織斑一夏の恋物語   作:夜光華

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ここから二巻の内容になります。

ではどうぞ


第20話

6月頭、日曜日。俺は久々に五反田の家に遊びに来ていた。

 

「で?」

 

「で?って、何がだよ?」

 

格ゲー対戦中にいきなりな会話フリだな。おっと、危ない!

 

「だから、女の園の話だよ。いい思いしてんだろ?」

 

「してねえよ。むしろ災難続きだっつの」

 

何回説明すれば納得するんだ、こいつは。ちなみにこの五反田弾は俺の中学からの友達なんだが、入学式当日に知り合って以降やたらと馬があって三年間鈴と揃って同じクラスだから中学時代はよくつるんでいたな………。

 

「嘘をつくな嘘を。お前のメールを見てるだけでも楽園じゃねえか。何そのヘヴン。招待券ねえの?」

 

「ねえよ……。ってか楽園っていうけどそんなにいいものじゃねえぞ」

 

「はあ?何でだよ?」

 

「毎日、視線地獄に耐えられるか?まるで動物園の檻にいれられた動物の気分を味わえるぞ」

 

「うげ……」

 

具体的な例を出すと弾は嫌そうに呻いた。

 

「迂闊に学園の女子に手を出せば、その女子の国に連れられてモルモットにされてしまうぞ」

 

「うっ……。そ、それは嫌だな……」

 

「まあ、鈴が帰って来た事は驚いたよ。あいつ中国の代表候補生になったんだぜ」

 

「へえ〜。あのりんにゃんがね〜」

 

と弾はニヤニヤとニコニコの中間みたいな顔をしていたがちなみに“りんにゃん”と名付けたのは弾だ。

 

「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに―」

 

ドカンとドアを蹴り開けて入って来たのは弾の妹、五反田蘭。一個下の中三で有名私立女子校に通っている優等生だ。

 

「蘭か?久しぶりだな」

 

「いっ、一夏……さん!?」

 

部屋着なのかラフな格好をしている。いつもビシッとした格好をしてる訳じゃないもんな。家の千冬姉がいい例だな、うん。

 

「い、いやっ、あのっ、き、来てたんですか……?全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど……」

 

「今日は外出してるんだ。家の様子を見に来たついでに寄ったんだ」

 

「そ、そうですか……」

 

「蘭。お前なあ、ノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ――」

 

ギンッ!蘭の視線一閃。弾は萎縮していく、相変わらず蘭には頭上がらないな。

 

「……なんで、言わないのよ……」

 

「い、いや、言ってなかったか?そうか、そりゃ悪かった。ははは……」

 

「………」

 

ギロリと弾に鋭い視線を送り付けてくる蘭。

 

「蘭。そんなに弾を責めてやるなよ急だったんだし、連絡する暇がなかったんだろ?」

 

「そ、それはそうですけど……」

 

「むしろ俺に非難の視線をぶつけられても仕方ないよな」

 

「そ、そんな事ないですよ!よ、良かったら一夏さんもお昼どうぞ。私はこれで……」

 

俺の言葉に萎縮したのか慌てて蘭は部屋を出ていった。

 

「ふい〜、助かったぜ一夏」

 

蘭が居なくなり静かになると弾は額の冷や汗を拭った。

 

「相変わらず蘭には弱いんだなお前は」

 

「うるせいやい」

 

「しかし、まあ。蘭は元気そうで何よりだな」

 

まあ、よそよそしい態度から俺に気がある事はわかってはいるがすでに恋人達がいるので正直困る。でも親友の妹だからなかなか切り出せないよな、この話は………。

 

「とりあえず飯食ってから街にでも出るか」

 

「おう、そうだな。昼飯ゴチになる。サンキュ」

 

「なあに気にするな。どうせ売れ残った定食だろ」

 

ああ、あれか。カボチャ煮定食かな?久しぶりに食べるな〜、メチャクチャ甘いけどな。弾の部屋を出て一階へ。一度裏口から出て、正面の食堂入り口にと戻った。

 

「うげ」

 

「ん?」

 

露骨にイヤそうな声を出す弾を後ろから覗く俺。そこには俺達の昼食が用意してあるテーブルがあるのだが、先客がいた。

 

「なに?何か問題でもあるの?あるならお兄1人外で食べてもいいよ」

 

「聞いたか一夏。今の優しさに溢れた言葉。泣けてきちまうぜ」

 

先客は蘭だった。涙をぬぐう弾に対して相変わらずだよな〜、このやりとりは。

 

「別に三人で食べればいいだろ。それより他のお客さんもいるし、さっさと座ろうぜ」

 

「そうよバカ兄。さっさと座れ」

 

「へいへい……」

 

こうしてテーブルに俺、弾、蘭という並びで座った。

 

「蘭、着替えたのか?」

 

「あっ、いえ、これは、その、ですねっ」

 

さっきまでのラフな姿はなく。半袖のワンピースを身に纏い、わずかにフリルのついた黒いニーソックスをはいている。

 

「そっか、部屋着じゃ店には入れないもんな。似合ってるぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「良かったな誉めてもらえて。何せお前そんなに気合いの入れたおしゃれをするのは数ヶ月に一回――」

 

バシッ!

