童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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別タイトル:童磨さん、琴葉から学ぶ
といってもこれで良かったのかななんて思いながら更新しています。


11週目

 無惨様(あの方)に吸収されて、目の前が真っ暗になった。気付けばいつもの自室。また此処から始めなければならない。道は遠くありながら、それでも俺は彼女を求めて止まない。また一からやり直した。断食をして眠る体質になる度に襲い掛かる眠気を煩わしく思いながら、太陽に当たれば朽ちる腕を見る。一度全身浴びたことがあったが無惨様(あの方)に吸収された時以外で太陽を克服したことはなかった。何故一度だけああなったか分からないが、無惨様(あの方)に呼び出されることも会うことも、もうごめんだった。あの子の為にしてきたことを容易く嘲笑って奪う無惨様(あの方)に対して怒りを感じたことは、童磨(どうま)自身が感じていることだ。きっと今も俺を見ていることだろうが遠くに居れば思考を読み取ることはない。叛意(はんい)を抱いてしまったことを悟られたくはなかった、無惨様(あの方)は向上心のない鬼に見向きはしないだろう、童磨(どうま)は出来るだけ目立たずただの鬼になることを選ぶ、選んでこれからのことを考えた。何年も何十年も考えた。

 

――どうすれば呪いが外せるかを、考え続けた

 

 見上げれば天井の見慣れた梁が見える。そこからは垂れ下がる布と、極楽と書かれた文字の書かれた札が張られ、神秘的な演出を見せる布が向こうを透かしその向こうの襖が見える。此処で、両親に言われるがまま信者たちを導いてきた。それは幼い頃からやってきたこと。殆ど作業にも近い、此処であくびが出る程退屈な不幸話を聞いてきた。死に恐れている様はまるで理解できないけれど、可哀想だから甘言を(ろう)して常に信者たちを救ってきた。

 

――皆を幸せにするのが俺の務め

 

 そう信じて可哀想な彼らを助けてあげたし、幸せにしてあげた。鬼になれば死を恐れる彼らと共に永遠を生きることが出来る。もう恐れることもつらいことも悲しいこともない。そう思っていたから無惨様(あの方)に鬼にして頂けたことはありがたかった、悩める彼らを永遠に救うことが出来ることを、それを実行できる力を手にしたことを誇らしく思っていた。だけどあの子は俺がそれをするのを嫌がったし化け物と言われれば鬼になったことはむしろ失敗だったと思えた。……それでも百年以上離れているから彼女に会うためには必要なことだったのだけれど、こうなってしまえば無惨様(あの方)の呪いは邪魔だった。監視と言えばいいのだろうか、これがある限りきっと俺は何処にも行けないしあの子にも近づけはしないのだろう。だから真剣に考える。身体を弄ればこれはなくなるのだろうか、太陽を克服した時のように精神でどうにかなるのだろうか。考えれば考える程、分からなくなった。

 

――――――――――――――――――

 

 呪いに悩んでいる中、気付けば琴葉がやってくる時期がやって来た。顔が原形を留めていない程に殴られた、哀れな娘。姑にも旦那にも虐められて、いつものように保護をして傷を癒せば赤子を抱き締めて綺麗に笑っていた。頭の鈍さは相変わらずで花を部屋に持ち込んで謁見の間で投げて散らかしたり、子守歌なのに歌詞を間違えたりもしていた。俺が朝眠ることを知れば夜にその間違えた子守歌を聞かせるのだ。

 

――正直、煩いのだけれどやめて欲しいとは思ってはいなかった

 

 心が綺麗な娘、前から死ぬまで手元に置きたいと思っている程には気に入っていた。もう人を食べないから琴葉から罵倒されることはなく、琴葉との生活も長くなった。伊之助と呼んで抱き上げられる赤子は、いつかの無限城で俺の首を切り離したことを懐かしく思う。琴葉から伊之助を抱き上げて欲しいと言われれば抱き上げる他なかった。抱き上げてみれば軽い小さな命が手の上に乗った。持ち方を琴葉に怒られながら正しい持ち方を教わる。よだれを垂らして眠る赤子はトクントクンと小さな鼓動を鳴らす。

 

――ああ、温かい

 

 いつもは栄養価として妊婦と共に食べていた命。その命の軽さと温かさに触れれば、何故か胸が温かくなるのを感じた。しのぶちゃんもこの小さな命の手を握っている時、こんな気持ちだったのかな。考え込んでいると不意に、髪の毛に何かの感触を感じた。見上げれば琴葉から手が伸びていて自分が頭を撫でられていることに気付く。首を傾げれば琴葉は、笑いかけている。

 

「教祖様はいつも笑っておられますが、困っているように見えて、勘違いだったらごめんなさい」

 

