武装神姫Cross Force   作:浦尾 有

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黒いシュメッターリング
第8話


「勝てなかった……」

 宏彦はがっくりと肩を落とした。

「まぁ、なんだ……惜しかったな。俺達もあんまり役に立たなかったし」

「マスター、あたくしを一緒に数えないでくださいな! ……とは言いにくいですわね」

 俊輔とニーナがさり気なくフォローする。

「いや、今のは僕の方が負けてもおかしくはなかったよ。気を抜いたら負けていた」

「遼さん……俺達、強くなってますか?」

「勿論。クロス・フォースも使いこなせてきてるし」

「遼さんにそう言われると、ちょっと自信がつきますね」

「いやー僕もびっくりしたよ。ビルからニーナが飛び出してきた時は動転して何もできなかった。確かに手応えはあった筈なのにどうして?」

 そう。スナイプ・レールガンの最後の一発を確かに受けた。誰もが 倒されたと確信していただろう所に突如として現れたニーナ。

 不意を付くことに成功したニーナは、あのマリンカを倒す事ができたのだ。

 しかし何故立ち上がる事ができたのかが謎だ。

「それは、コイツを使わせてもらったのさ」

 そう言うと俊輔は武装を収納しているケースから丸型のバックラーシールドを取り出して見せた。

「あれ? そんなの持ってたっけ?」

「実はさ、赤城の奴から戻って来た武装の中にコレが混じってたんだ」

「それを勝手に使ったのかよ……」

「しょうがないじゃんか。アイツと連絡取れる訳でもないし。まぁ、今度会ったらちゃんと返すつもりだから」

 種明かしは何とも単純だった。スナイプ・レールガンの最後の一発を、隠し持っていたシールドで受け止め九死に一生を得た。と言う事だった。

「でも良い試合だったね。マリンカもお疲れ様」

 博がマリンカに労いの言葉をかけた。

「ありがたきお言葉! ですが、敵に遅れを取ってしまったであります! ゆえに、如何なる処罰も受ける所存であります!!」

「あ、えっと……考えとく、よ」

 考えると言いはしたが、恐らくマリンカは罰を受ける事は無いだろう。

「とりあえず、皆お疲れ。ティアも良くがんばったよ」

「えへへ。褒められちゃったの」

 照れているのか、身体をモジモジさせている。

「いやーしかし、タッグバトルも悪くないな! またいつかやろうぜ!」

「そうだね。最初はどうかと思ったけど、意外と良いバトルだったね」

「ええ。とても良いバトルだったわ」

 遼の後に続いた、聞き覚えの無い、落ち着きのある少女の声。

 声のした方を向くと、そこにはフリフリした黒いドレス、蝶をモチーフにしたかの様な大きなリボンで着飾るゴシック・アンド・ロリータ、通称ゴスロリ衣装の小柄な少女が立っていた。

