第7話
「タッグマッチ??」
「そう。丁度四人なんだから、たまには変わったバトルしてみても良いかなって思うんだ」
それは遼の提案だった。タッグマッチとは文字通りタッグを組んで、二対二でバトルを行い、相手チームの二人を倒した方が勝ちである。二人になった事で戦略幅が広がるのがタッグマッチの面白い所だ。各個撃破するも良し、連携を取り集中攻撃を行い、数的有利を早い段階で作り戦闘を有利に進めるも良し。一対一では成し得ない事も二人いれば可能性は出てくる上、強い相手にも作戦一つで勝つ事ができるかもしれないのだ。
「良いですけどチーム分けどうします?」
「恨みっこ無しのグーとパーで良いんじゃねーの?」
俊輔がいい加減に答えた。
「俊輔君、普通に実力で分けた方が良いと思うんだけど……」
博が正論を言った。実力的に、博と遼は神姫暦が長いので別れた方が無難ではある。
「良いんだよ! 恨みっこ無しなんだから、どんなペアになっても文句は無いぜ!」
「分かった。それじゃあ」
「遼さんまで!」
「いくよー。グーとパーで分かれましょっ!」
結果は最悪と言っても良かった。富沢遼のライラと高瀬博のマリンカの玄人チーム。対して御剣宏彦のティアと和田俊輔のニーナのルーキーチームで分かれてしまった。
「だー! ナシナシもう一回! こんなの無理だよ勝てるわけ無いじゃんかー!」
「言い訳しないって言ったのは俊輔君だったよね?」
またもや博の正論である。
「そ、そうだけどぉ……」
「恨みっこ無しって自分で言っちゃってるからな。頑張るしかないよ俊輔」
宏彦が俊輔の肩に手を置き宥める。
「なんだよ早くも諦めモードか宏彦」
「諦めてなんかないさ。それに、俺は神姫を、ティアを信じるって決めたんだ。ティアとだったらきっと勝てる。そうだろティア」
「そうなの! おにぃたんと一緒なら勝てるの!」
「はは、何かお前ら二人を見てたらいけそうな気がしてきたぜ!よし、勝つぞニーナ!」
「当然でしてよ。ティア、共に頑張って勝ちますわよ!」
「う、うん。頑張ってみるのなの」
「マリンカ、準備は良い?」
「火器管制装置及び銃弾、銃器状態オールグリーンであります!」
「ライラ」
「勿論だ。負けるつもりは無い。本気で行く」
『『ライド・オン!!』』
◆
四人の神姫がそれぞれ戦場に降り立った。今回のバトルフィールドは廃墟だ。しかし初めて戦った時とは雰囲気が違った。辺りは視界が悪くなるほどの霧が立ち込め、ジメジメとした感覚が体を襲う。
「うえージメジメするー。これ神姫サビたりしないかなぁ?」
俊輔が毒つく。が、ここはバーチャルの世界。感覚だけであって神姫自体が故障や破損することは無い。
「マスター、その心配はなくてよ。それよりこのバトルをどう勝つかを悩んだ方が良くなくて?」
「それもそうだな。宏彦、何か作戦とかねーのか?」
「えっ? 俺に聞くのかよ!?」
そうだなと考えている時だった。突然遠くの方から銃声音が轟いた。
「危ない!!」
銃声が聞こえた時とほぼ同時にニーナが飛び出しティアを押し飛ばしていた。その反応速度は流石鷹型と言った所だろうか。が、あくまで反応する事ができただけだった。対策どころか警戒すらしていなかったのだろう。遠くから射出された弾丸はニーナのヘッドパーツに着弾した。
「きゃっ!」
頭部を撃たれたニーナが悲鳴と共に吹き飛ぶ。
「ニーナ!」
ティアがニーナの元へと駆け寄る。
「っく……不覚でしたわ」
倒れていたニーナがゆっくりと立ち上がる。と、その時だった。ニーナのヘッドパーツ、フロンタルシェルが光の粒子となり消滅した。破壊された武装はそのバトル中は使用不可能になる。
