【本編完結】銀髪幼児体型でクーデレな自動人形《オートスコアラー》が所属する特異災害対策機動部二課 作:ルピーの指輪
そして初陣……。
それではよろしくお願いします!
「さぁ、着いたぞ。ここが俺の家だ。今日からは君の家でもある」
歓迎会とやらが終わり、どこに連れて行かれるのかと思っていたら弦十郎の家に連れて行かれた。
「ちょっと、待ちなさい。どういうこと? あたしはあなたと同じ家で暮らすの?」
あたしは目の前の一軒家を指さしてツッコミを入れる。
こんな見た目でも一応は女だし、出会ったばかりの男と暮らすのはやはり抵抗がある。
「ああ、そうだ。父娘になったんだ、俺と暮らすのが一番自然だろう」
当たり前だと言わんばかりの口調で弦十郎はあたしの質問に答えた。
そんな言い方、まるで本当にあたしのことを――。
「あなた、あたしを本当に娘だと思ってるの?」
あり得ないと思いながら、あたしは彼に質問をする。そんなのバカな話だ。
「もちろんだ。フィリアくんは俺の家族になった。ははっ、独り身だし、結婚をせっつかれていたが、先に子持ちになるとはな。人生はこれだから面白い」
朗らかに微笑むこの男からは微塵も偽りの感情が見えなかった。だからこそ、あたしは異常にも思えた。
なんで、とんでもないこと言っといてそんな顔が出来るのよ……。
「ああ、もう! わかったわ。受け入れれば良いんでしょ。あたしはあなたの娘で、あなたはあたしの父親。これからここで世話になるわ」
腹立つくらいに真面目な顔であたしを受け入れた彼のバカさ加減に負けたあたしは、現状を受け入れることにした。
「そうだ、フィリアくん。人生は諦めも大切だ。さぁ、中に入ろう!」
諦めって……。あたしの思ってることも筒抜けなんじゃない。これじゃ、あたしが本当に子供みたいじゃないの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
独り身と言っていたが、弦十郎の家はそれなりに広く、司令官という立場も納得できるものだった。
「まぁ、俺としてはもっと簡素な家でも困らないのだが、上司があまりにもみすぼらしい家に住んでいたら部下が遠慮するって言われてな」
本当に一人暮らしなのかを質問すると、彼からはバツの悪そうな顔をしてそう答えた。
「だが、フィリアくんが来てくれて助かった。これで少しは無駄がなくなるだろう。使ってなかった部屋をきれいにして、君の私室にしておいた。一通りの物は揃えたが、欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれ」
弦十郎はあたしを部屋に案内して、そう言った。
部屋の中にはデスクとパソコン。クローゼットに衣装ケースにテレビなど、必要なものは十二分に揃っていた。しかし――。
「欲しいものは特にないわ。要らないものならあったけど」
あたしはそう声を出した。やはり、あたしは人間じゃない。
「ん? どういうことだ?」
弦十郎は不思議そうな声を出す。
「ベッドは要らなかったわ。あたし、眠くならないみたいなの。エネルギーさえ供給出来れば疲れないのよ、まったく」
そう、一日中動いても、《ノイズ》を倒すために走っても、エネルギーさえ無くならなければあたしは疲れなかった。
さっき食事をして感じたのは、最初に目覚めたときを遥かに凌駕したエネルギーの充実感。
つまり、あのときのあたしはガス欠寸前で動き回っていたのだ。
おそらく今なら数日間動き続けても疲れない自信がある。
それどころか、定期的に何かを食べさえすれば半永久的に疲れないだろう。
やはり、この身体は化物のカラダだ。
「なるほど、フィリアくんは眠らないのか。ではベッドの使い方を変えよう! ちょっと待っていてくれ!」
あたしの言葉にただ一言『なるほど』とうなずいた彼は何を思ったのか、奥の部屋に行ってゴソゴソと音を立てていた。
そして、大きな箱を持ってきてあたしの前に置いた。
「何よ、これ?」
あたしは訳がわからなくなって、弦十郎に尋ねる。
「これは、俺が何度でも観たかったからレンタルでは飽き足らず購入に至った傑作DVDコレクションだ。眠れないのなら暇だろうと思って持ってきた。こうやってベッドの上に腰掛けて観るDVDはなかなかリラックス出来て楽しいんだぞ。どうだ? 一本一緒に観てみるか?」
何? DVDですって?
