……」

『なんと! あの一撃を耐え凌いだー! ここから奇跡の逆転なるかー!?』

 副腕のシールドは溶けて形状を維持できなくなっていた。シールドがボトリと崩れながら地面に落ちたその時だった。

「うがあぁぁあぁぁっ!!」

 突然エリスが想像を絶する雄叫びを上げ、会場が一瞬凍りつく。

「マスター!」

 コロナが遼に指示を仰ぐ。

「ああ。嫌な予感がする。いつでも動けるように準備しておいて」

 そうコロナに伝えた時だった。エリスの青色のクリスタルが発光し始めたのだ。かと思うと、今までスカート状だったアーマーがシームレスに変形を初め、翼の様な形状に変わった。変形が完全したと同時にエリスが先程とは比べ物にならないスピードで突撃し始める。

「っく! エンジェリックスカイ!」

 相手との距離を高速で調整する技だ。発動すれば間違いなく距離が取れる。そう思っていた。確かにエンジェリックスカイは発動した。だがどういう理由か。目の前にエリスがいるのだ。これは間違いなくエンジェリックスカイよりも早い速さで近づいてきたという事だ。

「そんな……」

 コロナの瞳に恐怖が映る。

 次の瞬間、エリスの副腕がコロナの背中に装着された主翼をがっしりと掴む。

「ひっ」

 身動きが取れなくなるコロナ。そしてエリスは自身の手に大剣のジークムントを出現させる。そしてゆっくりと掲げ、いっきに振り下ろす。レーザーライフルを盾代わりに使うが、それすらいとも簡単に断ち切りコロナを襲った。

 大剣の衝撃でリアパーツから無理やり切り離され地面へと一直線に叩きつけられる。

「コロナ!」

『な、何と言う事でしょう! エリスはとんでもない切り札を隠し持っていた! 凄まじいスピードと破壊力! コロナは無事なのか?』

「っく」

 コロナは辛うじて無事だったが、身を守る武装は殆ど破壊された。決め手のハイパーブラストは防がれ、それを発射するライフルも壊された。もうまともに戦う事はできないだろう。

 が、事は起きた。コロナの元へと降り立つエリス。おもむろにダブルナイフのラーズグリーズを両手にそれぞれ持ち、

「ぃっぎ!!」

 コロナの両腕を切り落としていた。切断された腕からは火花が飛び散る。神姫は痛みを感じる事は無い。が、眼前のもの恐ろしい神姫と、これから何をされるかの恐怖からコロナの表情が歪む。

「ハハッ……アハハハハ!」

 狂気じみた笑い声をあげたと同時に、エリスの体を這うように青色に輝く筋が侵食していった。

 エリスは笑いながら小剣のロッターシュテインを出現させた。

「やめろ……やめてくれっ!」

 小剣がコロナを襲い斬り刻む。何度も、何度も、何度も何度も執拗に斬りつける。

 ボディーフレームが徐々に破壊されてゆき、破片が周りに飛び散り始める。

『黒羽 柳! 今すぐやめさせなさい! 過度の破壊は反則となる!』

 実況が警告するがエリスは止まらない。マスターの柳に視線を向けると、頭を抱えていた。

「違うんだ……僕じゃない、エリスが勝手に……エリスが……」

「そんな……」

 壊されていく様を見ているしかできないのか。そう小さく呟いた瞬間だった。

 エリスが小剣の持ち方を変え、刃を下へと向ける。

「まさか……そんな、やめろ――!」

 真下へ一直線に下ろされた小剣はコロナの胸を貫いた。

「コロナ――――ッ!!」

 小剣は深々と、人間の心臓に当たる部分を捉え、地面にまで貫通していた。

 そこへ警備の神姫がぞろぞろと会場に現れ、電磁ワイヤーをエリスに向け発射。捕らえられたエリスは抵抗するも、すぐさま高圧電流を流され、全機能をフリーズさせられた。

 高圧電流を流されたエリスは力なく倒れ、白い煙を上げていた。

 

 

