死ネタ注意です
敬愛してやまない姉が、一晩のうちに血まみれになって倒れていた。もう、何が起こったかは明らかだった。……間違いなく鬼だ。その証拠に姉は鬼の血鬼術によって凍てつくような冷たい身体になっていた。霜焼けで水膨れた皮膚と、凍傷まみれの黒ずんだ肌が露出する。
――口元から流れる血と地面を濡らす程の量から、姉が死ぬのだと悟った
湧き上がった感情は怒りだった。胡蝶しのぶは姉を抱き上げて、怒りに打ち震える。悔しさと悲しみに入り混じり、こらえきれなかった感情が涙となって
――両親だけでは飽き足らず、鬼は私から姉すらも奪うのか
……この世で二人きり、ただ一人の肉親だった。自分たちと同じ思いを他にはさせないと誓った姉さん、いつも優しく微笑んでいる優しい大好きな姉さん。
――まあまあ そんなこと言わずに。姉さんはしのぶの笑った顔が好きだなあ
懐かしい思い出ばかりが蘇っては消えていく。ボタリボタリと涙が姉の頬を濡らした。うう、姉の口から呻き声が聞こえる。姉さん、姉さん。しのぶは叫んだ。静かに目が開かれれば、カナエの瞳にしのぶが映る。弱弱しい手がしのぶの頬を優しく撫でた。
「……しのぶ、鬼殺隊を辞めなさい」
信じられない言葉を耳にする、カナエの声は小さく呟きながら更に続いた。
「……あなたは、頑張っているけれど、本当に頑張っているけれど、多分しのぶは……」
姉の言葉は続かない。私が何だと言うのか、間髪入れず姉はまた別の話を口にする。
――普通の女の子の幸せを手に入れてお婆さんになるまで生きて欲しいのよ
優しい優しい、姉の願い。これがきっと彼女の遺言だ。想像して涙する。それが出来たらどれ程幸福なのだろうか、息を呑んで、大きく頭を振った。嫌だ、嫌だ。嫌だ嫌だ。姉の居ない、……そんな幸せいらない、必要ない。頬を撫でる姉の手を掴む。痛いほどに握り締めて、叫ぶ。
「嫌だ!!絶対辞めない。姉さんの
こんなことをされて、普通になんて生きていけない。しのぶは涙ながら訴え、乞う。姉に言われたからではない、これは私の選んだことだ。……私は、その鬼を許さない。カナエは考え込むように瞳を閉じる、観念したようにポツリポツリと鬼の特徴を口にした。
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増設を繰り返してきたような部屋ばかりが続く空間だった。上下左右でたらめに反転したように剥き出しの部屋が入り組んで見上げれば階段が逆さまになっている。走り回ってどれほどだろうか、しのぶは一息ついて息を整える。ここは無限城、
――それは人ではなかった
人がいるとすれば柱か鬼殺隊の剣士だけだ。無限城にいるのだから、それは人ではない。……鬼だった。……目の前の鬼は、笑っていた。人を切り裂く鋭い爪で額を掻きむしり、掻きむしった頭から止めどなく血を溢れさせていた。赤い血で滲む瞳の中には上弦弐の文字が刻まれている。
「ああ、待っていたよ。ずっとずぅっと待っていたよ」
ドクリ、しのぶの心臓が高まった。目が見開く。……それは恐怖ではなかった。思い出せ、死んだ姉はどんな鬼に殺されたか、姉は特徴を話していた筈だ。姉の、カナエ姉さんの声が蘇る。
(頭から血をかぶったような鬼だった)
目の前の鬼は、
「……まず、いつものように自己紹介から始めようかな。俺の名前は
(にこにこと屈託なく笑う、穏やかに優しく喋る)
ドクリドクリ、心臓がうるさいくらいに耳元に聞こえる。身体と唇が震えた。鬼は笑っている。懐から何かを取り出した。
「さあ、胡蝶しのぶ。俺と一つになろうよ」
(その鬼の使う武器は)
懐から出たのは鉄扇だった、金であしらった、鬼の武器だった。
(鋭い対の扇)
目の前の鬼も両手に金扇を持ち上げて、広げてみせた。ゾクリ、背筋が震えた。……それは恐怖である筈がなかった。見つ、けた。見つけた見つけた見つけた。激情を抑え込んで、鬼と向かい合う。姉が好きだと言ってくれた笑顔を、浮かべた。
「あら、あなたに名前を名乗ってはいないのですが?」
