今回は童磨さん死んだ後のしのぶさんも書いてます
大きな屋敷が教団の本部らしい。大きな囲いに覆われて、その玄関口には分厚い門が構えられている。門番に声を掛けられて入信者だと告げればあっさりと道を通された。中に入れば似たような白い服をきた人たちとすれ違っていく。あなたは運がいい、道案内をする信者が世間話をするようにしのぶに声を掛けてきた。今日は教祖様がおられるのだと笑いかける信者にしのぶは複雑な思いだった。鬼であることを知らずに慕う姿はあまりに純粋で、疑わない彼らに何もできない自身がもどかしかった。
――着きました
突き当たった場所の襖を開けば広い畳が広がる空間が広がった。中心には祭壇のように少し小高く作られた場所があり、そこの中心の座席には教祖なる鬼がそこに居た。禍々しい血を被ったような模様を混じらせた
――こいつが、姉を攫った鬼……ッ!
必死に怒りを抑え込みながら、しのぶは鬼殺隊としての任務を全うした。姉が消えてしまって身寄りがないと事実を混ぜた設定を語れば、それは辛かったねと教祖は哀れむように相槌を打っている。……お前が、それを言うか。しのぶは自身の衝動を抑え込みながら、鬼と向かい合った。何故か、視線を感じる、引きつった顔を隠すように曖昧に笑ってみせれば鬼は怪しく笑った。
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支給された白服を身に纏い、しのぶは姉が何処に隠されているかを知るため信者たちの話を聞いて回った。勿論、教祖が鬼である証拠集めも忘れない、逃げた元信者の言葉を信じない訳ではないが、切る為にも証拠は必要だ。何処を聞いても教祖様はお優しい、素晴らしい、神の子だと賛美して称賛する言葉ばかりで耳が痛くなる。そんな言葉ばかり飛び交う中、教祖が人外である確信も得られた。曰く、教祖様は傷を負ってもすぐに癒えてしまわれる。曰く、教祖様はいつまでも若々しく老いを知らない。神に愛される子なのだから当然なのだと胸を張る信者たち。……そこまで人ではないのが分かっているのなら、疑うべきなのに信者の彼らは救われることを望んでいた。辛いことばかりだったのだろう、現実を遮断して夢の中に入り込みたいのだろうと同情しながらもそれを利用して純粋な人を喰らう教祖が脳裏にチラついて苛立ちが増した。建物の構造を見て回れば謁見の間から説法を開く間まで日に当たらない廊下が続いている。どの空間も同じように日に当たらないように作られていて、何処にでも行けるような状況に背筋が寒くなった。おや、向こうから聞きたくもない声が聞こえる。しのぶが前を見れば教祖服に身を包んだ鬼がにっこり穏やかに微笑んでいた。
「やあやあ、しのぶちゃん。此処の生活には慣れたかな?」
「……教祖様。教団の皆さんにはよくして貰っています」
何処までも、聞こえの良い甘言。カっと怒りで頭が熱くなるも平静を装うも変な間が開いた。……バレてはいないだろうか、相手の様子を窺えば頷きながら微笑む姿しか見えなかった。
「うんうん、そうかそうか。良かったねぇ。困ったことがあったら言ってね」
それじゃあね、本当に急いでいるようだ。思わず呼び止めてしまう、振り返ってしのぶの言葉を待つ男に、しのぶは咄嗟に言葉を紡いだ。思い浮かぶのは最近話した信者との会話だった。
「教祖様、お庭の花が満開らしいです、良かったら来られませんか?」
鬼にそんなことを誘っても意味などないのに、しのぶは自身の言葉に動揺するもすぐに冷静を取り戻した。別に動揺することでもない、信者もそうやって誘っていた筈だ。そう言い聞かせれば目の前の相手に変化が訪れた。はっはとまるで過呼吸を起こすように息をして、顔が心なしか赤い。……?一体何だと言うのか、相手の出方を窺っていると相手はようやく言葉を絞り出した。
「……ごめんね、説法でこれから忙しいからね、また今度誘ってね」
本当に申し訳なさそうに、謝ってくる。そしてそのままもう振り返ることなく歩き出した。……後ろ姿は何処か寂しげで弱弱しく映った。鬼の癖に何故そんな様子なのか分からないのがどうにも心残りになってしのぶの調子を狂わせた。
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しのぶが信者としての生活をしてから大分経つ。馴染んでいけば信用されていったし信頼もされていった。何処へ行っても怪しまれることも無くなった頃、しのぶは行動に移した。手始めに埋めた隊服と刀を手に入れて、夜皆が寝静まった頃に屋敷内を走った。教祖は何処かに行ってしまったようで見つからない。襖を次から次へと開けば、女性の呻く声がした、まさかあの鬼に捕らえられているのか、しのぶは声のする方の襖を開けば、目を大きく見開かせた。その部屋の中は、高価な家具に取り囲まれていた。中心には長い髪の女性が俯いて座り込んでいる。視界に映る情報が脳内に刻まれる度に、ドクドクと耳元に響く心臓の音がうるさくて、息が荒くなって上手く空気が吸えない。
――あの、髪飾りは……、
俯いた女性が、顔を上げれば見間違いようもなかった。間違いない、姉だった。……だが、様子がおかしい。よだれをダラダラ垂らして、見つめられている。
――その眼の瞳孔は縦長で、……まるでそれは、肉食の獣のようだった
姉は爪を鋭くさせてしのぶに襲い掛かって来た。しのぶが咄嗟に避ければ畳に爪の跡が抉れて残る。動揺して動けなくなったのもあって頬に線が一筋走り、プツリと玉のような血が溢れ出して流れ出す。爪先に残った血を姉が舐めとれば堪らないといった様子で顔を紅潮させて指をしゃぶった。血に酔っているその姿は、鬼だった。物足りないと言わんばかりに、その鋭くなった爪がしのぶを襲う。
――姉は、鬼になってしまった
その事実に、頭がガンガンする。鬼の猛攻を避ける度に畳は抉れ、家具が壊れていく。だが、しのぶは刀を抜けずにいた。……分かって、いた筈だ。鬼に攫われればどうなるかなんて、だけどこれなら、これだったら喰われてしまった方がマシだった。姉さん、呼びかけても答えはなく、獣のような唸り声が聞こえてくる。
――もう殺すしか、道はないの?
