織斑一夏の恋物語   作:夜光華

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久しぶりの更新です。短編ネタが思いつき過ぎましたね……では、どうぞ。


第32話

合宿二日目。今日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。特に専用機持ちは大量の装備が待っているのだから大変だ。

 

「「「…………」」」

 

昨日のカミングアウトから、次の日を迎えての三人の目は赤い……まあ、ショックだから仕方ないのだろうな。ただラウラは鷹月さんと一緒にやって来たのは好材料かな?手を繋いでいたし、このままいって欲しいな。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

はーい、と一同が返事をする。流石に1学年全員がずらりと並んでいるので、かなりの人数だ。

 

「篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

皆が忙しくしている中で千冬姉から箒が呼ばれた。

 

「お前には今日から専用――」

 

「ちーちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」

 

ずどどどど……!と砂煙を上げながら人影が走ってくる。

 

「……束」

 

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!愛を確かめ――ぶへっ」

 

飛びかかってきた束さんを片手で掴む。しかも顔面。思いっきり指が食い込んでいた。不機嫌さも手伝って容赦のない千冬姉だった。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

そしてその拘束を抜け出して、よっ、と着地をした束さんは、今度は箒の方を向く。

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 

がんっ!

 

「殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ……。し、しかも木刀で叩いた!ひどい!箒ちゃんひどい!」

 

頭を押さえながら涙目になって訴える束さん。そんな二人のやり取りを、一同はポカンとして眺めた。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っている」

 

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

そう言ってくるりんと回ってみせる。ぽかんとしていた一同も、やっとそこでこの目の前の人物がISの開発者にして天才科学者・篠ノ之束だと気付いたらしく、女子の間がにわかに騒がしくなる。

 

千冬姉が女子達を注意したり山田先生に束さんが飛びかかったりして再び千冬姉からの制裁が入った。見ていて疲れるな………。

 

「それで、頼んでおいたものは………?」

 

「うっふっふっ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

 

ビシッと直上を指さす束さん。その言葉に従って箒も、そして他の生徒達も空を見上げる。

 

ズズーンッ!

 

いきなり、激しい衝撃を伴って、なにやら金属の塊が砂浜に落下してきた。銀色をしたそれは、次の瞬間正面らしき壁がばたりと倒れてその中身を俺達に見せる。そこにあったのは――

 

「じゃじゃ―ん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

真紅の装甲に身を包んだその機体は、束さんの言葉に応えるかのように動作アームによって外へと出てくる。新品のISだが現行ISを上回るって言ってだけに高性能なのは間違いないな………。

 

「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

 

「……それでは、頼みます」

 

「堅いよ〜。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方で―」

 

「早く、始めましょう」

 

「ん〜。まあ、そうだね。じゃあ始めようか」

 

箒は束さんの言葉を取り合わずに行動を促されて作業を開始した。

 

「あの専用機って篠ノ之さんが貰えるの……?身内ってだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

ふと、群衆の中からそんな声が聞こえた。それに素早く反応したのは、なんと意外な事に束さんだった。

 

「おやおや、歴史の勉強をした事が無いのかな?有史以来、世界が平等であって事など一度もないよ」

 

ピンポイントに指摘を受けた女子は気まずそうに作業に戻る。それを別段どうでもいいように流して、束さんは調整を続ける。――というか、発言の間もずっと手は止まっていない。相変わらずの天才ぶりだった。そしてそれもすぐに終わって、束さんは並んだディスプレイを閉じていく。

 

「後は自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

 

「あ、はあ……」

 

束さんが俺の方を向く。正直気乗りはしないがあの人の性格がわかっているだけに展開させる。

 

「データ見せてね〜。うりゃ」

 

言うなり、白式の装甲にブスリとコードを刺す束さん。すると、またさっきと同じようにディスプレイが空中へと浮かび上がる。

 

「ん〜……不思議なフラグメントマップを構築してるね。何だろ?見た事ないパターン。いっくんが男の子だからかな?」

 

「そういえば束さん、どうして男の俺がISを使えるんですか?」

 

俺は一番疑問に思っている事をぶつけてみた。

 

「ん?ん〜……どうしてだろうね。私にもさっぱりぱりだよ。ナノ単位まで分解すれば解る気がするんだけど、していい?」

 

「やめてください……」

 

「にゃはは、そう言うと思ったよん。んー、まあ、わかんないならわかんないでいいけどね―。そもそもISって自己進化するように作ったし、こういう事もあるよ。あっはっはっ」

 

