童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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お久しぶり、そしてようやくだよ……ッ!!


17週目

 

 琴葉が伊之助を落としたという川を下り突き当たった海まで下りていく。海というものは漁村生まれだったと語る玉壺(ぎょっこ)の話でしか知らなかったし山にある教団とは無縁で来たこともなかった。塩の香りも海のさざ波の音も教団から出てから感じたものだった。久しく感じていなかった潮風に当たりながら童磨(どうま)は山を登る。伊之助(いのすけ)は何処かに流れ着いている、そう考えていたからその海周辺の山を登って捜し歩いた。手当たり次第に獣の住処に踏み込むも出会うのは熊やら狼やらと猛獣ばかりだった。猪を見つけても人間の赤子を連れている様子はなく、移動したのかなと考えながら捜し回ることが増えた。

 

――それでも見つけることは出来なかった

 

 夜の深い闇の中で赤子を一人捜すことは難しい。探知系が苦手なこともあり、捜索は難航した。一度血鬼術で氷の氷像を作り、人海戦術で捜したことがあったが結果的に鬼殺隊に見つかって、それどころではなくなった。実力差は明らかで手加減しながら逃げおおせたがかなりの手間で、それ以降血鬼術で捜すことをやめた。赤子を連れた猪の噂も聞くことはない。猪の毛皮を被る子供がいないかも聞いて回ったが目ぼしい情報はなかった。

 

――結局、地道に捜す他なかった

 

 何処かの住処へと移動を繰り返したであろう猪を草の根分けて捜して何年か経った。時折琴葉のところに戻り旅の土産話をした。海を見たこと、潮の匂いが強くて驚いたこと、山を登ったこと、捜したら鬼殺隊に見つかったこと、とにかく沢山のことを話した。まあまあと笑う琴葉にお土産だと手渡した何の変哲もない貝殻も喜んでもらえた、童磨の知る女性は(かんざし)や高価なものを好んだのに。……これだけでいいなんていいのだろうか?そう問いかければ琴葉は頭を軽く叩いた。プリプリと頬を膨らませて童磨を叱った。

 

「気持ちがあれば良いんですッ!!」

 

 そう言って笑った。童磨は不思議そうに首を傾げた。そうですよ、これを拾って持ってこようって思ってくれたでしょ?琴葉は穏やかに笑って貝殻を撫でた。……綺麗でもない、貝殻なのに彼女が持てば価値あるモノに思えるのが不思議だった。

 

――だから、ありがとう童磨さん

 

 琴葉は童磨の頬を撫でてお礼を言った。童磨は湧き立つ胸のくすぐりを感じる。訳も分からず自身の胸に手を当てた。……胸が、こんなにもくすぐったくて温かい。帰る家なんてモノを得たからなのか、いつまでも居たくなる思いに戸惑った。実際、家はあったのだ。両親の残した教団施設、あちこちの土地を買い取った家。沢山あったのにこんな使用人のいる狭い家が何よりも心地が良いと感じていた。旅に出ている間に感じ取った胸の穴も埋まっていくような気がした。

 

――……それは教団に居ても、何処に居ても得られなかった感情だった

 

 人の感情なんて他人事(よそごと)の夢幻でしかなかったのに、分からないと思っていたのに。童磨は琴葉のいる家が温かいと感じていた。おかえりから始まって、話に相槌を打って笑ってくれるのも、眠る前にと時折間違える子守歌を聞いても、全く無駄なことだと思わなくなったのは琴葉が居てくれるからだろうか?トクトク高鳴る胸を押さえながら家で何日か過ごした。

 

――時折琴葉の足の調子も見ながら薬を与えた

 

 鬼に噛まれた場所だ。鬼なら彼女の出番だと手紙でやり取りしたら珠世の猫から薬を貰った。実際は診た方がいいのだが経過がいいらしく飲み薬だけ送られた。毎日欠かさず飲むように。そう書かれた薬もあって定期的に家に帰る理由だった。さて、そろそろ行こうかな。首を動かして骨を鳴らす。土産話もしたし、必要な分だけの薬も手渡した。……これ以上居る理由もない。童磨は武器である金の鉄扇、お金とちょっとしたモノだけ手に持って琴葉に出ると一言告げる。琴葉はあっと目を見開いて、他に必要なモノがあるんじゃないかと慌てるが頭を振って大丈夫と笑った。それ以外のモノを童磨は必要としなかった。

 

――じゃあ、そろそろ行くね

 

