織斑一夏の恋物語   作:夜光華

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皆さん、お久しぶりです。連休中はいかがお過ごしでしょうか?

ちなみに自分は仕事が入りましたので暇なかったですね。

ラウラ戦後半、その後になります。

もしかしたら一番長い話になりそうです。

ではどうぞ


第27話

(こんな……こんな所で負けるのか、私は……!)

 

確かに相手の力量を見誤った。それは間違えないようなミスだ。しかし、それでも――

 

(私は負けられない!負ける訳にはいかない……!)

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前。識別上の記号。一番最初につけられた記号は――遺伝子強化試験体C―〇〇三七。人口合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。

 

――暗い。暗い闇の中に私はいた。

 

ただ戦いの為だけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えらるた。知っているのはいかにして人体を攻撃するかという知識。わかっているのはどうすれば敵軍に打撃を与えられるかという戦略。格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦方法を体得した。私は優秀であった。性能面において、最高レベルを記録し続けた。

 

しかし、ISが現れその適合性向上の為に行われた『越界の瞳』の処置に失敗し、『出来損ない』の烙印を押されるまでに転げ落ちていった。そんな私が、初めて目にした光。それが教官との……織斑千冬との出会いだった。

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが、何心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」

 

その言葉に偽りはなかった。特別私だけに訓練を課したと言うことはなかったが、あの人の教えを忠実に実行するだけで、私はIS専門へと変わった部隊の中で再び最強の座に君臨した。私はあの人の強さに。その凛々しさに。その堂々とした様に。自らを信じる姿に、焦がれた。

 

――ああ、こうなりたい。この人の様になりたい。

 

そう思って私はある日訊いてみた。

 

「どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?」

 

その時――ああ、その時だ。あの人が鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。

私は、その表情に何故だか心がチクリとしたのを覚えている。

 

「私には弟がいる」

 

「弟……ですか」

 

「あいつを見ていると、わかる時がある。強さとはどういうものなのか、その先に何があるのかをな」

 

「……よくわかりません」

 

「今はそれでいいさ。そうだな。いつか日本に来る事があるなら会ってみるといい。……ああ、だが1つ忠告しておくぞ。あいつに――」

 

優しい笑み、どこか気恥ずかしそうな表情、それは――

 

(それは、違う。私が憧れる貴女ではない。貴女は強く、凛々しく、堂々としているのが貴女なのに)

 

だから――許せない。教官にそんな表情をさせる存在が。そんな風に教官を変えてしまう弟、それを認めらない。認める訳にはいかない。

 

だから――

 

(敗北させると決めたのだ。あれを、あの男を、私の力で、完膚無きまでに叩き伏せると!)

 

ならば――こんな所で負ける訳にはいかない。あの男は、あれは、まだ動いているのだ。動かなくなるまで、徹底的に壊さなくてはならない。そうだ。その為には――

 

(力が、欲しい)

 

ドクン……と、私の奥底で何かが蠢く。そして、そいつは言った。

 

『――願うか……?汝、自らの変革を望むか……?より強い力を欲するか……?』

 

言うまでもない。力があるのなら、それを得られるのなら、私など――空っぽの私など何から何までくれてやる!

だから、力を……比類無き最強を、唯一無二の絶対を――私によこせ!

 

Damage Level……D.

Mind Condition……Uplift

Certification……Clear.

 

《Valkyrie Trace System》……boot.

 

――――――――――――

 

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧の為教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!』

 

ラウラのISが異変を起こし、姿を変え、黒い全身装甲を身に纏った状態に手には雪片を握っている事態を危険と判断したのかアナウンスで避難指示とアラームが鳴り響いていた。

 

「………」

 

「一夏?どうしたの?」

 

俺の様子から異変を感じたのか、簪は俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

 

「いや……、何でもない……」

 

「そう……」

 

簪は俺の答えに違和感を感じた顔を浮かべたがすぐにいつもの表情に戻った。

 

(………落ち着け、落ち着け俺!)

