童磨さんin童磨さん(一発ネタ)   作:こしあんあんこ

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ファンブックを買って、無惨様の童磨さんに対する感情を見て、私はにっこり微笑んだ。


7週目

 信者としてのしのぶちゃんは静かなものだった。人当たりのよい優しい微笑みを浮かばせて、物腰柔らかなその様は淑女(しゅくじょ)そのものだ。けれど、周りの信者たちを寄り付かせなかった。話しかけてもやんわりと断り、微笑んで離れて行く、決定的な壁を作っているのは明らかだった。教祖として俺も話しかけたけれどそこだけは変わることはなかった。信者との二人きりの時間を使おうとしても彼女はツレなくかわされるばかりだ。会話をしても感謝しておりますとの一点張りで一向に会話が続くことはなかった。

 

――やっぱり誘いを断ったのは惜しかったなぁ

 

 思い返す度に残念に思う。せっかくの彼女の逢瀬(おうせ)の誘いだったのに。忌々しげに天井で隔たれた太陽を睨んだ。睨んだところで太陽が弱点であることは変わる訳もなく、すぐにやめてしまったが無惨様(あの方)が太陽で動きを制限されて煩わしいと仰る意味が分かるような気がした。

 

――――――――――――――――――

 

 信者達が寝静まった夜更け頃、夕食を調達してカナエちゃんの下へと赴いた時だった。カナエちゃんの部屋の方が騒がしい。部屋の障子は何か暴れたように壊れていた。新しく入れ替えた筈なのに彼女の爪跡が至る所に点在し、家具や壁、畳が傷ついていた。部屋の中には誰もいない。カナエちゃん、カナエちゃん。声を上げてもいつもの呻き声は聞こえなかった。ドンッと重い何かが壊れる音がした。その音は遠ざかっていく。音の方に向かっていけばしのぶちゃんが見慣れた格好になってカナエちゃんに刃を向けていた。悔しそうに悲しそうに、息を荒げ倒れたカナエちゃんを見て、涙を零していた。

 

――ああ、なんて可愛いんだろう。

 

 笑って欲しいけど、泣いている君も素敵だ。君の色んな表情が見てみたい。それもきっとすぐに叶うことだ。俺たちはずっと一緒だし未来永劫だ。これからを想像するだけで、胸が高鳴って、思わず声を掛けてしまった。

 

「こんばんは、しのぶちゃん。町娘の恰好はやめちゃったのかい?」

 

 でもやっぱりそっちの方が似合うよ、見慣れた彼女の衣装を鑑賞する。彼女の冷たい視線を感じた。憎しみ、憎悪、殺意。向けられる感情が懐かしいけれど、……やはり、寂しいものだ。でも、鬼になってしまえば俺たちは分かり合える。童磨(どうま)がうんうんと頷けば、睨む目はますます鋭さが増した。目の前の彼女が吠えた。

 

「カナエ姉さんを、よくも……ッ!」

 

「しのぶちゃん、一緒に鬼になろうぜ」

 

 そうしたら仲良くなれるからな、童磨(どうま)が笑えばしのぶの刃が構えられた。攻撃に備えて童磨(どうま)は金扇を取り出した。

 

――――――――――――――――――

 

 殺すのは簡単だ。何度も見ている、知っている。彼女の攻撃パターン、速さ、呼吸、動き。何度も死に巡って繰り返し見ている童磨(どうま)にとってしのぶの次の攻撃動作がどう出るかを予測するのは容易かった。

 

――だけど、やりにくいなぁ

 

 童磨(どうま)は困ったように眉下を下げた。虹色の瞳の中の文字が揺れる。……そう、殺すのは簡単だ。今からでも一つになってもいいのだ。……毒を持っていたとしても多分、分解出来る域には達している筈だ。……だけど、それでは意味がない。話さない彼女に意味はない。俺は、仲良く話したいんだ。死んでしまえばそれまでだ。だから彼女を鬼にする。……鬼にしたいのだけれど。

 

――どうやって、動けなくさせようか

 

 できれば傷つけたくないなぁ、童磨(どうま)は現状に手をこまねいていた。殺すのは簡単でも手加減というモノを童磨(どうま)は知らなかった。以前のカナエを動けなくさせてみたが虫の息であったし、血鬼術も手加減をする以上使えない。捕らえようと動かす氷の(つた)も、彼女の速さには追い付かなかった。太陽が昇る前に片付けたいところだが、決定的なモノに欠けていた。不意打ちの機会も声を掛けたことで失ってしまったし。さて、どうしたものか。彼女に刺された傷を癒しながら童磨(どうま)はしのぶの攻撃を(かわ)す。まずは話し合いからだな、童磨(どうま)はしのぶに声を掛けた。

