【本編完結】銀髪幼児体型でクーデレな自動人形《オートスコアラー》が所属する特異災害対策機動部二課 作:ルピーの指輪
それでは、よろしくお願いします。
「推して参るッ!」
翼の剣があたしの目の前に差し迫る。
「へぇ……、随分と速くなったじゃない」
ギリギリ身を反らせてそれを躱して、ミラージュクイーンで翼の胴を狙う。
「何のこれしきっ!」
翼はジャンプしてこれを躱す。
「「破っ――」」
あたしと翼は同時に突きを放った。
翼の剣の切っ先があたしの額の前でピタリと止まる。
「引き分けだな……。どうも最近、こればかりだ……」
翼は喉元のミラージュクイーンを見てそう言った。
「あら、昨日はあたしが勝ったけど」
「一昨日は私の勝ちだった……」
「そうだったかしら?」
「むぅー、もう一回やるか?」
翼は口を尖らせて、もう一ラウンド勝負したいと言ってきた。
「いいわよ。引き分けで終わらせておけば良かったと思うだろうけど」
あたしもミラージュクイーンを構え直す。
「ふっ、それはこちらのセリフだ! フィリア!」
そんな折である、司令から新たな任務を預かったのは……。
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「ここが?」
「風鳴八紘邸。翼さんの生家です」
マリアの言葉に緒川が答える。
「10年ぶり……。まさかこんな形で帰るとは思わなかったな……」
「あたしはこの前来たわよ。翼の卒業祝いのゲストに来てくれって言いに。断られたけど……」
翼は10年ぶりの実家に感慨深いという表情だった。確かに彼女の境遇からすると……、そう感じるのは無理もないだろう。
「はぁ、フィリアよ、私の為を想ってくれてるのかもしれないが、あの場にお父様を呼ぼうとするのはどうかしているぞ」
翼は呆れ顔をしてあたしの行動を改めて咎めた。
でも、もう少し押せば何とかなるところまでいったのよ?
――オートスコアラーの狙い。それは2つあった。
一つは深淵の竜宮――異端技術に関連した危険物や未解析品を封印した絶対禁区。秘匿レベルの高さからあたしたちにも詳細な情報が伏せられている、拠点中の拠点。
この場所を狙っていることは、オートスコアラーたちが発電施設などを強襲し、電力の優先的な供給地点を割り出しているという行動から推理できた。
そして、もう一つが――明治政府の帝都構想で霊的防衛機能を支えていた龍脈でレイラインのコントロールを担っていた要所である。
これは神社などが明らかにオートスコアラーに狙われていた事実から容易に推測できた。
ゆえに弦十郎はあたしたちを2チームに分割した。
深淵の竜宮を守るチームと、風鳴家にある、要石を守るチームの二チームに……。
「了解しました……」
緒川はそう言って電話を切った。
「クリスさんたちも、間もなく深淵の竜宮に到着するそうです」
「こちらも伏魔殿に飲み込まれないように気をつけたいものだ」
「そんなに気張らないの。あなたの悪い癖よ」
緒川の報告を聞いて拳に力を入れる翼に、あたしは忠告した。
そして、あたしたちは風鳴八紘邸へと足を踏み入れた。
「要石――」
「あれが……」
風鳴邸の庭に仰々しく祀っている岩をあたしたちは確認する。
すると、家の中から風鳴八紘が出てきた。
「お父様……」
翼はハッとした表情で彼の姿を見ていた。しかし、そんな翼を彼は一瞥もせずに緒川に声をかける。
「ご苦労だったな。慎司……」
八紘の言葉に緒川は頷く。そして、彼は今度はマリアの前に行く。
「それに、S.O.N.G.に編入された君の活躍も聞いている」
「あ、はい」
マリアも声をかけられて返事をする。
「アーネンエルベの神秘学部門よりアルカノイズに関する報告書も届いている。あとで開示させよう」
「はい」
八紘はそれだけを話して立ち去ろうとした。まったく、相変わらずこの人は……。
「あ、お父様!――沙汰もなく、申し訳ありませんでした」
翼は堪らず彼の後ろ姿に声をかけた。顔からは何とも言えない悲しそうな表情が見て取れる。
「お前が居なくとも風鳴の家に揺るぎはない。務めを果たし次第、戦場に戻るが――」
八紘が翼を冷たく突き放そうとするのを見かねたあたしは、彼が話し終える前に、彼の近くへ駆け出した。
「お久しぶりです。八紘伯父様!」
「むっ、フィリアか……」
あたしは八紘の手を握りしめて、出来るだけ愛想よく声をかけた。
