Re:BEATLESS 作:nameless
遠藤家にインターホンの音が響いたのは、そろそろ床に就こうかという時間だった。
流石に眉を顰めたアラト同様、レイシアが困り顔で玄関へ向かう。
不審な来客にレイシアを応対させるのはアラトとしては心配だが、レイシアは帰ってきた日に『機体性能こそ落ちたが、人類最高スペックかつほぼ無制限のAASC更新とクラウドアクセスが可能』・・・つまり、運動パフォーマンスだけなら依然と遜色ないと告げている。
・・・とはいえ、レイシアの運動性能はそれほど高いわけではない。一対一の徒手格闘なら、紅霞やメトーデに劣る。
「・・・レイシア?」
不安を払拭しきれなかったアラトが、リビングの扉を開けて玄関を窺う。
レイシアが扉を開け────
「──久しぶり、お姉さま。・・・や、お母さま?」
黒いボディースーツに、紅色の髪。
あの物騒極まるデバイス《BLOOD PRAYERS》は持っていないが、それ以外は、初対面で刃を交え、そして幾度となくアラトを救ってくれた、最初のレイシア級。
「紅霞!?」
あの地下施設で並んで歩いた量産機ではない。『人類未到産物』由来の紅い髪。明朗な笑顔。
かつてPMC『ハンズ・オブ・オペレーション』に撃破された、彼女。
「遅かったですね、紅霞。皆も」
レイシアが言うと、紅霞の後ろから、彼女の半分ほどの背丈しかない少女が姿を見せる。
・・・いや、アラトは最早、
白いワンピースは鋼鉄であろうと食い破り咀嚼する貪食な顎だ。輝きを放つエメラルドの髪は量子通信素子の塊だ。幼い顔立ちと人懐っこい笑顔は、怪物となったそれを見た後では歪に見える。
にこり、と。それはアラトに笑いかける。
「お久しぶりね、お兄ちゃん」
「スノウドロップ・・・!!」
かつてメトーデに撃破され、ミサイルに詰め込まれ、そして機械の怪物となってアラトに、レイシアに牙を剥いた、《ヒギンズ》の娘。その一人。
Type-002『スノウドロップ』。
「レイシア、これは・・・」
自分の脳が処理限界を迎えたとき、アラトはいつもレイシアに頼る。それはレイシアも同じことで、二人は、一人と一基は、そうして一個のユニットとなる。
「ご安心を。彼女たちは、かつてのレイシア級hIEではありません。敵対する可能性はゼロです」
超高度AI、それも《アストライア》をして脅威と言わしめる《レイシア》が、そう言い切った。
ならばアラトはおろか、もしこれを聞く他人がいたならば、誰であろうと信じるしかない。
・・・だが、理性と感情は別だ。
地下施設で見た悍ましい姿が、感情の模倣を止めた機械の瞳が、無機質な殺意が想起される。
「・・・」
アラトは無言のまま、レイシア、紅霞、そしてスノウドロップを順繰りに見る。
見た目は、文句なしに美形の少女たち。機械だと分かっていても尻込みしてしまうような容姿は、アラトから警戒心を徐々に奪い去っていく。
「なら───」
「相変わらずチョロいのね。
「な、お前は!?」
パンツスーツに覆われたスレンダーな長身。レンズの入っていない眼鏡がいくらか和らげる、鋭い視線。背中まで伸びた金髪。
そのどれもが、アラトに恐怖を呼び起こさせる。
吹き飛ばされ、投げ飛ばされ、挙句肺まで焼かれた因縁の相手。
レイシア級最強の純戦闘能力特化型hIE。Type-004『メトーデ』。
紅霞のような目立つものではない、秘匿性と携行性に優れ、かつ殺傷・破壊力を兼ね備えたデバイス《LIBERATED FLAME》は、無造作にポケットに突っ込まれた手に、今も備わっているのだろうか。
アラトの心中を、不安と恐怖が埋め尽くしていく。
震え出したアラトの手を、レイシアが包み込んだ。
紅霞がアラトの前に立ち、呆れたような笑顔でメトーデの姿を隠して漸く、アラトは冷静になれた。
「敵対する可能性がゼロって、どういうことだ」
問われたレイシアは、微笑を浮かべて口を開く。
「彼女たちは、私が作ったhIEです」
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