はぐらかされた気がするが聞いてもムダか………あの人の事だ、何かしらの秘密があるかもしれないな。

 

その後、試運転に入り束さんから説明を受けている箒を見ながら俺は表情が固いセシリアに話し掛けた。

 

「セシリア」

 

「どうしました一夏さん?」

 

「いや、表情から様子がおかしかったからどうしたのかと思ってな」

 

「ええ、篠ノ之博士に会えて是非ともわたくしの専用機を見ていただこうと思っていましたが………途中でやめてしまいましたわ……」

 

「やめた?」

 

俺な言葉にセシリアはええと頷き。

 

「わたくしが話し掛けても相手をしなさそうな雰囲気を感じましたのでやめる事にしました……」

 

「そうか……」

 

普通なら束さんに話し掛けたくて仕方ないのだろうが、束さんは特別な人以外は認識しない性格である。千冬姉に会ってからマシになったらしいが………どれだけひどかったのかわからないがセシリアの判断は間違っていない。

 

「――やれる!この紅椿なら!」

 

箒はミサイルを撃墜させてISの性能に手応えを感じたのだろう………表情から力を得たと感じているが………俺にはあまりいい感じはしなかった……何故かと問われれば答えには詰まりそうだが近い内に良くない事が起こりそうな予感がした。

 

「…………」

 

千冬姉も俺と同じ感じを受けたのか束さんと箒を厳しい見詰めていた。

 

(何かなければいいが……どうかな?)

 

俺は内心そう思い箒を見詰めていたが―。

 

「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」

 

慌てた様子で千冬姉に報告しにいく山田先生。

 

「どうした?」

 

「こ、こっ、これをっ!」

 

渡された小型端末の、その画面を見て千冬姉の表情が曇る。

どうやらただ事では無いだろうわからないように手話で会話している。

 

「そ、そ、それでは、私は他の先生達にも連絡してきますのでっ」

 

「了解した。――全員、注目!」

 

山田先生が走り去った後、千冬姉はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせる。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機する事。以上だ!」

 

「え……?」

 

「ちゅ、中止?なんで?特殊任務行動って………」

 

「状況が全然わかんないんだけど………」

 

不測の事態に、女子一同はざわざわと騒がしくなる。しかしそれを、千冬姉の声が一喝した。

 

「とっとと戻れ!以後、許可無く室外に出た者は我々で身柄を拘束する!いいな!!」

 

「「「はっ、はいっ!」」」

 

全員が慌てて動き始める。接続していたテスト装備を解除、ISを起動終了させてカートに乗せる。その姿は今までに見た事のない怒号におびえているかのようだった。

 

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、更識、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!―――それと、篠ノ之も来い」

 

「はい!」

 

妙に気合いの入った返事をしたのは、今し方俺の隣に降りてきた箒だった。やけに自信満々と言わんばかりの表情していた………。正直俺には不安しかない。

 

(嫌な予感、的中か………大丈夫なのか?)

 

俺はこの特殊任務が自分にとって大きな出来事になるとは……この時はまだ思い付かなかった。

 

――――――――――――

 

「では、現状を説明する」

 

旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間では、俺達専用機持ち全員と教師陣が集められた。照明を落とした薄暗い室内に、ポウッと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

千冬姉の説明に俺の顔が強張った。マジかよ……軍用ISの暴走とはな……。周りを見ると全員が厳しい顔付きになっている。

簪も普段とは違う表情をしているから少し戸惑いを感じてしまう。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過する事がわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処する事となった」

 

淡々と続ける千冬姉。その次の言葉はある意味予想していたかもしれない。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

やっぱりか……軍用ISがどれくらいかわからないのに俺達で止めるしかないだ。

 

「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」

 

「はい、目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これらは2か国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

 

「了解しました」

 

セシリアをはじめ代表候補生の面々と教師陣は開示されたデータを元に相談を始める。

 

福音は広域殲滅を目的とした特殊射撃型、セシリアのブルー・ティアーズと同じオールレンジ攻撃が出来る上に機動力もあり、一部未知数もある、か……。

 

しかも、偵察が出来ずアプローチが一回しかないとの事。

 

「一回きりのチャンス……という事はやはり、一撃必殺を持った機体で当たるしかありませんね」

 

山田先生の言葉に全員の視線が俺に集まる。

 

「なるほどな……俺の出番か……ただエネルギーを温存したいから移動手段が欲しいところだ」

 

「しかも、目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

「それならわたくしのブルー・ティアーズが最適です。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度センサーもついています」

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

 