 

 

俺はぐっと右手を握りしめて気持ちを落ち着かせる。今のラウラは千冬姉になりきっている状態、いわばコピーしてそのまま使っているような感じだ。

 

(いくら慕っているって言っても限度があるだろ!)

 

ラウラは千冬姉の何を憧れていたんだ?強さか?優しさか?それとも最強の力か?

 

目の前のラウラの姿に怒りが沸々と沸き上がっていた。しかし、俺は気持ちを落ち着かせる事が出来ている。

本当なら怒りのままラウラに斬りかかりたいが………それが出来ないまま立ち尽くしていた………。何故ならこの前のクラス対抗戦で俺は自らの行動で危険をさらしてしまい2人を心配させて泣かせてしまった。

 

(あの時は、嫌ってほど痛感したな……)

 

再び危険な行動に出てケガを負ってしまい簪と刀奈さんを泣かせる訳にはいかない………だから俺は冷静になれたのかもしれない……。

 

「行こ、後は先生達が鎮圧してくれるよ」

 

「ああ、そうだな」

 

簪に促されて俺は一緒にアリーナから避難しようと動きだした。箒?すでに先生達に回収されてもういない。

 

『織斑、更識……』

 

突然俺達に千冬姉から通信、プライベート・チャネルが入る。

 

『織斑先生、何かあったんですか?』

 

『いや、先生はいい。一夏、簪お前達に頼みがある』

 

『頼み、ですか?』

 

『ああ……』

 

千冬姉の頼みと聞いて首を傾げたが、心なしか声が暗い事に気付いていた。

 

『無茶を承知で頼む、ボーデヴィッヒを……ラウラを助けてくれ!』

 

『千冬姉……』

 

『千冬さん……』

 

『わかってはいるんだ。教師部隊が鎮圧するのが一番だと……しかし、それではラウラはどうなるかわからない……だから―』

 

『だから俺達に何とかして欲しいって訳か』

 

『ああ……本当なら真っ先に私が行きたいが………今の持ち場を離れる訳にいかん……』

 

千冬姉は悔しげにそう言い、舌打ちをした。教え子のピンチに何とかしてやりたいが今は非常事態の上にIS学園の教師として自分の持ち場を離れる事は職場放棄とみなされる事になるだろう。

千冬姉はもどかしい気持ちを抑えつつラウラを救う為の最善の方法として俺達に白羽の矢がたった訳だ。なので―

 

『わかったよ、千冬姉。任せてくれ。簪は大丈夫か?』

 

『うん。任せて』

 

俺達は千冬姉の頼みを受ける事にした。少々骨が折れる頼みだが出来ない事はない。

 

『ありがとう……すまないな』

 

『いいって、謝らないでくれよ』

 

『そうですよ。後は私達に任せてください』

 

『ああ、頼んだぞ』

 

千冬姉の力強い言葉を聞き、通信は終わった。

 

「さあ、早く片付けようか」

 

「うん。援護は任せて」

 

「ああ、頼む!」

 

そう言い、簪は黒いISにミサイルと荷電粒子砲を混ぜての牽制射撃を行い、隙を作って俺に攻撃しやすいようにしてくれる。

 

「この状態で使うのは初めてだな」

 

俺は抜き身の状態での雪片で使う特殊能力。

 

「《零落白夜》――発動」

 

ヴン……と小さく反応したのがまるで返事のように聞こえる。そして、全てのエネルギーを消し去る絶対無効の力を持った刃が、本来の刃の二倍近い長さとなって現れる。

 

(やっぱり、居合いの太刀よりはイメージするのは難しいか……)

 

この雪片の特殊能力は相手に直接ダメージを与える替わりに自分のシールドエネルギーを削ってしまう諸刃の剣だ。千冬姉はこの能力を上手く扱い、そして優勝した。

 

(集中しろ……居合いのようにするだけだ)

 

意識を集中させて、エネルギーの刃を日本刀の形に集約させる。

 

(よし!これならいけるな)

 

普段は雪片を鞘に納めて居合いの太刀での抜刀した瞬間に特殊能力を使う。

千冬姉みたいに抜き身での雪片ではすぐにシールドエネルギーを無くしてしまう為、使う時は鞘に納めて居合いにしている。

 

(それじゃあ――行くぜ!)