 

瞬撃のアイアンクロー。弾の口を塞ぐようにしていた。やれやれそんな事言うから頭が上がらないんだろうなとしみじみ思った。

 

「食わねえんなら下げるぞガキども」

 

「食います食います」

 

ぬっと現れたのは80を過ぎてもなおも健在、五反田食堂の大将にして一家の頂点、五反田厳その人だった。うん、昼飯を頂こう。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

「いただきます……」

 

「おう。食え」

 

俺達がそう言うと満足気に頷いて次の料理を始める。手際のいい包丁捌きで料理を作る様は感心するな。

 

「でよう一夏。鈴と再会したんだよな」

 

「ああ」

 

「あれから、ちょっとは成長したのかよ?」

 

「あんまり本人の前で言うなよ……怒られるぞ」

 

「怒ったって怖かねえよ」

 

そう言うが鈴は弾とのやりとりでよく怒りだして殴る蹴るの応酬が始まる。主に鈴がだが………ただスカートの時に回し蹴りは止めて欲しかったな。当然下着、まあパンツが見えてしまうので慌てて顔を背けたり、他の人に見られないように隠したりしなくてはならない苦労で大変だったな……。

 

「鈴さんが一夏さんと同じIS学園に………」

 

鈴の話になった途端に表情を変わる。鈴は恋のライバルと意識してるみたいだが実際は親友止まりなんだけどな。

 

「決めました。私、来年IS学園を受験します」

 

「お、お前、何言って――」

 

ビュッ―――ガン!

 

見事、お玉は弾の顔面を直撃した。うお、痛そうだな……。

 

「え?受験するって……なんで?蘭の学校ってエスカレーター式で大学まで出れるところじゃなかったのか?」

 

「大丈夫です。私の成績なら余裕です」

 

「IS学園は推薦ないぞ……」

 

よろよろと立ち上がる弾。あのダメージから甦ったようだ、おかえり。

 

「お兄と違って、私は筆記で余裕です」

 

「いや、でも……な、なあ、一夏!あそこって実技あるよな!?」

 

「ああ、あるぞ。IS起動試験があって、適性があるかないかで合否が決まるみたいだぞ」

 

「……」

 

無言でポケットから紙を取り出す蘭にそれを受け取って開く弾。

 

「げえっ!?IS簡易適性試験……判定A……」

 

「問題はすでに解決済みです」

 

Aランクか……高いな……でも、蘭はわかっているのかな?この結果の裏を……。

 

「で、ですので。い、一夏さんにはぜひ先輩としてご指導を……」

 

ゴホンと咳払いして俺の方に向きを変えて頼んできたが……。

 

「すまない。それは出来ない」

 

「な、なぜですか!?」

 

ガタンと椅子を倒して立ち上がる蘭。断られると思っていなかったみたいだ。

 

「悪いけど、俺は教えられるほど知識も実力もないよ。それにISに関しての事は学園内の生徒達とはかなり差が開いているんだ。そんな事をしたら本気で国家代表やIS企業の就職を目指している人達に失礼だよ」

 

これは本当だ。元々俺はISに関しての知識や実力なんて物は全くないのだ。それを刀奈さんや簪と虚さん、本音でようやく理解している為、俺がISに関して語っていたら笑われてしまう。

 

「それに蘭はまだ選択肢はあるんだからもう少し考えた方がいいぞ」

 

「選択肢ですか?」

 

「ああ、俺みたいにIS学園に強制入学で選ぶ事なんて出来なかったんだ。だから蘭は後悔しない選択をして欲しいんだ」

 

これは一年先輩としてのアドバイスだ。といってもたいした事はないんだよな……。

 

「は、はあ……」

 

「だからよく考えて厳さん達とよく話し合ってそれから決めて欲しい。それでIS学園を受験したいのなら止めないし、もし合格して入学出来たらその時は歓迎するよ」

 

「わかりました。もう少し考えてみます」

 

俺の話に納得してくれたのか蘭は頷いてくれた。

 

「では、そういう事で。ごちそうさまでした」

 

