童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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今回はリクエストにお応えしました

言寺速人さんからのリクエスト
【猪に姉妹の片割れが育てられるルートやカナエさんは逃がさず信者のままでしのぶだけが逃がされて敵対?するルート】


※ 伊之助が育手の下で呼吸法を何年か修行してから、しのぶと再会しているってことにしています。伊之助の呼吸法の取得方法が私の中で謎に包まれている……ッ!
あと、しのぶさんは柱じゃない普通の鬼殺隊員として扱っています。



リクエスト6

 

――ごめんね、誰かが泣く声がする

 

 血の匂いを感じることから、その声の主は怪我をしているのは明らかだった。誰かに手を引かれながら、必死に走る小さな目線は目まぐるしい。息絶え絶えにもつれる足が限界を告げてくる。走れとその誰かに叱咤されながら、行き着いた先は崖だった、そこから先は真っ暗闇の底しか見えない。パラパラと足元の土が落ちれば誰かはどうしようと呆然とした声がする。誰かが抱き上げている赤子の声は何処までも轟いた。後ろから何かが迫りくる、気配がする。ごめんね、泣くような声と共にトン、と押し出された。浮遊感と同時に落ちる衝撃に襲われる。落ちていく視界の先、その誰かが顔を覗かせる。離れていく、離れていく。手を伸ばして、誰かの名前を呼んだ。覚えていない、その名前。もどかしくて叫びだしたい焦燥感に襲われる。

 

 

――先程まで居た崖の上、赤い血が飛び散った

 

 

 ビクリと少女は身体を揺らし、目を開く。冷えていく頭の中、覚醒すれば夢を見ていたことを自覚する。はぁ、荒い息と背筋に走る冷たい汗に身震いさせながら被っていた毛皮を身体から取り払う。起きて見渡せば弟である伊之助(いのすけ)が大きないびきをかいて歯ぎしりしながら幸せそうに眠っていた。弟の被る猪の被り物を撫でればようやくざわつく胸の中が落ち着いた。夢の内容はもう既に頭から消え去って覚えてなどいなかった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 少女の名前はしのぶ。ただのしのぶ。自分の名前以外知らなかったし覚えてはいなかった。覚えていないものに執着など出来ないしのぶは、一緒に記憶のない伊之助と共に母猪に育てられた。母である猪は人間の言葉など知り得なかった、二人は言葉を発することを忘れ野生に戻る。そのまま獣の一員として生きていく筈だった彼らに、転機が訪れたのは伊之助がたかはる青年の家に迷い込んだ時のことであった。山に暮らす彼の家に伊之助は迷い込み、その際彼の祖父に餌を貰った。伊之助は餌をくれるその家に寄りつくようになり、猪の被り物をしている伊之助はたかはる青年に獣と勘違いされ、口汚く罵られながら追い払われるも伊之助は諦めなかった。性懲りもなく現れて、何度も追い払うも、今度はしのぶも伊之助と共に現れた。

 

――増えやがった!!

 

 たかはる青年は頭を抱える事態に陥った。最終的にしのぶが来たことで人間だと理解したたかはる青年はそれ以降口を挟まなくなった。餌にありつきながら伊之助としのぶは彼の祖父から百人一首を読み聞かせられながら言葉を覚える。伊之助は伊之助自身の名前を理解した。同時に、たかはる青年の乱暴な言葉も姉弟揃って仲良く覚えて、二人は縄張りを手に入れたと満足して山に帰った。彼らは山に戻り、新たに手にした言葉を口にして、山に住む子分たちに自慢する。猪突猛進、猪突猛進!がははと笑う二人の姿は楽しそうに違いなかった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 ある日のことであった、二人の住む山の中に黒服を身につけた、刀を携えた少年が入ってきたのだ。刀、というものを初めて見た二人は興奮していた。真っ先に出たのは伊之助であった。猪の被り物をした筋肉質の少年が出てくれば少年は「ヒィッ……、鬼だッ!!」と悲鳴を上げて刀を抜いた。何だコラ、伊之助が凄みながらいつものように力比べを始めればあっさりと黒服の少年は負けた。襟首を掴まれ持ち上げられば少年は泣き叫んで哀れであった。伊之助は少年から刀を奪い、洗いざらい鬼殺隊の情報を手に入れれば伊之助は鬼と力比べをするために山を出ていった。

 

――俺は行くぜ!!

 

 伊之助はそう言い残せば、しのぶは一人山に残っていたが、結局後を追うように山を出た。たった一人の弟だ、好きなことをさせてあげたかったがやはり心配だった。

 

――ぶちゃん……、伊之助はかわいいかい?

 

 何処かで、誰かの声がした。雑音と共に(もや)がかかる感覚がする。ズキリ、頭が痛んで思わず手で押さえたが、血は出ていない。首を傾げながらしのぶは人里に下りていった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 人づてに聞いて回り、育手の下で何年か過ごした。伊之助もきっと何処かで育手の手で鍛えられているに違いない。そう信じてしのぶも呼吸法を身に着けた。育手は君の力では刀を振ることは出来ないだろうと何度も言われた。だけど諦めきれず、無い頭を必死に絞り出した。山育ちだと馬鹿にされてもめげずに文字の勉強もしていったし言葉も変えていく。馬鹿にされるのは伊之助同様我慢ならない性格がそれをさせた。性格も女性らしい振舞いに変えた。時折怒れば口の悪さは出てしまって周りはギョッとした様子で此方を見るがしのぶは努力を繰り返す。文字を覚えれば振れない刀以外の道を探した。得意らしい薬学が頭に入ることを理解すればそちらで出来る方法を考えた。藤の毒が鬼に有効であるならば毒草を掛け合わせて鬼を殺す毒を作り出す。

