【本編完結】銀髪幼児体型でクーデレな自動人形《オートスコアラー》が所属する特異災害対策機動部二課 作:ルピーの指輪
ここから、彼女の過去編が始まります!
イザークに介抱されたあたしは、彼にこの場所のことを聞いたが、まったく聞いたこともない山の名前を言われて困惑してしまっていた。
彼は錬金術とやらに必要な薬草を取りに行くために偶然ここに来たらしい。
「女の子がこんな山奥に一人で居ては危険だ。とりあえず、僕の家に来なさい。明日にでも人里に案内してあげるから」
イザークは優しく微笑み、あたしを起こすのを手伝ってくれた。
「あっあの……、あたし……」
外の人間の家に泊まるなんて施設の人に知れたら、この人にも迷惑がかかってしまう。
あたしはそれをイザークに伝えようとした。
「あっああ、そうだよね。男の人の家に年頃の娘さんが行くなんて抵抗があるよね……? だけど、僕の家には小さな娘が居てさ、いや、関係ないかな? そんなこと……」
イザークは頭を掻きながら言葉を探しているようだった。
「いや、そうじゃないわ。あたしが行くとイザークに迷惑が……」
彼の優しさを感じながらも、あたしは遠慮がちに声を出す。
「あはは、なんだそんなことか。僕は人を助けたいんだ。こちらからお願いするよ。君を助けさせてくれって」
朗らかに彼は笑い、あたしの心配事を吹き飛ばした。
あたしは、イザークのその顔を見て顔が熱くなるのを感じていた。
「この小屋が僕の家だよ。ごめんねぇ、あまりカッコイイ家じゃなくて」
イザークはそう言って小屋のドアを開く。
「パパ! もう、遅かったじゃない。あら、そちらのお姉さんはお客様?」
金髪の女の子がイザークに駆け寄って、あたしに気付く。元気そうな子ね……。
「キャロル、遅くなって済まない。こちらはフィリア。森で出会ったんだ。今日はここに泊まってもらうから。フィリア、紹介するよ、娘のキャロルだ。ほら、キャロル、お客様にご挨拶なさい」
イザークはあたしとキャロルを互いに紹介する。
「こんにちは、フィリア。私はキャロル=マールス=ディーンハイムよ」
「フィリア=ノーティスよ、キャロル。きちんと挨拶出来てエライわね」
あたしは腰をかがめて、キャロルの顔を見つめた。
「えへへ、パパ! 褒められちゃった!」
「あはは、良かったな、キャロル」
キャロルが笑顔をイザークに向けると、彼も彼女を見て微笑んだ。
親子ってこんな感じなのね。初めて見たわ……。
「じゃあ、今日はフィリアの分も料理を作るからちょっと待ってて」
キャロルはそう言って、炊事場の方に歩いていった。
「いやぁ、お恥ずかしい。妻に先立たれてね、料理だけはどうしても僕はダメでキャロルに任せっぱなしなんだ」
苦笑いしながら、イザークはあたしに説明をした。
「素敵な娘さんね。ホントは自慢なんでしょう?」
「えっ? あははっ、参ったなぁ! そのとおりだよ。キャロルは世界一の娘だと思ってる!」
「ちょ、ちょっと、パパー! 恥ずかしいことを大声で言わないでよ!」
あたしの言葉に頷きながら肯定するイザークに対して、キャロルは恥ずかしそうな声でツッコミを入れた。
「ところで、イザーク。気になっていることがあるんだけど……。この家には電気が通っていないの? 見たところ照明もランプだし、パソコンやテレビとかもないし……。エアコンも……」
あたしはこの家に電化製品が一つもないことに疑問を持った。確かに山小屋だから、電気が通ってないのも頷ける。
しかし、F.I.S.の施設からほとんど出たことはないから、こういう空間は新鮮だった。
「電気? 雷のエネルギーってことかい? うーん、君が言ってるようなモノはひとつも聞いたこともないよ」
「えっ? 町にはあるはずでしょ? 普通に……」
「ふむ、君の服装を見たときから妙だと思っていたんだ。見たこともない材質だと思ったからね。錬金術師の私はあらゆる物質を見ているけど――」
イザークはあごを触りながら、あたしに色々と話をした。
そして、とりあえず分かったことは、この時代はあたしが居た時代じゃない。大体400年くらい前の時代だということがわかった。
「――まさか、こんなことが……。これじゃ、もう一生マリアたちと会えないじゃない……」
あたしは愕然としていた。絶唱によって時空間の歪みでも出来たということなの?
