【本編完結】銀髪幼児体型でクーデレな自動人形《オートスコアラー》が所属する特異災害対策機動部二課 作:ルピーの指輪
それではよろしくお願いします!
奇跡の殺戮者と記憶喪失者
「んで? どうしてあたしんちなんだ?」
ずらりと並べられた菓子と飲み物を前にクリスはうんざりとした表情で響とその友人たちに問いかける。
「すみません。こんな時間に大人数で押しかけてしまいました……」
「ロンドンとの時差は約8時間!」
「チャリティーロックフェスの中継を皆で楽しむにはこうするしかないわけでして」
響のクラスメイトの詩織と弓美と創世は少しだけ遠慮がちな声を出した。
「気にしなくていいのよ。どうせ、クリスと二人で見ても盛り上がらなかっただろうし……。自分の家みたいに寛いで構わないから」
「「はーい!」」
あたしが後輩たちに声をかけると彼女らは笑顔で返事をした。
今夜はくらいはこうやって騒ぎながらテレビを見るというのも悪くないだろう。
「おい、フィリア! 人んちで勝手なこと言うなっ!」
クリスはそんなあたしに肘鉄を食らわす。本当は嬉しいくせに……。
「フィリアちゃーん、じゃ、遠慮なく、くつろぐよー。モグモグ」
響は、だらけた姿勢で菓子をボリボリ食べている。相変わらず美味しそうにモノを食べる子なんだから。
「お前はちったぁ遠慮しろ! このバカ!」
クリスはそんな響に大声を出していた。
「まぁまぁ、クリスちゃん。ここは、頼れる先輩ってことで。――それに、やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ」
響の言葉にクリスもハッとした表情になる。
「皆で応援しないわけにはいかないよな」
クリスは感慨深そうな言葉でそう言った。
そうね、今日は翼とそして……。
「そしてもう一人……」
未来は忘れてならないもう一人について口にした。
「マリア……」
「歌姫のコラボユニット、復活デス!」
調と切歌もライブを楽しみにしてテレビを凝視していた。
そう、今日のチャリティーロックフェスは翼とマリアのコラボユニットが登場するのだ。
あたしたちはそれをともに見守るためにクリスの家に集まったのである。
「さぁ、そろそろ開演みたいよ。ロンドンまでは遠いけど、あたしたちも応援しましょう!」
そして、翼とマリアのライブがスタートした!
――星天ギャラクシィクロス――
大歓声の中、翼とマリアが歌い出す。
「遺伝子レベル――♪ 絶望も希望も――♪ 足掻け――♪」
翼とマリアは夕日が照らすタワーブリッジが見える舞台で歌う。
「光と飛沫――♪ どんな美し――♪ せめて唄――♪ 世界が酷い――♪ せめて伝――♪ 響き飛べ――♪」
翼とマリアは活き活きとして舞台上でパフォーマンスを繰り広げていた。
「そして奇跡は待つ――♪ その手で創――♪
♪ 生ある全――♪ ――ギャラクシィクロスぅぅぅ♪」
オーディエンスは大盛り上がりで、翼とマリアがはそれに応えていた。
「あーはっはっは! こんな二人と一緒に友達が世界を救ったなんて、まるでアニメだね!」
上機嫌そうな弓美は笑いながらそんなことを言う。まぁ、世界発信であんなことにはなったが、世界を救えたから本当に良かった。
「あ、うん、ホントだよ……」
そして、マリアのトラウマを作った張本人の響は苦笑いを浮かべていた。
響はこの前、マリアと会ったときも、あのときの事を大声で謝罪して、彼女の顔を赤面させていた。正直、マリアはそこには触れてほしくないのだと思う。
とはいえ、マリアの扱いは今や世界を救った英雄だ。
そう聞けば、あの馬鹿フィアナと共に逃げた大馬鹿者が羨ましがるだろうが、実際のところは――。
「あの子には、こんな枷をつけてほしくなかったわ……」
あたしはふと、そんなことをボヤいてしまった。
「月の落下とフロンティアに関する事件を収束させるため。マリアは生贄とされてしまったデス」
「大人たちの体裁を守るためにアイドルを……。文字通り偶像を強いられるなんて……」
切歌と調は悲しそうな顔で俯いた。しまったわ……。場の雰囲気を悪くしちゃった。
「そうじゃないよ。マリアさんが守っているのはきっと、誰もが笑っていられる、日常なんだと思う」
