ちょっと、悩みましたけどね……
放課後になり、俺達は訓練を終えて着替えてから合流して廊下を歩いていた。
「相変わらず簪は強いな〜」
「そんな事ないよ。一夏だってちゃんと力を着けてきてるよ」
「そうかな?」
「そうだよ……だって、いまだに僕は一夏に1勝もしていないんだからね………」
そう言い、ジト目で俺を見るシャルル。
「シャルルンは〜、いっち―に負けるのが悔しいんだね〜」
「そうだけど……僕の得意な戦い方してもあっさりと看破されて負けると、流石に自信なくすよ……」
はあ、とため息を吐き、暗い表情に変わるシャルル。ちなみに今のメンバーは俺、簪、本音、シャルルの四人だ。セシリアを誘ったのだが、今日は1人で訓練をしたいとの事で、丁重に断られてしまったがまあ、学年別トーナメントでの切り札みたいなのを考えているのだろう。だとしたら対戦が楽しみだな。
ドドドドドドッ……!
「な、何だ?」
「な、何か近付いてくる?」
地鳴りに聞こえるそれは、遠くから響いてきて、しかも段々近付いてきている。
「織斑君!」
「デュノア君!」
「うおおっ!?」
「うわあ!?」
「きゃあっ!!」
俺達の目の前に雪崩れ込んでくる数十名の女生徒を見て思わず悲鳴を上げてしまった。怖いって!!
「ど、どうしたんだ一体?」
「と、とりあえずみんな落ち着いて」
「「「「これ!」」」」
目の前の光景に恐怖を感じつつも状況が飲み込めない俺達に、バン!と女子生徒一同が出してきたのは学内の緊急告知文が書かれた申込書だった。
「えっと、『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行う為、2人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」
「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」
そしてまた一斉に伸びてくる手。こ、怖い……まるで某ゾンビゲームみたいだ……。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
どうしていきなり学年別トーナメントの仕様変更があったかはわからないが、その事は後で刀奈さんに聞くしかないな、ともかく今こうしてやってきているのは全員一年生の女子だ。学園内で二人しかいない男子ととにかく組もうと、先手必勝とばかりに勇み迫ってきているのだろう。しかし――
「え、えっと……」
そう、シャルルは実は女子なのだから、誰かと組むというのは非常にまずい。今後ペア同士での特訓も行うだろうし、いつどこで正体がバレてしまうとも限らない。そう思ってシャルルを見ると、数秒間だけ困り果てた顔でこっちを見たのがわかった。俺と視線が合うと、助けを求めているのがわかってしまうと思ったのだろう、すぐに視線を逸らしてしまった。相変わらずの遠慮深さに俺は苦笑いを浮かべてしまった、シャルルのこういう仕草が健気でいじらしい所をアピールしているのがわかる。普通の男だったらイチコロだな、でも俺には二人の恋人達がいるから、それには応えられない。なので――
「悪いな。俺は簪と組むから諦めてくれ!」
俺は簪の両肩に手を置き、わあわあと騒ぐ女子全員に聞こえるようにキッパリと大きな声で宣言した。
しーん……。いきなりの沈黙に俺は気持ちが少しだけ後ずさる。
「ぼ、僕は布仏さんと組む事にしたんだ!ゴメンね!」
シャルルはこの沈黙と女子達の追求から逃れようと俺と同じように本音の両肩に手を置き、そう宣言した。
「「ふえっ!?ふえぇぇ――――っ!!」」
俺とシャルルの宣言に我に返ったのか簪と本音はびっくりした悲鳴をあげた。
「「「ちくしょ―――!!」」」
「「「先を越された―――!!!」」」
「「「神は死んだ――――!!!」」」
「「「そんなバカな―――!!!」」」
等々、悲鳴に近い形で叫ぶ女子達。その後バタバタとペア探しに走り出した。
「ふう……」
「行ったみたいだね……」
女子達がいなくなり、俺とシャルルは安堵のため息をついた。
「い、一夏!」
「ど、どうしたんだ簪!?」
いきなり大声で俺を呼ぶ簪に思わず、ビックリしてしまった。
「わ、私で……いいの?」
そう言い、不安気な表情でチラチラと上目遣いで俺を見る簪に愛らしさが沸き上がる。思わず抱き締めたくなるが……ここは我慢だ。
「もちろんだ。俺は簪としか組まないよ」
「本当!本当に本当!?」
「本当だって、嘘はつかないよ」
「嬉しい……」
潤んだ瞳で俺に寄り添いそっと抱き締める簪。くっ……抱き締め返したい……でも……いいか。俺は自分の気持ちを抑える事はせずに簪を抱き締め返した。
「あ〜、ゴホン!ゴホン!もういいかな?」
「いっちー、かんちゃん。そろそろ〜帰ってきてね〜」
「「はっ!」」
わざとらしく咳払いするシャルルと本音の声に慌てて離れる俺と簪。いかんいかん二人がいる事を忘れてたな。
「あんまり〜見せ付けられてもこっちが困るよ〜」
「僕達がいる事を忘れないでね」
「「ごめんなさい……」」
ジト目でそう言う本音とシャルルに平謝りする俺達、とりあえずシャルルは本音と組む事で性別バレは回避出来るし、俺は簪という最高で最強のパートナー組む事で優勝に近くなるのは間違いないな。
「それじゃ、僕と布仏さんとのペアでの練習するから」
「またね〜」
ブンブンと手を振ってシャルルの後を着いていく本音を見送った。本音は外見はまあ、あれだが実力はかなりあるし、パートナーとしては申し分ないだろう。
(シャルルと本音のペアかセシリアは誰と組むかわからないが対戦するのが楽しみだ)
俺は学年別トーナメントで対戦出来る事を楽しみになり、その日が来る待ち遠しくなった。余談だがこの事を知った鈴が何故自分と組まないのかを怒り心頭で追いかけられた。
――――――――――――
「あ、あのね、一夏っ」
「どうした?」
夕食後、部屋に連れ立って戻るなり、簪が口を開いた。心なしかその語調には勢いがある。どうしたんだろ?