 

俺は刀を腰に添えて、抜き身での居合いの構えで黒いISへと向かう。腰を落として構え、刀を持つ手は己が身の背へと導く。その目はただ一点、正面の敵のみにと閉ざしていった。

 

「………」

 

黒いISが刀を振り下ろす。それは千冬姉がするのと同じ、速く鋭い袈裟斬り。けれど、千冬姉の意思がない。ならばそれは――

 

「ただの真似事だ」

 

ギンッ!腰から抜き放って横一閃、相手の刀を弾く。そしてすぐさま頭上に構え、縦に真っ直ぐ相手を断ち斬る。これこそが一閃二断の構え。一足目に閃き、二手目に断つ。

 

「ぎ、ぎ……ガ……」

 

ジジッ……と紫電が走り、黒いISが真っ二つに割れる。そして、気を失うまでの一瞬であろう間に俺とラウラの目が合った。眼帯が外れ、あらわになった金色の左目と。それはなんだかひどく弱っている、捨てられた子犬のような眼差しに俺には見えた。助けて欲しいと、言っている様に見えたのだ。

 

「……千冬姉に感謝しろよ。本当ならお前をぶん殴ってるんだからな」

 

力を失って崩れるラウラを抱きかかえて、俺は一人そう呟いた。それが果たして聞こえたかどうかは、ラウラだけが知る所だろう。

 

――――――――――――

 

『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係する為、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上――』

 

ピ、と誰かが学食のテレビを消す。俺は海鮮塩ラーメンを食べながら見ていたのであんまり気にならない。

 

「ふむ。シャルルの予想通りになったな」

 

「そうだねぇ。あ、本音、七味取って」

 

「は〜い」

 

「ありがと」

 

当事者なのにのんびりとしたものだと何処かから批判が来そうだが、ついさっきまで教師陣から事情聴取されていたのだ。やっと開放された時には時刻は食堂終了ギリギリの時間。俺と簪を待っていてくれた本音、シャルルと一緒に慌てて戻ると、話を聞きたかったのかかなりの女子が食堂で待っていた。

とりあえず晩飯を食べてから、と言う事で俺達は夕食優先でテーブルに着いたのだが、何やら重大な告知があると言う事でテレビに帯が入り、そしてさっきの内容となる訳である。

 

「ふう、ごちそうさま。学食といい寮食堂といい、この学園は本当に料理が美味いな。……ん?」

 

何故だか知らないが、さっきまで俺達の食事が終わるのを今か今かと心待ちにしていた女子一同がひどく落胆していた。

 

「……優勝……チャンス……消え……」

 

「交際……無効……」

 

「……うわあああんっ!」

 

バタバタバターっと数十名が泣きながら走り去っていった。

 

「どうしたんだろうね?」

 

「さあな……」

 

「さあ……」

 

「さあ〜?」

 

シャルルはちんぷんかんぷんだが俺と簪と本音は理由はわかっていたので言葉を濁すのでした。

 

「…………」

 

女子が去った後に、一人呆然と立ち尽くしている姿を見つける。それは見慣れた幼なじみの箒だった。口から魂が抜けているかのような姿だが、ひとまず俺は箒のそばへと移動する。

 

「そういえば篠ノ之さん。先月の約束だが――」

 

「ぴくっ」

 

ちょっと反応した。生きてるか、でもまあこれからもっと落ち込む事を言うけどな。

 

「却下だ。あんな強引な約束されて誰が喜ぶか、そのおかげで変な噂にまでなったんだ。いい加減にしろ」

 

俺は言いたい事を言い終えてすっきりした顔で簪達のいる所に戻っていった。

 

「…………」

 

戻ってから、箒はガックリと肩を落としてとぼとぼと去って行くのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。

