童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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加糖さんとexciteさんのリクエスト。今回は長くなりそうなので前半後半に分けます。

加糖さんからは「拉致されたカナエ視点」、exciteさんからは「拉致されて最終的に童磨さんに斬られた周回」です。


リクエスト2 前編

 私は幸せだった。優しい両親に恵まれて、可愛い妹も生まれた。妹が生まれた日は今でも覚えている。母に抱き上げられて、私よりも小さな体が私を見ていた。その小さな手が私の人差し指を頼りなく包んでいて、それでも力強く、生きていることを告げていた。

 

――私たちは幸せだった。いつまでも、家族一緒に過ごせると信じていた

 

 ある日の晩、そんな幸福を破壊する鬼が現れた。……目の前で大好きな両親が食い殺された。下品に笑う鬼を、血まみれの両親を、泣いている妹には見せたくはなかった。守るように妹を覆い隠して、鬼が私達を今にも襲い掛かろうとした瞬間、鬼は消え去った。私たちを守ってくれた人は、鬼殺隊を名乗り、身寄りのない私たちは鬼殺隊に入ることを決めた。

 

――私たちと同じ思いを他の人にはさせない

 

 妹と誓った願い。鬼を一体でも多く倒せばその分悲劇を減らすことが出来る、そう信じているけれど、私は鬼に非情にはなれなかった。鬼の首をとる度に、彼らの歪んだ執着や思想が見えてくるからだ、鬼は哀れで悲しい存在。話すことも考えることも出来るなら私たちはきっと分かり合える。

 

――仲良くすれば、殺し合いなんて、失うことなんて、なくなるのに

 

妹は鬼殺隊と同じ方を見ているけれど、私は、そう思ってしまうんだ。

 

――――――――――――――――――

 

 ちょっとした、油断だった。後ろから一撃、奇襲を貰う。しまった、そう思っても意識が遠のく感覚がする。しのぶ、唯一の最後の肉親の顔が浮かんで、プツリと糸が切れるように暗くなった。

 

 目を覚ませば、畳の部屋だった。視界に映る襖は金箔が何枚も重ねられ、置かれている家具の装飾は匠の繊細な技術が見て取れるようだった。一室だけでいかに贅沢を尽くしているのか分かる程だ。まるで夢を見ているようで周囲を見渡せば一人の男が立っていることを理解した。行灯(あんどん)橙色(だいだいいろ)の淡い光に照らされて、妖しく笑う男は声を出す。

 

「おはよう、カナエちゃん」

 

 何故名前を知っているのか、聞くよりも先に視界に映ったモノのせいでそんな言葉は吹き飛んだ。男は見せつけるように見覚えのある刀を見せつけた。鬼を狩る日輪刀。(つば)の形状、(さや)の使い古したでこぼこ。……腰に身に着けていた、私の刀だった。改めて腰を見れば、下げた刀どころか、身に着けていた隊服もなかった。返して、手を必死に刀へと伸ばす。おっと、男は更に刀を上げて遠ざけた。じゃらり、足元から音がしてピンと足が張る感覚がする。転びそうになるのを必死に(こら)えて足元を見れば、鉛色の(かせ)がそれ以上の進みを阻害していた。男は優しく笑みを浮かべる。

 

「やあやあ、初めまして。俺の名前は童磨(どうま)

 

 今日からここが君の家だよ、目の前の男は私に笑いかけてくる。白橡色(しろつるばみいろ)の髪には血のような赤黒い模様が浮かぶ。見たこともない虹色の眼の中には上弦弐の文字が刻まれている。上弦の月だった、それがますます警戒心を研ぎ澄ます。手元に日輪刀は無く、足は鎖に繋がれ思うように動けない。現状は不利だった。余裕そうに目の前の鬼はケラケラ笑う。それがますます気に食わなかったが戦う術はない。ただ、睨むだけとなったが可愛いと連呼されて鬼の意図が分からなかった。童磨(どうま)と名乗る鬼がまた言葉を続けた。

 

「実はカナエちゃんにやってもらいたいことがあってね」

 

 何故か名前を知っている鬼は、笑いながら握った手を目の前に見せつけた。まず一つ、人差し指が上がった。

 

「ここで生活をすること」

 

二つ目、童磨(どうま)は更に指を上げる。

 

「笑って欲しい、たったこれだけだよ」

 

 勿論ご飯も準備するし、欲しいものもあったら遠慮なく言って。準備するから、自由にはしてあげられないけど、それ以外なら叶えてあげる。童磨(どうま)はケラケラ笑っている。……話を聞いても求めている意図が分からなかった。やってもらいたいことがそれだけとは、何をさせたいのか。疑問が湧いていくうちに目の前に童磨(どうま)が立っている。(あご)を優しく上げさせて、彼は微笑んで更に言葉を続けた。

 

――ね、簡単でしょ?

