童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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拗らせすぎた童磨さん


5週目

 あの満月の日以降、カナエちゃんは少し変わった。俺が居なくても食事を取るようになった。……どういう心境の変化なのだろう、皆目見当もつかなかった。壊れた足枷(あしかせ)もあるというのに外にいっこうに出る気配はなかった。部屋に居て欲しいと言えば従うし会話をしようと言えば話もした。日常会話でしかないけれど、彼女は笑う時は笑い、怒る時は俺を怒った。……そして、口に出すことも増えた。どうしてそれをしたのか問いかけて答えれば、どうしてそれをしてはいけないのかをクドクドと説教をし始める。まるで子供を叱りつける母親のようだった、童磨(どうま)はそれが新鮮に感じていた。童磨(どうま)の知る母親は嫉妬に狂った醜い人間であったし、父親に至っては色狂いだ。両親は童磨(どうま)を特別な子だと持て(はや)し、神の子だと信じて教団の象徴として崇め奉っただけだったからカナエのやっていることが面白く思えた。

 

――何故だろう、なんでだろう?

 

 久々にトクトクと心臓の音が鳴っている。流石しのぶちゃんの姉妹だなぁ、俺の感情を動かすのが上手い。感心すら覚えて笑みがこぼれる。……よく、似ていた。従順ならと判断して足の鎖を外すことにした。錠を鍵にはめ込んで回せばガチャリと音を立てて外れる。

 

「うわぁ……、痛そうだね」

 

 痛々しい程に白い陶器のような肌には(かせ)の痕が残っている。可哀想に、撫でればカナエちゃんの身体がビクリと動く。痛みにこらえるように唇を噛み締めるカナエちゃんの頭を撫でる、撫で下ろすように童磨(どうま)の手は徐々に下がり、少し伸びた髪をさわさわと触れる。

 

「女の子の髪を切っちゃって、ごめんね。髪は女の命だろう?」

 

 懺悔(ざんげ)をするように童磨(どうま)は苦笑した。さて、童磨(どうま)は立ち上がって金扇を取り出した。冷たい空気が周囲を凍らせる。現れたのは小さな人型だった。……童磨(どうま)によく似た氷像は独りでに動き出しカナエの傍に歩み寄った。

 

(かせ)は外したけれど、君が逃げ出さない保証はないからね。監視は付けさせて貰うよ」

 

 この子、俺と同じくらいの強さの技が出せるんだ、にっこりと童磨(どうま)は笑ってカナエを覗き込めば、カナエは静かな表情で此方を見据えていた。驚く顔が見たかったのに、残念だなぁ。

 

「じゃあ、そろそろ信者たちの話を聞かなきゃいけないからまたね。部屋からは出ないでね」

 

 そう言い残して部屋を後にする。カナエちゃんは最後まで俺を見ていた。何処までも真っ直ぐで、いつまでも見ていたいと思った。

 

――それでも代わりでしかないけれど

 

 ドクリドクリと、嫌な心臓の音がした。頭痛がするような、とても嫌な気分になった。原因は分からない、それが堪らなく俺を不快にさせていた。不思議な気分だった、カナエと話せば童磨(どうま)はいつもとは違う自分になれた気がした。あの子とは違う居心地の良さに驚くが同時に訳の分からない衝動に襲われる。それは不快さだ、煩わしくて仕方がない。ああ、そうか。

 

――所詮(しょせん)代替品は代替品でしかないのか

 

 そんな心の(ささや)きに、耳を傾けた。……頭が、痛くなった。

 

――――――――――――――――――

 

 どうしたって年月は止められない、待ち焦がれた筈のある日の無限城に飛ばされた。しのぶちゃんが、来る。隣には傍に居たカナエちゃんが辺りを見渡している。見慣れた水辺と足場の少ない場所、此処でいつかの俺は女の子たちを貪っていた。ある時はあの子だけを待っていたこともあった。今はカナエちゃんが此処に居る。俺がいることだけは変わらない。……あの子は、それをどう思うんだろうね。考えるだけで、頭が痛いほどの頭痛に襲われる。目の前の扉が開く。あの子だった。

 

――二人を見比べればやっぱりそっくりだった。

 

 姉さん、あの子の声がする。カナエちゃんも、あの子を見るなり、あの子の名前を呼んでいる。久々の再会だもんね、他人事のように思えてくる。

 

――そして俺を置き去りにして、走り出した

 

 ズキズキと重くのしかかる頭痛を感じた。頭を押さえ込んで金扇を開く、鋭い二対の鉄扇はカナエちゃんを引き裂いた。甘い血の匂いがする。もう何年も刀も握らず籠りきりの彼女はただの人でしかなく、命の火は容易く消えていった。……あの子の声がする。泣き叫ぶ、悲痛な悲しみの声だった。居心地がいいのに、頭痛は更に増していく、あの子の憎悪が、殺意が突き刺さる。

 

――やって良いことと悪いことがあるでしょ!

