「ちょっと聖杯戦争に行ってきます」   作:ぴんころ

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第六話

「赤のバーサーカーは捕まり、赤のアーチャーは撤退。黒のセイバーは消滅。結局、六対六の状況になっただけか」

 

「ああ。あのホムンクルスも戻る気配はないようだし、六体六で何も間違っていないわけだ」

 

 ライネスはどこか楽しそう。

 マスターを守っての死亡であれば聞いたことはあれど、マスターに逆らって命を分け与えるなんてことは初めて聞いたのだから。

 とりあえず、典型的な魔術師であるゴルド・ムジーク・ユグドミレニアが陥った不幸は、サディストな彼女が満足するに値する代物だったようだ。

 

「さてさて。それでは私たちはどうする? 黒のアサシンが撤退している以上、赤のセイバーと黒のアサシン、さらには黒のアーチャーまで巻き込んでのバトルロワイヤルは発生しないわけだが」

 

「でも、それならそれで空中庭園突撃までの時間は暇になるわけだから問題はないと思うよ。移動手段を確保するのもそこまで難しいことじゃないし」

 

 今のうちにやらないといけないことなんて、そこまで多くはない。

 せいぜいが葉月の言った通り、ミレニア城塞に向かうための車の調達程度だ。

 免許に関しては葉月もライネスも持っていないが、ライネスには騎乗スキルが存在する。

 そのため、移動手段として車を選択するのはそこまでおかしなことではなかった。

 

「おや、いいのかい? マスターは確か運転免許を持っていなかったと思うんだがね。その場合は私に運転を任せることになる。他人の不幸が大好きな私が、まともな運転をする保証はないと思うんだ。それぐらい、君ならわかっていると思っていたんだが。……それとも、まさか君はこうして甚振られることが好きなのかい?」

 

「いや、そんなわけないだろ。っていうかここに到着するまでは俺が運転してたから、普通に運転できるってことは知ってるはずだけど」

 

 ライネスの言葉を即座に否定。

 ただ、移動手段を考えるとそれ以外に現実的なものがないというのが事実なだけなのだ。

 ミレニア城塞まで向かう手段は存在せず、トゥリファスまでたどり着くのが関の山。

 そんな中、トゥリファスからミレニア城塞まで歩いて向かっていては戦闘が終わってしまってもおかしくはない。

 そして、複数人が同時に行動することができる一番現実的な移動手段は車だったというだけのことなのだ。

 というわけで、ここに移動するまでに使った車をもう一度使おう、と思ったのだが、警察によって回収されていたのだ。盗んだものだったので。

 

「それ以外にちゃんとした手段があるならちゃんとそっちを選んでる」

 

「残念だ」

 

(……そろそろ、本気で何か対策を考えて置いたほうがいいか?)

 

 サーヴァントではあるがライネスはライネス。

 そのため、サーヴァントとマスターという最低限以外は、葉月は自分が仕えているライネスとできる限り同程度の配慮をしている。

 なのだが、そろそろ何かしておかないといつか最悪の事態に陥るのではないかという危機感が出てきたらしい。

 

「そんなに見つめてどうしたんだい? ……! まさか、私を獣欲の赴くままに貪ろうと……」

 

「して欲しいならするけど?」

 

 そう言って、葉月はライネスを押し倒す。

 実際に危機感を持たせれば、多少は控えてくれるかな、という程度の思考だった。

 ついでに言えば、ライネス(ライダー)ならその気になれば即座に押し飛ばすことが可能だということもその行動に拍車をかけた。

 

「え、ちょ、マスター……!?」

 

 押し倒されたライネスは、まさかそんなことを葉月がするとは思っていなかったのか驚き、今の状況を理解するのと同時に顔を赤くして表情がなんとも言えないものに変わる。

 それでも無理矢理にその表情を表現するのならば、『ちょっとからかってみただけなのにいきなり押し倒されてパニック状態になってしまい、でも嬉しくないわけではないしどう反応すればいいのか困ってしまって嬉しさと困惑を隠せない』とでもいうべき状態。

