童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

12 / 32
書き直し中、いいと思ったものを出しました。大体流れは変わっていません


8週目

 幼い彼女たちは素直だった、純粋な子供というのもあるのかもしれないがそれ以上に両親の教えが大きいのだろう。良い子に育っていた。両親には感謝をしなければ。カナエちゃんは変わらず優しい子であったし、しのぶちゃんに至っては真面目さに負けん気が強い気の強さがあっていつも見る彼女とは違う様子が見ることが出来た。へぇ、意外。と思いながらも確かに彼女と戦った時にはそういう感じが出ていたし、生来の性格は今の彼女なのかもしれない。お姉さんの真似をしたかったのかな、そう考えるとますますしのぶちゃんが可愛く思えて仕方なかった。

 

――俺を慕う彼女たちに囲まれて、幸福な日々だった

 

 俺から彼女たちは離れないし、俺を見てくれている。負の感情じゃない視線を感じるのは心地がいいことを知った。教祖としてまだまだ他人行儀だけど、俺たちはこれからなのだから、焦ることはない。俺の知る彼女達になったら、必ず鬼にするからね。永遠を生きような、と笑いかければ彼女たちは意味も分からず俺の言った言葉を繰り返している。可愛いね、そう言って俺は首を傾げている彼女たちの頭を撫でた。

 

 教祖として頭の弱い信者達を導きながら彼女たちの世話をする。幼い彼女たちを育てるというモノは初めてで胸を躍らせた。両親に任せていた部分もあったけれどやはり俺自身でも育ててみたい気持ちが出てしまい、少しばかり勉強を教えている。ここでまさか遊女たちと遊んだ経験がいきるとは思わなかった。化粧の仕方や着付け、生け花、琴といった淑女(しゅくじょ)としての(たしな)みを教え込むのは俺自身初めての経験であったし、彼女たちも幼いながらも一生懸命ついていこうと学ぶものだから俺も教えるのに根を詰めた。彼女たちが上達すれば俺も嬉しくて(たま)らなかった。頑張り屋だね、可愛いね。そう褒めれば彼女たちはますます励んで微笑ましい思いで彼女を見ていた。育てる楽しみというものはこういうものなのか、親の心境が分かるようだった。漠然(ばくぜん)とそう考えていると胸が久々にトクトクと音を立てて騒がしくなった。

 

――――――――――――――――――

 

 月日はあっという間に過ぎていく。猪の母親、琴葉が入信した頃だった。原形が分からなくなった顔の腫れを治療していると、カナエちゃんと愛しのしのぶちゃんがやって来た。赤ん坊が珍しいらしい。カナエちゃんはしのぶちゃんの赤ん坊の頃を思い出しながら優しく抱き上げて、しのぶちゃんも初めて見る赤ん坊にドギマギしながらその手を触っていた。琴葉も満足げにその光景を見ていたしこの光景がいつまでも続けばいいなと思っていた。

 

――そんな頃だった。琴葉に、俺の食事が見られてしまった

 

 感が鋭いからいつも彼女を遠ざけたり、寝静まった頃を狙って信者を食べていたけれど、やはり妓夫太郎(ぎゅうたろう)たちと同じように何かしらの因果で琴葉にはバレてしまうようだった。人殺し、化け物と何度も聞いた言葉を聞いていつもの説明を話しても聞き入れてはくれなかった。そして琴葉は赤ん坊を抱き上げて逃げ出した。それだけなら良かった、それなのに彼女はついでと言わんばかりにカナエちゃんとしのぶちゃんを連れ出した。流石に焦って追いかけたけれど、琴葉はなんと赤ん坊と彼女たちを崖から落としたんだ。目の前で、しのぶちゃんが重力に従って、落ちていく。小さな手が、目の前で吸い込まれるようにするりと崖下に消えていった。……なんてことをッ。怒りのあまり、彼女を殺してしまった。慌てて崖下を覗き込めば真っ暗な空間が広がっていて底が見えない。気付けば夜明けの光が差し掛かり、逃げざるを得なくなってしまった。ここまで太陽が憎らしいと思ったことは無かった。屋敷に戻り次第信者たちに命令して彼女たちを捜した。数年が経った。それでも結局見つけることは出来なかった。

 

――いいのです、教祖様。これが娘たちの運命だったのです

 

 きっと極楽にいますよ、彼女たちの両親の言葉を聞いた瞬間、引き裂いて殺してしまった。室内が甘い鉄の匂いで充満する。バラバラになった死体を見下ろした。首だけになった顔はにっこりと微笑んでおり死んだことにすら気付いていない。苛立ってその首を蹴り飛ばせば壁に当たり、潰れたトマトのように四散して張り付いた。息が荒くなる。

 

――運命、運命。……こんなものが、運命?ふざけるな、ふざけるなッ!!