「もう、伯父様ったら、あれでは翼が可哀想ですわ。少しは会話してくださいまし」
弦十郎に連れられて挨拶に行ったときに、くれぐれも無礼な物言いだけは、この日だけは避けてくれと、彼に頼まれた結果のこの口調である。
おかげで随分と可愛がってもらった。翼の話と引き換えに高級な菓子を貰ったこともある。
とどのつまり、この人は本当は翼を愛しているのだ。
「ぬっ……、わかった。わかったから、人前で止めてくれ……。ほら、後で渡そうと思ったが、小遣いをやろう。翼……、まぁ、久しぶりの実家だ。ゆっくり出来るなら、そうしていきなさい……」
彼は動揺していたが、何とか厳格な表情は保って、翼の顔を見て声をかけた。
あたしは八紘からポチ袋をもらって、翼の隣に歩いていった。
「はっ、はぁ……。わかりました。お父様……」
「ふふっ、良かったですわね。翼お姉様!」
キョトンとしている翼の手を握りしめて、あたしは翼に声をかけた。
「おっ、お姉様? フィリア……、お前、一体……。何か変なモノでも食べたのか?」
翼は若干引き気味の表情であたしを見ていた。何よ、あなたの為に精一杯演技してるのに……。
「――あら、この気配」
あたしが庭の池の方へ視線を向けた瞬間に緒川が銃を抜いて撃ち出した。
しかし、風が銃弾を防ぎ、オートスコアラーのファラが出現する。
「野暮ね……。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに……」
「あの時のオートスコアラー!」
翼は臨戦態勢に入る。よりによってこっちにファラが来るとは……。翼との相性は……。
「レイラインの解放、やらせていただきますわ」
「やはり狙いは要石か!」
マリアも身構える。アガートラームもあまり彼女に有効じゃないかも……。
「
ファラは独特の動きからアルカノイズたちを繰り出してきた。
「ああ! 付き合ってやるとも! ――Imyuteus amenohabakiri tron……」
翼とマリアがギアを纏い、あたしもミラージュクイーンを構える。
そして、アルカノイズたちを次々と蹂躙していった。
「ここは私が!」
翼は父親の八紘を守るように剣を構えて、彼に声をかけた。
「うむ。務めを果たせ」
八紘は淡々とした口調で避難していった。やっぱり、すぐには無理か……。翼は悲しそうな顔をしてしまった。
「さあ、捕まえてごらんなさい!」
ファラは錬成した竜巻に乗って移動し、翻弄してきた。
――蒼ノ一閃――
翼はファラの突撃を躱して、アームドギアを巨大化させて、強力な一撃を放った。
ファラもソードブレイカーから放つ、風を纏った一撃で、翼の斬撃を相殺した。
――天ノ逆鱗――
翼は空中に高く舞い上がり、さらにアームドギアを極限まで巨大化させて、彼女の技の中でも最も火力のある一撃をファラにぶつけようとした。
「ふふっ……、なにかしら?」
ファラはソードブレイカーで翼のアームドギアを突く。
すると、まばゆい光が発生して、彼女の剣が砕け散っていく。
「何!? 剣が砕かれていく!?」
翼のアームドギアは完全に砕かれて、彼女は吹き飛ばされ、気絶してしまった。
「翼!」
「私のソードブレイカーは剣と定義されるものであれば硬度も強度も問わず噛み砕く哲学兵装。さあ、いかが致しますか?」
「だったら、武術はどうかしら?」
「フィリアですか……、ふぅ、あなただけは不安要素ですが……」
ファラは風を利用して舞い上がり、空中から、大量のアルカノイズを撒いてきた。
「ファウストローブ無しの武術とやらは、アルカノイズには通じないはずです。その間にわたくしはゆるりと目的を果たしましょう」
アルカノイズであたしを釘付けにした、ファラは強力な風で要石を狙う。
「せやぁっ!」
マリアはファラに短剣を投げつける。
「無駄よ」
マリアが飛ばした短剣はファラの一撃で砕かれる。そして、ファラの攻撃はそのまま要石に直撃して、要石が砕かれてしまった。
「あら? アガートラームも剣と定義されてたかしら?」
「哲学兵装……。概念を干渉する呪いやゲッシュに近いのか?」
アガートラームを砕いたファラに対して、マリアは戦慄した表情を浮かべた。
「ふふっ、ごめんなさい。あなたの歌には興味がないの。剣ちゃんに伝えてくれる? 目が冷めたら改めてあなたの歌を聞きに伺います、と」
ファラはそう言い残すと姿を消してしまった。なるほど、彼女はターゲットを翼にしたというわけね。
