Re:BEATLESS   作:nameless

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 あの秋の日から数日。

 無事進級試験をクリアしたアラトたちは、いつものようにタコヤキ屋のイートイン・スペースの一角で駄弁っていた。

 話題はやがて、レイシアのことにシフトする。

 

 「そういえば、アラト。()()()レイシアのことだが」

 

 《ヒギンズ》地下施設の激闘で破壊されたレイシアは、記憶や振る舞いをそのままに、新しい体でアラトの元へ帰ってきた。

 アラトはそれを心から喜んで歓迎し、既に二人の親友にも伝えていた。

 

 「気をつけろ。ボディが『人類未到産物(レッドボックス)』じゃないとはいえ、アレを動かしているのは超高度AIの《レイシア》だ。もしおかしな動きを見かけたら・・・」

 「おかしな、って。もうレイシアは・・・」

 

 かつてレイシアが人類に干渉し、資源の再分配を試みたのは、オーナーのアラトが望み、レイシアにその力があったからだ。

 ただの・・・と一概に言える値段ではないが、それでも『人類に解析・製造可能な』機体であるレイシアに、最早その力はない。

 

 アラトは親友の心配性に苦笑した。

 あの冒険を、あの死闘を潜り抜けても、性格の根幹というものは変わらないらしい。

 

 「だから、機体がどうこうじゃない。アレがAASCの管理を担っているということは、《レイシア》は、外界の状況をほぼ無制限に観察できて、かつそれをコントロールできる超高度AIなんだぞ!?」

 

 《ヒギンズ》は、仮想の世界を作り、そこにhIEから送られる情報を反映させて行動を規定していた。

 だが《レイシア》は、hIEを通じて現実を観察し、hIEを適宜操作している。この差異は計り知れない。

 最近流行しているVRFPSゲームと、実際の戦争ぐらい違う。

 

 「それが何だって言うんだよ。・・・第一、それは《アストライア》の指示だろ」

 

 国際人工知性機構(IAIA)が擁する、もう一つの“現実への無制限アクセスを許可された(アンリミテッド)超高度AI(オーバーインテリジェンス)。《アストライア》。

 先のレイシア級同士の戦いに際して諫言し、そして事後処理を国家とミームフレーム社より一任された彼女は、レイシアを40機目の超高度AI《レイシア》として稼働を続けさせ、休眠した《ヒギンズ》の代わりにAASCの更新を続けるよう告げた。

 

 「いくらレイシアが・・・《レイシア》が外部環境を無制限に閲覧できる超高度AIだとしても、《アストライア》を操ることは出来ないはずだ」

 「それは・・・そうだが。とにかく、アレに心を許し過ぎるな」

 「海内さん、その辺にしておきましょうよ。タコヤキ、冷めちゃいますよ」

 

 ケンゴがやんわりと制止すると、熱くなっていた自覚はあるのか、リョウは一度大きくため息を吐くと、爪楊枝を手に取った。

 

 「熱っ」

 

 

 

 ◇

 

 

 「おかえりなさい、アラトさん」

 

 家に帰ったとき、アラトは思う。

 

 「生きててよかった・・・」

 

 家に帰ると、レイシアが居る。

 そのレイシアは、かつての人類未到産物ではない通常機だが、アラトが恋したレイシアのままだ。

 こころがないhIEを、何を持って『同一』と判断するのか。そんな小難しいことは、リョウたち頭のいい人が考えればいい。

 アラトはそう思っていた。

 

 唐突に呟かれた人生賛美に動じることもなく、レイシアはアラトから鞄と上着を受け取る。

 

 「夕食までもう少し掛かります。学校の課題があれば、お手伝いしましょうか」

 「大丈夫、課題は出てないから。ユカは?」

 「先ほど、お戻りになりました」

 

 足元を見れば靴の有無で分かるようなことだが、アラトにはこの無駄な会話がどうしようもなく尊いものに思えた。

 

 「そっか。・・・あれ? 誰か来てるの?」

 

 見慣れない女性ものの靴が、ユカの靴の隣に綺麗に並べて置いてあった。

 海内紫織のそれとも、村主オーリガのものとも違う。

 

 「《アストライア》が視察と称して来ています。ですがお気になさらず。既に()()視察は終わりました。この部屋の中でのことは記録されないので、単にアラトさんの“その後”を見に来たのだと思われます」

 「アストライア・・・そっか、彼女が」

 

 リビングに行くと、確かに見たことのあるhIEがソファに腰掛けていた。

 紫色の髪に、レイシアとは違う表情に乏しい顔。綺麗ではあるが、厳しさが伺える、好みの分かれる顔だとアラトは思う。

 

 「久しぶり」

 「えぇ、お久しぶりです。レイシアのオーナー。・・・遠藤アラトさん、でしたか」

 

 いつかと変わらぬ口調での問いに、アラトの背筋が自然と伸びる。

 

 「あぁ。・・・久しぶり、《アストライア》」

 「お元気そうですね。・・・大怪我をされたそうですが」

 

 メトーデの攻撃によって負った傷は、決して浅いものではなかった。

 だが、的確で素早いレイシアの対応と、最先端の医療技術によって、なんとか後遺症もなく過ごしている。

 

 「レイシアのおかげだよ。・・・君は、どうしてここに? 視察とは聞いたけど」

 「・・・いえ、もうそれは済みました」

 

 言って、彼女は立ち上がった。

 

 「お邪魔しました。もう、お会いすることがないといいのですが」

 

 

 少し寂しいことを言い残して、彼女は帰っていった。

 玄関の扉が閉まる音を聞いて、ユカが自室から顔を出す。

 

 「レイシアさんのお友達、もう帰ったの?」

 「はい」

 「じゃあさ、ちょっと勉強教えて?」

 「構いませんよ」

 

 レイシアは未だに、複数のクラウドを使いこなす。

 教育系のクラウドに接続すれば、人間の家庭教師を雇うどころか、新しい参考書やテキストを買う必要すらない。

 

 「すごいな、やっぱり・・・」

 

 レイシアが『人類未到産物(レッドボックス)』であろうがなかろうが。

 アラトは安堵にも似た感傷を覚えた。

 

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