キンと耳鳴りが鳴って音が聞こえない。不意に姉の姿が消えた。見失って見渡すも姿がない。気付けば、目の前に姉が拳を振りかざしている。不味い、咄嗟に身体を丸めて衝撃に備えれば腹に重たい一撃を貰った。後ろにあった襖や障子を壊しながらしのぶは吹き飛んだ。かはッ、衝撃で息が吸い込めない。目の前の姉は、笑っている。まるで殺しを愉しむ鬼だった。
――もう、あれは姉じゃないんだ
そう言い聞かせてしのぶは立ち上がって呼吸を整えた。これ以上姉の手を血に染めさせてはならない、しのぶは刀で姉を貫いた。壁に突き刺さる姉の肉が刺さる音と感触を感じる。引き抜けば、姉は苦しげに顔を歪ませて血を吐き出した。……そして、力なく姉は倒れた。刀は手放さないまま呆然とした。
――私が、姉を殺した
その事実が、胸の中を突き刺した。涙がボロボロと零れ出して、止まらない。攫った鬼を苦しんで殺す為に作った毒が、捜していた姉を殺してしまった。……その事実が受け止め切れそうになかった。
「カナエ姉さん、姉、さん……ッ!!」
何度もしのぶは姉の名を呼んで、声が掠れていった。そんな時だった、……あの低い声がする。
「こんばんは、しのぶちゃん。町娘の恰好はやめちゃったのかい?」
でもやっぱりそっちの方が似合うよ、鑑賞をするように虹色の眼は嬉しそうにしのぶに笑いかけてくる。キッと鬼を睨みつけた。憎しみ、憎悪、殺意がしのぶの脳内を沸騰させていく。相手はまるで納得したようにうんうんと頷いている。ふざけるな、しのぶは吠えた。
「カナエ姉さんを、よくも……ッ!」
「しのぶちゃん、一緒に鬼になろうぜ」
そうしたら仲良くなれるからな、ふざけた提案をし始める鬼に、殺意しか湧いてこない、しのぶは刃を構えた。へらへらと笑う鬼はしのぶの攻撃に備えて金扇を取り出した。
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眼に刻まれた数字と文字の実力は本物で、柱であるしのぶは一突きも浴びせることは出来ずにいた。まるでこちらの動きが分かるような動きで先読みをするように紙一重で避けていく。優位なのはあちらである筈なのに、致命傷を与えないのは何故なのだろうか。困ったように眉下を下げて、血鬼術を使わない相手を腹立たしく思った。氷の
「しのぶちゃん、……痛いのは嫌だろう?ほら、鬼になろうぜ、長生きも出来るしカナエちゃんともお揃いだ!いい考えだろう!」
「うるさい!黙れッ!」
目を貫いたが毒が効かないようで一向に苦しむ素振りがない。苛立ちで突きを激しくしたが金扇で受け止められた。そんな時、ペタペタと足音がした。まさか、音のする方を見れば姉が歩いてくるのが視界に映った。姉が、まだ生きていた。殺していなかったことにホッとしてしまった。そして悟る。もう、私は姉を殺せない。あの肉の感触を感じたくはなかった。憎い鬼、……なのに刀を構えられない。
――……私は、柱失格だ
カシャン、しのぶは刀を手放した。戦意喪失だった、それを上弦が見逃すことはない。
「ごめんね、しのぶちゃん」
手足に衝撃を受けたと思えば、体勢が整わない。重力に従ってしのぶは落ちていく。そのまま仰向けに倒れる。起き上がろうともがくも動けない、ドクドクと手足の付け根が熱い、痛みに気付いて手足を見ればそこには自身を動かす手足が綺麗に切り落とされていた。姉の叫び声がしたが切り落とされた事実を自覚すればますます痛みが増して、脂汗が身体中から滲み出した。夜明けは近づいているのに、不味い状況に置かれていた。鬼は怪しく口角を歪ませた。
「……痛いよね、ごめんね。あまりに暴れるモノだし話も聞いてくれなかったから……でも大丈夫!鬼になれば生えてくるからな!」
その言葉を聞いて、ゾッとする。先程からこの鬼は私を鬼にすると言っていた、つまりそれは。上弦弐の鬼の手からは赤黒い血がボタボタと零れ出していた。それから逃げようと身じろいでも一向に移動することはない。鬼は楽しそうに笑っている。
