うまく山田先生いじれたかな?
ではどうぞ
「……時間ギリギリとはいえ遅いぞ。次からは余裕を持っておくようにしろ」
第二グラウンドに無事到着したが千冬姉から注意された。まあ仕方ないな、俺とシャルルは一組整列の一番端に加わる。
「ずいぶんゆっくりでしたわね」
俺に話し掛けてくる隣の女子はセシリアだった。
「スーツを着るだけでしたらそれほど時間がかかりませんが何かありまして?」
気になって聞いて来たのだろう。いつもはこんなギリギリでは着かないようにしてたからな。
「シャルル目当ての女子が殺到して捕まりそうになってた」
「それは……災難でしたわね……」
その様子を想像したのかセシリアは同情した表情で俺は見ていた。
「今日は不運ですわね。転校生にはたかれそうになりましたし気をつけた方がよくなくて」
「ありがとう。そうする」
セシリアの言葉に礼を言っておいた。
「なに?アンタなんかやったの?」
後ろから鈴が話を聞いていたのか間に入り込んで来た。
「一夏さん、今日来た転校生にはたかれそうになりましたわ」
「はあ!?一夏何やったのよ!はたかれそうになるなんてよっぽどよ!」
「………」
「ちょっと!何で無視するのよ!?」
鈴はそう言うが俺とセシリアは嫌な予感がして会話をやめて前を向いた。
「人の話を聞きなさいよバカ!!」
「――安心しろ。バカは私の目の前にいる」
キギギギッ……ときしむブリキの音で首を動かす鈴。視線の先ではもちろん千冬姉が待ち構えていた。
バシーン!
蒼天の下で今日もまた出席簿アタックが響くのだった。
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「はい!」
一組と二組の合同実習なので人数はいつもの倍。出てくる返事も妙に気合いが入っていた。
「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」
ズキズキと叩かれた場所が痛むのか、鈴はちょっと涙目になりながら頭を押さえていた。鈴よ、悪いけど俺のせいにするのはちょっと勘弁してくれよな。
「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰!それからオルコット!」
「はい!」
千冬姉からの指名でセシリアは真剣な表情で返事をして前に出た。
「オルコットは理解しているみたいだな。凰、お前も前に出ろ」
「一夏のせいなのになんであたしが……」
いつまで引っ張るつもりなんだろうか……このりんにゃんは……。
「凰、少しはやる気を出せ。――アイツに良いところを見せられるぞ」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」
千冬が何か告げた途端に鈴のやる気が上がった。なんだろうか俺を出汁にされたような気分は……よく見ると千冬姉の顔から“計画通り”と言わんばかりの顔をしていた。
「それで、相手はどちらに?わたくしと鈴さんとの勝負でしょうか?」
「ふふん。クラス対抗戦では油断したけど今度はあたしが勝つわよ」
「慌てるな。対戦相手は――織斑、私のところに来い」
「はい」
キィィィン……。ドカーン!
「えっ?」
千冬姉の隣に着いた途端に空気を裂く音から地面に衝突する音が聞こえた。
(ま、まさか……って、ええ―――っ!?)