これはどうリアクションすればいいの?
あたしが眠くならない、疲れないという異常な体質を説明したら、彼は『暇だろう』の一言でそれを済まして、暇つぶしの方法を提供してきた。
これにはあたしも呆れるしかない。しかも、大真面目な顔をして言うのだから、文句の言葉も出ないわ。
「そうね。せいぜい面白いものを選びなさい。つまらなかったら承知しないわよ」
「ふっ、任せとけ!」
白い歯を見せながら微笑んだ彼は、自慢のコレクションから真剣にDVDを選んでいた。
結局3本見たけど、ちょっとしか面白くなかったわ――。眠たそうな顔して最後まで付き合うなんて、本当にバカな男ね――。
弦十郎が少し寝ると言って部屋を出ていったので、あたしはパソコンを使って調べものをする。
調べものと言っても一般常識についてだ。
そもそもあたしの記憶喪失は少しおかしい。
まず、ほとんど完全に消え去っているのが、エピソード記憶……、いわゆる思い出というやつが消失しているのだ。
そして、一般常識のいくつか。
あたしは普通に言語を話せる。しかし、この言葉が『日本語』ということは忘れていた。
テレビもDVDもベッドもなんだったらパソコンの使い方もわかるのに……。
そして、《ノイズ》……。
《ノイズ》は一般常識の範囲なのにも関わらず、私は一切の記憶を失っていた。
身体に刻まれた何かの声によって“人類の敵”という情報だけが入ってきただけだった。
日本、それと《ノイズ》――この2つはあたしの思い出に深く関わっているから、忘却の彼方に押しやられたのではないのか?
その記憶の中にこそあたしがこのような身体になった理由が隠されているのではないか?
根拠はないが、そんな気がしてならないのだ――。
あの男は《英雄》になる為と言っていた。
だとしたら、この力は――。
これ以上、考えても埒があかないので、あたしは弦十郎のコレクションから適当に一本選んでDVDの電源を入れた。
別に、気に入ったとかじゃないわ。暇つぶしよ、暇つぶし……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ニ課に配属されて一週間ほど経ったある日、《ノイズ》が出現し、シンフォギア装者の出動要請が発動した。
あたしは翼と奏と共に出動し、《ノイズ》の撃退にあたる。
現場に駆けつける前に、二人は聖詠というシンフォギアを起動させる為に必要な歌を唱える――。
「Croitzal ronzell gungnir zizzl……」
奏のガングニールという聖遺物の欠片で出来たペンダントが呼応して、彼女はガングニールのシンフォギアを纏う。
「Imyuteus amenohabakiri tron……」
翼も奏と同様に聖詠を唱えて天羽々斬のシンフォギアを纏った。
奏と翼の違いは一点だけあった。
奏は聖詠を唱える前にLiNKERという薬を投与しなくてはシンフォギアが纏えないらしいのだ。
シンフォギアを纏うためには適合係数という数値が一定以上ではないとならないらしい。
翼は先天的な適性と訓練によりその数値をクリアした適合者であるが、奏はそうではない。
櫻井了子が開発したという薬物、LiNKERは適合係数を無理やり上昇する効果があるらしいのだが、奏はこれを投与することにより、適合係数の数値を引き上げてやっとシンフォギアを纏うことが出来るらしい。
故に彼女は薬の持続時間の関係で翼と比べて戦闘が可能な時間が著しく短い。だから、あのときも制限時間が来てしまってピンチになったのである。
そんなLiNKERが体に良いはずがなく、彼女はシンフォギアを纏った後に必ず体内の洗浄をしているようだ。
あたしからすると、このような無茶をしてまで戦うことは正気の沙汰ではないと思ったのだが、彼女は「自分達の歌は誰かを勇気付け、救うことが出来る」と信じて戦うのだという。
「翼、フィリア、あたしに続け!」
――STARDUST∞FOTON――