鬼はしまったといった様子で笑った。もじもじと手を合わせて恥ずかしそうな様子で頬を赤らめている、気持ち悪い。ひくり、思わず口角が歪み微笑みが崩れた。
「ははッ、やってしまったな。恥ずかしい。俺が一方的に覚えているだけだ、許しておくれ」
「……、」
思わず黙り込む。一方的に覚えられることに寒気を感じていた。これ以上、この鬼と話したくはない。
「私の姉を殺したのは、お前だな?」
ふり絞るように怒りをこらえて問いかければあっさりと答えが戻ってきた。
「……そうだぜ」
すまなそうな様子で、鬼は答えた。まるで事情を説明するように話すものだから話に耳を傾けた。
「カナエちゃん、良い子だよね。俺も、最初仲良くしてたんだぜ?それなのに突然切りかかってきたんだ。……俺は鬼だからな、再生するから何の問題もないんだが急に怒りだしたんだ」
姉は、急に怒り出して切りかかる人ではない、しのぶは更に話を聞いて具合が悪くなった。それは、自身に対する一方的な告白であった。大好きな私と一つになりたいから女性を喰わなかったこと、
――埋めてあげられなくて、カナエちゃんには申し訳なかったよ。ごめんね
締めくくるように、そう謝罪する鬼に、頭の血管が切れる音がする。ブチブチと音を立てて頭が赤く熱くなる。気付けば姉が好きだった笑顔は無くなった。剣を突き出して、鬼を貫くも嬉しそうに頬を赤らめられた。どうやら本当に私に好意があるようだ。会ったこともない相手に好かれることがここまで
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どれ程毒を調合しても、しのぶの毒は効かなかった。むしろ刺される相手を喜ばせているだけになっている気がしてならない。可愛いねと名前を呼ばれる度に、毒を刺しても一向に回る気配がなかった。姉を凍傷に追いやった血鬼術はしのぶの息を凍らせる。思うように呼吸が出来ない。動きが遅くなる。相手の鉄扇が扇がれて氷の蓮が出現する、
「さあさあ、早く一つになろうぜ、しのぶちゃん」
鬼の声がする、激痛が、冷たい空気が身体中を蝕んだ。……姉の声が聞こえる。
「関係ありません、立ちなさい蟲柱胡蝶しのぶ。倒すと決めたら倒しなさい。どんな犠牲を払っても勝つ」
しのぶならちゃんとやれる、頑張って。泣くような激励に、しのぶは立ち上がる。そうだ、立ち上がろう。姉のため、皆のために、人のために。……残されたカナヲのために、力を振り絞って、踏み込んで、間合いに入った。小さな体躯を活かして、懐へ力いっぱい刀を突きあげる。天井へ突き刺さる。首に刺さるが、毒がやはり回らない。熱い視線を、感じる。
――ほんと頭にくる、ふざけるな馬鹿、なんで毒効かないのよコイツ
馬鹿野郎、心の中で罵倒をすれば
「しのぶちゃん!!君はやっぱり俺の思った通りの人だ!!だから俺は君を好きになったんだ!!一つになって永遠を共に生きよう!……君は分からないけど前にもこうしたね、懐かしいねぇ。言い残すことはあるかい?聞いてあげる」
前も何も初対面だ、何の話をしているのかまるで分からない。沸々と怒りが湧いてくる。
「……地獄に落ちろ」
最後に言えた、精一杯の抵抗だった。あっけらかんと鬼は笑う。
「ははッ、俺と一緒に地獄に行こうぜ、しのぶちゃん」
ごきり、骨の折れる音がする。痛みと共に意識が遠のいた。……私は、ここまでのようです。後は任せます。後から来る、可愛い妹に、全てを託した。
ストーカーされている人間の心境ってこんな感じなんだろうなぁ……。
exciteさんのリクエストにお応えしました。へ〜つさんも何処かの周回のしのぶさん視点をリクエストされております。どちらの方もしのぶさん視点だったので今回はexciteさんのリクエストにお応えしました。ちゃんとできているか分かりませんがこれでリクエスト一つ完了させていただいたこととさせていただきます。
へ〜つさんはいつか話増えてから書かせていただきます。他の方のリクエストは私の力量が不足しているのでもう少しお待ちください。