 勘の、鋭い娘だと思う。信者たちは総じて自分のことしか見えていない、俺を頼るのはそういうことだし導いて欲しいと縋るのだ。それは琴葉にも言えることだけど、その勘の鋭さで俺は人喰いを見抜かれた。信者達だって気付かないことをあっさりと見抜くのは彼女の素晴らしい所だ。凛とした真っ直ぐな瞳に見つめられればお手上げだと童磨(どうま)は手を上げた。

 

――確かに、俺は悩んでいる

 

 それは呪いだったりしのぶちゃんのことだったりするのだけれど、……俺は俺自身に悩んでいた。いつまで経っても俺は感情が分からないままなのだ。俺だけが、浮いている。俺は今まで皆を導いてきたのに、俺自身が導けないと言うのは教祖としてどうなんだろうね。そんな冗談を口にすれば琴葉はいいえと否定した。

 

「あなただって、悩んでいいんです。困ったっていいんです、泣いたっていいんです」

 

 そんなこと、言われたのは初めてだった。両親も信者たちも神の子と呼称して俺に導けと言ってくるだけだったのに。……ああ、そういえばカナエちゃんも似たようなことを言っていたなぁ。懐かしく思い出していると隣に居る琴葉が俺に笑いかける。ほら、この子を見てください、俺が抱き上げる赤子の頬に琴葉が触れる。それを寝苦しそうに身じろぎする赤子が面白かった。

 

「……今は眠っているけど、ちょっと頬に触れたらこんな風に顔を歪ませている。起きたら思いきり笑って泣くでしょう?それが、人間なのです。教祖様も人間なのだから、自分の感情の言葉に耳を傾けたらいいんですよ」

 

 琴葉が胸を張って笑う。なんだか偉そうで、笑っていると琴葉はすぐに恥ずかしそうに頬を紅潮させてコホン、とこれ見よがしに咳をした。

 

「……何だか、ちょっと説教臭くなりましたね。偉そうに……ごめんなさい」

 

「……いや、参考になったよ。……琴葉、ありがとうね」

 

 琴葉はいつものように、深い夜の中、間違えた歌詞の子守唄を歌い始めた。それから彼女と数年過ごした。伊之助も立ち上がって好き勝手動き回って手が掛かるし琴葉はいつも通りだ。一緒に困って何だか子供が二人増えたみたいだ、ボンヤリとそう思っていつもの子守唄を歌う彼女に耳を傾けた。

 

――チュンチュンと、朝を告げる鳥の鳴き声が聞こえる

 

 俺が眠る時間ではあるけれど起きることを決めていた。傍には琴葉が壁に寄りかかって疲れ果てて眠っている、何も俺に合わせなくとも良いのにね。少し大きくなった伊之助を大切そうに抱き上げている。そっとすることにして俺は部屋を後にする。……正直、眠たくて堪らない。それでも起きなければいけなかった。歩き慣れた、廊下を歩き、庭へ続く道へ出た。今立っている日陰のある場所から一歩でも出たら俺はきっと死ぬのだろう。……それが、目的だった。迷うことなく一歩足を踏み出せば焼けつくような熱さに身を焦がし、命を絶った。……気のせいだろうか。何かが、外れるような音がした。

 

――――――――――――――――――

 

 いつもの見慣れた、自室だった。此処から始まるのはいつものことだ。この自室で、しのぶちゃんの為に、努力し続けた。時に殺し、カナエちゃんを捉えたり、時に鬼にしてみたり、色々なことをしてきたなぁ、懐かしく思いながらハッとする。

 

――おお、そうであった

 

 このままでは信者が来てしまうし朝になってしまうじゃないか。いそいそと立ち上がって身支度を整える。祝いに貰った金扇も手に取って、お金も持った。……よし、準備は整った。楽しく笑って見せれば鏡の中の俺も笑っていた。

 

――しばらく、旅に出ようと思った。

 

 両親が残して引き継いだ教祖としての自分を一度捨ててみて、新しいことをしてみたい思いだった、これを決心したのは琴葉のおかげだ。俺はもっと、自分の感情の声に耳を傾けるべきだったんだ。まだ無惨様(あの方)の呪いが消えていないのだけど、鬼が移動するくらいなんてことは無い筈だ。うん、行こうか。童磨(どうま)は笑って冷たい夜の中に飛び込んだ。

 

――じゃあ、行ってきます

 

 教祖様、失礼します。いつもの信者が襖越しに声を掛けるも、返答は帰ってこない。様子を訝しんだ信者が襖を開けば、そこには誰もいない。大変だ、信者の叫び声が部屋中に響いた。

 




今回は家出童磨さんです。童磨さん珍道中のスタートだ!
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