「えっと……君はいったい?」

「レディーに名前を聞くなら、まず自分から名乗るべきだわ。まぁ、今回は私の寛大な心に免じて許してあげる」

「自分から話しかけて来たのに……」

「何か言ったかしら?」

「いえ、何も」

 すぐさま否定する俊輔だった。この子には逆らってはいけないと本能的に察したのだろう。

「気を取り直して。私はアゲハ。それからこの子が私の神姫。黒姫よ」

 そう言うとアゲハの手のひらに一体の神姫が飛び乗った。

「初めまして。蝶型シュメッターリングの黒姫です」

 シュメッターリングと言えば、アイドルの様な明るい性格をしているが、黒姫の雰囲気は、どことなく持ち主に似ている。

 話し口調もあるが、それ以上に見た目が似ているのだ。黒を基調にした、ゴスロリのようなデザインの衣装を着ている事から、同調性を醸し出している様だった。

「始めましてアゲハちゃん。俺の名前は御剣宏彦。神姫はパーティオのティア。そんでこっちが……」

 その後それぞれ自己紹介を済ませた。

「そう言えばアゲハちゃんは何で俺らに突然話しかけてきたの? もしかして逆ナン?」

「おにぃたん!!」

「痛い! 痛いってばティア」

 小さな女の子の登場により高ぶる宏彦に対し怒りの裁き。肩に乗っていたティアが耳を思いっきり引っ張る。

「もしかして貴方ロリコン? あと〝ちゃん〟は止めてもらえるかしら? 子供扱いしないで頂戴」

「いや、そんな背丈じゃあ……」

「な、に、か、言ったかしら?」

「いえ、何も申し上げておりません!」

 俊輔、二度目の即否定である。

「マスター、さっきから失礼でしてよ」

 ニーナは腰に手を当て俊輔を叱り付ける。

「えっと、黒姫だっけ? そんなカラーリングのシュメッターリングは初めて見るね」

 神姫には詳しい博ですら見たことの無いようだった。

「当然よ! なんてったって私のパ……お父様が私の為に作ってくれた、特別な神姫なのよ」

「今、パパって……」

 懲りずに上げ足を取る俊輔。

「マスター、いい加減に……?」

 笑顔のニーナ。しかし目は笑っていない。

「ごめんなさい! もう言いません許してください何でもしますから!」

 俊輔は早口で謝罪した。

「マスター、今、何でもするって……」

「まあ、俊輔君の事は置いといて、作ってくれたって事は、もしかしてお父さんは神姫関係の仕事の人?」

「ご明察。そう、私のパ……お父様はグランドアーツの社長よ」

「本当に!? グランドアーツと言えば、今は水面下だけど極秘神姫プロジェクトが進められているとか、最新型神姫を開発しているとか、海外向けに兵器を製造しているなんて噂が立つ、謎の多い会社じゃないか!?」

 グランドアーツ。主に神姫の武装を開発製造している大企業だ。しかし、武装開発だけで、会社を保てる筈が無いと言われ、裏で良からぬ事をしているのではと噂されているのだ。