 

 有無も言わさぬ鬼の言葉。逆らえば、命はないと言わんばかりだ。これからこの鬼と生活しなければならない事実に、戦慄した。

 

――――――――――――――――――

 

 囚われて、何日経っただろうか。童磨(どうま)が求めることは本当にそれだけのようで、着物も毎日違うもので、金箔を豪華にあしらい、刺繍も丁寧になされた女性が喜ぶものを着せられた。(かんざし)や遊び道具も渡される。……ただただ、豪華な生活を享受させられた。信者たちも鬼ではなく、純粋な人間ばかりが周囲に存在し、教祖である鬼を誰もが信じていた。鬼である童磨(どうま)の邪悪さが窺い知れた。

 

――そして、今日もあの鬼はやって来た。

 

 襖の開く音がする。盆を持って、ニヤニヤと笑って此方を見ている。……何が、おかしいのですか、思わず声が出た。おっと、しまった。そんな表情で童磨(どうま)は申し訳なさげに苦笑した。

 

「いや、似てるなって思ってね。不愉快なら謝るよ、ごめんね」

 

 ご飯、持って来たぜ。盆の中には童磨(どうま)の言うご飯が存在し、豪華な食材が並べられ、彩り豊かに演出されていた。美味しそう、飢えに襲われる。だけど、食べてなるものか。盆を払いのければ、そのまま盆はひっくり返って畳を汚した。しょんぼりした様子で童磨(どうま)は口を開く。

 

「……カナエちゃん、食べてくれないと死んじゃうぜ」

 

 命は大切にしなければ、そう続く言葉に思わず睨むがこの鬼には効かないようだ。嬉しそうに受け入れる心境がまるで分からない。先程話した似ている誰かを私越しで見ているのか。気付けば童磨(どうま)は信者の一人に何かを言い渡していた。信者は教祖の言葉に喜んでいる様子でそそくさと消え去っていった。その信者の純粋さを利用する童磨(どうま)が許せそうになかった。ますます睨めば童磨(どうま)はううん、と悩む素振りで目を閉ざした。少し、間が開く。唐突に目を開かせたと思えば、両手を叩き人差し指を立ててとんでもないことを言い出した。

 

「そうだ、俺も君と食べればいいんだ。一人だから寂しかったんだね。言ってくれれば良かったのに照れ臭かったのかな?」

 

 童磨(どうま)の言葉に、理解が追い付かない。君と食べると、鬼は話していなかっただろうか。先程、何を言っていたのか考えている内に、納得した様子でうんうんと頷いている。気付けば話は勝手に進んでいる。それがいいね、童磨(どうま)はにっこりと微笑んだ。いつものように、笑みを張り付けていた。

 

「ちょうど食事を持ってくる信者も来ることだし、ちょうどいいかも――ッ」

 

「やめてッ!!」

 

 何も知らない信者が私の膳を持って、置いた瞬間鬼に殺される。両親と、同じように。目の前で、何もできない無力なまま……。想像すれば反射的に声が出た。思いのほか大きな声が出てしまい、息が荒く、整わない。やめて、その言葉が出ないが見つめる目で童磨(どうま)は言いたいことが分かったようだ。

 

「……やめれば、食べてくれるのかな?」

 

 首を傾げて問われる言葉に黙って頷いた。ああ、よかった。鬼の喜ぶ声が聞こえると同時に襖が開く音がした。思わず、息を呑む。先程童磨(どうま)と話していた信者が食事の乗った膳を運んでいる。童磨(どうま)はそれを見ている。目の前に膳が置かれる。想像した映像が浮かぶも、一向に童磨(どうま)から殺意は感じられない。……どうやら約束は守るようだ。ありがとう、緊張から、か細く出てしまった。声を聞いた童磨(どうま)はホッとした様子で信者にお礼を言った。信者は喜んで部屋を出ていった。

 

「じゃあ、食べてね」

 

 よっこいしょ、と声を出して童磨(どうま)は少し離れた位置にどかりと腰を下ろして胡坐をかいた。膝に肘をつき、手に顎を置いている。嬉しそうに私の食事を見ている様子に耐え切れなかった。……声を掛けた。

 

「……あの、そんなに見られると、気になります」

 

「ああ、気にしないで」

 

 ひらひらと手を(ひるがえ)童磨(どうま)は笑っている。どうやらやめる気は無いようだ。はあ、思わずため息が零れる、諦めて食事を続けた。

 

「ああ、可愛いなぁ……」

 

