織斑一夏の恋物語   作:夜光華

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お待たせしました。更新します。福音戦までいけませんでした……戦闘描写がムズいな……。


第33話

「……一夏……」

 

旅館の一室。壁の時計は四時前を指している。ベッドに横たわる一夏は、もう三時間以上も目覚めないままだった。

その傍らに控えている簪は、一夏の手を握りずっと目覚めるのを待ち続けている。

 

「簪さん……」

 

「かんちゃん……」

 

その簪の側で心配そうに彼女の様子を見詰めるセシリアと本音。本来なら本音は一般生徒であり、ここにいてはいけないのだが千冬が特別に許可をした。

 

「一夏………」

 

簪は呼び掛けるように一夏に呟いた。今にも目覚めて笑ってくれる訳ではなく。ただ力なく横たわっているだけだ。ISの防御機能を貫通して人体に届いた熱波に焼かれ、一夏の体の至る所に包帯が巻かれている。

 

(どうして……、どうしてなの……)

 

簪は箒に対する怒りが再び沸き上がっていた。先程、真耶から一夏の撃墜を告げられて一夏の容態をその目で確かめる為に逸る気持ちを抑えながら駆け付けると教師陣から引き揚げられて、項垂れている箒と大怪我を負った一夏を見て簪の怒りが爆発した。

 

「……貴女が!貴女がっ!!」

 

「ひっ……」

 

簪は箒の胸ぐらを掴み、拳を振り上げて殴ろうとしたが―

 

「更識!やめろ!!」

 

二人の間に入り、簪の拳を止めたのは何と千冬だった。

 

「止めないでください!」

 

「落ち着け、こいつを殴っても何も変わらん。冷静になれ!」

 

尚も箒を殴りかかろうとする簪を必死に止める千冬。本当なら千冬が真っ先に殴りたいが簪の怒りで冷静になれた。

 

「それでも!私はっ!」

 

「気持ちはわかる!それで織斑が元に戻る訳がないだろう!」

 

「―ですが!」

 

「作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまで各自待機しろ。山田先生、篠ノ之を別室に連れていけ。そいつは次の招集まで謹慎処分にする」

 

「は、はいっ!わかりました」

 

真耶は千冬に言われて箒を連れていく。教師陣や他のメンバーが散り散りになり、一夏は治療の為すでにいない。そして残ったのは千冬と簪の二人だけになった。

 

「落ち着いたか?」

 

「千冬さん……」

 

「簪、すまないがお前は一夏のそばにいてくれ。私にはやる事がある、この意味はわかるな」

 

「はい……」

 

「頼んだぞ」

 

千冬は簪の肩をポンと叩き作戦室へ向かっていく、簪は涙を流して頭を下げ、そして一夏の元へ向かうのだった。

 

――――――――――――

 

「………」

 

ところ変わってIS学園。虚は廊下を歩いて生徒会室に戻るところである。しかし表情は暗い。

 

(まさか、一夏さんが……)

 

先程、放送で呼び出されて学園長室に向かい学園長から一夏の撃墜を聞かされた虚はショックを受けたが直ぐに立て直した。

 

(嫌な役回りを受けてしまいました……)

 

本当ならば楯無が呼び出されるはずだがこの事を聞かされればどうなるかわからない為、虚に伝達役を頼んだのだ。

 

(悩んでいても仕方ありませんね……)

 

こういう時の従者の立場と役回りに、内心嫌になるが逃げても変わらない為やるしかない。

 

ガチャ

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり虚ちゃん」

 

生徒会室に入ると書類とにらめっこしながら仕事をしている楯無が出迎える。

 

「お嬢様、大事なお話があります。落ち着いて聞いてください」

 

「ど、どうしたの?怖い顔してるけど何かあった?」

 

「一夏さんが……撃墜されました……」

 

「えっ……?」

 

虚の言葉に楯無は持っていたら書類を手放した。

 

「な、何で…どうして…?」

 

「先程、特殊任務を失敗し一夏さんは撃墜。大やけどを負う重症だそうです」

 