 

 俺からあの光景を、幸福を奪っておいて運命なんていう現実性のないもので片付けようとすることが許せなかった。ここまで不愉快な感情は、初めてだった。太陽さえなければ崖なんてものを飛び降りて、助けていた。琴葉さえ、保護しなければ、説明なんてしなければ、問答無用に琴葉を殺していれば。もしもなんていう子供じみたことを想像する。それでも結果は変わらない。崖に落ちてしまった。ああ、でも。もしかしたら。

 

――もしかしたら、あの猪と同じように助かっているのかもしれない

 

 そう考えると急に頭がスッと冷えた。……そうだ、あの猪は生きていた。だったら彼女たちだって生きている可能性は高いのかもしれない。なら捜さなきゃ。青い彼岸花よりも優先しなければならないことが出来てしまった。……いい機会だ、太陽も克服してみようか。童磨(どうま)は天井で遮られた太陽を睨みつけた。

 

――――――――――――――――――

 

 信者に命じていた青い彼岸花の捜索の大半を彼女たちの捜索に回した。無惨様(あの方)には怒られるかもしれないが、探知捜索系が苦手な俺に当てになどしておられないだろうと踏んで信者たちに命令を下した。そうして教祖としての仕事をしながら、朗報を待ち続ける日々を過ごした。太陽の克服もしようと手を太陽に浴びさせることも日課になった。腕が焼け落ちる痛みを感じながら太陽は俺の腕を四散させていく。鬼としての体質だろうか、日輪刀に切り落とされたように太陽の忌まわしい光は治りが遅かった。日差しの痛みはうんざりするが藤の毒と同じように毎日続けた。もしあの日太陽が平気であったらと思えば、憎たらしい太陽も平気なモノに思えてくるから不思議だ。だけど藤の毒とは違い、太陽の光は一向に慣れてはくれない。……全く、忌まわしい。太陽さえなければ、あの子たちを見失うこともなかったし、いつかのしのぶちゃんの逢瀬(おうせ)の誘いだって受けられたのに。思い返す度に太陽で四散した腕を憎々しげに睨んだ。……結局、太陽は慣れることはなかった。

 

――信者を喰らって、更に高みへ目指しながら、彼女たちを待ちわびた

 

 べべん、琵琶の鳴る音がした。

 

――――――――――――――――――

 

 気付けば、鳴女ちゃんに連れ出されたようだった。見渡せば蓮が浮かぶ水辺の空間が広がっている。此処は、無限城だ。いつの間にか、いつもの日が来たようだ。扉が開く、音がする。誰だろう、もしかして……。ドクリドクリと心臓が重く鳴り響く。真っ先に視界に映ったのは、蝶の髪飾りだった。ドクドク心臓が早鐘を打ち始める。現れたのは二人だった。……見間違える筈がない。カナエちゃんと、しのぶちゃんだ。世界が、色づくような感覚がした。

 

「生きて、生きていたんだねッ……!良かった、良かった!!」

 

 涙が、溢れた。15年が経っていた、鬼の年月ではあっても、彼女たちの居ない年月は、信じて待ち続ける年月は長かった。まるで100年暗闇に閉じ込められて、長いトンネルを潜り抜けた思いだった。

 

「君たちを、捜していたよ。待っていた、ずぅっと、待っていたよ。さあ、約束を果たそうか」

 

 手を差し伸べれば、いつかのように肘から先が無くなった。剥き出しの刀を向けたのはカナエちゃんだった。

 

「何を勘違いしているか、分かりませんが、鬼と約束した記憶はありません」

 

 隣に居るしのぶちゃんも、細い刀身を出して構える。15年という年月は、記憶を薄れさせてしまったのだろうか。姉妹は俺を睨んでいた。覚えていないの、童磨(どうま)の問いに答える者は居なかった。

 




此処で区切りです。後半だけちょいちょい書き直して、続きを出します出来たら今日中に出したいところだけど、大変だったら、明日?かもしれないです。お騒がせしました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。