「20時間です」

 

「ふむ……。それならば適任――」

 

だな、と言おうとしていた千冬姉を、いきなり底抜けに明るい声が遮る。

 

「待った待―った。その作戦はちょっと待ったなんだよ〜!」

 

しかも、声の発生源は何処かと言うと、天井からだ。全員が見上げると、部屋のど真ん中の天井から束さんの首が逆さに生えていた。

 

「……山田先生、室外への強制退去を」

 

「えっ!?は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りて来てください……」

 

「とうっ★」

 

くるりんと空中で一回転して着地。その軽やかな身のこなしはサーカスのピエロも顔負けだ。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

 

「……出て行け」

 

頭を押さえる千冬姉。山田先生は言われた通り束さんを室外に連れて行こうとするが、するりとかわされてしまう。

 

「聞いて聞いて!ここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」

 

「なに?」

 

「紅椿のスペックデータ見てみて!パッケージなんか無くても超高速機動が出来るんだよ!」

 

束さんの言葉に応えるように数枚のディスプレイが千冬姉を囲むようにして現れる。

 

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ!これでスピードはばっちり!」

 

そう言い束さんは千冬姉の隣に立って説明を始めた。聞けば紅椿は第四世代型ISであり、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能との事か………それを使いこなせればかなりのスペックを引き出せる事になるがそれは操縦者次第だな……。

 

ただ、白騎士事件に話題が変わると千冬姉の表情が変わっていた事に気付いた。何か関係しているのか?

 

「話を戻すぞ。………束、紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」

 

「お、織斑先生!?」

 

驚いた声をあげたのはセシリアだった。専用機持ちの中でも高機動パッケージを持っているのが自分だけだった為、当然作戦に参加出来るものと思っていたらしい。

 

「わ、わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功してみせますわ!」

 

「そのパッケージは量子変換してあるのか?」

 

「そ、それは……まだですが……」

 

「どれくらいかかる?」

 

「1時間、いえ30分もあれば終わらせる事が出来ますわ」

 

「ちなみに紅椿の調整時間は7分もあれば余裕だね★」

 

「そうか……」

 

千冬姉は腕を組んだまま少しだけ思考し。

 

「よし。では本作戦では織斑・オルコットの両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。そしてサポートには更識にも同行してもらう。作戦は1時間後。各員、直ちに準備にかかれ」

 

「なっ!?」

 

「え―っ!?」

 

千冬姉の作戦を聞いて、束さんと箒は不満の声をあげる。

 

「ちーちゃん、聞いてた?ここは紅椿の出番だよ!」

 

「そうです!私と紅椿ならやれます!」

 

「黙れ。今回の作戦は危険だ。私は堅実に行く、来たばかりの専用機を使いこなせないやつを最初から作戦の頭には入れてはいない。ここで待機していろ」

 

千冬姉は束さんと箒の抗議を気にせずに言い返す。

 

「な、なら私を呼んだのですか!?」

 

「決まっているだろう。お前の性格からして勝手に出撃して混乱させるのがオチだ。そうならない為の監視だ」

 

「ぐっ………」

 

千冬姉に睨まれながら言われて箒は言葉に詰まる。こちらとしては箒が出ない方が成功率は上がりそうだ。すでに教師陣はバックアップをしようと行動している。

 

 

 

「ふう……思ったより早く出来ましたわ。ありがとうございます。簪さん、一夏さん」

 

俺達はセシリアのパッケージを量子変換を早く終わらせようと簪が手伝いを申し出た。

 

「ううん。たいした事ないよ」

 

「ほとんど簪が終わらせたんだ大したことないさ」

 

簪とセシリアだけではと思い、俺もサポートを願い出て一緒に作業する事にした。

 

「とりあえず作戦は立てられそうだな」

 

「うん。ぶっつけ本番よりはましかもね……」

 

「任されたのですから、しっかり準備はしておきましょう」

 

俺達は福音についてどうアプローチするかやサポートについて話し合う事にした。この特殊任務は成功させないとな………。

 

そうこうしている内に作戦時間が近付いて来て指定の場所に行こうとしたら。

 

「お前達、ここにいたか……」

 

その前に千冬がやって来たが様子がおかしい事に気付いた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「まずはお前達には謝らなけれならない………本当にすまない」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

「急遽、作戦が変更になった」

 

「「「ええっ!?」」」

 

千冬姉の言葉に俺達は驚く。作戦変更って、まさか!?