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「司令、要石の防衛に失敗したわ」
あたしは弦十郎に防衛失敗を報告した。
『2点を同時に攻められるとはな……』
「そう……、深淵の竜宮にも現れたのね……」
『そのとおりだ。セキュリティが奴らを補足している』
弦十郎によれば深淵の竜宮にオートスコアラーが出現したらしい。
キャロルも共に……。
まぁ、普通は驚くわよね。目の前で死んだように見えたのだし……。
そちらの対応にはクリスと切歌と調が向かうみたいだ。
あたしは倒れた翼が休んでいる部屋に入った。
「そうか……。私はファラと戦って――。身に余る夢を捨てて、なお、私では届かないのかっ?」
翼は目を覚まして、ファラとの戦いに敗れたことを悔やんでいた。
彼女のソードブレイカーとは相性が悪過ぎる。ファラ以外が相手ならもっといい勝負が出来たのだろうけど……。
「翼お姉様……。体調はいかがですか?」
あたしは翼の顔を覗き込んで話しかけた。
「わぁっ!? フィリア……、お前、まだその口調なのか!?」
「何を仰ってるのか分かりませんわ」
翼は目を丸くして、そう言った。だって、戦闘中みたいに地が出るの嫌だもの。
「フィリア! バカなマネはしないの。大丈夫? 翼……」
「すまない。不覚を取った」
マリアにまで、怒られる。別にふざけてる訳じゃないのよ。八紘がこのキャラを妙に気に入ってくれたから続けているだけなんだから。
「動けるなら来て欲しい。翼のパパさんが呼んでいるわ」
「わかった」
ということで、あたしたちは八紘の書斎へ向った。
八紘の書斎にたどり着き、あたしたちは緒川から資料を渡される。
「アルカノイズの攻撃によって生じる赤い粒子をアーネンエルベに調査依頼していました。これはその報告書になります」
「アーネンエルベ……。シンフォギアの開発に関わりの深い独国政府の研究機関」
「報告によると赤い物質はプリマ・マテリア。万能の溶媒アルカヘストによって分解還元された物質の根源要素らしい」
アルカノイズの分解能力についての解析資料……。分解は錬金術の基本だからね……。
「物質の根源? 分解による?」
「錬金術とは分解と解析、そこからの構築によって成り立つ異端技術の理論体系とありますが……」
「キャロルは世界を分解したあと、何を構築しようとしてるのかしら?」
マリアの疑問の答えはあたしがこの身に持っている。完全体
「翼……」
「は、はい?」
八紘は翼の名を呼び、顔を見つめると、翼は少しだけビクッとして彼の方を見た。
「傷の具合は?」
「――はい。痛みは殺せます」
「ならばここを発ち、然るべき施設にてこれらの情報の解析を進めるといい。お前が守るべき要石はもうないのだ」
彼は翼の傷の容態を聞いて、冷たい言葉を浴びせる。
「わかりました」
翼はやはり悲しそうな顔をして彼の言葉に答えた。
「それを合理的と言うのかもしれないけれど、
傷ついた自分の娘にかける言葉にしては冷たすぎるんじゃないかしら?」
「いいんだ、マリア」
マリアが八紘の物言いに噛み付いた。さすがにマリアも腹が立つわよね。
「そうですわ。マリア姉様の仰るとおりです。翼お姉様をまずは労ってあげてくださいまし!」
あたしもマリアの援護射撃する。マリアと翼には変な顔をされたが……。
「はぁ……、翼……。無理はせずにしばらく休んで行きなさい」
「――えっ? そ、そういうわけには……」
「フィリアの言うとおり、お前は十分に戦った……。少しくらい休んでもバチは当たるまい……」
「わっ、わかりました」
翼はいつもと違う父親の態度に、びっくりした表情を再び浮かべた。どちらかと言うと、こっちが素の態度なんだけど。
「どういうことなのだ? 私はお父様に疎まれているはず……。フィリア、お前はお父様に何をした?」
翼は父親の態度のことをあたしに問い詰めてきた。
「何もしてませんわ。翼お姉様」
「フィリア、その口調を頼むから止めてくれ。蕁麻疹が出そうだ……」
翼とマリアが本当に気味が悪いという表情をしていた。仕方ないわね……。
「そう、何もしてないわよ。ていうか、八紘って翼のこと愛してるから」
「バカなことを言うな! お父様が私を愛してるなどあり得ん!」
あたしの言葉に翼は首を大きく横に振って否定してきた。まぁ、口で言ってもわからないか。
