童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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まだ忙しいのでリクエストだけでもと思い更新します。
今回はエトルリアさんのリクエスト【胡蝶姉妹の弟になった伊之助の話】です。


リクエスト5

 那田蜘蛛山(なたぐもやま)での長い夜を終えて、炭治郎は蝶屋敷で療養していた。大分身体の調子が良くなった頃、花柱の胡蝶カナエは優しく微笑んでいた。皆さん、どうですか身体の方は、優しい匂いがするカナエににっこりと炭治郎は良くなっている話をする横では我妻(あがつま)善逸(ぜんいつ)が鼻の下を伸ばし、その横では育ての母であり姉である人に色目を使う善逸を怒る伊之助(いのすけ)の姿があった。伊之助の喉は鬼の戦闘で潰されてしわがれた声を上げて、同様に戦闘で身体の手足の縮んだ善逸はどちらも本調子ではないもののいつも通りのようだった。カナエの傍らでは蟲柱の胡蝶しのぶが睨むようにこちらを見据えているが姉のいる手前で何か言うつもりはないようだ。復帰は一日でも早い方がいい、名案だと手を叩く花柱は花のようににっこりと微笑んだ。

 

――では、そろそろ機能回復訓練に入りましょうか

 

 ……機能回復訓練?首を傾げる炭治郎と顔に汗を滲ませながら青ざめる善逸。勘弁してくれよと何処かへ逃げようと動こうとする伊之助。そんな弟を見越してか先に動いたしのぶによって伊之助は抑えられ逃亡は出来なかったようだった。それぞれ反応は違えど、何かが起きるのだろうと炭治郎は予感した。……それからは地獄だった。身体をほぐす時には激痛が走り、薬湯をかけられ鬼事をする日々であった。相手は皆性別の違う異性であることも相まって伊之助の気分は落ち込んでいったし炭治郎はまだまだ努力不足であることを痛感させられる日々が続いた。そんな日々を壊したのは良くも悪くも善逸であった。炭治郎たちの帰ってくる姿に恐れ(おのの)いていたのにも関わらず機能回復訓練に参加することになれば二人に怒鳴り散らしたのは彼だった。

 

――お前が謝れ!!お前らが詫びれ!!天国にいたのに地獄にいたような顔してんじゃねぇぇえええ!!!

 

 説明を受けて、伊之助を殴った上で善逸は鬼の形相で炭治郎たちにそんなことを言い出した。女の子に触れるんだぞ、クドクドと普段とはまるで違う様子で独自の持論をぶつけた。わけわかんねぇこと言ってんじゃねーよ、殴られた伊之助も黙ってはいない。綺麗な造形の顔は殴られたことで頬を腫れ上げて、善逸を睨んだ。

 

「自分よりも小さい奴に負けると心折れるんダヨッ!!」

 

 まだ癒えていない喉を枯らしながら声を張り上げれば馬鹿にしたような善逸の声が轟いた。

 

「やだ、可哀想!!伊之助女の子と仲良くしたことないんだろ!!此処で育った癖にぃッ!?あー可哀想!!」

 

 ブチリ、伊之助の綺麗な額に一筋の青筋が立つ。善逸の煽りに、負けてなるものかと怒りの形相を浮かべ、善逸もまたこんな天国で育った伊之助が腹立たしくて仕方がなかった。……結果、士気が上がった。非常に気合が入った。炭治郎を除いて。善逸は不敵に笑い、伊之助は嫌がっていた訓練を睨んだ。

 

――こんな邪な思いで訓練するのは良くないと思う

 

 炭治郎はそう思っていても、善逸は只者ではなかった。あの激痛の走る揉みほぐしを笑って受け入れて、薬湯ぶっかけ反射訓練でもアオイ相手に勝ち星をあげた。

 

――俺は女の子にお茶をぶっかけたりしないぜ

 

 歯の浮くような言葉を口にしてカッコつけるも、男たちの会話は全て筒抜けで少女たちの視線は厳しく、勝っても善逸はボコボコに殴られた。負けじと伊之助も訓練に参加すれば何処かに力を得たように容易く勝負に勝ってみせた。炭治郎は今日も薬湯にまみれて、自分だけ恥ずかしいなと顔を俯かせた。だが、善逸たちが順調だったのは此処までだった。カナヲには誰も勝てなかったのである。誰も彼女の湯飲みを抑えることも出来なかったし捕まえることは出来なかった。五日間彼女に挑戦しても負け続けるばかりだった。

 

――ふざけんじゃねぇ!!

 

 にっこりと静かに微笑むカナヲの心情など分からない、その中で何よりも彼女に噛み付くのは伊之助だった。薬湯に濡れながら、その濡れた手でカナヲの腕を掴んだ。女の子になんてことするんだ、善逸が怒鳴るもうるせぇと伊之助は気迫で善逸を黙らせた。(おもむろ)に取り出した銅貨をカナヲは取り出して、唐突にそれを投げ出した。頭上で空を描く銅貨を手の甲で受け止めた。銅貨に出たのは表だった。カナヲはにっこりと微笑んで伊之助の腕を振り払って何も話すことなくその場を後にした。おい、静かな怒りの匂いが伊之助から香った。

 

「……てめぇ、またそれ(・・)か……ッ!?ふざけんじゃねぇぞ!!」

 

 戻ってこい、そんな伊之助の声が何度も繰り返されるもカナヲは戻ってくることはない。いつまでも部屋に伊之助の声が響いた。

 

――――――――――――――――――

 