「根も葉もない噂にしか過ぎないわ。でも、新しい事に挑戦しようとしているのは間違いないけれど、そんなのどの企業も同じよね?」

「でもでも、神姫の武装製造には携わってるんだよね? じゃあ今度、君のお父さんと会えないかな? 一度そういった企業の人の話を聞いてみたいんだ」

 武装を自作すらする博のミリタリー魂に、どうやら火を付けてしまったらしい。

「生憎、今は海外に出ていて会う事は出来ないわ」

「それじゃあ、アゲハちゃんは家で一人お留守番? 寂しかったら俺の家にイデデッ!!」

「おにぃたん、言ってる意味がよくわかんないの」

 無表情で今度は頬をつねるティア。

「ちゃん付けはやめてと言っているのに……」

「だってその方が可愛いじゃん。可愛い子にはちゃん付けしたくなるんだもん」

「宏彦……お前ってそんなキャラだったっけ?」

 俊輔が宏彦から離れつつ、冷たい視線を飛ばす。

「いや待ってくれ違うんだ! 決して妹にしたいとか、やましい事は考えてないから!」

「ああそうだった。妹属性に目覚めちゃったんだっけ。忘れていたよゴメン」

「お前のせいだよ!」

「否定はしないんだな」

「ロリコンの宏彦君の事も置いといて……」

「博、お前もそんな事言うようなキャラじゃなかったよな?」

 異性との触れ合いは神姫ぐらいの野郎達にとって、アゲハの登場は気分を舞い上がらせる引き金になったのだ。

「海外に行ってるって、やっぱり兵器関係で?」

 小声でアゲハに問う博。

「さあ? 海外に行ってくるって置手紙を残して翌日の朝にはいなくなってしまったもの」

「なるほど。謎の多い企業。謎が謎を呼ぶね」

 少しがっかりしつつも納得したようだ。

「えっと……キャラの濃い男ばっかりでゴメンね」

 それまで全く会話に参加していなかった遼が突如発言した。

「全くだわ。こんな色物揃いだとは思わなかったもの。……あなたは常識のある方なのかしら?」

「僕は、まあ人並みにはって感じかな?」

「そう。なら良いわ。実は、近々開催されるとある大会に、あなた達を招待しようと思って来たの」

「大会? それに何で僕達?」

「誘った理由はさっきのバトルを見ていて、思ったの。面白くなりそうだってね」

「面白くなりそうって理由にしては弱い気もするけど……それより大会なんてあったっけ?」

 ゲームセンターで開催される場合や、大きな大会はインターネット等を使い、何かしらの形で告知があるのだが、近々大会があるという報告は受けていない。

「知らないのは無理も無いわ。大会の主催はグランドアーツなのだから。参加者のほとんどがグランドアーツ社員や、取引先の息子や、その知人といった所かしら」

「なるほど、身内の大会といった感じだね。でもそんな所に僕達が参加して良いの?」

「ええ問題ないわ。大会の主催者で、今のグランドアーツの代理責任者でもある、私の兄に人を誘って来いって言われてるのよ」

「なるほど。主催者の妹だから、部外者でも誘う権利を持っているわけだ」

「理解が早くて助かるわ。で、どうかしら? 興味ない?」

「うーん。皆はどうかな?」

「いや、まだ俺ら出ても勝てないだろうし……」

 どうやら俊輔はあまり乗り気ではないようだ。

「優勝者にはグランドアーツ特製で非売品の武装が贈呈されるわ」

「「よし出よう!!」」

 遼を除く三人が声を揃えた。

「ええっ!? 皆、武装で釣られちゃうの?」

 予想外の即答に驚く遼だった。

「俺は元より少し興味あったし。ティアも出てみたいよな?」