 うっとりとした様子で童磨(どうま)の言葉が部屋中の空間に響き渡った。

 

――――――――――――――――――

 

 ……食事を取らざるを得なくなった。信者に膳を持たせて、ニヤニヤする鬼の卑怯さと屈辱を味わう歯がゆい日々が繰り返される。絶望して悔しそうにするのを眺めることがあの鬼にとっての趣味なのだろうか。そう思えば表情は硬く、感情も凍り付く思いだった。それでも鬼は私を食べようとはしなかった。あの鬼の望みを思い出していると、唐突に襖が開いた。

 

「こんばんは、カナエちゃん。良い夜だねぇ」

 

 にっこりといつもの笑みを浮かべた鬼が現れて、思わず身を引き締めた。返事はしなかった。相変わらずツレないね、童磨(どうま)は日常会話でもするように語り掛け、私の傍にやって来た。跪いて目の前に虹色の綺麗な目が私を捉えている。……明らかにいつもと違う。不意に、頬を撫でられた。……ああ、とうとう食べられるんだ。身構えて痛みに備えて目を閉ざすとガチンと金属の音がした。足元を見れば(かせ)の鎖が壊れている。目を白黒させていると童磨(どうま)は嬉しそうに微笑んでいた。

 

「それじゃあ、カナエちゃん外に行こうか」

 

 そう言って、横に抱き上げられた。邪悪な鬼の手に収まっていることに耐えられなかった。暴れるも上弦の鬼の力は私よりも遥かに強いようで、大した抵抗にはならなかった。月明かりに照らされている障子を童磨(どうま)が開けば外の外気の冷たさに触れた。見上げれば満天の星とぽっかりと浮かぶ満月が庭を照らしていた。庭師に整えさせた草木は夜風にせせらぎ、椿の花が彩り豊かに植えられている。奥に続く踏み石を童磨(どうま)は私を抱き上げて一歩一歩踏みしめた。……綺麗だった。思わず見入るように周囲を見渡した。可愛いね、童磨(どうま)が笑う。見られた事実にハッとして顔を熱くなった。満足そうに童磨(どうま)は口元を緩ませていた。

 

「ははッ、綺麗だろ?信者たちにも好評なんだ」

 

 気に入ってくれて嬉しいぜ、鬼の尖った牙を覗かせて童磨(どうま)は笑った。鬼の牙さえなければ好青年に見えてしまう。……あなたは、気付けば小さく声を出していた。童磨(どうま)は目を丸くさせていた。

 

「おお、なんだいなんだい。珍しいな、話でもしたいのかい?」

 

いいよ、何でも応えてあげる。童磨(どうま)は嬉しそうだ。

 

「……私に、何をさせたいの?」

 

 童磨(どうま)は応えた。私を見つめている。

 

「最初から言ってただろ、ただ生活をして笑って欲しいって。……忘れちゃったのかな?」

 

「……そうね、貴方はそう言った。だけど目的は見えないの」

 

――貴方は、私に誰を見ているの?

 

 彼女の問いに今度は童磨(どうま)が固まった。初めて余裕が崩れていた。そうだ、鬼の望みはいつだって執着だ。言葉が止められなくなった。

 

「似ているなって誰の事なの?どうして私なの?貴方は私を可愛いと言うけれど。誰を、求めているの?」

 

「そうか、見抜かれていたか。……参ったね」

 

 ははっと笑ったが先程の調子とまるで違う。寂し気に笑って、自嘲じみていた。

 

――鋭い所もそっくりだ、

 

 童磨(どうま)は笑う。そっくりって誰なの、そんな言葉は続かない。不意に頬を撫でられた。鋭く人を切り裂いて殺す鬼の爪は、傷つけることなく、優しく撫でている。それに心地よさすら覚えてしまう。

 

「……君には、悪いって思っているよ、別の女の子と重ねているなんて失礼だよね」

 

 ごめんね、だけど君には此処に居て欲しい。願うように目を細めた。とてもいつもの鬼には到底思えなかった。

 

――それだけが、俺の願いなんだ

 

 数字の刻まれた虹色の瞳を静かに閉ざして童磨(どうま)はいつものように微笑んだ。正直、困惑した。こんなに穏やかに鬼が望むのは初めて見たからだ。それも可愛いな、と誰かを思い浮かべている童磨(どうま)は少女に可愛いと弱弱しく呟いた。

 




同じ内容のリクエストなので二人同時に叶えさせて頂きます。

※exciteさんからは二つリクエストされてます。「童磨さんの首を斬った周回のカナエ視点」ですがちょっと繋げられそうにないのです。ぶつ切りになっても大丈夫!というのなら後半に書かせていただきます。

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