奏が槍を投げると、槍が大量に増えて広範囲に渡って《ノイズ》を貫き殲滅する。
――LAST∞METEOR――
穂先を回転させた槍が竜巻を生み出し、《ノイズ》を吹き飛ばしながら、殲滅する。
適合係数が低いからと言って、奏は翼より弱いというようなことは決してなかった。
あたしはおろか、翼以上に火力の高い技を使いこなし、広範囲でノイズを殲滅する彼女は、苛烈な炎のようで、鬼神の如き強さだった。
ただ、あたしには彼女が生き急いでいるようにも見えた――。
「ご苦労さま、あとはあたしたちに任せなさい」
あたしは残り少なくなった《ノイズ》たちを前にミラージュクイーンを構える。
――超加速から繰り出す高速の剣戟……。
銀色の閃光と化したあたしは一体ずつ確実に《ノイズ》を屠った。
翼もギアを纏っているが疲れている。持久力に関しては人形である疲れ知らずのあたしの方が格段に上のようだ。
「これで、最後ね……」
最後の一体を切り裂いたあたしは翼と奏とともに司令室へ戻った。
「すごいなー、フィリアはまったく疲れないのかよ」
奏は相変わらず馴れ馴れしく肩を組んで頭を撫でてきた。この子、だんだん遠慮がなくなってきたわね。
「ええ、後始末はあたしがやってあげるわ。だから、存分に暴れなさい。あと、撫でるのは止めなさい」
あたしは奏の言葉に返事をした。
「えっ、聞こえないなー」
しかし、なにが楽しいのか理解出来ないけど、彼女はあたしの頭を撫でるのをやめなかった。
「翼……、この子はいつもこんな感じなの?」
「えっと、うん。奏は意地悪なの……」
翼は諦めろというような視線をあたしに送っていた。
はぁ、仕方のない子ね。
「みんな、よくやってくれた。フィリアが加わったおかげでかなり効率よく《ノイズ》を殲滅出来るようになっていたぞ!」
司令室に戻ると弦十郎があたしたちに労いの言葉をかけてくれた。
どうやらあたしが後半に残り物のノイズを一体ずつでも確実に倒せていることから、討ち漏らしが無くなり被害の増大をかなり抑えることができたらしいのだ。
「ノイズ発生による、被害者の出現範囲、予測より53パーセント縮小を確認」
いつも低血圧なのか、眠たそうな顔をしているオペレーターの藤尭朔也が素早く計算結果を伝える。
「フィリアちゃんのおかげで残業が減りそうよ」
明るい姉御肌のオペレーター、友里あおいが残業が少なくなったと喜びを声に出した。
「結局、残業はあることはあるのね……」
あたしはそう呟く。
「仕方ないよ。ノイズによる被害の後始末からシンフォギアに関する情報の秘匿、あとはフィリアの情報も隠しとかなきゃいけないからね」
藤尭はぼやくように、あたしの声に返事をした。なるほど、あたしの情報も当然機密事項か。
「だったら、あたしに出来る仕事を教えなさい。どうせ、眠らないし、疲れないんだから、司令のDVD 見るより働いた方がよほど生産的よ」
あたしは事務的な仕事がもらえないかの話をしてみた。
「あのなぁ……。フィリアくん、君には戦ってもらってるんだ、これ以上は……」
「えっ、それじゃあ、フィリアちゃんのお言葉に甘えちゃおうかしら」
弦十郎は渋い顔をしたが、結局、友里さんが援護射撃してくれたおかげであたしの意見が通り、あたしは時間を見つけては事務的な仕事を覚えてそれを実践した。
おかげで残業代がたんまり稼げて月収がかなり多く貰えるようになった。
こうして《ノイズ》発生時には三人で力を合わせて戦い。
事務の仕事が多い日はあたしが助っ人に入るというような生活がしばらく続いた。
奏とは何故だか波長が合い、プライベートでは彼女に誘われて、よく翼と共に遊びに付き合うことも多くなった。
そんな中、あたしは奏と翼のもうひとつの顔について知ることとなった――。
フィリアとニ課のみなさんとのかけ合いはいかがでしたでしょうか?
もう少しで原作の1話に時系列が追いつきます。
ここからが本番ですので次回もよろしくお願いします!