童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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童磨さん、成長する。

※読む上での注意
少し鬼滅の刃の公式ファンブック【鬼殺隊見聞録】のネタバレ(響凱殿が何が好きかという)ネタバレがありますので、未読の方は申し訳ありません。



21週目

――諦めなよ

 

 また何処かで馬鹿にする知人の声が響いた。あの時も、乾いた紙の落ちる音がした。目の前には自身の書いた原稿が落ちている。つまらないよ、あの時知人はそう言って目の前でまとめた原稿を投げ捨てていた。

 

――つまらないよ、君の書き物は。全てにおいて(ごみ)のようだ

 

 せせら笑うような知人の声だけが部屋に響く。……顔を上げられない、知人がどんな顔でそれを言っているかなど分かりたくはなかった。酷評を更に畳みかけてくる。

 

――美しさも儚さも凄みもない

 

 もう書くのはよしたらどうだい、紙と万年筆の無駄遣いだよ。それが君の為なのだと言わんばかりの言葉。まるで善意のように推奨される言葉は、どこまでも文筆家としての才がないのだと馬鹿にしたものだった。

 

――昼間に外に出て来ない、そんな風だから君はつまらないのさ

 

 膝上に置いた自身の手が震える、今にも殴りかかろうとする手を抑えようと膝上の布地を握り締めた。

 

――趣味の鼓でも叩いていたらいいんだ、この部屋に閉じ籠もって

 

 それもまぁ……、人に教えられる腕前ではないが。気の毒そうにわざとらしい声色を上げながら知人の言葉はそう締めくくられる。言いたいことを言い終えたらしい、知人は部屋から出ようとしていた。ぐしゃり、目の前で原稿の紙が踏みつぶされた。紙に皺が寄る。こうなっては元に戻せない。

 

――【里見八犬伝】が、……好きだった

 

 だからいつか、自分も同じように伝奇小説が書くことが出来ればと、夢見ていた。拙くてもいい、己だけの文を作ってきたつもりだ。だが、現状はどうだ。知人に心にも無い言葉を投げかけられ、原稿は無惨に変形するほどにまで踏みつけられた。ビキリ、目の前が赤く染まる。ビキビキと血管が浮き立っていく。腹に埋まるように一体化した鼓が飛び出して、鼓を叩けば知人の身体は爪に引き裂かれるように四散した。

 

――肉を喰らう

 

 こんな、土足で家に踏み込む奴でも、肉は等しく美味く、不愉快であった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 鼓を叩くたびに部屋が回転する。回転と共にカサカサと動く無数の紙。そして土足で踏み込んだ虫ども。ますます不快さが増していく。諦めない、とあの少年は言っていた。諦めろ、とあの男は言っていた。どちらも不快、不快不快。カサカサと紙が鳴り響く。カサリカサリ、紙が目の前で落ちていく。

 

――全てにおいて(ごみ)のようだ

 

 あの男の声が、脳内から止まない。つまらないんだよ、……黙れ。もう書くのはよしたらどうだい、……黙れ黙れ。カサリカサリ、目の前で落ちていく紙、紙、紙。そして、諦めないとほざいた少年の赫灼の眼が此方を見ていた。血管がブチリと切れて頭の中が熱くなった。歯ぎしりをしながら口を開いた。

 

「消えろ……ッ!!虫けら共ッ!!」

 

 号哭にも近い咆哮を上げて響凱(きょうがい)は構える。

 

尚速(しょうそく)鼓打ち】

 

 もしかして、まだ速く鼓を打てるのか?炭治郎が目を見開いて響凱を見れば、響凱の手は素早く身体の鼓を叩き始める。ポポン、ポン、ポン、ポン。軽快に叩かれる鼓をよそに部屋の回転は増した。

 

「うわ―――っ!!楽しい!!回転が速くなるのって面白いね!!」

 

 癖になりそう、目が回る炭治郎をよそに童磨(どうま)は速くなった回転を楽しんでいた。本気になったらしい響凱の技は凄かった。腹の鼓から出される爪の攻撃は三本から五本になっている。本数が増えたことで炭治郎の顔に掠り血が噴き出した。そのまま重力に従って落ちれば炭治郎の足元には原稿が散らばっていた。誰かの手書き文字だと気付けば炭治郎は咄嗟に足を動かした。原稿を踏みつけないように避ける。散らばる原稿たちの隙間を掻い潜って炭治郎はようやく落ち着ける場所に行き着いた。

 

――あんなにも鳴り響いていた筈の鼓の音が、気付けば止んでいた

 

 ようやく息を整えた炭治郎が、初めて折れた場所が痛まなかったことに気付く。

 

――……さっきのだ

 