 

(襲ってこなくてよかった……。)

 

そう、俺の言葉に反応して怒りのまま竹刀や木刀を振り下ろしてくるのかと思ったがショックの方が大きかったみたいだな。

 

「あ、織斑君にデュノア君。ここにいましたか。さっきはお疲れ様でした」

 

「いえ、そんな……。それより山田先生どうしましたか?」

 

「ええ、実は朗報です!」

 

グッと山田先生が両手拳を握り締めてのガッツポーズ。そのさいに大きな胸の膨らみが揺れていたが視線は山田先生の顔に向けていた。危ね……。

 

「なんとですね!ついについに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」

 

「えっ?随分と急ですね。まだかかると思ってました」

 

「それがですね―。今日は大浴場のボイラー点検があったので、元々生徒達が使えない日なんです。でも点検自体はもう終わったので、それなら男子二人に使って貰おうって計らいなんですよ!」

 

ありがたい計らいだが……正直、嬉しくない部分もある。何故ならシャルルは女だ。山田先生はわからないが当然混浴になってしまう訳で………簪と刀奈さんという恋人がいる俺として何としても避けたい所だ。

 

「すいません。せっかくの大浴場使用はありがたいのですが今回は辞退させて頂きます」

 

大浴場に入りたいが……ここはグッと堪えて山田先生に頭を下げて丁重にお断りする事にした。

 

「えっ?ど、どうしたんですか?」

 

「あーっと今日は色々ありすぎて早く寝ようかなと思いまして、はい」

 

丁重にお断りしたが山田先生は今にも泣きそうな表情で俺に聞いてくるので納得がいくような説明をした。

 

「それでしたら大浴場を使ってください!湯船に浸かってゆっくりと疲れを取る事も大事ですよ!」

 

山田先生は俺の手を両手で握り、勢いよく言ってきたのでちょっとびっくりした。生徒思いなのだろうが今回は勘弁して欲しいが………どうしよう……。

 

「さっ、織斑君!デュノア君!二人共早く着替えを持って来てください!大浴場の鍵は私が持っていますからお二人の部屋に行きますよ」

 

そう言い、山田先生は俺とシャルルの手を取るとすたすたと歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと……」

 

「そ、そんな強引に……」

 

「時間は限られていますからね。さあ、行きますよ!」

 

俺とシャルルは抵抗しようとするが、普段とは違う山田先生の強引さに圧倒されてしまい連行されてしまった。

 

あー、本当にどうしょうか……困ったな……。

 

 

 

「………」

 

「かんちゃん?」

 

山田先生に連れ去られていく一夏とシャルルを見ていた簪から何かを感じた本音は思わず声をかけた。

 

「こんな事、絶対に見過ごす訳にはいかない!」

 

そう言い簪は携帯を取り出して電話を掛ける。

 

「あっ、お姉ちゃん。ちょっといい?」

 

数回のコールの後に出た相手は自身の姉である楯無だった。

 

「……うん、私は大丈夫。それよりも一大事なの……あのね―」

 

話ながらすたすたと歩き出していく簪。

 

「かんちゃん……大丈夫かな?」

 

隣にいた本音を無視して行く簪の表情からは危機感を感じていたのだった。

 

――――――――――――

 

「ふう………」

 

湯船に浸かりながら全身に広がる安堵感に一息ついた。久しぶりの風呂なので嬉しいのは間違いないが……気掛かりはある。

それはシャルルの事だ。あの後、結局山田先生の押しに負けた形で俺とシャルルは大浴場に向かう事となり、俺は気を使って先に入るように促したがここは先にどうぞとシャルルが遠慮した。

 

その後どちらが先に入るかで数分もめたが………最終的には俺が折れる形で先に風呂に入浴する事になった訳だが……正直、申し訳ない部分はあるだけに長風呂は出来ないと思う反面、久しぶりの入浴と疲労感も手伝ってリラックスしてしまい湯船に出るのを躊躇ってしまう。

 

