「お久しぶりです、獅子劫さん」
「うん? 確か、あんたはロードエルメロイの弟子の……」
「御上葉月です。こっちがライダー」
「ライダー……って、こいつはエルメロイの姫君殿では……?」
「いや、私はちょっとした事情があってね。ライネス・エルメロイ・アーチゾルテを依り代にして召喚されているライダーのサーヴァントという立ち位置なのさ」
シギショアラにたどり着いた二人は、唯一共闘体制をとることができる赤のセイバーとそのマスターがいる
「ふうん……それで、その二人がどういう理由でここに?」
「いや、赤の陣営のところに行ったはいいけど、あの神父が胡散臭すぎたから、それとは別に動いているっていうあんたらに接触しに来ただけですよ」
できることならあなた方と共闘をしたいのだ、と。
獅子劫はその言葉に考え込む。
信用できる相手というわけではないのだが、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテという幼い頃から仮面で顔を隠して権謀術數渦巻く時計塔で戦って来た傑物がいるために、シロウ・コトミネという男が怪しいということはきっと間違いではない。
ならば、こちらにも戦力を抱え込んでおくべきかという思いもあれど、この男も最終的には大聖杯を争う仲になるのだと思うと、懐に入れるのは間違いではないか、という思いもある。
『セイバー、この同盟、受け入れても問題ないと思うか?』
彼には決められなかったので、セイバーに聞いてみることにした。
赤のセイバーのスキルに『直感』があるために、こういう場合は彼女に聞くに限る。
『別に問題ないと思うぜ。嫌な予感とかもしねえし』
セイバーからも、多分という言葉はつくが裏切られないという保証ももらった。
「……わかった。そういうことならこっちも同盟を飲ませてもらう」
「ありがとうございます」
そう言って、二人の間で握手。
とはいえ、さすがに地下墓地は葉月たちとは霊脈的な相性はそこまでよろしくないので、今から泊まる場所を探す予定。
というわけで、今回は最低限の自己紹介だけになる。
「じゃ、改めましてこっちが俺のサーヴァントの”赤”のライダー。真名は司馬仲達」
「は……?」
さらりと自己紹介の中に真名まで入れていたために驚きを隠すことができない獅子劫。
これはこちらも真名を語るべきかと思わないわけではないが、それでも真名を語って欲しいと言われたわけではないし、と悩み。
「ああ、別にそちらは真名を名乗らなくても問題はないよ。こちらは軍師ゆえに戦場に出るタイプではないということを知っておいて欲しかったから真名を名乗っただけのことなのだから」
「お、おうそうか……」
ちょっとだけ獅子劫が助かったというような表情をして、それでおしまい。
「赤のバーサーカーはミレニア城塞に向かっているようだね」
ルーラーが持っていた赤のライダー専用の令呪は、もしも礼装を奪われた時のことを考えてすでに消費されている。
全身を映すにたる鏡となったルーラーは、鏡に魔力を通すことで鏡面に令呪が浮かび、その鏡に映った人物の鏡に映った素肌の部分のどこかに令呪が転写されるようなシステムとなっている。
そうして転写された令呪は、ライダーの持つ魔術師としての能力の強化に充てられた。
恒常的かつ曖昧な命令だったためにそこまで大きな能力の向上は見られなかったのだが、それでも確かに向上した能力で作られた使い魔で、二人は赤のバーサーカーが黒の陣営ことユグドミレニアの本拠地、ミレニア城塞に向かっていることをすでに掴んでいた。
「ということは赤のアーチャーも?」
「ああ、ちゃんと赤のバーサーカーの後を追っているよ」
この後、赤のバーサーカーの迎撃のために黒の陣営からはライダー、キャスター、そして盟主たるランサーが出てくる。
さらには赤の陣営のサーヴァントの迎撃のために黒のセイバー、バーサーカー、そしてアーチャーが。
矢を狙って叩き落とすという神業を為すことができる黒のアーチャーがいる以上は、赤のアーチャーではどうしようもないだろう。
ならば後はアーチャーが撤退することができるのかどうかだけ。
正直な話、彼ら二人からすればその結果はどちらでも問題はなかった。
「今消滅しているのは”黒”のアサシンのみ。サーヴァントの情報も、マスターの情報も、全ては出揃っているが、逆に言えばそれだけのこと。まだ推移を完全に把握するには難しい、か」
そう、黒のアサシンことジャック・ザ・リッパーはすでにルーラーの令呪によって消滅させられている。
魔術師の大原則として神秘の秘匿が存在していて、黒のアサシンはそれから逸脱しているが為の行為。
天草四郎時貞にバレてしまう可能性はあったのだが、だからと言ってロードに属する一族であるライネスはそれを見過ごすことができなかった、ということ。
「とりあえず、今日の予定として後確定しているものは黒のセイバーの脱落ぐらいか」
「ああ、そういえばそれがあったか。ジークフリートはホムンクルスを助けるために心臓を破棄するのだったね」
その言葉に葉月は頷く。
主人に勝利を捧げるために召喚されたサーヴァントとしては赤点以下の行為。
されど、英霊としてはきっと満点の行為なのだろう。
助けを求める無辜の民を助けるというのは。
「その後のホムンクルスの行動というのが一番読めない。ルーラーが生きていたならきっと彼女から接触されたことによって最終的にミレニア城塞に戻ることを選択するのだろうが、今回に関してはルーラーはすでに死んでいるからね」
他人事のように言うが、殺したのはこの二人である。
「一番楽なのはホムンクルスが戻ってこないパターンだ。それなら、ルーラーの令呪が効くかどうかわからないホムンクルスは戦場から脱落してくれる」
「だが、戻ってくる可能性だって十分に捨てきれない。更に言えば、戻ってきたとしてもホムンクルスが黒のセイバーになるには黒のバーサーカーの末期の宝具の雷撃が必要となる可能性だってある」
赤の陣営が空中庭園を使って攻め込まないと、彼らにはやることがなくて暇になってしまう。
今はこうして、これからの行動について話をしているのだが、それも毎日のように二人だけで繰り返しているとどうしても似たり寄ったりにしかならず、今となってはもう新しい意見に関してはほとんど出てこないような状態だった。
「まとめると、やっぱりあのホムンクルスがどう動くかがわからないとどうしようもないってことか……」
「うん、そういうことだね。よくわかっているじゃないか、マスター」
話がまとまったところで、あとは交流になる。
「そう言えば、君は聖杯に何を願う予定なんだ?」
以前、ライネスは葉月の願いについては問うたが、ライネスの願いについては未だ聞いたことはなかった。
その時のことを覚えていたから、この話に至るのはある意味では当然だったかもしれない。
「聖杯ね。別に願いたいことなんてないさ。欲がない訳じゃない、というか欲望たっぷりの私だけど、そういうのは陰謀とか策略とか奸計とかで手に入れるべきだ。というか、その辺りは私の付き人をやってたらしい君ならば当然理解していることではないのかね?」
「……まあ、なんとなくは」
とは言え、ここにいるのは葉月が仕えていた
全く同じに考えていてはどこかで致命的なすれ違いをしないという保証もない。
だからこその交流、だからこその会話。
その辺りはライネスも理解しているので、からかっているだけなのだが、彼女自身の性質があるので少々楽しいと思ってしまうのだった。
赤のアーチャーと打つタイミングで赤のアーサーと打ちそうになったことは内緒