織斑一夏の恋物語   作:夜光華

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セカンド幼なじみ登場の回です。

ではどうぞ


第14話

「ふうん、ここがそうなんだ」

 

夜。IS学園の正面ゲート前に、小柄な体に不釣り合いなボストンバックを持った少女が立っていた。

 

まだ暖かな四月の夜風になびく髪は、左右それぞれを高い位置で結んである。肩にかかるかかからないくらいの髪は、金色の留め金がよく似合う艶やかな黒色をしていた。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 

上着のポケットから一切れの紙を取り出す。ぐしゃぐしゃになったそれは、少女の大酒な性格と活発さを非常によく表していた。

 

「本校舎一階総合事務受付……って、だからそれどこにあんのよ」

 

文句を言っても、紙は返事をしない。少女は多少のイライラと一緒に紙を上着のポケットにねじ込む。また中でぐしゃっという音が聞こえたが、もちろん気にしない。

 

「自分で探せばいいんでしょ、探せばさぁ」

 

ぶつくさ言いながらも、その足はとにかく動いている。思考よりも行動。そういう少女なのだ。

 

良くいえば『実践主義』、悪くいえば『よく考えない』である。

 

(誰かいないかな。生徒とか、先生とか、案内できそうな人)

 

学園内の敷地をわからないなりに歩きながら、キョロキョロと人影を探す。とはいえ時刻は八時過ぎ、どの校舎も灯りは落ちているし、当然生徒は寮にいる時間だった。

 

(あーもー、面倒くさいなー。空飛んで探そうかな……)

 

と一瞬考えてやめた。まだ転入手続きを終えていないのに学園内でISを起動させてしまえば、最悪外交問題に発展してしまう。それだけはやめてくれ、と何回も懇願していた政府高官の情けない顔を思い出して、少女の気分はちょっとだけ晴れた。

 

(ふっふーん。まあねー、私は重要人物だもんね―。自重しないとね―)

 

正直に言って、自分の倍以上も歳のある大人がへこへこ頭を下げるのは、ちょっと気分がいい。

昔から『歳をとっているだけで偉そうにしている大人』が嫌いな少女にとって、今の世の中は非常に居心地が良かった。

 

「なるほど……こんな……」

 

ふと、声が聞こえる。視線をやると、女子がIS訓練施設から出てくるようだった。どこの国でもIS関係の施設は似たような形をしているから、すぐにそうだとわかる。

 

――ちょうどいいや。場所聞こっと。

 

声をかけようとして、少女は小走りにアリーナ・ゲートへと向かう。

 

「ありがとうございます刀奈さん。おかげで戦いの幅が増えました」

 

不意を突かれて、少女の体はびくんと震えてその足が止まる。

男の声――それも、知っている声にすごくよく似ている。いや、おそらく同一人物。

予期しなかった再会に、少女の鼓動は急ピッチでペースをあげる。

 

――あたしってわかるかな。わかるよね。一年ちょっと会わなかっただけだし。

 

そう自分に言い聞かせつつ、けれど自分だとわからなかったらどうしようという不安に思考が乱れる。

 

――大丈夫。大丈夫!それにわからなかったら、あたしが美人になったからだし!

 

超ポジティブ思考にスイッチを入れて、少女は再び歩みを再開する。

 

「いち――」

 

ああっ、声裏返っちゃったよ。なんかあたしがすっごい意識してるみたいじゃん。恥ずかしいなぁ。

 

「大分上達したわね一夏君。このままいくと私もうかうかしていられないわね」

 

「ははっ、まだまだですよ。俺なんか刀奈さんの足元にも及びません」

 

「そんな事ないよ。一夏は飲み込みが早いから私も頑張って実力を上げないと一夏に抜かれちゃうかもね」

 

「ありがとう簪、そう言ってくれると嬉しいよ」

 

――えっ?誰?あの女の子達は?何で親しそうなの?っていうかなんで名前で呼んでんの?