「だったら、翼の子供の頃に使っていた部屋に行きましょう。答えはそこにあるわ」
あたしは翼が幼少の頃に使っていた部屋に二人を誘った。
翼の部屋に入ろうとすると、散らかりきった部屋が顔を出した。
「敵襲!? また人形が!?」
マリアが思ったとおりの反応をする。
「あっ……、そのう……、私の不徳だ。」
翼は顔を赤らめて、恥ずかしそうな声を出した。
「だからって、10年間そのままにしておくなんて……、幼いころにはこの部屋で、お父様に流行歌を聞かせた想い出もあるのに……」
翼は懐かしそうな顔をして想い出を語った。昔から歌が好きなのね、この子は……。
「それにしても、この部屋は……。昔からなの?」
「私が片付けられない女ってこと!?」
翼はマリアの問いの意味合いを取り違えて、変な声を出した。いや、昔から片付けられない女だけど……。
「そうじゃない。パパさんのことだ」
「マリア、気が付いた? この部屋、ずーっと、このまんまなのよ。翼が10年前に出ていってからね……」
あたしがこの部屋を最初に見たのは5年近く前だけど、その時から今までも全く変わってない。そのままの状態が
「それが何だというのだ!? やっぱり、私のことなどお父様は何も思ってない証拠じゃないか!」
翼は掃除が苦手だから、この部屋にある違和感に気が付かない。
「いいえ、そんなはずないわ。この部屋は散らかっていても、塵一つないのよ。翼との想い出を失くさないよう、そのままに保たれているみたいに……。これは、娘を疎んだ父親のすることではない!」
マリアはこの部屋がきれいにそのままにされていることを指摘した。そう、普通は部屋を10年も放置すると呼吸がしにくくなるほど埃が溜まる。
現状をそのままにしておくなんて、余程大事にしておかなくては無理なのだ。
「まさか……」
「あたしも風鳴家に入ったからには、この家が抱える事情も、あなたの事情も当然知っているわ。でもね、八紘伯父様はあなたが夢を僅かでも追いかけられるよう、風鳴の家より遠ざけていたのよ」
信じられないという顔の翼に、あたしは八紘から口止めされていた彼の想いを話す。
今の翼のメンタルには一番必要なことだと思ったからだ。
「そんな……、バカな……」
「あなたは愛されているの。――ねぇ、八紘伯父様……」
あたしは部屋の側で立ち聞きしてた八紘に話しかけた。
「はぁ、お喋りな姪を持ったものだ……。それは言わぬ約束だったではないか。フィリア……」
八紘は観念した表情で翼の部屋に入ってきた。
「お父様……、では、本当に……」
「翼、これは私の独り言だ……。風鳴の道具にも、剣にもならなくていい。夢を見続けることを怖れるな。お前の歌には力がある。歌い続けろ……」
八紘は翼にそれだけを伝えると書斎の方に戻って行った。
翼は涙を流しながら呆然としていた……。
「フィリア……、どうして口止めされていたことを翼に話したんだ?」
マリアがあたしに話しかけた。そんなこと決まってるじゃない。
「翼のことを……、家族のように想ってるからよ……。マリア、あなたと同じでね……」
「どうした? 捻くれ者のフィリアが今日は随分とセンチなことを言うじゃない」
マリアはニコリと笑って、あたしの顔をジロジロ見ていた。
それは、多分……。あたしがこれから――。
「緒川……。そんなものをあたしに向けても効果がないことは知ってるはずよ」
あたしは頭に銃口を突きつけている緒川に声をかけた。
「風鳴フィリアさん、S.O.N.G.の本部に出向してください。あなたには背信の疑いがかけられています。あなたはキャロル=マールス=ディーンハイムから送られた内通者だという……」
「なっ、フィリアがそんなことをするはず!」
「緒川さん、何かの間違いじゃないですか? フィリアが……」
緒川の言葉にマリアと翼が驚愕を隠せない顔をしていた。はぁ、なかなかどうして、あたしが居るこの組織の人間は優秀なのだろう。
優秀すぎるのも考えものよね……。
「いいわよ、行きましょう。ここで、暴れて翼とマリアの二人を相手にしても楽しくないもの」
あたしはそう言って、緒川に連れられてS.O.N.G.の本部――風鳴弦十郎の元へと戻った。
キャロルの計画実行まであと僅か……。運命の歯車はゆっくりと動き始めていた。
フィリアの不審な行動がさすがにバレてしまったみたいです。
GX編もそろそろクライマックスに突入します。
次回もよろしくお願いします!