「非売品っていう言葉に弱くて……」

「珍しい武装が手に入るなら是非とも」

 それぞれ出場したい理由を述べた。

「決まりね。開催日時は今月末の日曜日、十時にグランドアーツ本社前に集合して頂戴。そこから会場までは私が案内するわ。何か質問はあるかしら?」

「じゃあ俺から。アゲハちゃんは出場するの?」

 宏彦が真っ先に声を発した。

「ハァ……私は……出ないわ。大事な黒姫を傷つけたくないもの」

 溜息を付いたものの、ついにちゃん付けされる事を諦めたのだろうか。

「本当に神姫の事が好きなんだね。でも、神姫バトルはバーチャルだから基本、神姫が傷付く心配は無いし凄く楽しいよ」

「ば、ばーちゃる? ええバーチャルね。知ってるわよそれくらい! 最近の技術の進歩は凄いわよね!」

 どうやら全くの初心者らしい。しかし宏彦も始めたばかりの初心者だ。それでも楽しめるという事をアゲハに伝えたい思いから少々熱くなる。

「大丈夫! 初心者でも楽しめるよ! 俺だって、つい最近まで初心者……と言うか今も初心者なんだし」

「そ、そうなの……」

 若干引き気味のアゲハに対し、それでも熱弁を続ける宏彦。

「ねーねー、おにぃたん」

 熱くなり過ぎた宏彦をはっとさせるティア。

「お、ぉおう、なんだティア」

「わたし、あの子とお話したいの」

 ティアは黒姫の事を見つめながら言った。

「え? ああ分かった」

 少々喋り過ぎたと感じたのか、途端に静かになる宏彦だった。

「黒姫ちゃん、黒姫ちゃん」

「何かしら……えっと……」

「名前はティアなの。それで、黒姫ちゃんはバトルしたく無いの?」

 どうやらティアも、宏彦と同じ様な事を考えているのだろう。

「そうね……興味が無いと言ったら、嘘になるわね。でもそれは〝お姉さま〟次第だわ」

 アゲハの方を見ると、その小さな顔は茹で上がった蛸のごとく赤面していた。

「ちょっと黒姫! 人前では〝マスター〟って言うようにしてって言ったじゃない!」

 アゲハは黒姫にだけ聞こえるように言ったつもりだろうが、そこにいた全員がバッチリ耳に入れていた。

「何か宏彦と似てるな」

 小声で俊輔が呟いてきた。

「俺は堂々としてるから違うし!」

「あーそうだね〝おにぃたん〟」

「ごめん俺が悪かった」

「えと……それで黒姫ちゃん」

 話を戻そうとするティア。

「きっと皆でやるバトルは楽しいの。だから、わたし達と一緒に練習してみるの」

「そうだよ。筐体には練習用のチュートリアルモードもあるから、試してみても良いんじゃないかな?」

「おい博。俺達、チュートリアルあるなんて教えてもらって無いぞ?」

 食って掛かる俊輔に対し、「あれ? そうだっけ?」とぼける博だった。

「黒姫はやってみたいのよね……しょ、しょうがないわね! あなた達が、どうしても私と一緒にやりたいって言うなら、つ、付き合ってあげなくも無いわ!」

「おね……マスター、声が裏返るほど緊張しているのね」

「べべっ、別に緊張とかしていないわ! ほら! さっさとやるわよ!」

 アゲハは壊れたロボットかの様に、手足を強張らせ、途中つまずきながらも筐体へ向かっていく。

「じゃあ、今回は俺とティアが同席するよ」

「そうだな。ありゃ完全に機械音痴だ。見ろ。バトル前から四苦八苦してるぞ」

 アゲハはバトルの前準備の時点から黒姫に、これはどうやれば良いのか、と質問攻めをしていた。

「先が思いやられそうだね」

「一応俺達の方が先輩だから良い所見せなきゃな。行くぞティア」

「うん! 楽しみなの」

 

 

