【本編完結】銀髪幼児体型でクーデレな自動人形《オートスコアラー》が所属する特異災害対策機動部二課 作:ルピーの指輪
それでは、よろしくお願いします!
「世界中に歌を届けて、フォニックゲインをここに集める。そして、月に向かってそれを照射するの。マリア、あなたにそのための歌ってほしいの」
「えっ? 私がここで歌うの? そんな、無理よ。無理無理……。だって、私ってこの前、あんなことをやってるのよ」
マリアは両手を振って泣きそうな顔で拒否をした。
ああ、これはダメなときのマリアだ……。この子って昔から急に勇ましくなったり、ヘタレになったりするのよね……。
「ええっ!? マリアさんって、すごく勇ましく“狼狽えるなっ”とか言ってましたよねー」
「うむ、世界中に向けて宣戦布告することに比べれば、歌う事など造作もないことだろう……」
響と翼はこのモードのマリアを初めて見るらしく、不思議そうな顔をしていた。
「言わないでー。それは、そうするしか無かったのよー。絶対に世界中で笑われるわ……。誰も私の歌なんか聞いてくれ……。パクッ」
あたしはこんなときの為に用意していた。フォアグラの缶詰を開けて、マリアの口に放り込んだ。
「モグモグ……。仕方ないわねっ! 世界の危機に恥も外聞も気にしないわっ! 最高の歌を全世界に届けてあげるっ!」
マリアの表情が嘘のようにキリッと凛とした表情に切り替わる。ポーズまで決めてるし、スターの風格があるわね……。
「相変わらず、リア姉はマリアの扱いが上手いデス」
「久しぶりにマリアの口に食べ物を放り込まれるところを見た……」
切歌と調は変なところで感心したような視線をあたしに送った。そんなところ、褒められても嬉しくないわよ……。
とにかく、高級食材の力が切れる前に歌ってもらわなきゃ。
「よし、全世界に中継を繋いだわ。頼んだわよ、マリア!」
あたしの言葉にマリアは意を決したように頷く。そして――彼女は話し出した。
「私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるために、フィーネの名を騙った者だ――」
マリアはこの世界で起きている災厄について説明をする。
「――パヴァリアの光明結社によって隠蔽されてきた。――事態の真相は政界、財界の一角を専有する――」
月の落下のこと、権力者が自分たちの為にそれをひた隠しにしていることを暴露するマリア。
「彼ら特権階級にとって、極めて不都合であり、不利益を――」
この説明が上手く通じると良いんだけど……。
「全てを偽ってきた私の言葉。どれほど届くか自信はない。 だが、歌が力になるというこの事実だけは信じて欲しい!」
力強く、歌の可能性を語り、マリアは聖詠を唱え始める。
「Granzizel bilfen gungnir zizzl……」
再びマリアは、ガングニールのギアを纏う。
「私一人の力では落下する月を受け止めきれない! だから力を貸して欲しい! 皆の歌を届けて欲しい!」
そして、歌姫と呼ばれた彼女は歌い出す。自らの想いを乗せて――。
「誰が為にこの声――♪ そして誰が為に――♪ もう何も失う――♪ 想いを重ねた――♪ 鼓動打つ――♪」
よし、これでフォニックゲインが集まれば――。
そう、思った矢先、あたしがフィーネと共に主導権を握った、フロンティアの管理権が半分奪われてしまう。
ウェル博士……、どこかで、まだ何か企んでいるの?
「おいっ? なんだ、この振動はっ!?」
「凄まじく、大きな何かが……、こちらに近付いてきてる……」
クリスと翼は大きな振動に反応して厳しい表情を作った。
どうやら、フロンティアのエネルギーを大量に持っていって、またネフィリムを暴れさせてるみたい……。芸がない奴ね……。
「ウェル博士はあたしから、この部屋のコントロールの主導権を奪えないと知って、ここの通信設備を物理的に破壊しようとしてる――。さっきのようにネフィリムを使って……。いや、これはさっきよりも数段強力な……」
あたしは現状で起こっていることをみんなに伝えた。
「なるほど、それでは防人の務めは――」
「デカブツをこっちに近づけなきゃ良いんだな?」
「マリアの歌を止めさせるわけにはいかない……」
「絶対にここを守るのデス!」
翼とクリス、そして、切歌と調はネフィリムを止めるために再びギアを纏って、部屋を出ていった。
「フィリアくん。しばらく響くんを頼めるか? オレはウェル博士を探し出して、ネフィリムを止めさせる」
弦十郎はウェル博士を探し出すために動くらしい。
「わかったわ。この下への道筋のマップを今出すから――」
「必要ないっ! 奮――っ!」
あたしの言葉を待たずに、弦十郎は聖遺物で出来た要塞であるフロンティアの床を素手で砕いて穴を開けた。
「いつ見ても、デタラメな力ね……。あなたがネフィリムを止める役割の方が良かったんじゃないかしら……?」
地割れの起こった床を見て、あたしはそう感想をこぼした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――と契れぇぇぇっ♪」
マリアは全力で歌を歌いきった……。確かにフォニックゲインは多少は集まったけど……。
全世界から集まったと言えるにはあまりにも少ない……。
「はあ、はあ……」
マリアは疲れた表情を見せている。せっかくやる気を出して歌ってくれたのに……。
「月の遺跡は依然として、起動してないわ」
「ぐっ……、私の歌は誰の命を救えないの?