俺は恐る恐るさっきまでいた場所を見るとISを装着した山田先生が目を回していた姿に冷や汗が流れた。あ、危なかった……危うく大惨事になるところだったな色んな意味で………。
「山田先生。いつまで呆けているさっさと起きろ!」
「は、はい!!」
千冬姉の号令にビクンと反応して立ち上がった。
「さて、小娘ども山田先生が対戦相手だ。さっさとはじめるぞ」
「え?あの、二対一で……?」
「安心しろ。今のお前達ならすぐ負ける」
負ける、と言われたのが気に障ったのか鈴は瞳に闘志をたぎらせている。元々勝ち気な性格だからな。
「鈴さん、油断は出来ません。慎重にいきましょう」
セシリアは千冬姉の言葉から何かに感づいたのか鈴に警戒するように告げた。
「何言ってるのよ。あたし達なら勝てるわよ楽勝楽勝」
「そうさせる事が先生達の作戦かもしれません」
「な、なんですって!?」
「山田先生のあのドジはわたくし達を油断させる為の演技。つまり罠ですわ」
「くっ……冗談はあの馬鹿デカイ胸だけにしときなさいよ!」
「確かに……あれは脅威的ですわね」
二人はそう言い山田先生の胸に視線が注がれる。
「あ、あの……胸ばかり見られても困るのですが……」
「どうやったらあんなに大きくなるのかしらね……」
「確かに不思議ですわね……」
「あの〜、もしもし!私の顔に目線を上げてくれませんか!」
そう言ってセシリアと鈴に注意する山田先生だがISスーツ着用でたわわな胸の膨らみが強調されるのでかなり目立つ。
「仕方あるまい。山田先生のはムダにデカイのだから自然と視線が集まるのは当たり前だろうが」
「あんまり嬉しくないですよ!しかもムダにデカイって、ひどくないですか!?」
千冬姉の言葉にショックを受ける山田先生。
「凰、オルコット。山田先生の胸の事が気になるのはわかるが今は戦闘実演をする事が第一優先だ」
「でも……」
「わかりました……」
鈴とセシリアは渋々と言った感じで戦闘実演に集中する。
「わかった。そこまで気になるのなら仕方ないな……。もし戦闘実演に勝つ事が出来たら放課後、特別に山田先生がどうして胸が大きくなったかを一組と二組全員に教授する事を約束しよう。もちろんたっぷりと2時間はやるぞ」
「な、何言ってるんですか!?織斑先生!!」
千冬姉からの無茶振りに山田先生は思わず詰め寄った。
「生徒のやる気を引き出すのも教師の仕事だ。それくらい安いものだろ」
「そ、そんな事でやる気なんて―」
「頑張ってセシリア!」
「りんにゃん。絶対に勝ってね!」
「よし!勝つわよ!」
「皆さんの為にわたくしは全力を尽くしますわ!」
「ありまくりでした―――!!」
一組と二組のクラスの女子達がセシリアと鈴を応援し、それに二人が応えている。
「良かったな、山田先生。一組と二組はやる気があってこんなに慕っているぞ」
「動機が不純過ぎて嬉しくありませ―――ん!!」
山田先生、御愁傷様です。俺はなにも言えません、フォローも出来ません。ただ蚊帳の外状態でいるだけです。
「では、はじめ!」
号令と同時にセシリアと鈴が飛翔する。それを目で一度確認してから、山田先生も空中へと躍り出た。
「一組と二組の皆さんの為にわたくしは勝ちますわ……山田先生お覚悟を!」
「ふ、ふふっ、ふふふ……この戦闘実演に勝ってあたしは巨乳になるのよ!」
「こ、怖すぎですよ!?オルコットさん!凰さん!」
言葉こそいつもの山田先生だったが、表情は鬼気迫るものだった。セシリアの攻撃をかわし、鈴の攻撃を受け流す。
「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」
「あっ、はい」
空中での戦闘を見ながら、シャルルがしっかりとした声で説明をはじめた。
「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二………」
シャルルが説明しているが女子達の関心は戦闘の事しかなかった。というよりあんな約束をされたのだから期待が高まっているみたいだ。
「鈴さん、少し距離を取ってください。狙い撃ちされますわよ」
「わかったわ。援護しやすいように動くからセシリアは指示だして」
「わかりました」
初めて組んだのに二人のコンビネーションが良く山田先生を徐々に追い詰めていく。
「負けちゃダメ負けちゃダメ負けちゃダメ負けちゃダメよ真耶。負けたら罰ゲームの辱しめが待ってるのよだから負けちゃダメよ真耶」
とぶつぶつと呟きながらまるで自分に暗示をかけているかのような山田先生。
(お互いに真剣だな……まあ、無茶ぶりされたから阻止しないとヤバいからな〜山田先生………可哀想に……)
心の中で山田先生に同情しつつ戦闘を見るのに集中する。結果は山田先生が辛くも勝利した。かなりギリギリだったがな。
「くっ、うう……勝負を焦りすぎましたわ……」
「あそこまで追い詰めたのにぃぃ……もう一回!もう一回よ!」
「もうやりませんよ!諦めてください!!」
再戦要求する鈴に山田先生は両腕で×をつくり必死に拒否していた。
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
パンパンと手を叩いて千冬姉がみんなの意識を切り替える。………この原因作ったきっかけは千冬姉だよな………まあ、気にしないでおこう。出席簿の餌食になるのは勘弁だ。
「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では八人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?では分かれろ」
千冬姉が言い終わるや否や、俺とシャルルに一気に二クラス分の女子が詰め寄ってくる。
「この馬鹿者どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」
千冬姉の声で一斉に分かれだし、あっという間グループが出来た。
『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうのど、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね』
ISのオープン・チャネルで山田先生が連絡してくる。とりあえず勉強の甲斐もあって今の段階で意味がわからないということはないし、班長なのでしっかりしないとな。
「それじゃあ出席番号順にISの装着と起動、そのあと歩行までやろう。一番目は――」
「はいはいはーいっ!」
凄い元気のいい返事が返ってきた。片手を上げてぴょんぴょんと跳ねなくもいいんだけどな……。
「出席番号一番!相川清香!ハンドボール部!趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」
「あ、ああ、わかった。別に自己紹介を……」
「よろしくお願いしますっ!」
腰を折って深く礼をすると、そのまま右手を差し出してくる。あれ?なにこれ?