 紙を避けたおかげだった。怪我の痛まない身体の動かし方と呼吸の仕方が分かったのである。呼吸は浅く、速く。その呼吸で骨折している脚周りの筋肉を強化する。

 

――そして、爪の攻撃の前には(かび)の匂いがする

 

 クン、と鼻が動く。爪の攻撃の匂いを感じ取った炭治郎は上から迫りくる爪を避けた。息を思いっきり吸い込んで、身体の筋肉を強化する。

 

【全集中・水の呼吸 ()ノ型 水流飛沫・乱】

 

 縦横無尽に走り回る足の動き、着地面積によって繰り出される技は回転する部屋に対応してみせた。爪の攻撃も全て躱されていけば響凱に対抗できる術は、なかった。へぇ、童磨は楽しそうに口角を吊り上げて鬼独特の鋭く尖った犬歯を見せつけた。ピン、響凱の首元に隙の糸が見えた。

 

「響凱!!君の血鬼術は凄かった!!」

 

 響凱の動きが止まった。ザン、と頸を切る音が響いたと思えば響凱の頭が飛んでいった。鼓の生える身体がズシンと重たく落ちていく。同時に着地した炭治郎は深く息を吸い込めば怪我が思いきり響き、思わずしゃがみ込む。俺は長男だ、身体を丸めて痛みに堪え、耐えた。

 

「小僧、答えろ」

 

 身体が崩壊する響凱が言葉を発した。何かを聞きたい様子を見せる鬼に炭治郎は耳を傾ける。

 

「小生の……血鬼術は……凄いか」

 

「……凄かった」

 

 素直に炭治郎は答えた。けど、そう続く炭治郎は響凱を見据えている。

 

「人を殺したことは許さない」

 

 凛とした顔で答える炭治郎にそうか、と返す響凱は腑に落ちた様子で言葉を発することをやめた。響凱殿、童磨は口を開いた。一歩一歩前へ進み、響凱の頭部へ歩み寄った。

 

「俺、あなたの下弦の頃を知っていたんだよ、爪だけの攻撃だったのに部屋も操れるようになっていたんだね、知らなかったぜ。……強く、なったんだね」

 

 ……でも、疲れただろう?そう締めくくる童磨の顔は炭治郎には見えなかったが彼らなりの別れの言葉なのかもしれないと黙り込んだ。長い沈黙が流れる。……そうだ。炭治郎は思い出したように懐をまさぐり目的のモノを取り出した。

 

――それは短い刃物だった

 

 炭治郎は響凱の頸のない胴体にそれを投げればみるみる内に柄の中に赤い血が溜まっていく。

 

「おや、それはまさか……、」

 

 童磨の言葉と同時ににゃあ、と猫の声が響き渡った。急に現れた猫に驚くも首元についている見覚えのある札を見て誰の猫なのか理解した。

 

「あっ、君か。珠世さんの所へ届けてくれるんだな?ありがとう気を付けて」

 

 猫の背中に背負われている鞄に先程血を集めた刃物を入れた。猫が動き出そうとした時だった。

 

「あっ、待って。ついでにこれも珠世ちゃんに届けてくれない?多少俺の血が付いているかもしれないけどさ」

 

 童磨の懐から手紙が取り出せば、慣れた様子で猫の鞄の中に入れていく。にゃあ、また一鳴きすれば猫はあっという間に姿を消した。待ってください、炭治郎は童磨を呼び止める。どうしたどうしたと振り返る童磨の目には炭治郎が困惑した表情が浮かんでいた。

 

「まさか、珠世さんの知り合いなんですか?」

 

「そうだぜ、……あれ?言ってなかったっけ?」

 

「聞いてませんし、貴方には沢山聞きたいことがあります……!!」

 

 ギャアギャアと騒ぐ炭治郎たちの真横では響凱の頭部が横たわっている。消えかかる視界の先では炭治郎が立ち上がっていた。……小生の、書いた物は。脳内で踏みつけられる原稿と足が思い浮かんでいる。

 

――(ごみ)などではない

 

 少なくともあの小僧にとっては、踏みつけにする物ではなかったのだ。そして、あの逃れ者の鬼も。

 

――爪だけの攻撃だったのに部屋も操れるようになっていたんだね、知らなかったぜ。……強く、なったんだね

 

 実力はどう考えてもあちらが上だったのは明らかだった。それなのに。目から涙が止まらなくなった。

 

――小生の、血鬼術も……、鼓も……、……認められた……

 

 死ぬのに、不思議と胸が温かい。こんなに穏やかに逝けることに幸福感を覚えながら、響凱は静かに消えていった。成仏してください、少年の悼む言葉が、聞こえた気がした。

 




舐めプしているようにしか見えないけど、一応成長しているんだよ?一応はね!!
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