 嘴平(はしびら)伊之助は栗花落(つゆり)カナヲが好きではなかった。姉たちが連れてきた汚い余所者。伊之助の初対面の印象はそれであったし今でも変わることはない、いつまで経っても自分の意思を選ばない人形のような少女が堪らなく嫌いだった。姉の片割れであるしのぶが自分の頭で考えて行動できない子は危険だと言う言葉に同意したのは言うまでもなかった。

 

――そんなに重く考えなくていいじゃない、カナヲは可愛いもの。

 

 一番上の姉であるカナエのとんでもない理屈に姉弟たちは理屈になってないと怒った。優しく微笑むカナエとキョトンとするカナヲも相まって妙な空気が漂っていた。

 

――きっかけさえあれば人の心は花開くから大丈夫

 

 いつか好きな男の子ができたらカナヲだって変わるわよ、断言をするカナエの言葉が決定だった。姉たちは命令しなければ動かないカナヲに付ききりになっていったし鬼殺隊としても育て始めた。伊之助は居場所を奪われたような思いだった。あんな意思決定のない人形に姉が二人も奪われた、面白くはなかった。何より、彼女たちの継子になったのも気に食わない理由の一つだった。残念ながら伊之助には姉たちの使う呼吸は合うことはなく、継子としても認められなかった。対して……あいつはどうだ。あっさりとその地位を手にしてしまったではないか。妬ましくて仕方がなかった。それなのにあいつは銅貨なんてつまらないものに意思を委ねて、何もかもどうでもいいという態度だ。嫌いになる理由なんてそれで十分だった。

 

――だが、伊之助も炭治郎たちと出会って少し心情が変わった

 

 鬼さえ倒せばいいという考えをあっさりと打ち砕いたのは彼らのおかげだった。仲間というものも蝶屋敷を出てから初めて知ったことだった、それが嬉しくて心が温かくなる。よかったわね、伊之助。優しく微笑む姉たちが自分の頭を撫でて恥ずかしかったがそれが居心地のいいものだと気付いたのは炭治郎のおかげだった。きっかけさえあれば人の心は花開く、カナエの言葉はそういうことなのか。姉たちとは違う馬鹿な頭でも理解した。

 

――……きっとカナヲもそのきっかけがないのだ

 

 頭では分かっている。だがそれでも、いつものあの態度を見てしまえば伊之助は堪らなく苛立ってしまうのだ。負けてしまうことも相まって素直になれない自分がいかにしても解決できない事態だった。どうすればあいつと話せるのか、面として向かって話せない己にも腹が立った。次第に回復訓練に参加しなくなったのはそれからすぐのことだった。善逸はとうに諦めた様子でかっぱらってきた饅頭を食べている中、考えるのはカナヲのことだった。

 

――そうしている内に炭治郎は、また一段と階段を上った

 

 あのカナヲを打ち破った。そんな事実がいつまでも伊之助に残った。動揺する善逸を余所に伊之助は焦りすら感じていた。そんな伊之助たちに発破を掛けたのは姉たちだった。善逸には一番応援していると聞こえのいい言葉を告げて奮起させて、伊之助にはカナヲにも出来るのならあなたにも出来るわよと告げる言葉が突き刺さった。全集中・常中を会得するまで九日掛かったが、それでもようやくカナヲと同じ地点にようやく立てたような思いだった。流石私たちの弟ね、そんな言葉が嬉しかった。

 

――そんな夜のことだった

 

 伊之助が空気を全身に巡らせて一人集中している時だった。カナヲがすっと真横に現れたのだ。驚きのあまり空気が乱れてしまった。

 

「……なんだよ?」

 

「……その、あの」

 

 彼女が声を出すなど、珍しいこともあるものだ。……一体何だと言うのか、首を傾げて問いかければカナヲがもじもじと手を擦り合わせていた。こんなカナヲは見たことがなかった。言葉を発しようにも続かないらしく、いい加減まどろっこしい。それでも言葉を待てばようやく言葉を紡いだ。

 

――兄、さん……ッ!

 

 たったそれだけだった。目を白黒させる伊之助を余所に顔を赤らめて居なくなろうとするカナヲの手を思わず掴んだ、……掴んで、しまった。互いに気まずい沈黙が続く。言葉を発したのは伊之助だった。おい、と声を掛ければカナヲの肩が大きく揺れた。

 

「……こっち、見ろ」

 

「……、」

 

 カナヲはゆっくりと此方を向いた。……ようやく、顔を見ることができた。……すまし顔とは程遠い、見たこともない表情だった、恥ずかしいのか顔を赤らめて、それでもやったことを後悔しているのか目を背ける姿に伊之助はおかしくて笑った。なんだ、そんな顔も出来るのか。ひとしきり笑えば戸惑うカナヲを見据えて問いかけた。

 

「……さっきの、あれで決めたのか?」

 

「……あれ?」

 

 首を傾げるカナヲ、ここまで喋るのも珍しい。

 

「ほら、いつもお前が何か決める時に投げる奴だよ」

 

 伊之助が銅貨の形を作れば納得したようだった。その問いには首をブンブン振った。どうやら銅貨ではなく、自分で決めたようだった。伊之助はまた笑った。カナヲもようやく成長するのだな、……お互い遅い成長だ。そう思えばおかしくて堪らない。一晩中、伊之助は笑い続けた。

 




今回は伊之助とカナヲの関係の話です。伊之助とカナヲの会話と炭治郎と善逸との関わり合いも見てみたいとのことだったので番外テイストでいかせて頂きました。書いてて楽しかったです。ありがとうございました。

あ、今回童磨さんの出番はございません。
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