(あ〜……気持ちいいな〜)

 

心地よさに身を任せていると――

 

カラカラカラ……。

 

(あれ?今脱衣場から扉の開く音が聞こえたような……)

 

さっきまで湯船の心地よさに浸っていた気分は一瞬にして消え去り、今は冷や汗が流れ落ちる。

 

ピタピタピタ。

 

さらに濡れたタイルの上を歩く音が嫌な予感が沸き上がる。ま、まさか……

 

「お、お邪魔します……」

 

「!?」

 

聞き慣れた声が耳に入り、慌てて振り向くと湯気の向こうから現れたのは、一糸纏わぬ姿のシャルルだった。一応タオルを巻いてはいるが改めて女性らしいボディラインをしているとわかる。

 

「す、すまん!」

 

シャルルだとわかり、慌てて直ぐ様回れ右で背中を向ける。

 

「ど、どうしてここに?そ、それよりも何で入ってきたんだシャルル!?」

 

正直、俺が入浴している時に入ってこないだろうと9割方考えてだけに冷静になれず焦るしかない。

 

「ぼ、僕が一緒だと、イヤ……?」

 

「そ、そう言う事言ってるんじゃなくて……その……」

 

マズイ……本当にマズイ!まさかシャルルが入ってくるとは思わなかっただけにこの場から離れようと思考を巡らす。

 

「やっぱり、その、お風呂に入ってみようかなって。――め、迷惑なら上がるよ?」

 

「だ、だったら俺が上がる。もう堪能したし、後はシャルルが入ってゆっくり堪能してくれ!」

 

俺はそう言うと大急ぎ湯船を上がり脱衣場に向かって早歩きでシャルル(視線はタイルを見ている)を通り過ぎようとしたが――

 

「ま、待って!」

 

突然、大声で呼びながら背後から抱き着かれた事で動作が止まる。

 

「そ、その、話があるんだ。大事な事だから、一夏にも聞いて欲しい……」

 

「あ、後でダメか?その……」

 

「い、今じゃなきゃダメなんだよ!お願い聞いて一夏」

 

そう言ってシャルルは俺をギュッと抱き締める……アカン!?背中に当たる胸の膨らみを感じて、更に冷や汗がダラダラと流れていく………。

 

(こ、このまま流されては正直マズイ……)

 

俺はシャルルの大胆な行動に戸惑い、困るしかなかった……。

 

カラカラカラ。

 

再び脱衣場から扉の開く音が聞こえた。ヤバイ!?山田先生が様子を見に来たか!しかも今の状況はかなりマズイ!裸の男女が後ろから抱き締めてる姿の光景を見られてしまえば、当然学園中に知れ渡る事は間違いない。

 

(そうなったら……どう言い訳すればいいんだ……)

 

脳裏に浮かんだのは泣きながら俺を責める簪と刀奈さんに流水のごとく怒る虚さんと笑ってはいない本音、更には業火の如くぶちキレた千冬姉の光景が浮かんだ………。

 

(神様仏様……どうかこのピンチをお救いください……)

 

この最悪なピンチにもう祈るしか出来なかった………ああ……ダメか。

 

「お邪魔します」

 

「一夏君入るわよ」

 

再び聞き慣れた声が耳に入ってきた。あれ?これって……。

 

「「「あっ」」」

 

俺の目の前に居たのはバスタオルを巻いた姿の簪と刀奈さんだった。

 

「………シャルロットちゃん。何してるのかしら?」

 

「一夏から離れて!」

 

俺とシャルルの姿を見た刀奈さんは冷笑を浮かべ、簪は怒り出した。

 

「あ、あはは……ゴメンゴメン」

 

簪、刀奈さんの登場にシャルルはパッと俺から離れた。………ほっ。

 

「どうしてここに?今日は女子は入れないってきいてましたけど……」

 

「そこは生徒会長権限を使って、山田先生に無理言って通してもらったのよ」

 

「それに一夏と一緒に入りたかったのもあるけどね」

 

「そ、そうでしたか……」

 

二人の登場は本当にありがたいと思う。だって最悪な展開は避ける事が出来た事は間違いない。

 

「「「………」」」

 

(この娘、侮れないわね。簪ちゃんから聞かされてなかったら本当に危なかったわ………)

 

(やっぱり……一夏の事狙ってた……気をつけないと盗られちゃう)

 

(せっかく一夏と二人っきりになれると思ったのに……いい所で邪魔されたな……でも負けないよ!)