そう思っていると未来が口を開いてマリアが生贄になったという表現を否定する。
「そうデスよね」
「だからこそ、私たちがマリアを応援しないと」
切歌と調は納得した顔で前を見た。そうね、マリアはどういう立場になってもマリアだもん。
「それじゃ、あたしたちはマリアに守ってもらった日常をせいぜい大事にしなきゃね。パクっ」
「あー、フィリアちゃん。それ、私がとっておいたのにー」
「早いもの勝ちよ」
こうやって菓子の取り合いをしたりするなんて、この身体になったときには考えられなかったわ。
あたしは奇跡のおかげで生かされている――。
そう思わずにはいられなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ライブも終わって一息付いた中、あたしたちの通信機に弦十郎から着信が入る。
『第7区域に大規模な火災が発生。消防活動が困難な為、応援要請だ』
「了解、至急現場に向かうわ……」
火災かー、ミラージュクイーンを使わなくても、塗料が剥げちゃうわね。仕方ないけど……。
「はい! すぐに向かいます!」
「響……」
「大丈夫、人助けだから」
心配そうな顔をする未来に対して、響は優しく声をかけた。確かに、ただの火事くらいなら、心配はいらないわ。
「私たちも!」
「手伝うデス!」
「そうね、LiNKERの使用許可申請を出しとくから、一度本部に戻って取りに行きなさい。人命がかかっているけど、あなたたちをそのまま変身させられないわ」
非常時でもない現在はさすがにLiNKERの持ち出しは許可されていなかった。
まぁ、解析されたからって簡単に作れるような代物じゃないけど、一応アレも機密事項だからだ。
「そういうこった。まっ、お前たちが来る前に先輩であるあたしらが終わらせといてやるけどな」
クリスがそういうと、あたしと響もそれに同意して、現場へと出動した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あたしと響は火事で閉じ込められた人たちの救助。
クリスは被害状況の確認に動いた。
早期に対応出来た甲斐があって、負傷者はいたが、幸い特に死者は出ずに、火事で閉じ込められた人たちの救助はほとんど終わった。
何か嫌な予感を感じたけど……。何もないなら構わないか。
この場は響に任せて問題なさそうなので、あたしはクリスに合流しようと考えていた。
「ふっ、ようやく来たか。少しばかり人間に構いすぎではないか? フィリア」
「あら、さっきのお嬢ちゃんじゃない。この辺りの子だったの?」
あたしはクリスの家に行く前に会ったとんがり帽子を被った幼い金髪の少女に声をかけられた。
「演技はもうよい。何年もの間の任務、大儀であった。さぁ、世界の破壊のために共に動こうぞ」
「へっ? 世界の破壊……? あなた、変な漫画か何かにハマってるの? 親もこんな小さな子に変なもの読ませない方が良いと思うんだけど……」
あたしは金髪の少女の物騒なセリフに、彼女の親の教育を疑った。
「フィリア、あまりオレが気が長くないのを知っているだろう? さっさと、馬鹿な芝居を止めろ!」
金髪の少女は機嫌の悪そうな声を出す。どうやらあたしの発言が気に食わなかったらしい。
本当にこの子とあたしってどういう関係だったのかしら? 響の友人の妹とか思ってたけど違うの? 昔からの知り合いなんてことあり得ないし……。
「あら、ごめんなさい。実はあなたのこと忘れちゃってて、誰とも分からずに適当に返事をしていたの?」
「はぁ? まっ、まさか、記憶喪失になったとでも言うんじゃないだろうな!?」
少女はあたしの告白に明らかに動揺して、大声を上げた。記憶喪失って、確かに抜け落ちてるところはあるけど……。
「うーん、確かに記憶喪失っちゃ、記憶喪失ね。でも、それは関係ないわ。だって記憶がないのって5年以上前のことだから。あなたには――」
「5年以上前だとっ!? じゃあ、何か? 記憶喪失のフリをしてシンフォギアの情報を調べていたんじゃないというのか!?」
何この子? あたしがシンフォギアの情報を調べていたって、何を言っているの?
