【本編完結】銀髪幼児体型でクーデレな自動人形《オートスコアラー》が所属する特異災害対策機動部二課   作:ルピーの指輪

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記憶喪失、そしてオートスコアラー

「あら、随分と可愛らしい姿になってるじゃない。もしかして、あなたの趣味かしら?」

 

 鏡の前には白い肌の銀髪の少女の人形が突っ立っている。これが自分の姿だと認識したとき、あたしは酔狂な実験を成功させた白髪の大馬鹿者に話しかけた。

 様々な器具のある白い部屋に何人もの白衣を身に着けた男女があたしを興味深そうに見ている。

 

 

「ははっ、目覚めて最初のセリフがそれか? 相変わらずだな、フィリア。調子はどうだい?」

 

「調子? 調子って、人形にされた調子ってこと? こんなことを最初に言いたくなかったけど失敗よ。あたしは全部忘れちゃったもの。あなたが馬鹿な男であたしを人形にした張本人ってこと以外。ふーん、あたしってフィリアという名前なのね」

 

 これは本当のことだ。あたしは記憶というものをほとんど無くしてしまっていた。

 だから、あたしは何者なのか、目の前にいる彼は何者なのか、そしてなぜこのような姿にされたのかも覚えていない。

 目の前の白髪の男だけはどうも強烈な印象だったらしく馬鹿な男だということと、あたしをこの姿にした主犯だということだけは何となく覚えていたのだ。

 

 さらに眠りにつく前にあたしは実験で人形にされるって認識をしていたことも覚えている。

 だから、関節の部分に継ぎ目のあるこの身体は自分の体で、あたしの意識をコレに埋め込まれたということだけは目覚めてすぐに推測できた。

 

 この人形の容姿は小学校高学年くらいに見える。ボブヘアカットの銀髪に琥珀色の瞳はおそらくうろ覚えだけど、人間だったときのままだ。

 

 驚いたのは、五感は人間のときとあまり変わったような感覚はないことだ。視覚も聴覚も嗅覚も触覚も……おそらく味覚もそうだろう。

 

 だから、この姿を見るまで自分が人形だってことに気付かなかった。長い眠りから覚めたような感覚だったのだ。

 

 

「そうか、記憶がないのか。それじゃあ教えよう! 僕の生命力を注ぎ込んで君は完全体の自動人形(オートスコアラー)になったのだ! すべての災厄を払う光となる為に! 人間と人形の中間の存在になることで、君は完全な存在になった! 君の使命は僕を英雄にすることだぁぁぁ! そして、僕は君のマスターぁぁぁ! 天才錬金術師ぃぃぃ――。がはっ――なぜだぁぁぁぁ!?」

 

 そこまで叫んだ彼はあたしの目の前で真っ黒な炭になる。突如現れた奇怪な生物に押しつぶされることによって……。

 

 何が起こったのか理解できないが彼が死んだことは理解できた。彼がやはり大馬鹿者だということも……。

 

 最期に錬金術師とか言ってたけど、あたしはそんな訳のわからない力でこんな姿にされたのだろうか?

 

 

 

 しかし、困ったことになった。目の前で人間が炭になるという現象。そして、それを引き起こした奇っ怪な姿をした生き物。

 人に触れて次から次へとその人間を触れた場所から炭に変質させていた。

 それも、一体だけではない。この部屋にはすでに五体ほどの奇怪な生物が侵入していた。

 

 

 この現象についても以前は知っていたのかもしれないが、まったく思い出せない。

 ただ、周りの人間が次々と消えていくのと、奇っ怪な生物を見ると胸の中が熱くなって仕方がなかった。

 

 

 

“Code:ミラージュ・クイーン――人類の敵を滅ぼす光――”

 

 その熱さに耐えきれなくなったとき、あたしの頭にあるワードが浮かび上がってきた。

 

「コード、ミラージュ、クイーン?」

 

 思わずその言葉を呟く――。

 

「くっ、なんだって言うの……、胸が……、身体が……」

 

 すると、あたしの身体は灼熱の業火に焼かれたように熱くなり、胸の中から銀色の筒状のものが出てきた。

 

「何よ……、これ……」

 

 銀色の筒を見つめながら言葉が溢れる。

 あたしは自分の身に起こったことが理解できないでいた。ただ一つ、自分がやはり人間ではなくなったことだけは、実感した。

 そして、さっきまで無感動だった自分に人間を助けなくてはという気持ちが沸き上がって来たのだ。

 

「助けてぇぇぇ」

「うわぁぁぁ」

「嫌だよぉぉぉ」

 

 誰かが爆弾を使ったのか、壁に大きな穴が空き、隣の部屋には泣きわめく幼い子供たちがいた。

 さらに、そこにも奇怪な生き物たちは進行していく。

 その光景を見て私は無意識に銀色の筒を握る。何の意味があるのかわからなかったけど……。

 

“じっ、人類の敵……、滅ぼすべき……”

 

 筒を握ると、また頭に変な声が流れる。そして、その刹那、筒からは銀に輝く光の刃が出現した。

 

「また、随分と悪趣味ね……」

 

 そんなことを呟きながら、あたしは走る。人形になった影響なのかわからないが、スピードは人間の限界を遥かに凌駕する上に疲れない。

 

