加糖さんからは「拉致されたカナエ視点」、exciteさんからは「拉致されて最終的に童磨さんに斬られた周回」です。
私は幸せだった。優しい両親に恵まれて、可愛い妹も生まれた。妹が生まれた日は今でも覚えている。母に抱き上げられて、私よりも小さな体が私を見ていた。その小さな手が私の人差し指を頼りなく包んでいて、それでも力強く、生きていることを告げていた。
――私たちは幸せだった。いつまでも、家族一緒に過ごせると信じていた
ある日の晩、そんな幸福を破壊する鬼が現れた。……目の前で大好きな両親が食い殺された。下品に笑う鬼を、血まみれの両親を、泣いている妹には見せたくはなかった。守るように妹を覆い隠して、鬼が私達を今にも襲い掛かろうとした瞬間、鬼は消え去った。私たちを守ってくれた人は、鬼殺隊を名乗り、身寄りのない私たちは鬼殺隊に入ることを決めた。
――私たちと同じ思いを他の人にはさせない
妹と誓った願い。鬼を一体でも多く倒せばその分悲劇を減らすことが出来る、そう信じているけれど、私は鬼に非情にはなれなかった。鬼の首をとる度に、彼らの歪んだ執着や思想が見えてくるからだ、鬼は哀れで悲しい存在。話すことも考えることも出来るなら私たちはきっと分かり合える。
――仲良くすれば、殺し合いなんて、失うことなんて、なくなるのに
妹は鬼殺隊と同じ方を見ているけれど、私は、そう思ってしまうんだ。
――――――――――――――――――
ちょっとした、油断だった。後ろから一撃、奇襲を貰う。しまった、そう思っても意識が遠のく感覚がする。しのぶ、唯一の最後の肉親の顔が浮かんで、プツリと糸が切れるように暗くなった。
目を覚ませば、畳の部屋だった。視界に映る襖は金箔が何枚も重ねられ、置かれている家具の装飾は匠の繊細な技術が見て取れるようだった。一室だけでいかに贅沢を尽くしているのか分かる程だ。まるで夢を見ているようで周囲を見渡せば一人の男が立っていることを理解した。
「おはよう、カナエちゃん」
何故名前を知っているのか、聞くよりも先に視界に映ったモノのせいでそんな言葉は吹き飛んだ。男は見せつけるように見覚えのある刀を見せつけた。鬼を狩る日輪刀。
「やあやあ、初めまして。俺の名前は
今日からここが君の家だよ、目の前の男は私に笑いかけてくる。
「実はカナエちゃんにやってもらいたいことがあってね」
何故か名前を知っている鬼は、笑いながら握った手を目の前に見せつけた。まず一つ、人差し指が上がった。
「ここで生活をすること」
二つ目、
「笑って欲しい、たったこれだけだよ」
勿論ご飯も準備するし、欲しいものもあったら遠慮なく言って。準備するから、自由にはしてあげられないけど、それ以外なら叶えてあげる。
――ね、簡単でしょ?
有無も言わさぬ鬼の言葉。逆らえば、命はないと言わんばかりだ。これからこの鬼と生活しなければならない事実に、戦慄した。
――――――――――――――――――
囚われて、何日経っただろうか。
――そして、今日もあの鬼はやって来た。
襖の開く音がする。盆を持って、ニヤニヤと笑って此方を見ている。……何が、おかしいのですか、思わず声が出た。おっと、しまった。そんな表情で
「いや、似てるなって思ってね。不愉快なら謝るよ、ごめんね」
ご飯、持って来たぜ。盆の中には
「……カナエちゃん、食べてくれないと死んじゃうぜ」
命は大切にしなければ、そう続く言葉に思わず睨むがこの鬼には効かないようだ。嬉しそうに受け入れる心境がまるで分からない。先程話した似ている誰かを私越しで見ているのか。気付けば
「そうだ、俺も君と食べればいいんだ。一人だから寂しかったんだね。言ってくれれば良かったのに照れ臭かったのかな?」
「ちょうど食事を持ってくる信者も来ることだし、ちょうどいいかも――ッ」
「やめてッ!!」
何も知らない信者が私の膳を持って、置いた瞬間鬼に殺される。両親と、同じように。目の前で、何もできない無力なまま……。想像すれば反射的に声が出た。思いのほか大きな声が出てしまい、息が荒く、整わない。やめて、その言葉が出ないが見つめる目で
「……やめれば、食べてくれるのかな?」
首を傾げて問われる言葉に黙って頷いた。ああ、よかった。鬼の喜ぶ声が聞こえると同時に襖が開く音がした。思わず、息を呑む。先程
「じゃあ、食べてね」
よっこいしょ、と声を出して
「……あの、そんなに見られると、気になります」
「ああ、気にしないで」
ひらひらと手を
「ああ、可愛いなぁ……」
うっとりとした様子で
――――――――――――――――――
……食事を取らざるを得なくなった。信者に膳を持たせて、ニヤニヤする鬼の卑怯さと屈辱を味わう歯がゆい日々が繰り返される。絶望して悔しそうにするのを眺めることがあの鬼にとっての趣味なのだろうか。そう思えば表情は硬く、感情も凍り付く思いだった。それでも鬼は私を食べようとはしなかった。あの鬼の望みを思い出していると、唐突に襖が開いた。
「こんばんは、カナエちゃん。良い夜だねぇ」
にっこりといつもの笑みを浮かべた鬼が現れて、思わず身を引き締めた。返事はしなかった。相変わらずツレないね、
「それじゃあ、カナエちゃん外に行こうか」
そう言って、横に抱き上げられた。邪悪な鬼の手に収まっていることに耐えられなかった。暴れるも上弦の鬼の力は私よりも遥かに強いようで、大した抵抗にはならなかった。月明かりに照らされている障子を
「ははッ、綺麗だろ?信者たちにも好評なんだ」
気に入ってくれて嬉しいぜ、鬼の尖った牙を覗かせて
「おお、なんだいなんだい。珍しいな、話でもしたいのかい?」
いいよ、何でも応えてあげる。
「……私に、何をさせたいの?」
「最初から言ってただろ、ただ生活をして笑って欲しいって。……忘れちゃったのかな?」
「……そうね、貴方はそう言った。だけど目的は見えないの」
――貴方は、私に誰を見ているの?
彼女の問いに今度は
「似ているなって誰の事なの?どうして私なの?貴方は私を可愛いと言うけれど。誰を、求めているの?」
「そうか、見抜かれていたか。……参ったね」
ははっと笑ったが先程の調子とまるで違う。寂し気に笑って、自嘲じみていた。
――鋭い所もそっくりだ、
「……君には、悪いって思っているよ、別の女の子と重ねているなんて失礼だよね」
ごめんね、だけど君には此処に居て欲しい。願うように目を細めた。とてもいつもの鬼には到底思えなかった。
――それだけが、俺の願いなんだ
数字の刻まれた虹色の瞳を静かに閉ざして
同じ内容のリクエストなので二人同時に叶えさせて頂きます。
※exciteさんからは二つリクエストされてます。「童磨さんの首を斬った周回のカナエ視点」ですがちょっと繋げられそうにないのです。ぶつ切りになっても大丈夫!というのなら後半に書かせていただきます。