セレナ……。ううっ……」
非情な現実にマリアは辛い表情を浮かべていた。
「うっ……、ああっ……」
「マリア、もう一回よ。月遺跡の再起動を、もう一回チャレンジしましょう」
「無理よ! 私の歌で世界を救うなんて!」
「マリア! もうこれしか手は無いのよ! あなたの歌には力がある。それを示してちょうだい!」
「ごめん、フィリア……。もう、私……」
高級食材で、一時的に強気になれたくらいじゃ、急場は無理だったか……。
「マリアさん、私はマリアさんの歌って、よくわからないけど、信念みたいなものが込められていてすっごくカッコいいと思いました。歌って不思議ですよね? 死にたいくらい辛くても、歌を聞くと生きるのを諦めたくなくなります。マリアさんの歌にもそんな力があると思うんです」
響は挫けているマリアに話しかけた。そういえば、響とマリアってほとんど話なんてしてないわよね……。
「融合症例……、いや、立花響か……」
「歌には特別な力があるって、みんなに知ってもらいましょう! 私も一緒に歌いますから!」
響はニコッと朗らかに笑って、マリアの肩に触れた。
そのとき、バチッとした音とともに、マリアのガングニール一部が響の体に吸い付くように、装着された……。
バカな……、聖詠も唱えずに、いや、それ以前に響は融合者であって、適合者じゃないはず……。
「立花響……、あなた、何者なの? そんなことはどうでも良いわ……。お願い、あなたの胸の歌を聞かせて……。私もそれで希望が持てるかもしれないわ」
「はいっ! 頑張ってみます! Balwisyall nescell gungnir tron……」
「えっ? 聖詠? ちょっと、立花響……?」
カッと光が輝いて、響の体にガングニールが装着される。あれ? マリアの衣服ってどこに行ったんだっけ?
「…………」
「……もう、無理。こんな恥を世界中に晒して、更に歌うなんて。もう無理よ!」
ギアが安定して響に装着された今、マリアの衣服は戻ったが、確かにとんでもない姿を全世界に発信してしまった。
しかし、響は適合者でもあったのか……。うーん……。
「響、今はマリアをそっとしてあげて。外の様子なんだけど、翼たちが苦戦してるみたいなの。そっちの助太刀を頼むわ。マリアはあたしが何とかするから……」
「うっうん。ごっごめんなさい! まっマリアさん。その、世界中にマリアさんの、はっはだ――」
「とっとと、行きなさい! 傷を抉ってんじゃないわよ!」
「傷を抉るって、やっぱりフィリアも私が傷を負ったって思ってるんじゃない……。ううっ……」
あー、もうっ! なんで、こんなに面倒な状況になってるのよ!