 家の玄関口でいつものように見送られる。ご武運を、車いすに乗る琴葉が童磨を見据える。真っ直ぐした目だった。……伊之助はきっとまだ何処かの山にいるのに、一度だって結果を得られない童磨を何度も同じ目で見据えるのだ。琴葉が怒ったのはあの晩だけだった。それ以降は凛とした態度を崩すことはない。確実に5年以上は過ぎているのに一度だって無惨様のように責められたこともなかった。きっと琴葉は俺に伊之助を任せてくれているんだ、それがどうにも重たく感じながらも、高揚する思いを胸に抱いて家を後にした。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 伊之助捜しの旅を再開させた。ちょっと前まで自分探しの旅だったのに、何の経緯かこうして琴葉の息子を捜すことになっていた。信者たちの悩みは何度も聞いても、助言か永遠を生きるという名目で喰らうばかりで、自分から動くということはしたことが無かった。

 

――きっとこれが初めて自分から他人の為にしていることなんだろう

 

 日本中の山を歩き回り猪一匹と子供を捜すなど、手間だと感じているし一人で効率が悪いことだと分かっているのに、どうしてか嫌ではなかった。もうこの頃には琴葉の足の経過も良くなっていて定期的な薬もなくなって探索に集中出来るようになっていた。それでも鬼殺隊や鬼の視線を掻い潜って捜さなければならず、時間も限られてしまうのだけど。それでもやらなければならなかった。……さて今日も頑張ろうかな、起きて洞窟を出て伊之助を捜そうと考えていた。

 

――そんな時だった

 

 ガサガサと揺れる草むらから現れたのは鬼殺隊の隊士だった。どうやら童磨を捜しに来た訳ではないらしい。童磨を見るなり怯え切った少年はどうにもまだ階級が低く鬼にも慣れていないようだ。……よく見れば日輪刀も持っていない。

 

――やあ、どうかしたのかい?

 

 優しく問いかける童磨にヒィっと小さく悲鳴を上げる彼を必死に宥めて事情を聞いた。話を聞く限りやはり彼は鬼殺隊だし、持っていた刀も奪われたというモノだから災難だったとしか言いようがなかった。

 

――可哀想に、それで誰に盗られたんだい?

 

 相槌ついでの会話だったが、安心したらしい隊士から聞き捨てならない言葉を聞いた。猪、のような筋肉づいた少年に盗られたと言う言葉だった。……確実にそれは、伊之助だった。童磨のよく知る姿が脳内に蘇る。その子は何処に行ったのかな?更に詳しく問いかければやはり向かった先は藤の牢獄である藤襲山(ふじかさねやま)。いくら何でもあそこは鬼殺隊に縁が深すぎて近づくことは出来なかった。それでも確実な情報だったから童磨は藤襲山周辺の村々で情報を集めた。

 

――しかし、既に走り去った後だった

 

 猪らしい、猪突猛進ぶりに苦笑しながらも童磨は浅草に向かう。更に情報を絞り更に南南東まで目指せばそれ以降の情報を見つけることが出来なかった。この中心で消息を絶っている理由を考えていると(つづみ)を叩く音がする屋敷に行き着いた。屋敷の中からは甘い、血の匂いと忘れもしない稀血の匂いが香っていた。……まさか、戸を開き締めた瞬間、鼓の音が響けば部屋が急に変わった。この感覚は何処かで覚えがあった。

 

――これは、鳴女ちゃんと似たような血鬼術だなぁ

 

 気配もなく場所も変わり戸を開いて似たような場所で出口を開いても別の空間が広がり、また鼓が鳴れば別の場所。結局鬼が殺すまで此処にいるしか出来ないようだ。伊之助もまた此処に閉じ込められていると推測しながら童磨は胡坐をかいて暇をつぶした。移動しても結局鼓の音に合わせて場所が変わるのだ。その場で動かず伊之助と出くわした方がいいと判断した結果だった。……気付けば朝になったようだった、童磨は睡魔に襲われて少しばかり浅い眠りについた。

 

「んー……、なんだか、騒がしいねぇ?」

 

 鼓の鳴り響く屋敷の中で、誰かの声を拾い上げる。浅い眠りから目覚めたらしい虹色の眼が瞬いた。声を聞くなり子供が複数と言ったところだろうか。……ううむ、迷い込んじゃったかな?眉を寄せて考えていると。ポン、と何度も聞いた鼓の鳴る音が聞こえた。また何処かへと場所が変わったらしい。それと同時に目の前の襖が開く。目の前に立つのは伊之助ではなかった。赫灼の髪と目を持つ少年が刀を携えて少女を連れていた。花札の耳飾りに目がいくもすぐに切り替えて、童磨は笑う。はじめましてと穏やかに声を掛けて見せれば少年はますます刀を手放さず此方を睨んでいた。

 




解釈としては十数年探索に時間かけてようやくと言ったところです。それとあの時代の破傷風ってどうしていたんだろうと思って珠世様の最先端技術で何年もかけてお薬貰う描写を書いてみる。探知系は苦手な童磨さんだから何年も掛かっているのと、時間間隔にズレがある。おK?

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