「アゲハちゃん、準備は良いかー?」

 アゲハの準備は、神姫バトルに慣れている人と比べると、倍以上の時間を要した。

「レディーを急かす男はモテないわよ? あなたの方こそどうなの?」

「OK。それじゃ行くぞ!」

『ライド・オン!!』

 二人は同時に叫び、戦闘態勢に入る。

 今回のバトルフィールドは練習用という事もあり、障害物の一切無い無機質な空間だけが広がっていた。

「ここで、いったい何をするのかしら?」

 ライドしたアゲハが聞いてきた。

「本来はこういった場所でお互いのライフポイントが無くなるまで攻撃して戦うんだよ。でも今日は練習って事だからね。とりあえず歩いてみようか」

 言われたとおりアゲハは黒姫を歩かせる。

「う、動いたわ!」

 アゲハの声は楽しそうに弾んでいた。

「それじゃあ次は走ったり、ジャンプしてみたりしようか」

 すぐさま走り出した黒姫。「はっ」と言う掛け声と共に飛び上がるとゴスロリがふわりと踊る。限界に達した後、華麗に着地する。

「見えた! 白!」

 着地時に捲れ上がったゴスロリのスカート。中の小さな布が一瞬顔を覗かせた。

「おにぃたん!!」

 今までに無いくらいに本気で怒られる宏彦。

「最低……」

「ごめんなさい」

「次、黒姫をいやらしい目で見たら、その目玉くり抜くわよ」

 どうやら今のやり取りでアゲハの緊張もほぐれたようだった。

「さ、さて。動かすのはもう良さそうだね。飲み込み早いみたいだし」

 話題をそらしその場を切り抜ける宏彦。

「それじゃあ、次は攻撃してみようか。ターゲットも設定できるみたいだし」

 宏彦の言うとおり、少し離れた所に丸い標的が現れた。

「あれを攻撃すれば良いのね! ……ねえ黒姫。武器とかってあるの……?」

「勿論よ。これでもれっきとした武装神姫なのだから」

 黒姫はそう言うと、閉じた黒いフリルパラソルを出現させ、それの先端を標的に向け構える。

「行くわよマスター。狙いを定めて攻撃よ」

 そしてフリルパラソルの先端から一発の弾丸が発射される。弾丸は吸い込まれるように標的に命中する。

「やったぁ! 当たったわ!」

 弾丸の命中した標的は粒子となって消滅する。

「凄いな。初めてで当てられるなんて」

「当然よ! 黒姫は私の為の特別な神姫なんだから!」

 アゲハの声は先程より楽しそうだ。どうやら純粋に楽しんでいるのだろう。

「それじゃあ、レベルアップと行きますか」

 すぐさま次の標的が複数現れた。

「順番は問わないから五つのターゲットに攻撃してみて」

 同じように黒姫は標的に狙いを定めトリガーを引く。

 次々と打ち抜かれ消滅していく標的。宏彦を含め他のギャラリーも呆気に取られていた。

 ものの数秒で標的は全て消滅した。

「楽勝ね!」

「よーし次は……」

 今度は十個の標的が現れた。かと思うとそれらは不規則に動き出す。

 あるものはゆっくりと、また、あるものは素早く。移動方法や方向も全てバラバラだった。

「これならどうだ」

 僅かに対抗意識が芽生える宏彦だった。

「く、黒姫……どうしよう」

「落ち着いてマスター。狙いは私がサポートする。私を信じて」

「わかった。私、黒姫を信じる。やろう!」

 再びフリルパラソルを構え狙い撃つ。

 標的は次々と貫かれ、残すは二つとなった。

『そこっ!』

 アゲハと黒姫の掛け声が一つになった。

 撃ち出された弾丸は、二つの標的が重なった所をぶち抜いた。

 その軌跡は見る者を唖然とさる程の美しさだった。

「まさか、全部当てて……しかも最後は二枚抜きだなんて……」

 宏彦は目の前の出来事に驚きを隠せないでいた。何せ、今日初めてライドしたであろう初心者が、ここまでとは考えていなかった。

「おにぃたん」

「ああ。そうだよな」

 宏彦とティア。思う事は同じようだ。

「アゲハ、黒姫。俺達からの最後の指導だ」

「良いわ! 私と黒姫なら何でもできる!」

 アゲハは無い胸を張る。

「よし。最後は近接戦闘の練習だ。動く相手に近づいて攻撃する。それで、相手は俺とティアがする」

「おいおいマジかよ」

「宏彦君! 幾ら何でもそれは……」

 俊輔と博は、宏彦の提案にする。

「良いわ。それで良い。黒姫、近接武器を用意して」

「うん。それで良い。黒姫、そしてアゲハちゃん。君達はセンスがある。だから手加減はしないよ!」

「望む所! 手加減なんてされたら私のプランドが許さないわ!」

 プライドかな? だが今はそんな事どうでも良かった。

「宏彦君、初心者相手に大人気ないよ」

 いつもクールな遼が珍しく困惑しているようだ。

「俺は初心者を打ちのめしたいって訳じゃないよ。二人の実力は多分本物だから。……そんな二人と戦えたらって考えたらワクワクしちゃって」

 それは、まるで初心に帰ったかのような高揚感。神姫バトルとは面白い。そう感じた俊輔との最初のバトルを思い出していた。

「それじゃ、行くよ!」

「いつでも良いわ!」

『バトル!!』

 

 

「あーっもう悔しい! あとちょっとで勝てたのにぃ!」

 結果は、僅かな踏み込みの差で最後の一撃が決まり宏彦が勝利をかち取ったのだ。

「いや、こっちも危なかった。あと一撃で負けていたよ。やっぱりアゲハちゃんセンスあるよ」

「本当の力、出してなかったくせに……」

 聞こえるか聞こえないかの声で呟くアゲハ。

「えっ? 何か言った?」

「なっ、なんでもないわよ。それより……面白いじゃない。神姫バトル……」

 後半声の小さくなるアゲハは心なしか嬉さ半分、恥ずかしさ半分といった顔をしていた。

「でしょ!? やっぱり神姫バトルは良いものだよね! 俺さ、こんなにも面白いバトルを、たくさんの人にやってもらいたいなって思ってね。それでさ」

「おにぃたんっ!」

 宏彦の話が長くなりそうだと判断したのか、ティアが止めに入った。

「あぁ、ゴメン。またやっちゃった」

 人間、好きな物は他の人に知ってもらいたいし、おすすめしたくもなる。が、度が過ぎれば相手に不快感を与えてしまう。ティアはそれを未然に防いだのだ。

「ま、まあ、今回バトルに誘ってくれて嬉しかったわ。どうしてもと言うなら……わ、私が暇な時は相手してあげなくもないわ!」

「まったく、おね……マスターも素直じゃないのだから」

 黒姫がやれやれと、呆れたように呟いた。

「う、うるさいわよ黒姫」

 顔を赤らめ、即反論するアゲハだった。

「と、とにかく、今度の大会、よろしくお願いするわ」

「ああ。こちらこそよろしくね。アゲハちゃん」

「よろしくなの! 黒姫ちゃん!」

 大会。まだ見ぬ神姫マスターとのバトルに胸を高鳴らせる宏彦達。

 そんな高揚感を抑えつつ、アゲハと連絡先を登録してその日は解散するのだった。

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