 

 カナエちゃんの叱る声が、聞こえた。だけど、もうそれを聞くことはない。だって殺してしまえば……もう、会えない。ズクズクと胸と頭が痛くて痛くて仕方がない。うるさくて、煩わしくて堪らない。

 

――しのぶちゃんと一つになったら治るのかな?

 

 安らぎを求めて彼女と一つになればますます痛みが激しくなった。いつもの殺意も憎悪も向けられないことが、寂しくて、虚しい。……そしてきっと今回のしのぶちゃんは毒を持っていない。だって剣術のまるでなってない猪が来ても、待てど待てども毒が回ることはなかった。毒のない彼女と一つになれたのに、永遠に一緒なのに、満たされない。気付けば無惨様(あの方)の名を口にした。

 

――自壊することを、望んだ

 

 呪いが発動した。身体中から食い破るように腕が生える、鬼にしていただいた頃のように頭に手が置かれた。ああ、懐かしい。ぐちゃり、頭の潰れる音と痛みが同時に圧し掛かった。……死ねばあの子はいつものように待っていて、いつものように微笑んで、俺の言葉を否定した。胸が痛かった。

 

――――――――――――――――――

 

 (さかのぼ)って、信者と一つになって強くなる。上弦弐になって、カナエちゃんを(さら)っては繰り返す。あの子の面影を追いかけて……これで何度目だ。十過ぎた頃には数えることをやめた。カナエちゃんはその度にあの子と同じように睨んでくる。懇願すれば何故かやめて、一緒に居てくれるけれど。……あの頭痛が止むことはなかったし満たされることは無かった。

 

――だってカナエちゃんはしのぶちゃんじゃない。

 

 カナエちゃんが笑ってもしのぶちゃんが笑うことにはならないんだ。……分かっていた筈だ、童磨(どうま)は自嘲する。しのぶちゃんに似ているからという理由でカナエちゃんを連れ帰ってしまってからあれから何度それを繰り返したことだろう。死んで繰り返す度に、気付かされる。薄々と、そして確実に、自覚するには充分だった。代替品で自分を慰めて、面影を追う虚しさを、逃避していたことも、全部全部もうとっくの前に気付いていた。最初から分かっていた。

 

――それでも、やめようとはしなかった

 

 カナエちゃんの中にしのぶちゃんの影を追うことも、求めることも、やめなかったのは俺だったし表情を歪ませようと躍起(やっき)になった。何度もそれをカナエちゃんに指摘されて、見抜かれてしまうまでそれを続けていたのはなんでだろう、童磨(どうま)は困ったように眉下を下がらせる。代替品でしかなかった筈のカナエちゃんが離れることも我慢できなかった。彼女の隣も心地が良かった、離れてしまえば殺して、虚しくなって自決の道を選んでしまう。まるで無駄なことを繰り返す人間のようだ。効率的ではないのに、……らしくない。どうして、こんなに弱くなってしまったのか。どうしてこんなザマなのか。思い出すのはあの子の言葉だった。

 

――ねぇ、しのぶちゃん。ねぇ、ねぇ!!お願いだからッ……!!俺と一緒に地獄へ行っておくれよッ!!

 

――とっととくたばれ、糞野郎

 

 冷たく俺を否定するしのぶちゃん、俺から何度も離れていくカナエちゃん。……ああ、俺は、怖いんだ。離れられることも、否定されることも、全部全部怖いんだ。見てくれるのなら憎悪でも殺意でも構わなかったのに。欲深くなってからはそんなことにすら憶病になってしまっていた。……だからこんなにも弱くて、……(もろ)くなってしまうんだ。

 

今回は、監禁したカナエちゃんに日輪刀を差しだして、首を刎ねて貰った。飛んでいく視界に自分の首のない胴体を見る。カナエちゃんを見れば泣きそうな表情で俺を見ていた。

 

――――――――――――――――――

 

 もう、一人は嫌だった。一つになれば誰も俺と話してはくれない。俺を、見てくれない。……どうすれば良かったんだろう、あの子もカナエちゃんも俺から離れて行く。だったら、……俺はこうするしかないんだ。

 

「やあやあ、カナエちゃん。良い夜だねぇ」

 

 カナエちゃんの部屋に入るなり、いつものように挨拶をする。鬼殺隊(・・・)だったから俺を警戒していた。今は本能の方が強いのかもしれない。唸り声を上げて俺を睨む。

 

「カナエちゃん、今日もいいものを持って来たんだ」

 

 俺は優しいからな、童磨(どうま)は持ち運んだ袋の中から人の足を取り出した。断面から血が溢れ出す。それをカナエは見入るように見ていた。よだれをダラダラと垂らしている。

 

「……もう、我慢はしない方がいいんじゃないかな?」

 

 無惨様(あの方)に鬼にさせてもらったんだから一緒に食べようぜ、童磨(どうま)はそう言って、カナエに笑いかけた。一人じゃ寂しいだろう、俺も寂しいからな。しのぶちゃんも鬼にしていただくか、童磨(どうま)は名案だと思いながら手に持っていた足を喰らった。

 




仲間づくりから始めることにしました。
あ、これもうハッピーエンドですね!
これでこの短編は完結にさせていただきま(ry)
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