童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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今回難しかったんですが悩みながら書き上げた。首かりに始まり、毒死、日光浴死、そして吸収。祝!死に方網羅!


10週目

 目覚めれば、いつもの自室だった。顔を俯かせて考えた。……ああ、鬼にしても駄目なのか。呆然とした思いだった。……鬼にすることが出来たのに、俺の好きだった彼女たちではなかったのだ。ただ彼女たちの性格をしているだけの鬼でしかなかった。人間を貪る鬼、俺とお揃い。永遠を生きるのにはこれしかないと思っていた俺が馬鹿だったんだ。彼女たちが鬼になった時、勝手に失望して、比較した自分にもがっかりした。

 

――もう俺が変わるしかない

 

 出来るだけ、彼女たちに近づく。彼女たちに歩み寄ることから始めよう。……もう、しのぶちゃんには、あんなことを言われたくはなかった。カナエちゃんを鬼にした頃を思い出す。カナエちゃんは食事を食べなかったけど、眠って栄養を取っていた、食事を取らなかったのだからそうに違いなかった。……だったら、俺にも出来るのかもしれない。この部屋とこの服は、俺がまだ無惨様(あの方)に鬼にして頂いてから間もなかった頃だ。……意識の混濁としていたあの時の俺はこれからやって来る信者の一人を本能のまま喰らったんだ。いつも此処に戻ってくる度に食べている信者は間違いなく、そいつだった。考えている内に信者がやってくる。教祖様、部屋の外から声がする。ああ、入っていいよ。返答をすれば、膳を運ぶ男の信者が現れた。ドクンドクンと動悸が激しくなるのを感じる。これは感情が動いて心臓が動いた訳ではない、もっと原始的な欲求だ。

 

――食欲、そのものだ

 

 鬼になって間もない、ましてやその直後。意識はあるけれど、身体は鬼になって間もないそれだ。肉の味を知っている分、辛さは藤の毒の比ではなかった。ドクン、ドクン、心臓が、身体が熱い。気付けば膳が目の前に置かれていた。教祖様、首を傾げた信者が俺を見る。お顔色が悪く見られますが、そう聞いてくる信者に大丈夫だからと微笑んだ。ほぅ……と夢見心地のように目を潤ませる信者が煩わしい。ああ、美味しそうだ。うるさい、うるさい。気付けば声を出してしまった。信者は怯えた様子で部屋を出てしまった。

 

――気持ち、悪い

 

 胃がむかむかと飢えを訴え始めた。何日もそんな日が続いた。……何だ、これは。教祖としての仕事も全て休んで部屋にこもる。信者たちが心配して自室の戸を叩くが全て追い返す。来る度に香る匂いに頭がグラグラする。肉の味を思い出して舌なめずりをしてしまう。だが、駄目だ。駄目だ駄目だ、肉肉。肉。肉肉肉肉。……あの子の、声がする。琴葉を喰った俺を見て言った言葉が蘇る。

 

――化け物ッ!!きょーそさまを返せ!!

 

 ……あんな言葉、もう言われたくない。脳内では常に彼女が浮かんでは消えていく。目の前で崖下に消えていくしのぶちゃん、赤ん坊の手に触れるしのぶちゃん、逢瀬(おうせ)に誘うしのぶちゃん。カナエちゃんを殺して憎しみと殺意を向けるしのぶちゃん、ツレなく俺の誘いを断るしのぶちゃん。彼女の言葉が、蘇る。

 

――きょーそさま、今日はなんのべんきょーですか?

 

 ……しのぶちゃん。

 

――教祖様、お庭の花が満開らしいです、良かったら来られませんか?

 

 しのぶちゃん、しのぶちゃん!

 

――地獄に落ちろ

 

 そんなこと言わないで!!俺、絶対に変わるから……ッ!

 

――とっととくたばれ、糞野郎

 

 しのぶちゃん!思わず声を出してしまった。ああ、お目覚めになられたぞ。信者の声がする。周囲にも泣いている信者たちが俺を囲っていた。何があったと言うのか、話を聞けば俺は眠りについてしまったようだった。二年もの長い眠り。そして長いことの意思疎通の不可。涙ぐみながら説明をする信者たちをよそに、俺は自身に起こったことを思い返した。

 

――いつかのカナエちゃんと同じだ

 

 カナエちゃんと同じように、俺も眠る。昼間に眠り、夜に活動し始める俺に信者たちは合わせて生活を変えていく。その結果、信者たちの話を夜聞くことになった。信者を喰らうことなく、彼らの話を聞いていく。喰らうことが無くなれば、信者たちは増えていった。俺自身の活動時間も短くなって苦労しているが、どういう訳か眠ることで栄養を置き換えているようだった。身体の再生は変わらない様子を見る限り周回した名残りはあるけれど栄養の補給の仕方に変化があるようだ。血を見れば食欲を促されるがしのぶちゃんを想えば我慢できる。多少なりとも、俺は食欲を抑えることが出来るようになった。……これで、彼女たちに近づけたと言えるのだろうか、それともまだ足りないのだろうか。童磨(どうま)は何十年も長いこと考えた。彼女を待つのではなく、俺が(おもむ)けばいいのだから、入れ替わり血戦を申し込む意味もないように思えた。その結果、虹色の眼には何の数字も刻まれてはいない。無名の鬼として日々が、年月が過ぎていく。