「君の話から推測すると、未来と過去を繋ぐ切っ掛けがその絶唱とやらのエネルギーみたいだね。確かに簡単ではないと思う。しかし、今研究している錬金術には、あらゆる可能性が秘められてると思うから……、君を元の時代に帰す方法もそこから模索してみるよ」
イザークはニコリと笑って、あたしをまっすぐに見つめた。
「あっ、ありがと……。で、でも、あたしは行くところが無いから……」
あたしはなぜかドキドキしてしまって彼と目を合わせることが出来なかった。
人と話してこんな風になるなんて今までなかったのに……。
「だったら、ここに居るといい。キャロルも母親を亡くして、寂しい思いをさせているんだ……」
「そっそんな……。悪いわ……」
そうは言ってみたものの、本当に行くところがない。
あたしは正直言ってかなり参っていた。
「キャロルー、しばらくフィリアがこの家に居ても構わないかい?」
「うん。いいわよ! フィリア、ほら、私が作ったごはんよ。一緒に食べましょう!」
キャロルはニコッと笑ってあたしを受け入れてくれた。
こうして、あたしはキャロルとイザークと共に生活することになったのだ。
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「キャロルって、小さいのに難しい本が読めるのね」
「ふふっ、だって私もパパみたいなカッコイイ錬金術師になるのが夢なんだもん。だから色んなことを知りたいんだー」
キャロルは、幼くともありとあらゆる知識を吸収するだけの頭脳を持っていた。
そして、よく笑う天真爛漫を絵に描いたような少女だった。
「フィリアだって、料理が上手でびっくりしちゃったわ。毎日パパに料理を作るって言っちゃったけど、私、フィリアに料理を教えてもらいたい」
「あたしの得意なことってこれくらいしかないから……。本当にいつも何にも出来なくて……、悲しかった。誰も助けられなかったし……」
あたしはシンフォギアも纏えなかったし、セレナを守ることも出来なかった。
フィーネという規格外の存在の遺伝子を持ち合わせているのに、同じ存在のフィアナにも数段劣る適合係数に身体能力。
人と違うのは体に埋め込まれた聖遺物の欠片くらい。
あたしは自分の力の無さが歯痒かった……。
「だったら、私がお返しにフィリアに錬金術を教えてあげるわ。パパから習ったことだけだけど……。あのね、錬金術は人を助けることが出来る凄い力なんだよ。だから、フィリアもきっと人を助けることが出来るようになるわー」
キャロルはあたしの悩みを晴らすために、あたしに錬金術を教えると言ってくれた。
あたしにはこの少女の優しさが嬉しかった。
その日からあたしはキャロルに料理を、キャロルはあたしに錬金術の基礎知識を教えてくれるようになった。
「フィリアが来てから、キャロルが前以上に元気になった。君にも懐いてくれているし、感謝してるよ」
イザークは難しい数式とにらめっこしながら、あたしにそんなことを言ってくれた。
「べっ、別にイザークが感謝する必要はないわよ。それに、あなたもキャロルも見ず知らずの他人のあたしにこんなに親切にしてくれてるわ。あたしの方こそ感謝しなきゃいけないのよ」
あたしは彼の言葉にそう返した。
もちろん、元の時代のマリアたちのことも気になっているが、彼らと接してあたしは彼らといる時間が好きになってしまって戸惑っていた。
「フィリアー、これ作ってみたのー。味見してみてー」
キャロルはあたしが前に教えたりんごのケーキを作って持ってくる。
「あら、上手じゃない。さすがキャロルね。あたしと違って物覚えがいいわ」
あたしはキャロルの頭を撫でた。彼女は少しだけ顔を赤らめてニコッと笑う。
「フィリアったら、レシピもないのにこのケーキを作るんだから、再現するのが大変だったわー」
「はははっ、そりゃあ、錬金術のどんな命題よりも難問だな。うん、美味しいよ、キャロル」
イザークもキャロルの頭を撫でて、ニコリと笑う。キャロルは照れていたが、嬉しそうだった。
施設に居たときでは考えられないくらい、ゆったりとした時間が過ぎる。
いつしかあたしにとってイザークとキャロルはかけがえのない存在になっていた。
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ある日、イザークは話があると言ってあたしを景色の良い場所に呼び出した。
「君が来てからもう一年が過ぎた……。今でも、もちろん君を元の時代に戻したいとは考えてる。でも……」
イザークは少しだけ困った顔をして頭を掻きながら言葉を続けた。
「見てのとおり、僕は君よりも随分と年上だし、それにキャロルという娘もいる。その上、甲斐性だってそんなにない……。いや、違うな、うーん、一回目のときはもっとスマートだったんだが……」
彼はそこでまたもや言葉を詰まらせた。あたしは黙ってまっすぐに彼を見ていた。
「――ええい、言うぞ! きっ君を好きになってしまったんだ。優しくて、キャロルにも好かれている、君のことを……。だから、その、僕と一緒になってほしい。もっもちろん、直ぐに返事をくれとか、そんなことは言わない……」
いつも冷静な彼はこれでもかというくらい顔を真っ赤にしていた。
でも、あたしの方が赤くなっていたと思う。
こうやってストレートに好意を伝えられたことが無かったから。
――それも自分が好意を寄せている男性に……。
「別にあたしは優しくなんてないわよ……。でも、嬉しい……。あたしもあなたが好きよ……、イザーク……」
あたしは驚くくらい素直に言葉が出た。そして、その瞬間、マリアたちの顔が浮かんで罪悪感で心が締め付けられそうになる。
「大丈夫、君を元の世界に戻す。そして、僕たちも君に付いていこうじゃないか。本気だよ、僕は……」
「あなたこそ、底抜けのお人好しじゃない。バカなんだから……」
あたしは彼の優しさに耐えきれずに涙を流していた。
そして、あたしは彼と初めての口づけをした――。
あたしの人生でこの瞬間は一番幸せだったかもしれない……。
しかし、このあと訪れる悲劇をあたしは全く予想していなかった……。
400年前の世界でフィリアはキャロルの父イザークと結ばれました。
次回もよろしくお願いします!