「あのね、私と組むって言ってくれてありがとう」
「その事か?別にお礼を言われるつもりはないぞ」
「それでもだよ、私の事信頼してくれて嬉しかった」
「バカだな……」
健気に言ってくる簪に愛しくなり抱き締める。
「一夏……」
「俺は簪しか、組むつもりはないよ。もちろん将来もこれからも一緒だ」
「うん、ありがとう一夏」
そう言い簪は目を閉じて顔を上げた。俺はそれに応えるようにそっとキスをした。
「え、えへへ……」
「は、ははっ……」
お互いに照れくさくなり、笑っていると―
「……2人共、私の事忘れてない?」
「「にょわっ!?」」
突然の声に驚き、奇声を上げてしまった。慌てて声のした方を見るといつの間にか部屋に戻ってきていた刀奈さんがいた。心なしか拗ねた顔をしている
「ふんだ!ふ―んだ!そうよね、一夏君は簪ちゃんが一番だもんね。私は忘れられる運命なのよ」
「お、お姉ちゃん……」
「ち、違いますよ刀奈さん」
「……いいのよ。本当は簪ちゃんと両想いなのを私が無理矢理入った形だから仕方ないわね……」
あ、あれ?何だか暗いぞ……まるでずぶ濡れになった捨て猫みたいだ。
「……私だって一夏君に信頼して欲しいし、もっと愛して欲しいのよ……でも……」
ま、マズイ!刀奈さんはネガティブモードに落ちてる!この状態になるのは簪と仲直りする前の時に何度も見掛けたから対処するのに物凄く骨が折れた……。
「刀奈さん」
「あっ……」
俺は刀奈さんを落ち着かせようと抱き締めた。
「一夏君?」
「そんなに落ち込まないでください。刀奈さんもこれからも将来も一緒ですよ」
俺はそう言い、刀奈さんの顎をそっと手に触れて上を向かせてそのままキスをした。
「これで信じてくれましたか?」
「一夏君……ありがとう」
刀奈さんは嬉しさから俺をギュッと抱き締めてくる。どうやら元に戻ってくれたようだ。
「お姉ちゃん、3人で幸せになろうって言ったの忘れたの?」
「ごめんなさい。2人の間に入れなくて、置いてけぼりされて悲しかったから、ついね……」
「そんなに遠慮しなくていいんですよ。俺は簪、刀奈さんを愛してるんですからちゃんと受け止めますよ」
「そうね。ありがとう」
こうして俺達はまた1つ愛を育んでいくのだった。さあ、学年別トーナメントに向けて頑張るぞ。
――――――――――――
6月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色に変わる。その慌ただしさは予想よりも遥かに凄く、今こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っていた。それらからやっと開放された生徒達は急いで各アリーナの更衣室へと走る。ちなみに男子組(俺だけな)は例によってこのだだっ広い更衣室を二人占めである。まあ、組むパートナーの都合により、既にISスーツ着替えている簪と本音がここにいる。
「しかし、凄いなこりゃ……」
更衣室のモニターから観客席の様子を見る。そこには各国の政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。
「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者には早速チェックが入ると思うよ」
「そうか……なるほどな」
シャルルの話に耳を傾けながら、俺はこのトーナメントの結果次第で将来が変わるきっかけなのだと考えた。
「今年は一夏がいるから、皆が注目していると思うよ」
「それは困るな………」
「モテモテだね〜いっちー」
「いやいや、それは違うと思うよ。本音」
本音の言葉に思わずツッコミを入れるシャルル。どうやら本音と仲良くなったみたいだ、元々親しくなりやすい性格だからすぐに打ち解けたのだな。
「さてと、対戦表はまだかな?」
「誰が来てもいいように準備しないとね」
「ああ」
ちなみに鈴とセシリアはそれぞれ自分の部屋のルームメートと組む事にしたようだ。二人が組んだ対戦をしたかったがお互いの考えがあるらしく、今回は見送る形になったようだ。
「あ、対戦相手が決まったみたい」
モニターがトーナメント表へと切り替わった。俺もそれまでの思考は一旦停止して、そこに表示される文字を食い入るように見詰めた。
「「「「―――えっ?」」」」
でてきた文字を見て、俺達は同時にぽかんとした声をあげた。俺と簪の一回戦の対戦相手はラウラ、そして箒のペアだったのだ。
「随分と面白いカードが組まれたね。でも二人なら絶対に勝てるよ」
「頑張ってね〜かんちゃん、いっちー」
「ああ、ありがとう本音」
「うん。絶対に勝つ」
シャルルと本音の激励に俺と簪の気持ちが引き締まる。これで2つの問題が解決出来るチャンスに違いないからな、自ずと力が入る。
(ラウラ……そして箒、決着を着けるぞ!)
俺はそう決意し、一回戦の舞台に上がった。
次回はラウラ戦です。