(ふむ、これが彼の実力か)
内心、ライネスは驚いていた。
マスターが前衛に出るということを初めて聞いた時にはただの馬鹿なのかと思ったし、今も最悪の場合には
この光景はその考えを破棄するに値する代物だった。
(聞いてはいたのだが、予想以上だな)
彼の国の言葉で言うのなら『百聞は一見に如かず』と言う諺が一番よく当てはまる。
如何に『サーヴァント相手に戦える』と言う言葉を聞いたとしても、実際に戦っているところを見なければそんな言葉を信用できるはずもない。
だから、眼前に広がるこの光景は、彼女にとって驚かざるをえないものだった。
原理については彼女も召喚されて戦術について話し合った時に聞いている。
彼の起源は『改造』。
他人が作ったもの、自分が作ったもの、それらに一切の違いなく変化させることを得意としている。
根源に接触することができたと言う彼自身の特性も合わせて、それこそ低級の幽霊をさすがにサーヴァントには劣るが現代の魔術師では決して作れないだろうクラスの使い魔にまで変貌させることができる。
この聖杯大戦にはシェイクスピアというサーヴァントがいるのだが、彼の持つ『エンチャント』というスキルとは似て非なる技である。
『エンチャント』は元からそこにある存在を、その形を崩さぬまま、その概念を崩さぬままに新たな力を付与するスキル。
彼の使う『改造』は、元からそこにある存在を、大元になっているというだけで本来の形すら失うレベルでの変貌をもたらすこともある。
そんな力を持つ彼は、亜種聖杯戦争で優勝して亜種聖杯を手にした時に亜種聖杯に願ったらしい。
『自分を英霊と戦うことになってもまともに戦えるだろう存在にして欲しい』と。
それは、その時点で聖杯大戦に参加する未来を知っていたからこその願い。
聖杯大戦に参加すること以外はわかっていなかったからこその願い。
そこで死ぬのかどうかすらわかっていなかったからこその願い。
それを、亜種聖杯は叶えた。
『無色の魔力』が大量に貯蓄される聖杯はその性質上、願いを告げた存在がその願いを叶える過程を理解していないと一切の効果を持たない。
葉月の場合は己の持つ『改造』という魔術があったから、それを聖杯の規模で行使して己をサーヴァントとも戦えるレベルの肉体に変化させたのだ。
魔力の通しは当然良く、強化の倍率にも数百倍レベルまで対応することができる。
さらにそこに念話越しに
「お、らぁっ!」
拳を叩きつける彼は、常に手足と動体視力の強化だけは行なっていて、状況に合わせて魔力を通すことでルーラーの攻撃にも耐えている。
サーヴァントのステータスで言えばおそらくBランク程度の硬さを誇る肉体と化して、筋力もBランクレベルにまで上昇して、ルーラーに着実にダメージを蓄積させていく。
惜しむらくは、彼の戦闘についてこれるほどの礼装を彼が持っていないことか。
聖杯クラスの大規模な魔術行使でもなければ、彼の礼装をこの戦いに使えるほどに改造することはできず、そして彼が得た亜種聖杯は彼の改造を終えると同時に魔力を全て使い果たしていた。
彼女の鎧を通すほどの技術は、ただの魔術師でしかない葉月には存在しない。
ゆえに与える打撃は衝撃を散らし、サーヴァントほどの力を持ってはいてもサーヴァントではない彼ではルーラーにはそこまで大きなダメージとなり得ない。
それでも十、百と数を重ねていけばそれは無視できないほどのダメージとなる。
「しまっ……!」
「もういっちょ!」
彼女がガードに使っていた旗を、接触の度に『解析』していた葉月。
本来ならば宝具クラスのものは解析なんぞしようものならその目と魔術回路が焼け付いてもおかしくはないのだが、『改造』のためにその構造を解析する必要に駆られる彼は、ほんの一瞬程度の解析ならば問題はない。
彼自身の性質もちょっとだけ関係しているのだが、そこについて語るとエルメロイⅡ世がまた胃痛を患うことになるので今は置いておく。
そして、何度も何度も解析を行なっていたために、ようやくその旗の解析が終了した。
「っ……!?」
拳の衝撃が、先ほどまでに比べて大きくルーラーの肉体に通った。
このままだとまずいと反射的に旗を大きく回転させて強制的に距離を取らせる。
さすがに、反射に関してはライネスにも読みきれなかったようだ。
「さて、と。それでどうするんだライネス」
「ふむ、どうしようかねマスター」
ルーラーが態勢を整えるまでの間も、注意はそらさずに彼女を見据えたまま。
切り札は、二人にはちゃんとある。
もしも葉月がまともに戦えない程度の雑魚だったとしても、それがあればなんとかなる可能性も大きかった。
ただ、それを使用するには今使っている全ての魔術を解除しなければならない。
今の有利な状況をわざわざ手放す必要もないため、そんな言葉を交わしながらもこのまま状況を推移させるという内容を念話で同時に交わしている。
彼の肉体はサーヴァントクラスの能力を今保有している。
だが、言ってしまえばそれだけなのだ。
頑丈だ。──だが、サーヴァントの攻撃ならば突破は不可能ではない。
攻撃も通る。──だが、致命傷には至らない。
決定打となる何かを持たない彼は、確実に殺すにはまだ何かが足りない。
「それを作るのが私の役目だ」
そう言って、一歩ライネスが前に出た。
相手のサーヴァントの情報は全て揃っている。
それならば、ライネス……司馬仲達からすれば『決定打がない』というのは何も問題になりはしない。
「渾沌に七穴、英傑に毒婦。落ちぬ日はなく、月もなし。とくと我が策御覧じろ!」
『
ライネス・エルメロイ・アーチゾルデを依り代として召喚されたサーヴァント、司馬仲達の宝具。
相手の得手は潰され、秘めていた弱点が露わとされる。
「一度相手を倒している」「すでに相手のデータが集まっている」などの充分な条件さえ整っていれば、新しい弱点すら生み出すことも可能になる。
今はさすがに条件は揃っていなかったが、それでも明確に狙うべき場所が定かになる宝具が、ジャンヌ・ダルクに向けて放たれた。
宝具の効果まではジャンヌ・ダルクには理解できない。
そのため、まずこの宝具が何かを理解しようとしてワンテンポ行動が遅れた。
「これで、終わりだ!」
行動自体は先ほどまでとはまるで変わらない。
けれど、弱点が発生しているのは事実でありそこに叩きつければ何も問題はない。
ここでいう弱点とは、ジークフリートの背中であり、アキレウスの踵であり、ヘラクレスにとってのヒュドラ毒である。
つまり、そこに攻撃を受ければ即座に死亡するという場所を強制的に浮かび上がらせるのだ。
そして、ジャンヌの死因は火刑。
それが浮かび上がっている状態ならば、刑罰としての炎ではなくても十分なダメージを期待できる。
アンサズのルーンを刻んだ石を握りしめて、そのままジャンヌに向けて拳を突き出した。
この作品における戦闘は全て終わりました。