 

さっきまでの胸の高鳴りは嘘のように消え、ひどく冷たい感情と苛立ちが雪崩れ込んでくる。

 

「それじゃ行きましょうか本音ちゃん達が待ってるわよ」

 

「うん。遅くならない内に行こ」

 

そう言い簪と刀奈は一夏の腕を組み肩に寄りかかる。

 

ああっ!?な、何で一夏の腕を組んでるのよ!一夏もまんざらじゃない顔してるじゃない!!

 

「それじゃ行きますか簪、刀奈さん」

 

「ええ」

 

「うん」

 

そのまま3人はすたすたと足を進めていく。

 

そして3人がいなくなり少女の中でふつふつとマグマの如く怒りが沸き上がる。元々気が長くない性格の上にあんな光景を見せられたら爆発する訳で………。

 

「な、なななな………何なのよ――――――!?あの女達は――――――!!」

 

誰もいなくなった学園の敷地内で少女の怒りの叫びがこだました。

 

それからすぐ、総合事務受付は見つかった。アリーナの後ろにあるのが、本校舎だからだ。灯りがついていたので、そこだとわかった。

 

「ええと、それじゃあ手続きは以上で終わりです。IS学園へようこそ、凰鈴音さん」

 

愛想のいい事務員の言葉もどこか遠くにあって意識に届かない。少女―鈴音は、見るからに不機嫌ですとばかりに唇を尖らせながら聞いた。

 

「織斑一夏って、何組ですか?」

 

「ああ、噂の子?一組よ。凰さんは二組だから、お隣ね。そうそう、あの子生徒会副会長になったんですって。やっぱり織斑先生の弟さんなだけはあるわね」

 

噂好きは女性の性。その体現のような事務員の姿を冷ややかに見ながら、鈴音は質問を続ける。

 

「二組のクラス代表って、もう決まってますか?」

 

「決まってるわよ」

 

「名前は?」

 

「え?ええと……聞いてどうするの?」

 

「お願いをしようかと思って。代表、あたしに譲ってって――」

 

にっこりとした笑顔には、ばっちり血管マークがついていた。

 

――――――――――――

 

「織斑くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

朝。席に着くなりクラスメイトに話しかけられた。噂の広まりは早いな〜、まあ実際刀奈さんから聞かされてたから話についていける訳だ。

 

「ああ、知ってるよ。今日入ってくるんだろ?確か…中国からだったかな?」

 

今は四月だが、なんで入学ではなくて、転入なのだろうか?

まあ、俺がいるからなんだろうけど無理矢理感が否めないよな………。こちらとしてはいい迷惑だな……もう恋人達はいるし迫られて拒否してもそれを理由に何かしらのトラブルになりそうだ。

 

「さすがに情報が早いね。なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「そうか……」

 

やっぱりか……代表候補生ね……。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?それとも一夏さんが目的かも知れませんわね」

 

一組のクラス代表、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットが腰に手を当てたポーズを取った。

まあ、前者はともかく後者は粗方合っているな……。

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう?騒ぐほどのことでもあるまい」

 

あれ?いつの間にか俺のそばに箒がいた事に気付いた。

不味いな、もう少し警戒しないと……いつ何時竹刀や木刀が飛んでくるかわからないな………本音にも話して警戒して貰おう。

 

「どんなやつなんだろうな」

 

代表候補生と言えど国を背負ってる訳でプライド高いやつは正直お近づきにはなりたくないし、俺を手に入れようとして送り込んで来た使者かもしれないし、どちらもありえるからな………。他クラスとは言え関係ないとは言えない。

 

「む……気になるのか?」

 

「ああ、(色々な意味で)気になるな」

 

「ふん……」

 

箒に聞かれたことに素直に答えたら、なぜか機嫌は悪くなった。

むすっという擬音がよく似合う表情をしている。

俺を気にするより自分を気にしろよ、良くも悪くも束さんの妹なんだからお前に近付く可能性だってあるんだぞ。

 

まあ、何かあっても助ける気はないけどな………その前に束さんがなんとかしそうだ。

 

「一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしませんか?わたくし1人ではどうしても限界がありまして同じ専用機持ちである一夏さんに協力をお願いしたいのです」

 