「ああっ、ずるい!」
「私も!」
「第一印象から決めてました!」
何故か他の女子も一列に並び、同じようにお辞儀をして頭を下げたまま右手を突き出してくる。
「あ、あのさ……そういう事は困るんだけど……」
「「「お願いしますっ!」」」
「え、えっと……ごめんなさい?」
「「「ちくしょ―――!!」」」
俺がお断りすると皆一斉にリアクションし出した。ノリ良いな、おい。
スパ―ン!
出席簿の叩く音がするのでそちらを向くと―。
「ボーデヴィッヒ、何をしている?さっさと訓練を開始しないか」
ラウラに出席簿アタックを食らわせている千冬姉がいました。
「きょ、教官。ISをファッションと勘違いする者達などに私が教える事などありません!無理です!!」
出席簿の痛みからか涙目で千冬姉に抗議するラウラ。
「ここは学園でISについて学ぶところだ。軍隊ではない、しっかりと指導する事も重要な授業の一環だ。ちゃんとやれ」
「わ、わかりました……」
ラウラは千冬姉に睨まれながら渋々グループでの訓練を開始した。
(千冬姉には逆らえないみたいだな……)
ラウラの方を見ながら俺はそう感じた。ちなみに俺の方は順調に進んでいる。途中で立ったままで終えてしまい、山田先生から乗せてあげてくださいと言われたがさすがにマズイので俺がコクピットに乗ってしゃがませた状態にして次の人にやってもらう事にした。
「よし、じゃあ次は……」
「私だ」
な、なんだとぉ―――っ!?箒が俺の班にいる事すら気付かなかった。
「…………」
「どうした?何を黙ったままなんだ?」
俺は箒と訓練機を交互に見る。最悪な事に訓練機は立ったまま解除されており、普通には乗れない形になっていた。
「なんだ?早く運んでくれ。私はあまり望まないが、安全面を考慮すると仕方がない。私はあまり望まないが、仕方がないな」
としきりに仕方がないを強調してくるが正直困った。本当は箒に教えたくはないが今は授業中だし、遅れる訳にはいかない。
「よし、ではしゃがませた状態でやるか」
俺はさっさと訓練機に乗りしゃがませた状態にした。
「さっ、篠ノ之さん乗ってくれ」
「………わかった」
笑顔で誘導したら、何故か睨まれた。………何でだ?
(何故一夏はわかってくれないのだ!)
箒は一夏の行動と態度に腹を立てていた。
(私を運ぶくらい問題ないだろうが!)
そう箒は一夏にお姫様抱っこして貰えるという淡い期待を持ったがものの見事に裏切られた。
(しかし、さっきまで一夏が乗っていたのだがら残り香が……いいかもしれない)
と表情には出さないが箒は一夏の匂いを堪能していた。これをわかる人が見れば危ない人まっしぐらである。
(どうすれば私の良さをわかってくれるのだ………そうだ)
「一夏」
「何か用か?」
「そ、その、だな。今日の昼は予定があったりするのか?」
平静を装ってはいるが、その声はいつもよりわずかに高く、どこかしら不安を含んでいるかのような声だった。
「予定か?あるぞ」
「なっ!?」
一夏の返事は箒を絶望に叩き落とす。
「すでに昼食を食べる約束してるんだ。悪いな」
「くっ……」
箒は悔しげな表情で一夏を睨み付ける。
(誰だ!?約束の相手は!まさか!――あいつか!)