「この攻撃はもしかして……」
そう呟いた時だった。再び銃声音が響く。先程とは別の方角からの狙撃だ。今度のは反応する事ができたのか、ニーナはシールドのコヴァートアーマーで受け止めた。が、そのシールドも先程のヘッドパーツ同様、光の粒子となり消える。
「この攻撃……間違いない」
そして三度目の銃声音が響く。弾丸はニーナのリアパーツに直撃した。今の真後ろから来た弾丸にはニーナも反応できなかったようだった。
背後から撃たれ、ニーナは前のめりによろめく。
「くそっ、ニーナへの狙い撃ちかよっ!」
俊輔が叫ぶと同時にリアパーツのアヴィアフォームが消滅した。疑惑が確信に変わった。この攻撃はマリンカの攻撃だ。
それに狙撃位置を把握されないように場所を変えながら撃ってきている。さすがは博、抜かり無い。
「パターンCか厄介だな」
何度かバトルしていく事で分かった、博が使う武装パターンの三つ目。武装と武器が一体化していて、右腕に直接装備しているパーツの一つ、スナイプ・レールガンをメインで使うパターンだ。このスナイプ・レールガンはリアパーツの外部バッテリーからエネルギーを供給し、右手に直接装着された銃身から弾丸を発射する。エネルギーを使った射撃は超遠距離からの攻撃も高弾速かつ正確な狙撃を可能にしている。さらに博が使う弾も特殊で、着弾した武装を一撃で使用不可能にするのだ。ボディーに当たれば一撃で体力が無くなると言っても過言では無い威力だ。しかしその分、デメリットもある。弾は全部で五発。発射までの間隔が長く、狙撃時は構える為その場から動けなくなる。弾を撃ち切った場合、エネルギーパックになっているリアパーツと銃身になっている左腕の武装が強制的に武装解除される。ゆえに撃ち切った場合は防御力が著しく低下する。
その為、今まで一対一しかしていなかったので滅多に使っては来なかったが、タッグマッチになるとこうも厄介なのだと痛感した。
「待たせたな」
ティアとニーナの目の前に現れたのはもう一人の相手、遼のライラだ。
「なぁ宏彦、この状況どうするよ」
俊輔が小声で聞いてきた。
「とりあえずマリンカの射線から離脱しないと、ライラと戦ってるうちに狙い撃ちされるだけだ。ここは一先ず引こう」
その場から一旦離脱しようとした時だった。
「逃がす訳が無いだろう」
ライラが黒く大きなハンマーを振り下ろしてきた。狙いはニーナだった。
「くっ」
武装が破壊されたニーナは多少身軽になったのか楽に回避しているように見えた。しかし武装が破壊されている為、今のニーナの防御力は無いに等しいだろう。ライラの強力なハンマーの一撃を受ければひとたまりもない。
「動きが単純だぞ!」
ライラにもう動きを読まれつつあるようだ。ニーナの回避行動が先読みされているようだった。その為ニーナの方は常に危機的状況だった。
「ティア! ニーナのヘルプに行くぞ!」
「わかったのなの」
援護に入ろうとした時だった。四度目の銃声音が鳴った。それはハンマーの回避に専念していたニーナに向けられていた。ニーナが回避した先を読んだ射撃だった。弾丸は胸パーツのトラックスフレームを使用不能にし破壊した。
またもや被弾したニーナに、身を守れるような大きな武装はもう無かった。
「次撃たれたら終わりだな」
ライラが呟く。武装が守ったとは言えど、スナイプ・レールガンの最後の一発をくらえば間違い無くトドメを刺されるだろう。
スナイプ・レールガンの直撃を四度も受けたニーナは相当のダメージが蓄積しているようだった。今も一人で起き上がるのがやっとだ。
「ティア! ニーナを安全な場所まで!」
ティアはニーナの手を掴み、その場から離脱しようと試みた。
「逃がさん!」