“ちょっとぉ、この子、面白い子じゃない。ただならぬ気配を感じるわ。注意したほうが良いわよ、フィリアちゃん”
フィーネが少女に興味を持った。
「あなた、何者? まさか、この騒動の原因は……」
「はぁ、どうやら本当に記憶を失っているようだな……、オレはキャロル=マールス=ディーンハイム……、お前のその身体のベースを創った者だ! ちっ、やはり最後まで実験に付き合ってやるべきだったか。しくじりやがって、あの大馬鹿者が」
金髪の少女はキャロルと名乗り、あたしの身体のベースとなる部分の製作者を名乗った。
まさか、こんな小さな子が……。
「フィリア、この計画はオレとお前の悲願だぞ。忘れたのか? 世界を分解し、そしてその後の展望もすべて……、オレと共に考えたではないか!」
キャロルはどうも、あたしと何か計画していた様子なのだが、彼女には悪いが一切の記憶がない。
この感じは前にマリアたちと会ったときのことを思い出す。
あのときは、彼女らに酷いこと言ってしまったし、何よりこんな小さい子に辛辣な言葉さすがに言えないので、なるべく穏便に済ませようと思う。
しかし、この子がこの騒動を起こしたのだとすると……。あたしの過去はあまり面白いことはなかったようね。
「ええと、あなたはキャロルっていうのね? それで、あたしとあなたは知り合いだった……。世界を分解っていうのは何かの比喩かしら? それとも……」
「くっ、本当に忘れてしまったようだな。錬金術の副作用か? 想い出の焼却では無さそうだが……。よかろう、オレがお前の記憶を戻してやる。付いて来るがよい!」
キャロルはあたしの記憶を戻すと言う。しかし、流石にそれは……。
「ごめんなさいね。ちょっと立場的に、それは無理だわ。あたしは国連直轄のタスクフォース、《S.O.N.G.》に所属してるから……。で、もう一度、聞いておきたいんだけど、この騒動の原因はあなたなの?」
「そうだと答えたらどうするつもりだ? フィリア=ノーティス!」
キャロルの目の前に《マナ》が収束する様子が見える。これは――錬金術!?
それに、《ノーティス》はあたしがレセプターチルドレン時代にフィアナと共に与えられた、ファミリーネーム。
やはり、この子があたしを知っているのは本当みたいね。
“フィリアちゃん、ファウストローブを身に着けなさい! やられちゃうわよ!”
フィーネは彼女の力に警戒心を顕にする。
「それなら、力づくで連れて帰るのみ!」
「コード……、ファウスト――」
あたしが言い終わる前に巨大な竜巻がキャロルの目の前から放出された。
「フィリアちゃんっ!」
響があたしの身体を庇うように飛び出して、突き飛ばす。
「――っ! 痛ててぇ……」
「響っ! あなた何をっ……!」
響は足にまともに竜巻を受けてしまって負傷してしまう。シンフォギアの防御も貫くなんて……。かなり強力な錬金術のようね……。
「コード……、ファウストローブ……」
あたしはファウストローブを身に纏い、響を庇うように立って、キャロルを見据えた。
「ミラージュクイーンのファウストローブ………。間近で見るのは初めてだが、完全体
キャロルは再びあたしと響に向かって竜巻を放つ――。
――真空掌底波――
あたしは掌撃から放たれる拳圧にプラスして錬成した真空の波動を竜巻に向かって叩き込み、相殺する。
かなりエネルギーを使ったはずなんだけど、威力は互角……。なかなか厄介ね……。
「なるほど、オレの錬金術を相殺するほどの出力は持ち合わせているみたいだな。この強さ、ミカでも破壊されかねん……。やはり、このまま放って置くわけにはいかんな――」
キャロルはそういうと金色の竪琴のようなモノを何もない空間から出現させて、それを奏でた――。
その後、あたしは初めて目の当たりにする。自分以外のファウストローブを……。
いきなりキャロルが本気でフィリアを潰しにきました。
次回もよろしくお願いします!