「そんな……嘘……」

 

虚の言葉にショックを受けて楯無の顔はみるみる青ざめていく、その表情から信じる事が出来ずにいた。

 

「っ!」

 

「お嬢様、何処へ行くのですか?」

 

生徒会室から出ようとしている楯無を虚は止める。

 

「決まってるでしょ!一夏君と簪ちゃんのところよ!」

 

「お嬢様、まだ招集の知らせは来ていません。それに残念ながらここから出る事は出来ません」

 

「どうして!?」

 

「先程、IS学園外から不穏な動きを感知したとの知らせを受けました。お嬢様には警戒してもらいたいと学園長からの通達です」

 

「そんな!?学園には教師達がいるのに何で!!」

 

「それが更識家の務めです。私情で放棄する事はこの学園を危険にさらし、一般生徒に被害が及びます。それをお嬢様は見捨てるのですか?」

 

「そ、それは……」

 

「どうしても行きたいのでしたら止めません。ですが一夏さん達のところに行けば、お嬢様は学園の護衛を放棄したとみなされますし。そのせいで一般生徒達に危害が加わればどう責任を取るおつもりですか?」

 

「そんな……ひどい……」

 

虚の言葉に楯無は力なく座り込んだ。

 

「そんな事言われたら……行けないじゃない……ううっ……」

 

苦しい選択肢を迫られてどうにも出来ずに楯無は泣き出した。

 

「どうして……どうして、私の大事な人達を助ける為に駆け付ける事が出来ないの?……どうして……」

 

「お嬢様……」

 

「これじゃ、何の為の“楯無”よ!私はこんなつもりで受け継いだ訳じゃないのよ!なのに……なのに……!」

 

床に手を着き、俯き出して泣くしか出来ない楯無。

 

(私は嫌な女ですね……本当はいかせてあげたいのですが……)

 

虚は楯無の姿に心が痛んだがしかし、この学園の護衛を疎かに出来ないのも事実だけにどうにも出来ない。虚は楯無に声を掛けようとした、その時―

 

〜♪〜♪

 

楯無の携帯から着信音が鳴り出す。

 

「………はい、更識です。………千冬さん!?」

 

手で涙を拭い携帯に出ると掛けた相手は千冬だった。

 

「……は、はい。私は大丈夫です……それよりも一夏君は!一夏君は大丈夫なんですか!?………そ、そうですか……はい、はい…わかりました。こちらは私がやります……ですから千冬さんは簪ちゃんと一夏君をお願いします………では、失礼します」

 

楯無は電話を切り、ほうと息を吐いた。

 

「お嬢様、千冬さんは何と言ってましたか?」

 

「一夏君は重症だけど命には別状はないって、学園はお前に任せるからこちらは私に任せろって言ってたわ」

 

「そうでしたか」

 

「私はやるべき事をやるわ。千冬さんを信じて帰りを待つ事にする」

 

そう口にする楯無、その瞳には強い意思が感じられる。

 

(千冬さん……ありがとうございます)

 

虚は千冬に感謝した。自分ではここまで励ます事が出来たかわからないからだ。

 

(お願いします。皆さんどうかご無事で)

 

虚は一夏達がIS学園に帰ってくる事を祈りつつ仕事を再開するのだった。

 

――――――――――――

 

「……ふう」

 

千冬は携帯をポケットにしまい一息ついた。

 

(やっぱり、動揺していたか……仕方ないか……)

 

千冬は学園から一夏撃墜の知らせを聞かされて動揺する事は確実だろうと考え、気持ちを落ち着かせようと楯無に連絡を入れたのが幸いした。

 

(……にしても)

 

千冬は白式と紅椿からの戦歴データを見詰めた。

 

――――――――――――

 

「見えたぞ、一夏!」

 

「!!」

 

ハイパーセンサーの視覚情報が自分の感覚の様に目標を映し出す。『銀の福音』はその名にふさわしく全身が銀色をしている。そして何より異質なのが、頭部から生えた一対の巨大な翼だ。本体同様銀色に輝くそれは、資料によると大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型システムだそうだ。

 

「加速するぞ!目標に接触するのは10秒後だ。一夏、集中しろ!」

 

「わかった!」

 

スラスターと展開装甲の出力をさらに上げる箒。その速度は凄まじく、高速で飛翔する福音との距離をぐんぐんと縮めていく。

 

「うおおおっ!」

 

俺は雪片を握りしめて瞬時加速を行い間合いを一気に詰める。

 

(決める!)