ライラが叫ぶとレッグパーツのカローヴァに装着されたブースターが点火する。
「なんだよ! あんな高速移動もできるのかよあのストラーフ!」
前回、ティアと対戦した時のライラの武装は最低限の物しか装備していなかった。が、今回は容赦の無いフルアーマーだった。
ブースターを機動したライラは空中移動を取り入れた三次元的移動をしていた。
何とか動けるようになったニーナと共にティアもハンドガンを構え、空中を飛翔するライラに向けて撃つが一発としてかすりもしなかった。
射撃しながら移動し続けていたが、気が付いたら袋小路に追い詰められていた。
「行き止まりなの!」
もう逃げ場は無い。マリンカがここを狙撃する場所に到達するのも時間の問題だ。
「……マスター、あたくしに一つ、作戦がありましてよ。この前のアレ、用意してくださいな」
ニーナ達には、どうやらこの状況を打開する作戦があるようだ。
「ただ、この作戦は賭けですのよ。ティア、あなたは一対一でライラを倒せまして?」
ティアは少し間を置いてから頷いた。
「できる! ニーナと、おにぃたんが一緒なら!」
「作戦会議は終わったか?」
歩み寄ってくるライラの方へと向いたその時だった。バトル中五回目の、最後の銃声が鳴り響く。狙いはやはり手負いのニーナだった。
「キャ――――!!」
「ニーナ!」
撃たれたニーナは衝撃で後ろに吹き飛び、廃ビルの窓ガラスを突き破り建物の中へと消えた。
「くっそ! まずいな」
ニーナの作戦とやらは結局聞けずじまいだ。ティアだけでその作戦が遂行できるかも分からない。
「これで二対一だね」
マリンカが目の前に現れた。右手に装備されたスナイプ・レールガンと背中のエネルギーパックから蒸気を噴出させると武装を解除した。
すぐさま両手にハンドガンを出現させると人差し指を軸にガンスピンを決め、ティアに向けて構える。
「どうする? 降参する?」
マリンカがハンドガンをちらつかせて言った。
「イヤ! 降参はしないの!」
ティアは首を横に振り、小剣のキレールウォを出現させた。
「ならば、戦え!」
ハンマーを振り上げ踏み込むライラ。しかしティアはハンマーの攻撃を容易く回避する。大振りで隙のできやすいハンマーだが、それを補うかのように後方で射撃をしてくるマリンカ。
「ティア、何とかしてマリンカを先に倒そう! 一対一にできれば勝機はある!」
マリンカはスナイプ・レールガンを撃ち切り腕とリアパーツの武装が無い。その為防御力が低下している。今攻撃を受ければひとたまりも無い状態だ。故に後方支援に徹しているのだろう。
「いつまで逃げていられるかな?」
マリンカは相変わらず後方から両手のハンドガンを交互に撃ち続ける。今は何とか弾丸を回避しつつハンマーを受け流している状態ではあるが、マリンカの言うようにいつまで逃げ続けられるか分からない。
「なるほど。回避は上達したな。だが!」
ライラがティアに足払いをした。
「ひぁ!」
ティアは悲鳴と共に体制を崩す。そこにすかさずハンマーによる攻撃。
「まだまだ鍛錬が足りていない!」
とっさに小剣を使いハンマーを受け止めた。
「ほう。やるようになったな」
「俺達だって成長するさ!」
今まで自分より強い遼のライラと博のマリンカ。同じくらいの実力で、良きライバルと言っても過言ではない俊輔のニーナと幾度も戦ってきた。それなりに経験値は積んでいるのだ。
「動き止めたら、いい的になっちゃうよ?」
マリンカが狙いを定めトリガーを引いた。が、カシャリという音が弾切れを告げた。
「ちっ! こんな時に!」
慌ててハンドガンを投げ捨て、次にスナイパーライフルを構えスコープを覗いたその時だった!