箒ははっと気付きある人物に顔を向けた。
「?」
箒が向けた先には本音がいた。視線に気付いたのか本人は首をかしげてまた授業に集中する。
(許さんぞ私の一夏をたぶらかしおって………奪い返してやる!!)
そう心に怒りの火を灯すがまったくの検討違いである。何にしても、箒は本音を親の仇と言わんばかりに睨み付けて千冬からありがたい出席簿の餌食になった。
昼休み、俺は屋上に向かっていた。今日は簪と刀奈さんが俺の為にお弁当を作ってくれるのだ。うきうきと心が踊る。
(シャルルは食堂までは案内したし、取り巻き達は上手くまいたから安心だな)
最初はシャルルと本音と一緒に食堂まで案内し、途中で抜けてきて駆け足で屋上に向かい到着した。
「お―っ。天気がいいな」
晴れ渡る空から屋上は美しく配置された花壇には季節の花々が咲き誇り、欧州を思わせる石畳が落ち着いていり。それぞれ円テーブルにはイスが用意されている。
「お待たせ」
「もーっ、遅いよ一夏」
「ごめんごめん」
二人が待っている場所に着き声を掛けると待ちくたびれたと言わんばかりに簪はやや不機嫌気味な顔をしていた。
「まあまあ、今日は私達しかいないしゆっくり出来るわよ」
「そうですね」
刀奈さんが簪をなだめている。ちなみにみんなはシャルル目当てで学食に向かっているので事実上貸し切り状態だ。やったね。
「それじゃ、お昼にしましょうか」
刀奈さんはテーブルにお弁当を置き、お弁当を包んだ布をほどくと重箱が現れる。
「おおっ凄いですね」
「せっかくだから私も簪ちゃんも気合い入れて作ってみたのよ」
そして重箱の蓋をあけると――。
「おお――っ!!」
色とりどりのお弁当に思わず声をあげた。
「一夏、食べてみて」
「ああ、さっそく」
簪に促されるままに玉子焼きを口に入れる。
「ど、どうかな?一夏君……」
俺の味の感想が気になるか刀奈さんが不安げに尋ねてきた。これは刀奈さんが作ったのか。
「うん。美味しいですよ」
「本当に?良かった〜」
俺の評価に安心したのか刀奈さんはほっと胸を撫で下ろした。
「そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ。お二人の料理が美味しい事はわかってますって」
「そう言われてもねぇ……」
「うん……」
あれ?俺は誉めたのに二人の表情は何故か暗い。
「最初の頃に一夏君の料理を食べた時は女子のプライドが木っ端微塵になったのよね……」
「うん……あの時は本当に傷付いた……」
「あ、あはは……」
簪と刀奈さんの言葉に苦笑いするしかなった。
(まあ仕方ないか……)
そう、更識家に居候する事になり一ヶ月がたった頃にお世話になりっぱなしになるのも気まずい為、俺は料理を振る舞う事にしたのだ。みんな最初は俺の料理を楽しみにしていたが一口食べたら本音を除く皆が落ち込んでしまった。本音は喜んで食べていたがあまりの温度差にどうしたらいいか困ってしまった。
「あれから一生懸命に料理を勉強したきっかけになったのよね」
「うん。一夏に美味しいって言って欲しくて頑張った」
うんうん。簪と刀奈さんは本当に嬉しい事を言ってくれる。
「一夏、今度はこれを食べて私の自信作」
「一夏君、いっぱい食べてね」
「はい、いただきます」
俺は二人のお弁当を堪能し、午後からの授業までの英気を養った。
よーし!午後も頑張るぞ!!
おまけ
「ねえ、一夏君」
「どうしました刀奈さん?」
「山田先生に勝つと胸が大きくなる秘訣を伝授するっていう噂がうちの学年であるんだけど何か知らない?」
「あっ、私も聞いた。どうなの一夏?」
「さ、さあ……?俺には……わからないです」
「そう……」
「それなら仕方ないわね……」
(い、言えない……全部千冬姉の無茶ぶりでこうなりましたと………)