 

居合いの刃が銀の福音に触れる、その瞬間。

 

「何っ!?」

 

福音は、最高速度のままこちらに反転、後退の姿で身構えた。

 

(くっ、気付かれたか?だが押し切る!)

 

嫌な予感を感じさせつつも、自分の間合いだけに決めてしまおうと判断したが―

 

「敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘》、稼働開始」

 

オープン・チャネルから聞こえたのは抑揚のない機械音声だった。けれど、そこに明らかな『敵意』を感じた。

 

―だが、決めてみせる!

 

ぐりん、と。いきなり福音が体を一回転させ、俺の居合いを避けようとするが、その前に俺の太刀が福音を斬り裂いた。

 

「!?!?!?」

 

当たったと思っていたが福音はまだ動いている。

 

「浅かったか………」

 

どうやら福音はとっさにダメージを減らす様に動いたのだろう。ここまで精密な動きをするとは思わなかった。改めて軍事用のISの性能に驚くしかなかった。

 

「一夏!援護するぞ!」

 

俺の攻撃を見て、やれると思ったのか箒は俺を背中に乗せて再び福音にアタックする。

 

「ちっ……」

 

しかし、攻撃は当たるものの最小限のダメージしか与えていない上にこちらには限界が近付いてきている。

 

(このままじゃじり貧だな………)

 

福音は逃げているばかりではなく、攻撃をしてくるがこれもやっかいだ。当たれば一斉に爆ぜる上に速射速度がかなり速い………。

 

(そろそろヤバイな……退くか?)

 

俺と箒のエネルギーは減っているし、残り時間も少なくなっている。ここで無理はしない方がいい、やれるだけはやったと割り切ろうとした。

 

その時―

 

「なっ!?」

 

俺は白式からパイパーセンサーから伝えられた情報で海面を見ると―

 

「船!?何でこんな所に!」

 

そう、先生達が封鎖したはずなのに俺達の近くに船があった。まさか、密漁船か!?

 

「織斑先生、大変です!」

 

俺は素早く千冬姉に通信を繋いだ。

 

『どうした?何があった?』

 

「非常事態です。俺達の近くに船がいます」

 

『何だと!?海上は教師達が封鎖してたはずだぞ!』

 

「わかりません。恐らくは密漁船かと思われます」

 

『くっ……作戦は中止だ。お前達は密漁船を護衛しろ。今、教師達を向かわせる』

 

「わかりました」

 

千冬姉の指示に従い俺は密漁船に向かうが―。

 

「はあああっ!」

 

「なっ!?」

 

千冬姉の指示に従わずに箒は二刀流を繰り出して、福音に斬りかかる。

 

「何してるんだ!千冬姉の指示を聞いてなかったのかよ!?」

 

「うるさい!そんな犯罪者など放っておけばいい!」

 

俺は箒に向かってそう叫ぶが箒は耳を貸さない。

 

「アホか!ちゃんと指示に従え!さっさと戻ってこい!」

 

「ふん!一夏はここで見ていろ!福音は私がやる!」

 

俺の言葉を振り切り、箒は福音に猛攻を仕掛けていく。

 

「La……!」

 

福音も紅椿の攻撃に防御し出したが徐々にかわしだした。

 

「くそっ!なぜ当たらない!?」

 

箒は福音に避けられ続けてイライラし出した。いくら機体の性能が良くても操縦者が良くなければ宝の持ち腐れだ。

 

「だあっ!くそっ!」

 

しかも、その余波がこっちにやってくる。福音から出される光弾をかき消したり腕や脚の装甲で受けたりして密漁船を守っていた。

 