「はぁあっ!!」
突如としてビルの窓ガラスが割れたかと思うと、倒れたはずのニーナが飛び出してきた。
「そんな!? どうして!?」
突然の事に戸惑うマリンカに、ニーナは渾身の一撃をお見舞いする。
「レールアクション! スーパーダブルナックル!!」
ニーナの両手に光が纏う。マリンカに一気に近づくと右フックから即座に左アッパーで動きを止める。すかさず両手で息をもつかせぬ連続攻撃。フィニッシュに体全体をバネにして両手で叩きつける。
「かはっ……」
地面に叩きつけられたマリンカはピクリとも動かなくなった。体力が〝ゼロ〟になったのだ。
タッグマッチで体力が無くなると、そのバトルが終わるまで動けなくなる。
「やったぜ! 博から一本取れ……」
勝ちを確信した俊輔だったが、言い切る前に事は起きた。
「甘いぞ!!」
気付いた時にはブースターで加速したライラがハンマーを振り始めていた。
ニーナの表情が恐怖に歪み、金縛りにでもあったかのように動きが止まる。
「しまっ……!」
重く、鈍い音と共に吹き飛び地面に倒れこむニーナ。どうやら今の攻撃で体力が尽きてしまったようだ。
「だがこれで……」
「一対一なの!」
ライラとティアはお互いに武器を構えて叫ぶ。
『『クロス・フォース、発動!!』』
ライラは炎を彷彿とさせる赤色。ティアは風を連想させる緑色のオーラを体に纏った。
ライラのクロス・フォースの能力はパワーの上昇。対してティアの能力は移動速度と回避能力の上昇という事がわかっている。
「たあーっ!」
先に動いたのはティアの方だった。目にも留まらぬ速さでライラの懐を目指す。
「どうやら発動自体はマスターしたようだな。だが!」
ティアの攻撃を予測して構えるライラ。しかしティアはライラの横を通り過ぎる。
「なに!?」
予想外の出来事にそのまま後ろを振り向くライラ。振り向いた先には小剣のキレールォを振りかざすティアの姿があった。
「くっ」
咄嗟に手に持ったハンマーでガードに入る。が、スピードの乗った攻撃にハンマーの柄が両断される。
「油断した。やるようになったな」
両断されたハンマーは形状を維持できなくなったとして光の粒子となり消滅した。
「だが、戦いはこれからだ!」
ライラは足に装着されたブースターを点火させ、速度と威力の増した回し蹴りをティアにねじ込んだ。
凄まじい威力にティアの体は建物の壁にまで吹き飛ばされ砂煙に包まれた。しかし、すぐ煙の中から出ると両手にナイフの役目も果たすリスト武装、ウィンディツインズを展開する。
「そうこなくてはな!」
攻撃速度の速い戦法に対応する為か、ライラは左右で長さが若干違うダブルナイフを出現させる。右にディーカ、そして左にはコシーカを持ち踏み込む。
互いに両手の武器で接近戦を仕掛けた。両者一歩も譲らない攻防を繰り広げ、刃がぶつかり合う度に火花を散らす。
「す、すげぇ……」
体力が尽き、観戦に徹していた俊輔が声を漏らす。
「あの、ランキング一位と互角に戦っているだなんて……」
博ですら目の前の戦闘に驚きを隠せないようだった。
「そこだ!」
僅かな隙を見つけ攻め入るライラ。
「よけるのなの!」
クロス・フォースの効果により上昇した回避能力で楽々回避できる。
本来、手数が多い反面攻撃力の低いダブルナイフだが、今のライラはクロス・フォースによって攻撃力が底上げされている。
つまり、攻撃の全てが痛手をこうむる可能性を秘めている為、少しの判断ミスですら命取りとなる。
「いいぞ、この感じ! これほどまでに高ぶる戦いは久しぶりだ!」
ライラは歓喜の叫びを上げる。
互いに武器同士を押し付けせめぎ合う。
「なんだか楽しくなってきたのなの!」
ティアの瞳に闘志の炎が宿る。
刹那、手首のスナップを利かせブレードをねじる。
そのまま絡ませライラのナイフを巻き込む。
巻き込んだかと思えば。
「なっ!? 何をした!?」
絡ませたナイフを引き込み、両手から離れた所で弾き飛ばしたのだ。
「うまくいったなの!」
ティア自身、成功させる確信は無かったのだろう。だが、今はクロス・フォースの手助けもあり功を奏したのだ。
武器を失ったライラは「ッチ」っと舌打ちをすると後方へ飛躍し距離をとった。
「褒めてやろう……ここまで私を追い込んだ事を、全力を出させた事を!」
ライラのリアパーツに備え付けられた副腕が動き出し、背中に収められていた大刀を引き抜いた。
大刀は普通の神姫には余りにも大きく、完全武装してようやく扱える代物だ。
「ティア! やられる前にやるぞ! レールアクション! エンドレスパーティー!」
フェレット型パーティオが有する専用必殺技の発動。緑色のオーラが激しさを増す。
「そう簡単にやらせるかっ!」
ライラの纏っていた赤色のオーラも輝きを増した。
「殲滅! 一刀両断!!」
ライラを捉えられるだろう距離の所で大刀が振り下ろされた。
悪魔型ストラーフMkⅡの必殺技。〝一刀両断【黒】〟の破壊力は凄まじく、その一振りは爆風を生み、砂埃を舞い上げ視界を遮る。
「ティア!」
「惜しかったな。あと一歩だっただろうに」
二体の神姫を中心にできた巨大なクレーター。そこに立っていたのは富沢遼の神姫、ライラの方だった。