 

とそれぞれ三人が内心思っていた事はこの時の俺は気付かなかった。だって最悪な未来にならなくて安堵した事が大きかったからだ。

その後、4人で湯船に入りシャルルはこの学園に残る事を決意した事と本当の名を名乗り女性として再転校する事を聞かされてこの場は御開きとなった。

 

――――――――――――

 

翌日、シャルロットの姿がなかった。まあ、大体の理由はわかっているしそんなに気にする必要ななかった。教室を見回すとラウラもいない。昨日の今日では流石に無理かな負傷しているし、事実聴取もあるからな。

 

「み、皆さん、おはようございます……」

 

教室に入ってきた山田先生はフラフラしている。多分いやおそらくだがその理由大体察した。

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生と言いますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

山田先生の説明はよくわからないが正直どう説明すればいいかわからないのだろうな………。クラスの皆は転校生に反応したらしく一斉に騒がしくなった。

 

「じゃあ、入ってください」

 

「失礼します。――シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

ペコリと、スカート姿のシャルロットが礼をする。俺を除いたクラス全員がポカンとしたままだ。

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。と言う事です。はぁぁ……」

 

と疲労感たっぷりのため息を吐く山田先生にちょっとだけ同情した。男子生徒の為に頑張ってたら実は女子生徒でしたってオチだからな……ショックもあるか。ん?何か忘れているような?

 

「え?デュノア君って女……?」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわね」

 

「って、織斑君、隣同士だから知らないって事は――」

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場を使ったわよね!?」

 

ザワザワザワッ!教室が一斉に喧噪に包まれ、それはあっという間に溢れかえる。そうだった!シャルロットが女とわかれば当然何かしらの間違いないがあると勘違いする事をすっかり忘れていた!なんだろう……嫌な予感がするな。

 

バシーン!

 

教室のドアが蹴破られたかの様な勢いで開く。

 

「一夏ぁっ!!!」

 

そこに現れたの鈴だった。その顔には烈火の如く怒り一色に染まっていた。って、何でお前が怒るんだよ!?

 

「死ね!!!」

 

ISアーマー展開、それと同時に両肩の衝撃砲がフルパワーで開放される。何やってんだよ!アイツは!?ここは教室で俺の他にクラスメイトがいるんだぞ!!俺は咄嗟にISを展開、皆を守ろうと両手を広げて仁王立ちのように立ちはだかり衝撃に備えるた。

 

ズドドドドドオンッ!

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」

 

怒りのあまり肩で息をしている鈴がいる。その姿は毛を逆立てて怒る猫の様に見える。あれ?衝撃が来ないぞ?

 

「…………」

 

間一髪、だったのかどうかはわからないが、俺と鈴の間に割って入ったのは――なんとあのラウラだった。その体には黒いIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏っている。おそらく、衝撃砲をAICで相殺したのだろう。とりあえずはクラスの皆に被害がなかった事にほっとしていた。

 

「助かったよ、ありがとう。………そういえばお前のISはもう直ったのか?」

 

「……コアはかろうじて無事だったからな。予備パーツで組み直した」

 

「なるほど。そうなの――なっ!?」

 

いきなり、俺はグイッと胸ぐらを掴まれ、ラウラに引き寄せられる。………くっ、もうお礼参りかよ!?

 

(マズイ!油断した……本音!)