真剣な眼差しで俺にお願いをするセシリア。

クラス代表になったからには優勝が欲しいのだろう、入学からの失態を取り戻す為に必死に訓練しているのを見かけたりする。

 

本当に変わったな〜、まあ千冬姉が担任じゃ無様な戦いは出来ないと感じているのだろう。

 

「わかった。俺に出来る範囲でなら協力するよ」

 

「ありがとうございます。早速今日からお願いしたいのですが予定は大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。いいよ」

 

セシリアの意気込みに粋に感じて俺は協力する事にした。

 

「セシリア頑張ってね―」

 

「フリーパスのためにもね!」

 

「今のところ専用機を持っているクラス代表は一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

やいのやいのと楽しそうな女子一同にセシリアは「頑張りますので応援よろしくお願いいたします」と深々と頭をさげた。

まあ、四組のクラス代表は簪だからたぶん善戦するか圧倒されるだろうな………主にセシリアが………。

 

このクラスはおろかこの学園内では知らないと思うが簪と刀奈は千冬姉からIS指導をしてもらっている。

 

俺が恋人になったと話してから千冬姉は二人の実力をあげる為に指導を願い出た。

 

簪と刀奈さんは断る理由もなく受託して千冬姉の指導を受けて今の実力になった。

俺が二人に教えてもらっているのは自分達のISの知識と千冬姉の指導の融合なので飲み込みが早いのはそのせいである。

間接的に千冬姉に教えてもらっているのと同じなんだよな。

 

「―その情報、古いよ」

 

ん?教室の入り口からふと声が聞こえた。懐かしい声が聞えたみたいだが……。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

腕を組み、片膝をを立ててドアにもたれていたのは――

 

「鈴……?お前、鈴なのか?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

ふっと小さく笑みを漏らす。トレードマークのツインテールが軽く左右に揺れた。

 

……正直に言うと格好つけすぎて、スゴく似合わなかった………。

小柄な鈴からすれば大きく魅せたいのだろうが逆効果だ。

俺はそう言いたいが言葉を飲み込んだ、ここで指摘したら彼女の性格からして激昂するのは間違いない。

ここはあえて流す方向にした。

 

「久しぶりね一夏」

 

「あ、ああ……久しぶりだな凰鈴音さん?」

 

やべっ!鈴の格好つけに乗って、思わずフルネームで呼んじゃった。

 

「ちょっと―――!!何でそんな他人行儀なのよ!?しかも目反らしてるじゃない!!」

 

態度が気に入らなかったのバタバタと俺の目の前にやって来てバンと机を両手で叩いた。

 

「えっ?そ、そんな事はないぞ……ただ一年会わない内にずいぶんと変わって近より難くなったな〜って全然全然……」

 

「だから!似合わないなら言ってくれてもいいじゃないのよ!!まるであたしイタイ子みたいじゃない!!」

 

と半泣き状態で俺の胸ぐらを掴みガックンガックンと揺らす鈴。

 

鈴といい箒といい。どうやら俺の幼なじみ達の再会は一癖も二癖も変わっていました………。

 

「おい」

 

「なによ」

 

バシン!聞き返した鈴に痛烈な出席簿打撃が入った。千冬姉の登場である。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、邪魔だ」

 

「す、すみません……」

 

すごすごドアに向かう鈴。相変わらず千冬姉が苦手なのは変わらないんだな。

 

「また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」

 

「さっさと戻れ」

 

「は、はいっ!」

 

二組へ向かって猛ダッシュしていくのを見て。ちょっとホッとした、鈴ならば幼なじみある程度の性格は把握している。訳がわからないやつはいくぶんかました。

 

「まさかIS操縦者になってたのか……知らなかったな……」

 

そう素直に思って、なんとなく口に出したのがまずかった。

 

「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだな?」

 

そのほか、クラスメイトからの質問集中砲火。

 

バシンバシンバシン!

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

千冬姉の出席簿が火を噴き、クラスメイトは静かになった。

 

まあ仕方ないかな、今日も1日IS訓練と学習が始まる




話には書きませんがセシリアは千冬が怖くて席に座っていました。
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