いつの間にか昼食を平らげた蘭は箸を揃えて置き、合掌をして席を立った。もちろん自分が使った食器は自分で片付ける。うん、蘭はいい奥さんになるな。相手の男はさぞかし幸せ者だな。

 

「一夏」

 

「なんだよ?」

 

ずずいっと顔を寄せて、なぜか小声で話し掛けてくる弾。

 

「とりあえず蘭の事はサンキューな。あれで少しは考えてくれるといいんだけどよ……」

 

「んな事言われても最終的に決めるのは蘭だろ?俺から何も言う事はないよ」

 

「そうなんだけどよ、なんつうか心配でなあ……」

 

そういう事言って不安な顔をしているがまあ、いつもの事だろう……俺の事をシスコンと言っているが弾もそうとうなシスコンだよな。

 

「そうだ。一夏、お前彼女出来たのかよ?IS学園内でもモテるんだろ?」

 

「いきなりなんだよ……ったく……」

 

いきなり話題を変えて来た弾にちょっと呆れてしまった。

 

「だってよ〜。あそこにはいっぱい可愛い娘や美人な娘もいるじゃんか。お前なら落とすのは簡単だろ」

 

「あのな……」

 

と再び同じ話題になってしまった。いくらモテても今の俺の立場からしたら普通に付き合ったり出来ないからな……相手に下心がなければ一番いいんだけどな………仕方ないな……そろそろ話すか。

 

「あー、っと彼女ならすでにいるぞ」

 

「え?」

 

俺のカミングアウトに弾が固まった。よく見ると弾と蘭の母親である蓮さんや調理していた厳さんまでも固まっていた。あれ?何かあったか?

 

「ぱ、ぱぁ〜どぅん?」

 

「何でヘンテコな英語で言うんだよ?だから彼女はいるぞ」

 

「嘘だ!!?」

 

ピュッ―――ガン!

 

再びお玉が弾の顔面に直撃した。

 

「嘘じゃねえよ。ちゃんと彼女はいるって」

 

「いやいやいやいやおかしいだろ!お前に彼女がいるだなんて天変地異の始まりか世界の終わりかと思うぞ!」

 

「そこまでひどいのかよ………」

 

弾の言い方に思わずショックを受けてしまった……言い過ぎじゃないのか。

 

「で、その彼女の写真とかないのかよ?」

 

「あるぞ、ほら」

 

俺は携帯を取りだして写真にした物を画像として表示し弾に見せた。

 

「両隣にいる水色の髪の子が俺の彼女達だよ」

 

弾に見せたのは簪、刀奈さんと布仏姉妹と一緒に撮ったやつだ。ちなみに刀奈さんの隣に虚さん、簪の隣には本音がいる。

 

「ふざけんなよ、この野郎!美少女二人独占すんじゃねえよ!しかも二股じゃねえか!どうすればこんな風にモテるのか俺に教えてください―――!!後、眼鏡知的美人のお姉さん紹介してくれ!!」

 

ダーッと血の涙を流しながら俺に迫る弾。

 

「欲望むき出しだな、おい……しかも虚さんか……」

 

「えっ?このお姉さんの名前虚さんって言うのか?」

 

「ああ、一応話してみるが……期待はするなよ」

 

「ありがとう一夏!流石は俺の心の友よ!」

 

と俺の手を取ってブンブンと握手しだした。さっきからテンション高いな………。

 

「まあ、会えたとしても変な事とかするなよ。清い付き合いしろよ、あの人箱入り娘なんだからよ」

 

「そ、そうか……」

 

「もし、変な事して泣かせたら……後ろからブスリだからな……気をつけろよ……」

 

「わ、わかった……」

 

俺の言葉に何度も頷く弾、そこまでして会いたいなら俺も一肌脱ごうと思う。虚さんにはいつもお世話になってるし、幸せになってもらいたいからだ。

 

カランカラン

 

「ん?」

 

物が落ちる音を聞き、した方に体を向けると――。

 

「う、嘘。一夏さんに彼女が……しかも二人だなんて……」

 

顔を真っ青にさせた蘭が立っていた。

 

「え、えっと蘭。あのな……」

 

「う、ううっ、うわぁ――――ん!!」

 

泣きながら走り出していってしまった。あー、やっぱりか……告白された訳じゃないけど何か胸が痛いな………。

 

「蘭は俺の事好きだったんだな……申し訳ない事したよな……」

 

「まあ、仕方ないさ……とりあえず一発殴らせろ!」

 

「何でだよ!?」

 

弾が殴りかかってきたのをかわしまくっていたら厳さんのお玉が俺達の顔面に直撃してしまった。

 

