「……あの、どうかしたんですか?」
「君は、祈るんだね。相手は鬼だというのに。……変わった子だな、って思っただけだよ」
憎い相手だろうに、童磨はそれを続けることはなく呑み込んで思考を打ち消した。炭治郎の在り方は、異様でしかなかった。
「……確かに、鬼が人を殺したことは許せないけど、それでも元々は俺たちと同じ人間だったんです」
鬼は虚しい、悲しい生き物です。そう断言し、炭治郎は困ったように笑った。鬼殺隊としての考えとしては異質であることも自覚しているだろうに。……優しい子だね、童磨は笑む。
「……だったら、俺も君にとってそうなのかい?」
「……はい」
「あはははッ!素直に答えるなんて、面白い子だね!!」
救いを求められたことはあれども、生まれてこのかた哀れまれたことなどなかった。童磨にとって炭治郎の言葉は予想外で、愚直なほどに素直な答えだった。腹を抱えて笑えば炭治郎は困惑した様子でたじろぐ。あの、その言葉にああと童磨は笑いで零れた涙を拭って炭治郎と向き合った。童磨の目の前には意を決した様子で炭治郎が立つ。赫灼の目は此方を見据えていた。
「それで、聞きたいことがあるって言っていたね。何だい?」
聞いてあげる、童磨の言葉に炭治郎は問いかけた。
「珠世さんとはお知り合いですか?」
「珠世ちゃんのこと?……うん、仲がいいよ?文通もするし薬だって貰う仲だしねぇ」
それだけかな?童磨の言葉にまだです、と炭治郎は前のめりになって童磨の顔に近づいた。やけに近いね、僅かに困った様子を見せる童磨など気付かぬままに炭治郎は更に問いかけた。
「あなたの体質についてお聞きしたいのですが」
是非とも、と炭治郎は事情を話し出す。妹が鬼になったこと、鬼から人に戻す為の手立てを見つけるために鬼殺隊に入ったこと、妹と同じ体質ならば何か知っているのではないか?そう話す炭治郎に、なるほどと相槌を打ちながら童磨は息を呑んで回答を待つ炭治郎のために答えを口にした。
「そうだね、結論を言えば分からないんだ」
へ、と間の抜けた炭治郎の声が響く。童磨はごめんね、と笑うが炭治郎は納得など出来る筈もない。そこをなんとか、と炭治郎は食い下がった。ううん、困ったなぁ。童磨は首を傾げている。
「俺もあの時必死だったからねぇ……、気付けば二年寝ていてこの体質になったからさ」
「……そんな」
炭治郎の肩が落ちる。せっかく妹と同じ体質の鬼を見つけたというのに、ふりだしに戻るのか、と思う矢先、童磨はああ、でもと何かを思い出したように手を叩いた。
「俺は眠っている間、必死に人間を喰わないことを意識したよ?」
思い浮かぶ姿は愛しい女性の姿。しのぶの為にと変わろうとしたことが童磨の記憶の中に蘇る。本当に飢餓感から逃れるために必死だったからなぁ、そう思いながらも童磨は炭治郎に笑いかけた。
「君の妹さんが未だに喋らない状態なのかは分からないけど、……大丈夫だよ?きっと中で戦っているんだ。君と同じだね」
だから、頑張って。そう続ける童磨に、炭治郎は目を見開いたがすぐに笑みを浮かべた。はい、大きな声で返事をする炭治郎にいい返事だね、と童磨は笑みを返した。
「ごめんね、少し怪我しちゃったからさ。今少し眠い……」
童磨は僅かに欠伸をする口に手を覆う。
「炭治郎くん、てる子ちゃんたちのこと、迎えに行っておくれ。……鼓が無くなって不安そうにしているからさ」
どうして分かるんですか?炭治郎が首を傾げているが童磨はもう答えるつもりはないようだ。その場にゴロリと横になって目を閉ざす。
「鬼は居ないようだけど、……はやく安心させてやった方がいいと思うぜ」
御子を通して情報が通じる童磨はてる子たちの様子を把握しているが、眠ってしまってはどうにもならない。それが君の仕事だろう、そう続ける童磨に炭治郎はまだ聞きたそうに口を動かすがすぐに部屋から出ていった。そうすればようやく一人きりになった童磨はまどろむ意識に身を任せた。
原作で無惨様見届けてから書きたいと思って、間が開きました。すいません。