「でも、バーチャルバトルだから神姫は無事なんですよね?」

 俊輔が恐る恐る聞いた。遼はそれに対し、少し悲しい表情で首を横に振った。

「大会は臨場感のあるバトルを、と言う事からリアルファイトで行われる事が多いんだ。

「それじゃあコロナは……」

「機能を完全に停止したよ。相手の神姫にCSCを破壊されてね」

 気まずい雰囲気になり、そこにいた全員がしばらく黙り込む。

「で、結局大会の方はどうなったんですか?」

 宏彦が意を決して聞いた。

「捕らえられたアルトアイネス・ローザのエリスは検査された。でも何の不具合も見つからなかった。けれども過剰な神姫破壊で失格負けになり、SCSもリセットされた。ルール上、僕が優勝という事になったけど、素直には喜べなかったな」

 自分の神姫が殺されてまで優勝したかった訳がない。

「で、その大会の優勝商品は新しい神姫だったんだ。でもコロナを失った悲しみから立ち直るのには時間がかかった。一度は神姫マスターをやめようとすら思った。コロナの代わりはいない。けれど、コロナがいたからこそ手に入った神姫だと。そして僕は大会の優勝商品だったストラーフMkⅡの箱を空けた。それで、見たら右足の太もも辺りに傷がついていたんだ。ちょうどティアの左肩についているバツ印のそれと同じような傷がね。取り替えてもらおうと思った。けど、コロナが命を懸けて残していった神姫はこのストラーフだ。だから僕は取り替える事をやめ、この神姫にライラと名づけ新しいパートナーにしたんだ」

「そんな話があったんですね」

 宏彦が呟いた。

「僕はあの時みたいに神姫を失わない為、ライラと一緒に強くなる事を誓った。けど暫く戦っているうちに例の力が発動した。その時はこれといった事件は起きなかった。だけど、今度は僕が誰かの神姫を、コロナの時みたいに壊してしまうのではないかと思った」

「そうして私とマスターは見つけた。この力、クロス・フォースの制御する方法を」

 遼の肩で仁王立ちをしていたライラが続いた。

「だから僕は、こうして君にクロス・フォースの事を教えた。他の神姫を壊さないように、自分の神姫を失わないようにと思ってね」

「悲しいけど……」

「良い話であります!!」

 俊輔と博のマリンカが同じ格好で涙していた。

「何シンクロしてんだお前ら」

 二人の姿を見て宏彦は言った時だった。

「あ、あの……宏彦君……さっきは、その、マスター失格だなんて言って……ゴメン」

 博が突然頭を下げた。

「何言ってんだ博。お前がああ言ってくれたから俺はティアを絶対に信じるって誓えたんだ。むしろ俺がお礼を言いたいくらいだよ」

「え、えっと、その……」

 想像と違う返答に博は困惑していたようだった。

「神姫に関しちゃ博の方が先輩なんだ。これからもよろしく頼むよ」

「う、うん・・・・・・」

 博の歯切れの悪い返事の後しばしの沈黙が続く。

「さて!」

 沈黙を打ち破ったのは遼だった。

「折角だし宏彦君、特訓でもしようか?」

「特訓? もしかしてクロス・フォースのですか?」

「正解。丁度、筐体も空いてるみたいだし」

「ちょっとぉ! 遼さん俺とのバトルはー?」

 俊輔が遼に食って掛かった。

「あ、えーっと、また今度ね」

「またふられた!!」

 このやり取りで、皆の表情が少しだけ明るくなったような気がする。

 その後、ゲームセンターで四人とその神姫達はそれぞれ対戦して、気付いたら夕飯の時間をとうに過ぎていた。

 遼とはメールアドレスを交換して、また時間が合えばこのゲームセンターに集まろうと約束をしてその日は解散したのだった。

 

 

 

「パパー、来たよー。話って何―?」

「おぉ来たか。今日はお前にプレゼントがあるんだ」

「プレゼントー?」

「あぁ。前から欲しいって言っていた神姫だ。お前のためにパパがカスタマイズした、この世に一体だけの特別な神姫だ」

「本当!? パパありがとう! あ、でも私、バトル、したくないよ? 壊したりしたらヤだし……」

「神姫は戦う為だけの道具じゃない。大切なパートナーなんだ」

「パートナー……?」

「そう。いつでも傍にいてくれる、友達以上の存在になってくれる。それが神姫だよ」

「友達以上……。パパ、この子に名前つけても良い?」

「ああ。良い名前を付けてあげなさい」

「それじゃあ……! この子の名前は黒姫よ!」

「良い名前だね。黒姫を大事にしてあげるんだよ。アゲハ」

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