「この刃が人類の敵を滅ぼすというのなら……」

 

 あたしの意思に呼応して、ひとすじの閃光が人類の敵を両断した――。

 

「これがあたしが創られた理由? 本当に悪趣味じゃない……。バカみたい……」

 

 妙な虚無感に襲われつつ、私は奇怪な生き物を駆逐することを決めて、部屋の外に出た。

 白い通路に銃火器の音が響き渡り、不愉快な絶叫が鼓膜を揺らす。

 

 この人形のような身体を晒すのは耐えられなかったので、途中でベッドのシーツを適当に千切って身体に羽織ることにした。

 

 ここがどこなのか、この生き物の目的も何もわからない。ただ、頭の中の声に従って閃光の刃を淡々と振っていた……。

 

 一体、二体、三体……。何なの、これ? きりがないわね……。

 

 そんなことを思っていると、目の前に出口と人だかり見えてきた。

 

 ふぅ、ようやく終わりかしら。さっきまで全く疲れなかったのに、ちょっとだけ身体がだるくなってきた気がするわ。

 

「ダメだ!」

「逃げられないっ!」

「くそっ!」

 

 しかし、出口付近の人たちは我先にとこちらの方に必死の形相で駆けて来る。

 

「そういうこと……、逃げ場を封じて来たというわけね」

 

 あたしはそんなことを呟きながら、走って出口から外に出る。

 

 案の定、外には大量の人類の敵という奇怪な生き物が蠢いていた。

 

「はぁ、掃除はあまり好きじゃないのよ……」

 

 ため息をついて、あたしは意識的にスピードを上げる。

 音が置き去りにされたことから、音速を超えたことを理解する。

 銀色の閃光と化したあたしは縦横無尽に無差別に奇怪な生き物を屠っていく。

 

 そんな中、ふと少しだけ離れた場所から歌が聞こえた――。あたしは反射的にその方向を向く。

 

「あれは……、何かしら。へぇ、この生き物に対抗する手段は他にもあったのね……」

 

 私は少しだけ離れた位置でオレンジ色の鎧のようなものをつけた赤い髪の少女と、白と青の鎧のようなものを身に着けた青い髪の少女が、それぞれ、槍と剣を使って人類の敵を仕留めている様子を目にした。

 歌いながら舞うように戦う姿は幻想的に見えた。

 

「あたしのミラージュクイーン(これ)とは似てるけど違うみたい。火力も向こうの方が強いわ」

 

 あたしの銀色の筒(ミラージュクイーン)は射程も短いし、一撃で一体を切り裂くことしかできない。

 

 でも、彼女たちは実に多彩な攻撃方法で複数の敵を一掃している。歌は何かに関係しているのかしら?

 

 なんだ、あんな強いのがいるなら、あたしなんていらないじゃない。

 

 

 そう思っていたら、オレンジの髪の子が急に苦しみだして鎧が消え去り倒れてしまった。そして、そこにあの生き物が彼女に襲いかかる。

 

 まさか、制限時間付き? 青髪の子も助けようとしてるけど、あのスピードじゃ追いつけないんじゃない?

 

「……仕方ないわね」

 

 私は最高速度であろうスピードで燃えるような赤い髪の少女に肉薄し、奇怪な生き物を両断する。そして、彼女を抱きかかえて、戦場から距離を取る。

 

 

「えっ、あたし……、助かったのか? なっ、何だお前は……」

 

 赤い髪の少女は驚いたような顔をして、あたしを見た。

 

「はぁ、やっぱりまだ子供じゃない。こんな子に戦わせるなんて……」

 

「ん……、子供って、お前の方が子供だろっ! って、何だその腕は?」

 

 あたしの言葉に反応して彼女は元気な反応を見せたが、私の左腕の部分を見てギョッとした顔をしていた。

 

 ああ、助けた拍子にシーツが千切れて人形の腕の部分が剥き出しになってしまっていたのか。

 普通はこんな姿見たら驚くに決まっている。

 

「驚かせちゃったわね。安心なさい、こんな姿でもあなたに危害を加えるつもりはないわ。立てるかしら?」

 

「ん、ああ。大丈夫だ」

 

 あたしはオレンジ色の髪の少女を地面に立たせて。あたしは残り少なくなった人類の敵を殲滅した――。

 

 

 どういうことかしら? 身体が動かなくなってきたわ……。まさか、あたしにも……、時間制限が……。

 

「あっ、あの、奏を助けてくれて、ありがとう」

 

 先ほどまで奇怪な生き物たちの殲滅に勤しんでいた青髪の少女があたしに話しかける。

 オレンジの髪の子は奏というのね。ちゃんと、お礼が言えるなんて偉いじゃない。

 

「礼には及ばないわ。感謝されるために助けたわけじゃ――」

 

 あたしがそう返事をしようとしたとき、目の前の景色が闇色に染まり――意識が深いところまで落とされてしまった。

 

 人形にされて、何もかも忘れて――訳もわからないうちに、こんな目に――まったく、やっぱりバカみたいじゃない――。




ミラージュ・クイーンはライトセイバーみたいな感じのイメージです。
自分の力を把握してないので、シンフォギア奏者に火力では劣りますが、オートスコアラーなので身体能力は若干勝っている感じです。
次回はフィリアの身体のことがいろいろとあの人に解明されます。

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