 

(任せて〜いっちー)

 

とわずか0.5秒のアイコンタクトで本音と会話し、素早く行動。そして――

 

「!?!?!?」

 

驚天動地、何が起こったのかわからないが、鈴を始め、その場の全員があんぐりしていた。

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!いい…なあっ!?」

 

ラウラはそう宣言した目の前の相手に驚いていた。そうその相手とは――

 

「えっ?えっ?わ、私……なの?」

 

クラスの女子の唇を奪っての嫁宣言に唇を奪われた方は呆然としている。

 

「嫁よ!何故かわす!」

 

「誰に言ってんだよ……嫁はあっちだろうが……」

 

ラウラはキッと俺を睨み付けてくるがそんな事は関係無い訳だしな。

 

「きゃ……」

 

「ん?」

 

『きゃああああ―――っ!!』

 

クラス中に黄色声援が響いた。

 

「見た!?百合よ!生百合よ!」

 

「私、こういうの初めて見た!」

 

「ボーデヴィッヒさん、大胆!」

 

「応援するから幸せにね!」

 

等々、ラウラと嫁宣言されたクラスの女子に祝福と歓喜の悲鳴と共に輪を囲っている。

 

(幸せになるんだぞラウラ)

 

とうんうん、頷いていると――

 

「まだ話は終わってないわよ!」

 

「……一夏、貴様どういうつもりか説明して貰おうか」

 

そうは問屋が卸すまいと鈴と箒の幼なじみコンビが俺に迫ってきた。

 

鈴は双天牙月を手に、箒は日本刀を手に……って、ちょっと待て!?

 

「何で日本刀なんて持ってるんだよ!?しかも真剣じゃねえか!!」

 

「これは実家から送ってきて貰った物だ。問題ない」

 

「そ、そうか問題ないのか……んな訳あるか―――!!」

 

箒の言い訳に思わずノリツッコミを入れてしまった。なんていう我の強い言い方だな。

 

「いいから説明しなさいよ。その後にO☆HA☆NA☆SHIするけどね」

 

「そうだな、納得する理由を聞かせ貰おうか」

 

と物凄くいい笑みで問い詰め様と幼なじみコンビは迫ってくるが――正直怖い……。

 

「ほう……面白そうだな、私も混ぜて貰おうか?」

 

ギギギギ……と軋むブリキの音で首を動かす箒と鈴。そこには出席簿を片手にポンポンと肩を叩いている千冬姉の姿がそこにいた。

 

「「ち、千冬さん!!」」

 

ゴガスン!!

 

二人の頭上に拳骨が振り下ろされた。

 

「「〜っ〜っ」」

 

「織斑先生だ。貴様ら一体何をしている?特に凰、ISを無断展開の上に教室でテロリスト紛い事したそうだな」

 

「そ、それは……その……」

 

「放課後、反省文とたっぷりと補習をしてやる。覚悟しておくんだな」

 

「は、はい……」

 

返事をしてガックリと肩を下ろす鈴。自業自得だな。

 

「それから篠ノ之。これは没収だ!貴様には真剣を持つ資格などない!」

 

ヒョイと箒の持っていた日本刀を奪っていく千冬姉。

 

「ま、待ってください!これは―」

 

「いい訳は聞かん!貴様の事だ、暴力にしか使わない事は想像出来る。宝の持ち腐れだ、私が預かる」

 

「わ、わかりました……」

 

渋々と言った感じで引き下がる箒。まあ当然だよな……。

 

「それからボーデヴィッヒ。おめでとうちゃんと幸せにするんだぞ」

 

とラウラに物凄い、いい笑顔を向けていた。

 

「ち、違います教官。私は―」

 

「ん?ああ、そうそう間違えて織斑に手を出すなよ。浮気とみなして容赦しないからな」

 

「はい……」

 

ラウラは千冬姉に言われて今にも泣きそうな顔になった。千冬姉に祝福されて嬉しいんだな。うん。

今日もまた長い一日が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?ちょっと待って!もう終わり?私の出番は?『紅椿』のくだりは無しなの?ねえねえ、おかしくない!?ちょっと―――!!」




ラウラのキスした相手は次話になります。楽しみしていた方すいません。
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