「はぁ……、こうやってると、昔を思い出すわね……。マリア……」
「こんなに生き恥を晒したことないわよ……」
「そうじゃなくて、ほら、昔にセレナの誕生日にあたしがケーキを作ったことがあったでしょ。あのとき、あなたが躓いて転んじゃって、せっかくのケーキを台無しにして……」
私は昔、マリアの妹であるセレナの誕生日の出来事を思い出していた。
「私がへこんだ時の話をしてるの? そうよ、私は昔から肝心なときにダメな女なの……」
「でも、セレナは怒らなかったわ。優しく笑って――大好きなあなたの歌を聞きたいって言ったのよ。ほら、なんて歌だったかしら」
「何だっていいわよ! セレナ……、私はセレナの歌も死も無駄にしてまう……」
マリアは首を振って涙を流していた。
「あの子は、自分を無駄にしないで欲しいとか思わないわよ。優しいあなたに甘えてばかりだったけど、大好きなマリア姉さんには、もっと飾らずに素直になって欲しいって言ってたから――」
「素直に? あの子が……、そんなことを……?」
「マリア、思い出したわ。ほら、りんごの歌よ、セレナと一緒に歌ってた。確か出だしは……」
あたしはあの日に幼い姉妹が歌っていた歌を思い出した。辛い日々の中の暖かい想い出だった。
「りんごは浮かん――♪ りんごは落っこ――♪ 星が生まれて――♪」
「マリア……」
マリアは目を瞑って歌い出す――。
あたしはあの日のことを鮮明に思い出して、まるで、セレナが側にいるような錯覚をしてしまった。
「ルル・アメルは――♪ 星がキスして――♪
――どこでしょう♪」
マリアの純粋な皆を助けたいという願いを乗せた歌は、世界中に届いて共鳴していた――。
「世界中のフォニックゲインがフロンティアに集まっている……。これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡を再起動させ公転軌道の修正も可能なはず――」
あたしはフロンティアの制御装置から演算して、月の再起動と軌道修正の計算を開始した。
「マリア、よくやったわ!」
「フィリア?」
「あなたの歌に世界が共鳴して、フォニックゲインが十分に高まったの。あとは、あたしに任せなさい。責任を持って月は止めてみせる!」
あたしはフロンティアからのエネルギーを照射する準備に入った。
「これは、後で渡そうと思ってたけど……。もしかしたら、今のあなたなら役に立たせることが出来るかもしれないわ」
「セレナのアガートラームのペンダント。この前、修復するって言ってたけど……。もう、終わってたの!?」
先日、あたしはセレナの形見であるアガートラームのギアペンダントをマリアから預かり、修復作業を行っていた。
「本当はもっとあなたの体に合わせられるように改良するつもりだったんだけどね。それを纏える奇跡くらい起こして見せなさい――」
あたしはマリアに向かって拳を突き出した。
「オッケー、フィリア! 奇跡くらい問題なく起こしてみせるわ! 大丈夫よ、あなたが作業を終わらせるまで、この場所は死守してみせるわ!」
マリアはあたしと拳を合わせて、そして、セレナの形見のペンダントを身に着けた。
そして、響たちの元へと駆け出して行った。
その後、あたしは手早く処理を行って、あとはエネルギーが完全に充填されるのを待って、発射の命令を出すだけとなっていた。
「どうですか? フィアナ、英雄とはどんな逆境も乗り越えてこそじゃあないと思いませんか?」
「そうですねー。ピンチをチャンスに変えてこそヒーローですからぁ。ごほっ、ごほっ……」
ウェル博士とフィアナが再びこの部屋に入ってきた。まさか、ここにわざわざ戻ってくるなんて……。
それに、フィアナは口から血を流しているし、ギアも纏っていない。ああ見えてかなり衰弱してるみたいね……。
「ふぅ、まさかあたし一人ならこの場を制圧出来るとでも?」
「そうですね。僕はソロモンの杖を失い、フィアナはギアを纏えない。しかしながら、武器ならあるンですよ。このフロンティアがっ!」
自信満々の表情でウェル博士は両手を広げた。この人、頭を打ちすぎてもっとおかしくなっちゃったのかしら?
「切り札を最後まで隠すスタイルに痺れるわぁ」
「ふふっ、以前、君が切り落としてくれた腕に付着したファウストローブとやら――とても参考になりましたよ。そして、フィアナのシンフォギアも……。二つを研究した結果、僕も聖遺物を纏えるようになりました――。ご覧になってください! 僕の
ウェル博士はニヤつきながら、壁に手を触れると、壁がウニョウニョと動き出し、ウェル博士を飲み込んだ。
そして、フロンティアの一部が次々とウェル博士を飲み込んだ壁の一部に集合して、光り輝いた。
「どうですか? これぞ英雄に相応しい姿!」
金ピカに塗装された鎧に翼が生えた背中、そして片手にはレイピアが握られていた。
なんだろう? 色々と、とにかく趣味が悪い。
「ふふっ、カッコ良すぎて言葉を失ったようですね……」
「はぁ……、コードミラージュクイーン……」
あたしはため息をついてミラージュクイーンを右手に構える。
「僕は、僕が英雄になるために、その悪徳な制御装置をぶっ壊す!」
「なっ――、なんてスピード、そして、パワーも」
「フヒヒッ、知らなかったのですか? 英雄とは強いのですよ――」
あたしはミラージュクイーンでウェル博士のレイピアを受け止めたが、あまりの衝撃で吹き飛ばされてしまった――。
「制御装置! サヨウナラ! ザマー見ろ!」
そして、ウェル博士が――月の再起動に必須である、制御装置にレイピアを伸ばした――。
「破っ――!」
「ピギャァァァァッー」
「ん? フィリアくん、無事か? なんだ、今のキラキラした奴は?」
英雄に憧れた男の前に現れたのは、真の豪傑であった――。
フロンティアでの戦いは佳境を迎えている――。
フィリアと弦十郎の父娘VSゴールデンウェル博士です。
その間に外では、70億の絶唱とかエライことになってます。
次回もよろしくお願いします!