童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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お久しぶりです。とりあえずワンクッション回。短めだけどね。


18週目

 赫灼の髪、それと同じ揃いの色を携えた眼が此方を見据えている。花札のような耳飾りを付ける少年がおおよそ誰なのか分かっていた。

 

――無惨様が熱心だったからなぁ

 

 そういえば珠世ちゃんも話していたっけ?今その場にはいない女鬼を思い浮かべながら

童磨(どうま)は横たわっていた自身の上半身を僅かに起こす。

 

「やあやあ、はじめまして。俺の名前は童磨。外はまだ明るいのかな?」

 

 まだ眠いからさ、本格的に起き上がった足を組み胡坐をかいて微笑んだ。ゴクリ、唾を呑み込む音が響く。おや、首を傾げる童磨をよそに少年は刀の柄を掴み今にも刀身を見せつけんばかりに身構えていた。

 

「別に取って喰いやしないよ、刀から手を離しておくれ」

 

「まさか、本当に……?」

 

 ケラケラ笑う童磨に目の前の少年は困惑した様子を隠さずに柄を掴む手を緩ませた。嘘の匂いがしない、そう呟く少年は僅かに鼻先を動かして何かを判断しているようだった。なるほど、この子は鼻がいいんだね。童磨はいつものように相手の観察をしながら、目を細めた。

 

「さて、挨拶は済んだことだし、そろそろ君たちの名前を聞こうかな?」

 

 怖がらなくてもいいんだよ、にっこりと屈託なく笑う童磨に、少年とその陰に隠れる少女が互いに目を見合わせた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 少年は炭治郎(たんじろう)と名乗り、少女もそれに倣うようにてる子と自らの名を名乗った。

 

「うんうん。炭治郎くんにてる子ちゃんだね」

 

 童磨は名前を確認するように何度も頷けば、炭治郎も警戒心を僅かに解いたようだった。あの、恐る恐るといった様子で炭治郎が口を開く。なんだい、首を傾げて聞こうとする童磨の様子を見れば炭治郎は何かを決めたように気を引き締める。

 

「あの、あなたは鬼ですよね?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「あなたから人を食べた匂いがしないのは何故ですか?」

 

「……それは、俺が人を食べないからだよ」

 

 何周か前には食べていたけどね、言外に告げぬ言葉を思い浮かべる。そういえばいつ以来だろうか、今となっては食べていないことを思い出せば炭治郎は僅かに眉を顰めた瞬間を童磨は見逃さなかった。

 

――何かを判断しているのは分かっていたけれど。……なるほど、分かりやすい子だ

 

 ……どうやら嘘や含みのある感情も見抜くようだ、本当のことを言っても信じてはもらえないだろうし、……さてどうしたものか。童磨が僅かに考えを巡らせると少しばかり間が開く。炭治郎も困惑した様子でまた言葉を失ったようだった。童磨は気を反らすように言葉を更に重ねて畳みかけた。

 

「まあ、昼には眠っているけどね」

 

 こうもうるさいと流石に目を覚ましちゃった。童磨がそう続ければ炭治郎は目を見開かせた。まさか、禰豆子(ねずこ)と同じ……、ポツリと呟く言葉を童磨は聞き取った。禰豆子、禰豆子。確か太陽を克服して無惨様が追い求めた鬼だったろうか。思い出していると炭治郎は身を乗り出して何か聞きたそうにしているが童磨は手を前に突き出してその動きに制止を掛ける。

 

「はい、待った。今はそんなことしている場合じゃないと思うけど?」

 

 何せ此処は今鬼の根城だからね、てる子ちゃんも出してあげなきゃ。童磨の言葉がそう続けば炭治郎はそうだったと言った様子であっさりと身を引いた。さて、童磨は立ち上がって金扇を取り出した。

 

「そこで提案なんだけど、俺と一緒に協力しないかい?何だったら、怪しい動きをしたら頸を切ってもいい。俺もいい加減、此処から出たいし、せっかくだしね」

 

 待っていたんだけど、あの子も来なさそうだし。そう続けて、童磨は伊之助の姿を思い浮かべていると炭治郎は分かったと頷いた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 長居しても鼓が鳴り響いてまた別の場所に移動する。移動することを決めた炭治郎が襖を開けば後悔した様子で肩を落としていた。襖を開けば僅かに漂ってくる死臭が童磨の鼻孔をつく。もう既に食べられているのは明らかだった。

 

「ど……どうしたの?」

 

「大丈夫だよ、鬼はいないから」

 

「そうだね、【鬼】()いないね」

 

 てる子は状況を把握しきれず炭治郎に問いかけた。心配を掛けさせまいと声を掛ける炭治郎に童磨が含みを込めて同意をすればキッと睨まれた。全く、どうしてかなぁ……、眉を下がらせて肩をすくめると炭治郎はてる子の手を引いた。

 

「さあ、向こうへ行こう」

 

 開いた襖から一歩一歩踏み出して、死体の居ない方向に歩き出す。

 

「振り返らず、真っ直ぐ前を向いて」

 

 童磨もてる子が振り返っても見えないように炭治郎の後ろに続いて歩いた。しばらくすればまた襖のある部屋に行き着いた。歩いている間にスンスンと鼻を動かす炭治郎の様子から、何かが居るのは明らかだった。匂いから察するに、童磨はおおよその見当を付けると、炭治郎は襖に手を置いた。襖を開く。目の前には鼓を持った少年がそこに居た。顔を青ざめさせて鼓を叩こうとする動きを見せる。てる子と少年の肉質の感じから察するに血縁のようだった。

 

「清兄ちゃん!」

 

 てる子の呼びかけに応えるように少年が鼓を叩く手を止めた。お兄ちゃん、お兄ちゃんと泣きながら走り出すてる子を少年は受け止めた。清、と呼ばれた少年は炭治郎たちの姿を認めれば首を傾げた。その人たちは、そう問いかけた。

 

「俺は炭治郎、悪い鬼を倒しに来た」

 

 童磨も炭治郎の横に並び名を名乗る。さぁ、傷を見せて。炭治郎は独りでよく頑張ったなと褒めれば清なる少年は緊張の糸が切れたように泣き出した。炭治郎の師匠(せんせい)の特製らしい傷薬を取り出して、清の負った傷口に塗り込んで応急処置をすれば兄妹は落ち着いた。良かったねぇ、童磨はにっこり微笑んでみせれば場の空気は穏やかになる。見計らって炭治郎は改めて清の話を聞くことにした。

 




解釈としてはお昼起きている理由としては禰豆子も暗い場所で動いていたからで、昼間でも暗い場所なら動くのではないのかという認識で進めます。傷が深かったから禰豆子は起きたと言われればそれまでですがここではこういう認識で了承下さい。

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