 とりあえず、葉月がこれまで見てきたような表情とはまるで違ったため、少しだけ葉月も彼女が女なのだということを意識してしまった。

 

「……」

 

 わずかな硬直。

 お互いに何をすればいいのか、何を言えばいいのかわからないが故に沈黙が生まれる。

 

「っと……ごめん。そっちがそんなに赤くなるんだったらやめておいたほうがよかったかも」

 

 だが、実行した側の方がわずかに復帰が早かった。

 そのため、ライネスが止める暇もなく葉月はそこからどいて、少しだけ雰囲気が緊張したものに変化しながらもそれ以上の変化はない。

 

「う、うむ。悪いことをしたとわかっているならそれでいい。からかった私も悪かったということで不問にしようじゃないか」

 

 顔を真っ赤にしながらもライネスはそう言って、この事案をなかったことにしようとして、葉月もそれに対して了承の意を込めて頷いた。

 

 

 

 

 

 葉月とライネスの間には先ほどのアレのせいで、多少の緊張が走ったままだったのだが、それをどうにかしなければ聖杯対戦に最後まで勝ち残るなど不可能な事柄。

 そのため、少しでもいつもの雰囲気に戻るために行われたのはいつもの行動。

 ライネス主催のお茶会である。

 

「それで、いかがなさいますかライネスお嬢様」

 

 今この瞬間だけはマスターとサーヴァントではなく、お嬢様とその従僕。

 どちらも、普段から慣れている地位の行動を行うことで精神を落ち着けようということだ。

 

(それにしても、我がマスターは無駄に従僕根性が染み付いているな)

 

 今ここにいるライネスは、マスターの従僕としての姿を自分に向けられるのは初めてなので、彼の姿についての採点をしていた。

 聞いた話では、彼は魔術師としての能力が家のそれとはまるで合わなかったために、御上家の魔術に対しての適性が高かった彼の弟が当主となることが決定したために勘当されてしまったらしい。

 さらにそれに加えて、魔術回路の量と質だけは一級品だったから、彼の弟の次代……つまり葉月の甥か姪にあたる人物に葉月を殺して奪い取った魔術回路を埋め込む、なんてことのために御上家が葉月を”回収”しようとしたところでライネスに拾われてしまったのだ、とのこと。

 そのため、恋愛対象ではないし、生意気なガキだとも思っているが、それでもこの世界のライネスへの忠義だけは持ち合わせている。

 それこそ、ライネスから遺伝子をもらうぞ、と言われれば三日三晩ぐらい苦悩して、最終的に諦めて差し出す程度には。

 

「ふむ、そうだな。……ショッピングといこうか」

 

「……はい?」

 

「いや、だからショッピングだよ。今の私は英国人(ライネス)でもあるし中国人(司馬懿)でもある。ならば、そちらの服装も似合いそうだとは思わないかね?」

 

「……それはそうだろうけど」

 

「それに、今は私たちが行動できるようなタイミングではない。車の調達のついでにショッピングぐらいしてもバチは当たるまい」

 

 そう言って立ち上がったライネスは、もう完全にショッピングに行くつもりらしい。

 サーヴァントとしてではなく、普通の少女としての一面を見せながらライネスはどこか楽しそうにテントの中から出るのだった。




よし、新しいやつを思いついた!

裁:アストライア
裁:ジャンヌ・ダルク
裁:シャーロック・ホームズ
裁:天草四郎時貞
裁:マルタ
裁:カール大帝
裁:ケツァルコアトル

の七人から成る審判の陣営や! 常に調停の基準を擦り合わせているだけやから無害やで!!

……FGO世界線以外だと召喚できないサーヴァントだけで新しい陣営作ったり、ゴルドさんをマスターから降ろしてオリ主をセイバーのマスターにしたりとか、色々と書いてみたいものがある……

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