童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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童磨さん、旅の再開。今回はワンクッション回。


14週目

 呪いが外れれば珠世は直ちに屋敷を引き払う準備をし始めた。呪いが急に外れたことによって無惨様が確認しに来る可能性を危惧したらしい。彼女たちは急ぐように荷物を纏めこの屋敷を廃棄することを決めたようだった。お前も手伝えと兪史郎(ゆしろう)くんは俺をこき使いながら最低限の荷物を纏めれば、札を付けて消えてしまった。

 

「いつか、また」

 

 珠世ちゃんはそれを一言告げると札を張り付けて消えていく。気配は無くなった。あれ、俺は?そんな言葉も無視されて、ぽつねんと一人もぬけの殻と化した屋敷に佇んだ。誰も彼もツレないぜ、人差し指を指す童磨(どうま)はがっくりと肩を落としながら、屋敷を後にする。珠世たち同様に、童磨もまた痕跡を消す為に現在居住している屋敷を燃やしてその場を後にした。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 根無し草の旅に戻った。今まで買い取った屋敷はしばらく寄り付かないことに決める。珠世ちゃんとは時折手紙でやり取りをしながら各地を回った。町や村を転々とするも長期的に滞在することは出来なかった。理由としては二つある。一つは信者たちが捜し回っていると風の噂で聞いたこと。白橡色(しろつるばみいろ)の髪と虹色の眼を持つ尊い方なのだと捜す信者は相も変わらずといったところだ。しばらく旅に出たいから放っておいて欲しいのだけれど、勝手に出てしまったから心配しているのだろう。だが彼らは言っても聞かないものだから対応としてはどうしたものかと考えた。

 

――うん、会ってから考えようかな

 

 結局のところ問題を後回しにした。そんなことよりももう一つの理由の方が童磨自身気にかかっていた。……鬼殺隊のことだ、彼らが信者たちと同様童磨を捜しているようだった。行く先々で彼らが後を追って来ていた。それに気付いたのは見つけたぞと言って刀を抜く鬼殺隊を見かけたからだけど。それまで追われているなんて気付くこともなかった。そもそも探査系が苦手なのだから把握出来ないのかと納得しながらもやって来る鬼殺隊の襲撃を避け続けた。時に足元を凍らせ、時に分身である結晶の御子を置いていく、殺さないように調節しながら避け続けた。

 

――場所を転々としながら、隙を見て稼いだお金を屋敷に変えていった

 

 やはり昼間は無防備になることが多いから一人になれる屋敷は点在させていた方がいいのだ。そうしていく内に見つけられにくくなったのか鬼殺隊や信者たちの影を見かけることはなくなった。……どうやら、うまく撒けたらしい。少しゆとりが手に入れば人目を避けながら顔を布で覆い隠し、屋敷の外に出た。

 

 

――久々に人と話すことをしたいと思った

 

 情報は有益なモノだ、人の噂でも馬鹿には出来ない。知り得ない情報も知識となり得た。信者たちと話をしていた時にそれを一番に自覚する。こんばんは、良い夜だねぇ。いつものように挨拶をすれば唐突に声を掛けられて戸惑っていた。こんな顔を隠した余所者じゃ仕方ないかと思いながら、持ち前の話術で話に参加する。時に囃し立て、時に同調する。盛り上げれば満更でもなさそうな様子で口元が緩くなる。信者たちの悩みを聞いてきた俺にとって人心を掌握することは容易く、話し込めばあっという間に会話は盛り上がり最後には信頼を勝ち取った。あることないこと次から次へと漏れ出す話の内容を、取捨選択をしながら、目ぼしい情報だけを抜き取っていく。最近は追われてばかりだったから聞いたこともない情報も聞けたが、結局のところ進展はないようだ。そう判断すれば早々話を切り上げてその場を後にした。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――真新しい情報もないまま、月日が流れた

 

 何十年か経てば信者たちの姿が見えなくなった。情報を探すうち彼らの事の顛末を聞くことになった。俺が居なくなった後、教祖様がおられないならばと彼らはあっさりと改宗してしまって、信心深く俺の帰還を待つために残った信者たちも教団を立ち行くことが出来なくなり、自然消滅したという話らしい。何とも呆気ない末路だな、俺は話を聞きながらそんなことを思っていた。両親の作ったモノがなくなってしまったけれど、俺の中では特に何も思うことはなかった。ああ、一つ家が無くなったな。その程度の認識でしかなかった。

 

――重荷が一つ減ってしまえば、後は鬼殺隊から隠れることだけに専念できた

 

 この頃になれば隠れる屋敷も増えて、目撃されることも減っていた。滞在期間も伸びれば得ることの出来る情報も増えていく。人が消えただの、鬼が出たという情報はしっかりと聞いておく必要があった。鬼に出くわしたら無惨様に俺の行方が知られてしまうからだ。そうすれば今までの努力も水の泡だし、またやり直しになれば呪いの解除を引き継げるという保証もなかった。引き継げなかったらまた珠世ちゃんにお願いすればいい訳だが、可能ならばそれは最後の手段にしておきたかった。何より、間もなくしのぶちゃんに会える時期がやってくる。変わった俺を見てもらいたいなんて、そんなこと口が裂けても恥ずかしくて言えなかった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 周囲は既に寝静まっていた。夜は色濃く黒く染まり、秋になった夜風は冷たく、身震いをさせながら帰路につく。そんな時だった、何か鈍い音が聞こえた。

 

――壁に何かがぶつかる、そんな音だった

 

 ……何だろう、音のする方へ歩けば誰かを罵倒する声がする。バキ、殴りつける音、怒鳴る声、赤子の泣く声が聞こえれば只事ではないのは明らかだった。歩みを速めれば、赤子を抱いた女が男に髪を引っ張られて殴られているのが目に入った。罵倒する言葉は聞くに堪えない言葉ばかりで、その間ずっと顔を殴りつけていた。最後に吐き捨てるように女を蹴り飛ばし、女を置いて男は消え去った。可哀想に、俺は女の身を起こせば女の顔は原形を留めない程に殴りつけられていた。けれど赤子だけは守っているようだった。赤子を見れば、若葉のような眼の色と虹色の眼がかち合った。

 

――おや、この子の眼は……

 

 何処かで見たことのある、赤子の眼の色と幼いながらも端正に整ったその顔。女は目からボロボロ涙を零しながら、言葉を発した。

 

「ごめんね、伊之助」

 

 私に身寄りがないばかりに、こんな苦労をさせて。途方に暮れたように、赤子を抱き締める。伊之助、と聞き覚えのある名前に心当たりがあった。

 

――ああ、そうか。……君は

 

 童磨は涙に濡れる頬に触れて、顔を見合わせればようやくその女性が誰なのか理解した。

 




童磨さん、家なし子になる。教団消滅させちゃったので(´・ω・`)

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