「仲良くしようぜ、しのぶちゃん」
もうダメだ、そう思って目を閉ざしても何も自身の身には起こることはない。鬼になる前はこんなにも静かなモノなのか、恐る恐る目を見開けば、姉が鬼の足を切り落としていた。片足を失ったところで鬼は気にする素振りもなく姉に笑いかけている。
「ははッ!じゃれ合いたいんだね、でももうちょっと待っててね」
足を再生させて立ち上がった鬼を、姉は壁に吹き飛ばした。今まで笑っていた鬼も眉を顰めて苦言を漏らした。
「カナエちゃん、流石に俺でもこれはあんまりだと思うんだけど……」
鬼が立ち上がって私の下へ来ようとする。ヌッと影がしのぶを覆い隠した。姉さんが、私を守ろうとしている。しのぶは姉の背中を見続けた。余裕そうに鬼は笑った。
「じゃあカナエちゃん、少し遊ぼうか」
金扇を構えた鬼に姉は立ち向かった。互いに傷を作っているが、上弦の鬼は戯れのようにわざと攻撃を受けているのが分かる。時間が経つにつれて姉の傷が深くなっていった。姉さん、もうやめて。叫びたいが血を流し過ぎた。呼吸をして血の流れを止めているから声が出なかった。姉の手足がしのぶと同じように吹き飛んだ。血の、匂いがする。鬼はまた笑った。
「遊びは終わりでいいかな?」
ケラケラ笑って首を傾げている。もう朝日は昇り始めたのに、日に鬼が当たることはない。姉はもう動けない。
――鬼が近づく足音がする
足音のする方を見ても目が、霞んでよく見えない。もう、身体を動かす気力もなかった、足音が大きくなっていった。ドンと何かがぶつかる音がした。霞む目を必死に細めて焦点を合わせれば、身体をいつの間にか再生させた姉が、上弦の腰を押し出して外に続く障子に押し出しているのが見えた。
――カナエ姉さん!!
思わず叫んで手を伸ばしたが、その腕と手は無かった。日の出の光と共に、しのぶの目の前で上弦と姉は消えてしまった。
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その後、異変を感じ取った冨岡にしのぶは助けられ、一命を取り留めた。呼吸をしながら止血したのが幸いだったようだ。目覚めれば蝶屋敷のベッドの上だった。蝶屋敷に居る者たちには泣かれてしまったし、カナヲは生きててよかったと抱き締められて、温もりを感じた。
……そしてようやく家に着いたのだと自覚した。当然ながら両手足のない柱は鬼殺隊としての役割を果たせることはなくお館様には労いの言葉を頂きながらの辞職に至った。甘露寺は大声を上げて泣くし傍に居た蛇柱はネチネチと嫌味を言いながら見舞いにやって来る。入れ替わるように柱がやって来るのを相手にしながらしのぶは今後の身の振り方を考えた。手も足もない、それならば口と頭があるじゃないか、そう考えてからは行動が早かった。アオイたちに毒薬や薬学の基礎を学ばせていったし、呼吸法を教えていくこともしのぶはやり続けた。柱稽古でもそれらを隊士たちに学ばせて悲鳴を上げられたが必要なことは全て教え続けた。喋々の飛び交う屋敷で車いすに押されながらしのぶが穏やかに笑う姿が見えるようになった。
――そうしてまた夜になった
しのぶはカナヲに車いすを押されながら、自室のベッドに横たわった。師範、おやすみなさい。そう言い残してカナヲが居なくなった後はベッドの横にあったカナエの髪飾りを見つめていた。冨岡が拾って手渡されたそれ。見る度に姉を思い出す。楽しかった時辛かった時、一緒に笑って泣いてくれた優しい姉はもういない。……私を、最期まで守ってくれた。姉が居た事実である形見、それに顔をうずめてしのぶはすすり泣いた。
以上リクエストお応えさせていただきました。
段ボールニシキさんからのリクエスト【鬼になったカナエさんを見てしまった回のしのぶさん視点】でした。カナエさんとしのぶさんの絆を表現してみました。これで完了させたものと判断して本編を続けて書かせていただきます。
欠けなかったら続行して別のリクエストを書かせていただきますのでその時はお願いします。