「このままじゃ、もたねえ………」

 

すでにエネルギー切れに近い状態になりつつありこれ以上喰らえば確実にヤバイ。密漁船に逃げる様に指示を出してもこの状態ではさすがに無理だ。

 

「ぐあっ!」

 

箒の苦痛の声で顔を向けると福音の攻撃を喰らい吹き飛ばされる紅椿だった。

 

「嘘だろ……」

 

吹き飛ばされた先は密漁船、当たれば無事では済まない。

 

「La……!」

 

しかも、最悪な事に福音は箒にとどめを刺そうと一斉射撃開始し、発射した。

 

「間に合えぇぇぇっ!!」

 

俺は瞬間加速を使い、一直線に箒へと向かう。このままでは密漁船と箒が危ない上に無事では済まない事はわかっていた。だがここで見殺しにする訳にはいかない。

 

「うおおおっ!!」

 

俺は勢いのまま箒を蹴飛ばして福音と密漁船の間に入った。

 

「ぐあああっ!!」

 

咄嗟に腕をクロスして顔を守ったがそれも無意味だった。爆発光弾が一斉に俺の全身に降り注いだ。エネルギーシールドで相殺仕切れない程の衝撃が何十発と続き、ミシミシと骨があげる軋みが聞こえる。同様に悲鳴を上げる筋肉、アーマーが破壊され、熱波で肌が焼けていく。

 

(密漁船は無事か……何とか守れたな……)

 

気が狂いそうな激痛を受けながら無傷で逃げていく密漁船を見て、思わず笑みがこぼれる。

 

「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」

 

泣きながら俺にやってくる箒を見て、ぐらりと世界が傾く。

 

――はは、もう限界か……。恨みますよ束さん……

 

海へ真っ逆さまに落ちていく中、俺はこんなふざけた作戦を立てた束さんに悪態つきつつ、気を失った。

 

――――――――――――

 

ダン!

 

千冬は戦歴データを何度も見返してテーブルを叩いた。

 

(………ふざけた事を!)

 

千冬は怒りに震えていた。密漁船に気付かずに作戦区域に侵入を許した教師達、自分の指示に従わずに勝手な行動を取った箒、そしてこんな状況で何も出来ない自分自身に腹が立っていた。

 

(………こんな時に“暮桜”があれば……)

 

千冬はかつての愛機を思い返すが、とある事情で使用出来ない。かと言って自分が出て指揮を放棄する訳にはいかない。

 

(一夏……すまない)

 

千冬はグッと拳を握りしめて自分の弟に謝る。こんな事態を起こした事を悔いるしか出来なかったが――。

 

「お、おお、織斑先生!織斑先生!」

 

「どうした?山田先生」

 

「た、大変です!篠ノ之さん達が―」

 

そんな時間すら嘲笑うかのように慌ててやって来た真耶の知らせで再び千冬は頭を悩ます事になる。

 

――――――――――――

 

「……一夏………」

 

 

簪はいつ目覚めるか知らずに手を握り、一夏に呼び掛けている。隣には食事を用意していたが一切手を着けずにいたままである。

 

「「…………」」

 

そんな簪の様子を見ながら、何も出来ずに見守るしか出来ない本音とセシリア。

ついさっき、教師達が持ってきた食事を食べていたが、簪が何も食べずに一夏に寄り添う姿に全く味気すら感じなかった。しかし、セシリアはいつ来るかわからない招集の為に備えて万全にしていた。

 

「オルコット!いるか!?」

 

戸を開けると同時にやって来たのは千冬だ。

 

「織斑先生、どうなさいました?」

 

「すまないが緊急事態だ。直ちに出撃してくれ」

 

「な、何があったんですか?」

 

千冬の表情と出撃命令に思わずセシリアの表情は強張った。

 

「先程、篠ノ之、凰、デュノア、ボーデヴィッヒが無断で出撃したのだ」

 

「ええっ!?一体何があったんですか?」

 

「わからん。恐らくは織斑の敵討ちて意気込んで独自行動をとったのかもしれん」

 