 

「俺と篠ノ之さんでやるって事ですか?」

 

「そうだ……」

 

「そんな!?どうしてですか!」

 

セシリアは悲鳴に近い形で千冬姉に問い詰める。

 

「あのバカがやらかしたのだ……上層部を揺さぶって強引に作戦変更を余儀なくされた……」

 

「あのバカって、篠ノ之博士ですか?」

 

「そうだ………クッ!」

 

 

簪の言葉に千冬姉は頷き近くの壁をガンと殴った。内心怒りで一杯なのだろう……俺も怒りを感じている。

 

「せっかく作戦の準備をしてくれたのに振り回す形にしてしまった事は本当にすまない………申し訳ない」

 

そう言って俺達に頭を下げる千冬姉に誰も不満の声を出すのはいなかった。

 

――――――――――――

 

時刻は十一時半。砂浜で俺と箒は大きく距離を離して並んで立つ。

 

「………白式」

 

「いくぞ紅椿」

 

箒はこちらを見たが目を合わせるつもりはない。お互いにISアーマーを展開させた。

 

(何でこうなるんだか……)

 

隣の箒をちらりと見るとすでに浮かれていて、本当に不安しかない。

 

「どうした?緊張しているのか?安心しろ、私がちゃんとお前を運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

「………」

 

白々しい………そう言いたくなるがそこは堪えた。束さんにお膳立てされての任務同行される身になれよ!と怒りたくなる。

仕方ないので箒の背中に乗った。

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

ISのオープン・チャネルから千冬姉の声が聞こえる。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ』

 

「了解」

 

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『そうだな。だが無理はするな。お前はその専用機を使い始めてから実戦経験は皆無だ。突然、何かしらの問題が出るとも限らない』

 

「わかりました。出来る範囲で支援をします」

 

出来る範囲ねえ……、箒はそう言うが浮わついた感じは抜けてはいない。

 

『――織斑、いや一夏』

 

「はい」

 

今し方使っていたオープン・チャネルではなくプライベート・チャネルに切り替わって千冬姉の声が聞こえた。

 

『どうも篠ノ之は浮かれているな。あんな状態では何かを仕損じるかもしれん。用心していけ』

 

「わかりました」

 

『それから、無理だと思ったら直ぐに引け。最悪、篠ノ之を盾か囮にしても構わん、無事に帰ってこい』

 

「教師がそんな事言っていいのかよ?」

 

『知るか。あのバカが勝手にやった事だ。それにあいつ(箒)に何かあれば助けるはずだ。問題ない』

 

「ああ、わかった」

 

それからまた千冬姉の声がオープンに切り替わり、号令をかけた。

 

『では、はじめ!』

 

――作戦開始。

 

箒は俺を背に乗せたまま、一気に上空三百メートルまで飛翔し、福音目掛けて加速した。

 

(………やるしか、ないな!)

 

相手が誰であれこのままではいけないよな。必ず成功させる。そう心の中で決意した。

 

――――――――――――

 

「はあ………」

 

別室で待機していた簪は待っている間。不安でため息がもれる。

 

「簪さん……」

 

「セシリア……一夏、大丈夫だよね……」

 

「不安要素はありますが……多分大丈夫だとおもいますわ」

 

「そう……」

 

セシリアの言葉に相槌をうつ簪。この部屋には簪とセシリアしかいない。

 

(一夏………無事に帰ってきて)

 

簪は不安で胸中穏やかではないがセシリアはその事に気付き、話し掛けて不安を少しでもまぎらわせようとしていた。

 

「さ、更識さん!オルコットさん!」

 

息をきらせた真耶が二人の前にやってきた。

 

「山田先生、どうなさいました?」

 

「お、織斑君が!織斑君が!」

 

「一夏がどうしたんですか?」

 

「先程の任務に失敗して織斑君は撃墜されました……」

 

「えっ……」

 

「そんな……」

 

真耶の言葉にセシリアはショックを受け、簪の表情はみるみる青ざめていく。

 

「そ、それで一夏さんの様子は?」

 

いち早くショックから立ち直ったセシリアは真耶に質問した。

 

「福音の攻撃を受けて大きなやけどを負って重症です……」

 

「………」

 

「簪さん!?」

 

ふらりと倒れそうなる簪を慌ててセシリアは抱き起こす。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「だ、大……丈……夫…」

 

セシリアの問いかけに簪は何とか返事をするがショックが大きくて受け入れられない状態だ。

 

特殊任務は失敗。織斑一夏の撃墜という大きな痛手を負ってしまうのだった。




一夏撃墜の戦闘は次話になります
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