 

――そんな日々を過ごしていた時だった

 

 自身の体質に変化が起こった。気付いたのは腕に太陽が当たった時。いつもは朽ちる腕が崩れなかったのだ。驚いて思わず窓を開けば、全身に太陽を浴びる。見上げれば、見ることももう叶わないと思っていた青空と白い雲が目の前に現れた。ジリジリと皮膚を焦がす太陽はいつまで経っても俺を焼き殺してはくれなかった。どうしたことだろうか、原因は分からないが、無惨様(あの方)躍起(やっき)になって捜し求めていた太陽を克服した鬼、禰豆子(ねずこ)と図らずも同じ体質になったようだった。愛しいあの子に、向き合えたような気がした。

 

――その晩。何処かで、琵琶の鳴る音がした

 

――――――――――――――――――

 

 突然、階段が剥き出した空間に現れた。左右を見渡せば反対になったものや、重力を無視したような構造で階段が作られている。自分が立っている場所も分からない、此処は無限城だ。見上げれば鳴女ちゃんが琵琶を持って座っている。琵琶を掻き鳴らす彼女を中心に空間を歪ませていた。琵琶が鳴れば再び視界が揺らぐ。目の前に立っていたのは女だった。黒い上質な着物を(まと)った、妖艶(ようえん)な女が一人、俺を見下ろした。横には琵琶の君が付き従うように座っている。完璧な擬態とまるで違う気配だが、威圧的な空気を間違いようがない。

 

――間違いない、無惨様(あの方)だった

 

 頭を垂れて平伏し、無惨様(あの方)の言葉を待った。ほぅ、女に似つかわしくない低い無惨様(あの方)の声がその場を支配した。

 

「なるほど、私に対する敬意を持っているのか」

 

 素晴らしい、無惨様(あの方)(なまめ)かしく笑う。声を聞かなければ女が寝屋に誘っているような妖美な様だった。何もしていない筈だ、上弦でもなければ下弦でもない俺が呼ばれる理由が分からなかった。

 

「何もしていない?とんでもない、お前は他の鬼よりも素晴らしい働きをしたのだ。……褒めてやる、よくやった童磨(どうま)!!」

 

 気付けば、目の前に無惨様(あの方)が立っている。気付けば首を切られて持ち上げられることはあったが、目の前に立たれるのは初めてのことだった。表を上げよ、無惨様(あの方)の言葉には逆らえない。顔を見上げれば無惨様(あの方)は上機嫌な笑みを浮かべて俺を無理やり立たせて、抱き締めた。女独特の柔らかな感触が身体に伝わってくる。

 

――だが、それもすぐに無くなった

 

 徐々に身体が無惨様(あの方)の身体に埋まっていくのを感じた。下を見ればもう下半身は無惨様(あの方)の身体に埋まっている。喰われる、そう感じ取って無惨様(あの方)の顔を見れば、かつてないほどに興奮しきった顔で俺を見ていた。身体は既に女をやめていつもの男の姿に戻っている。(たくま)しい腕が童磨(どうま)の上半身を強く抱きしめた。

 

――無惨様(あの方)は俺をかつてないほどに褒めた

 

 初めてのことだった。妓夫太郎(ぎゅうたろう)達が死んだ時に御詫(おわ)びにと目玉をほじくり出そうとすればいらないと冷たかった無惨様(あの方)が、初めて本当に楽し気に語る。素晴らしい働きだと褒め称える姿が、初めて憎らしく思った。

 

――違う、違うちがう違うチガう違う違う!!

 

 俺は、あの子の為にやってきた。彼女たちに近づきたくて、一緒に笑いあって欲しくて、それだけを願って、あの子の為に食事もやめたんだ。……それなのに、それなのに。邪魔を、するのか。ふざけるな、ふざけるな。思わず無惨様(あの方)を睨むも、無惨様(あの方)は勝ち誇った笑みで俺を見下ろした。

 

――もう、首しか残っていない

 

 沼の中に沈むように目の前は闇に包まれた。

 




太陽を克服したけど、このスキルは引き継げないのよ。すまんな童磨さん。あの方に女になっていただいて胸の中で吸収されたよ、良かったね!

太陽克服ってどうしたらなるんでしょうね。炭治郎の血筋?体質?それとも根性?って悩みに悩んだ末、今作では根性論を採用してみたけど、多分違うと思うから二次創作だから目を瞑って欲しいです(´・ω・`)

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