「ったく、孫娘を泣かせやがって」

 

厳さん、マジで痛いです………後、すいません……。後日、虚さんに弾の事を話したらどうやら脈ありみたいな反応をしていた。うん、刀奈さんに協力して会わせよう。

 

――――――――――――

 

「はあ……」

 

五反田家から帰ってきてベッドに寝転がっていた。まだ簪と刀奈さんは戻ってないので今は1人だ。

 

「静かだな……」

 

いつもなら簪と刀奈さんがいて話していたりするのでこの時間は意外に貴重だったりする。

 

(学年別個人トーナメントね……)

 

カレンダーを見ながら、先日の事を思い出していた。

 

 

 

クラス対抗戦が終わり、部屋でゆっくりしていた。簪と刀奈さんは大浴場に行っている。俺も入りたいがいかんせんまだまだ都合はつかないとの事だった。

 

(まあ、事情が事情だから仕方ないか……)

 

いくらなんでも無理を通す訳にいかないしな……。

 

「先に寝てよう……」

 

二人には悪いが先にベッドに寝る事にした。今日の事でかなり疲れたからだ。

 

コンコン

 

ノック音が響く。もう寝たいから無視しよう……。

 

ドンドン!

 

うおっ、拳の音だ。俺はベッドから飛び起きてドアに向かう。誰だ?鈴か?

 

「はい、どちらさまで――げえっ!?」

 

「………げえっ!?とは何だ?げえっ!?とは」

 

ドアを開けるとそこにはむすっとした顔で立っている篠ノ之箒の姿がいた。

 

「な、何か用かよ?」

 

俺はドアノブに力を入れていつでも部屋に入れる様に警戒する。

 

「…………」

 

箒は答えない。顔はますます不機嫌そうだがいまいち様子がわからない。

 

(俺が油断するのを待っているのか!?)

 

箒の全体を見て、更に警戒を怠らない。いつでも竹刀や木刀を常備しているだけに危険だ。

 

「………」

 

「………」

 

お互いに沈黙したまま時間が過ぎていく………これは根比べだな。もう少しで簪と刀奈さんが戻ってくる、それまで辛抱だ。

 

「……篠ノ之さん。用がないならもう寝るぞ」

 

「よ、用ならある!」

 

いきなり大声を出されて、俺はびっくりしてしまった。

 

「ら、来月の、学年別個人トーナメントだが……」

 

「ああ、あるな。どうした?」

 

「わ、私が優勝したら―」

 

頬を紅潮させ、箒は言葉を続ける。何か恥ずかしいのか、目は俺をみていない。

 

(嫌な予感がする……)

 

「つ、つき「却下」おい!まだ言い終わってないぞ!」

 

箒が言い切るまえに宣言を一蹴した。言わせねえよ!

 

「どうせ、お前の事だから優勝したら恋人になれとかそういう約束するつもりだろ?」

 

「な、なぜわかった……」

 

「一応、幼なじみだからな……わかりたくなくてもわかってしまうんだよ……」

 

本当に嫌なんだよな………幼なじみの間柄って………。

 

「そ、そうか……私と一夏は相思相愛なのだな……」

 

「違うわ!何勘違いしてるんだよ!」

 

箒の言葉に思わずツッコミを入れてしまった。

 

「とにかく、この話は却下だ!無理だ!断る!」

 

「な、なぜだ!私が勇気を振り絞って言っているのに一夏はわかってくれないのだ!?」

 

「話は終わりだな、じゃあおやすみ」

 

うろたえる箒は無視してドアを閉めて部屋に入った。

 

ドンドン!

 

「おい!一夏待て!話は終わってないぞ!」

 

ドアを叩いてまだ箒は言ってくるが気にしない。騒ぎを聞いて千冬姉が来るから問題なしっと。

 

「もういい!学年別個人トーナメントで優勝したら私と付き合ってもらう!絶対だからな!」

 

箒はそう叫び去っていった。やっといなくなったな………ふう。

 

 

 

とまあ、こんな事があった訳だが正直迷惑だよな……。いまだに箒は俺に付きまとってくるし、いっそのこと恋人がいるって言ってしまおうかな?いやいやあいつの事だ。

 

「お前を殺して、私も死ぬ!」

 

みたいな昼ドラみたいな展開は勘弁して欲しいな……。なんだろう一番のトラブルメーカーってあいつなんじゃないかな……はあ。

 

(とりあえず箒が優勝しなければ問題なしだな)

 

と思案するが先日のやり取りがきっかけで新たなトラブルに発展する事になるとはこの時俺は思わなかった。




弾と虚の出会いのきっかけが早くなりました。
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