「何を考えてますの、あの方達は………」

 

千冬から聞かせられた理由にセシリアは呆れてしまう。いくら勇ましい行動でも自分達の今の立場からすればただでは済まないポジションだと言う事を無視したのだから思わずため息が出てしまう。

 

「だから、オルコットにはアイツらを連れ戻して欲しい。可能ならば福音を撃墜しても構わんが、命令違反組を連れ戻す事を最優先にして欲しい」

 

「わかりました。セシリア・オルコット、任務開始します」

 

千冬に向かって力強く宣言して任務に向かおうとしたが―。

 

「………待って!私も行きます!」

 

そんなセシリアを止めようと待ったを掛ける簪。

 

「簪さん……」

 

「更識………」

 

「織斑先生、セシリア一人ではこの任務は大変です。私も一緒に行かせてください!」

 

簪は千冬の前に立ち、同行の許可を取るべく向き合う

 

「たが、お前は……」

 

「大丈夫です。私も代表候補生覚悟は出来ています」

 

千冬は一夏の事で不安になっている心情を察して、同行を渋るが簪は力強い瞳で千冬を見詰める。

 

(……これ以上は無理か……)

 

簪の表情から説得しても無理だと千冬はわかった。彼女も更識家の人間、纏うものが変わったのを肌で感じた。

 

「わかった。オルコット、更識の二人で命令違反組を連れ戻して貰う。それでいいな?」

 

「「はい!」」

 

「よし!ではいくぞ」

 

そう言い、千冬は先に部屋を出ていった。

 

「かんちゃん」

 

「本音、一夏をお願い」

 

「うん。わかった」

 

「じゃあ、行ってくるね一夏」

 

簪はそう言い一夏にキスして、素早く用意していた食事を平らげて部屋を後にした。

 

(一夏さん……)

 

セシリアも続いて部屋を出ようとしたが一度足を止めた。

 

(わたくしが簪さんをお守りしますわ。ですから一夏さんは早く目を覚まして安心させてください)

 

セシリアはそう心の中で言い、二人の後を追っていくのだった。

 

――――――――――――

 

ざぁ……。ざぁぁん……。

 

(ここは……?)

 

遠くから聞こえる波の音に誘われるまま、俺はどこともつかぬ砂浜の上を一人歩いていた。足を進めるたび、さく、さく、と足下の白砂が澄んだ音を立てる。

足の裏に直接感じる砂の感触と熱気。海から届く潮の匂いと波の音。それに心地よい涼風と、じりじりと照りつける太陽。

 

(夏………なのか?今は……)

 

ここがどこで、今がいつなのかわからない。

俺は何故か制服を着ていて、そのズボンの裾を折り返した状態で素足のまま砂浜を歩いていた。手には、いつ脱いだのか靴がある。

 

「――。―――♪〜♪」

 

ふと、歌声が聞こえた。とてもきれいで、とても元気な、その歌声。俺は無性に気になって、声の方へと足を進める。

 

さくさく。さくさくと。足下の砂が軽快に鳴る。

 

「ラ、ラ〜♪ラララ♪」

 

少女は、そこにいた。波打ち際、わずかにつま先を濡らしながら、その子は踊るように歌い、謡うように躍る。その度に揺れる白い髪。輝き、眩いほどの白色。それと同じワンピースが、風に撫でられて時折ふわりと膨らんでは舞った。

 

(ふむ………)

 

俺は何故だか声をかけようとは思わず、近くにあった流木へと腰を下ろす。その木はずいぶん前に打ち上げられたのか、樹皮は剥げ落ち、色も真っ白になっていた。白いいびつなソファーに座って、俺はぼーっと少女を見つめた。

ざあざあと波の音が聞こえる。時折吹く風は心地よくて、俺はただただぼんやりと目の前の光景を眺めた。

 

(あれ?何かあったっけな…………?)

 

俺は何故ここにいるのか?あの後どうなったのか?を思い出す事が出来ずにただただ少女の歌と踊りに見いられていた。




次話は福音戦、長くなるかな?
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