 

――最終選別ではそれが功を奏した

 

 試作として使われた毒は、鬼に有効だった。私の努力は無駄ではなかったのだ。七日間を過ぎれば鬼殺隊の一員になることが出来た。打たれる日輪刀は特注で毒を調合出来る構造にしてもらい、任務へ行く日々が続いた。

 

――伊之助と再会したのはそれから間もなくのことだった

 

 姉ちゃん、と声を掛けられる。相変わらず見慣れた被り物を身に着けた弟は前よりもずっと大きくなっていた。伊之助、しのぶが微笑めば友達らしい二人の少年が似てないとざわついた。金髪の少年は顔を赤らめてもじもじとさせているがしのぶが素に戻れば態度は急変することとなる。久々の弟の再会で、しのぶも久々に息を抜いたのだ。そこからはもう姉弟は自由であった。

 

――ああ、やはり伊之助の姉だ

 

 伊之助を良く知る少年たちは強くそう思いながら騒がしい一夜を過ごしたのだった。

 

――――――――――――――――――

 

 炭治郎の妹である禰豆子(ねずこ)が太陽を克服したことで事態は進展する。目の色を変えた鬼舞辻無惨が禰豆子を狙うことは明らかであった。

 

――間もなく大規模な総力戦がなされる

 

 危惧した通り鬼舞辻無惨は産屋敷邸を襲撃し、お館様は堂々たる最期を迎えた。柱の方々は怒り、鬼舞辻無惨に刃を総出で向けるも琵琶の音と共に敵地である無限城に放り出された。しのぶとて例外ではない。見渡せばでたらめな構造の部屋ばかりが無数に点在し、重力すらも関係がないように無数の階段が辺りに散らばり視界を目まぐるしく映した。此処は敵地の真ん中なのだ、水辺の浮かぶ廊下を渡るしのぶは身を引き締めた。腰に提げる刀を握り締め、少女は扉を開く。現れたのは二人の影だった。

 

 一人は上弦の鬼だった。弐と刻まれた文字の意味。それは強敵であることを意味しておりしのぶは息を呑む。柱ではない、私の刃が届くのだろうか。一抹の不安を抱えてしまうも頭を振って顔を引き締めた。だが、何故だろうか。屈託のない笑みを何処かで見たような気がしてならなかった。

 

「ああ、しのぶちゃん」

 

 良かった、今回は大丈夫そうだね。虹色の眼は嬉しそうに微笑みしのぶを出迎えた。何故名前を知っているのだろうか。喉に出かかる言葉はもう一人の顔を見たことで忘れてしまった。女性は此方を見据えている。長い髪に二つの蝶の髪飾りを付ける少女だった。しのぶも同じような色の違う髪飾りを付けている、まるでお揃いのようだ。凛として佇む少女の顔に目が離せない、ズキリといつかの頭痛に襲われる。こんな時に、頭を抱える。しのぶの脳内に雑音が響く。

 

――違うよ、しのぶちゃん。生け花はそうするものじゃないよ

 

 先程聞いた上弦弐の声がする。……違う、違う。必死に否定する。だが脳内ではあの鬼の笑みが蘇る。頬杖をつきながら胡坐をかく鬼の姿が、頭を優しく撫でられる感触が、ズキズキと痛みが走りながら映像が映って消えていく。こんなの、知らない。必死に否定をしながらそれでも楽しいと記憶するそれに、腹が立った。教祖様、慕う声は紛れもなく自分の幼い声で嘘だと信じたかった。だが、否定できない記憶ばかりが蘇って現実味が増してくる。重い瞼を開けば少女が見ていた。しのぶ、声を掛けられることに衝撃を受けながら、また酷い頭痛に襲われた。

 

――しのぶ、教祖様を困らせては駄目よ?

 

 カナエ、姉さん……?無意識に呟いた言葉。頭痛が、止まらない。思い出してよ、しのぶちゃん。うるさい、うるさいうるさい。震える手で刀を引き抜いて空を切るように何度も何もないところを切りつけた。そんな時だった。必死に誰かがしのぶを呼びかけた。……呼びかけて、くれた。不意に肩を掴まれた。グイッと力強く無理やり向かされる方に目を向けた。見慣れた猪の被り物が視界に映る。それに、何故かホッとした。

 

「おい、姉ちゃん!!しっかりしろ!!」

 

 ……そうだ、弟だ。私の弟。私に姉なんて、教祖様なんていない。……あんな記憶いらないんだ。否定せんがためにしのぶは咆哮を上げた。うおおおおおお、雄々しくも猛々しい声が部屋中に響き渡る。普段の彼女を知る人ならば驚くそれは、伊之助にとっては懐かしい姉の姿であった。睨む目は上弦弐を見据えた。

 

「テメェには地獄を見せてやる!!」

 

 しのぶが吠える。刃は弟と共に向けられた。……しのぶちゃんはそんなこと言わない、呆然とした上弦弐の声がポツリと聞こえたがしのぶと伊之助には聞こえない。二人は一斉に走り出した。

 




伊之助の口調で、猪突猛進猪突猛進。がははと笑いながらギザギザの刀を振り回す。彼女は……まごうことなくもののけ姫だった……ッ!!

なんて、もっと酷いのも想像したけど、なんだか書けそうになかったので、これでご勘弁を……ッ!!
ギャップ萌えを狙いました!書いてて楽しかったです。リクエストありがとうございました!

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