 

「しのぶちゃん、……痛いのは嫌だろう?ほら、鬼になろうぜ、長生きも出来るしカナエちゃんともお揃いだ!いい考えだろう!」

 

「うるさい!黙れッ!」

 

 目を貫かれた、さらに攻撃が激しくなる。……何故だろうか、いい考えだと思ったのに。彼女も中々に頑固だ。童磨(どうま)は攻撃を受け止めていると、カナエが此方にやってきた。毒を喰らっていたらしいが分解が出来たらしい。ある程度慣らした甲斐があったものだ。彼女は飢えに耐えかねているようだ、唸り声を上げている。攻撃が止まったのはそれからだった。しのぶを見れば目を見開いてカナエを見ている。カシャン、とうとう刀を落としてしまった。

 

「ごめんね、しのぶちゃん」

 

 ……好機だった、俺は金扇を振り下ろしてしのぶちゃんの手足を切り落とした。ゴロリと重力に従って彼女が落ちていく。甘い血の匂いに酔いそうだ、頭を振って彼女を見下ろせば、両方の手足を失って動けない状態で身じろいでいた。足元には離れた手足が転がって血だまりを作っている。カナエちゃんが後ろで何かを叫んでいた。……もう、外は夜明けに近かった。

 

「……痛いよね、ごめんね。あまりに暴れるモノだし話も聞いてくれなかったから……でも大丈夫!鬼になれば生えてくるからな!」

 

 俺は笑って自身の手を握り締める、握り締め過ぎた手から血が溢れ出す。無惨様(あの方)から頂いた血をこうして分けるのは妓夫太郎(ぎゅうたろう)達以来だろうか、最近ではカナエちゃんか。昔を懐かしんですぐにハッとする。おお、そうであった。血で塗れているしのぶちゃんが可哀想だ。早く鬼にしてあげないと、彼女の許へ歩けば、重力に従って手からボタボタと血が地面に落ちる。その度に動けない彼女が暴れ出した。身じろいで俺から離れようとしている。……ああ、痛いんだろうな。それもすぐだから、大丈夫だよ。

 

「仲良くしようぜ、しのぶちゃん」

 

 童磨(どうま)が笑いかけると同時に、襲い掛かったのは衝撃だった。慣れ親しんだ痛みと甘い鉄の匂いが、童磨(どうま)を襲う。ガクリ、片足が無くなり跪く形でそれをした相手に童磨(どうま)は微笑んだ。額に血管を浮きだたせたカナエちゃんが俺を睨んでいた。

 

「ははッ!じゃれ合いたいんだね、でももうちょっと待っててね」

 

姉妹仲良く後で遊ぼうぜ、童磨(どうま)は身体を癒し、立ち上がれば今度は壁に吹き飛ばされる。頭を打つ衝撃に、顔を(しか)めた。

 

「カナエちゃん、流石に俺でもこれはあんまりだと思うんだけど……」

 

 カナエちゃんに苦言を漏らせば、しのぶちゃんを背に俺に立ちはだかった。反抗期かな、予想外の行動に童磨(どうま)は笑う。……少し躾けた方がいいかな。

 

「じゃあカナエちゃん、少し遊ぼうか」

 

 対の金扇を構えて、童磨(どうま)は迫る。唸り声を上げるカナエは迎え撃つも勝敗はあっという間であった。鬼になって間もないカナエと周回を繰り返す童磨(どうま)。どちらが優勢であるかは明らかだった。互いに血を流しているが血の量は明らかにカナエの方が多かった。外は、既に日の出が差し掛かっていた。

 

「遊びは終わりでいいかな?」

 

 童磨(どうま)はケラケラ笑いながら首を傾げる。明るくなっていく朝日を厭い、童磨(どうま)は障子の当たらぬ位置へと移動する。幸運なことにしのぶが居る位置は、日の当たらぬ場所だった。カナエちゃんも日の当たらない場所に居る。傷もまだ、治っていない。邪魔は入らないものと判断して再びしのぶの下へと動き出した。

 

――ああ、これでやっと、やっと

 

 童磨(どうま)は恍惚とした想いで、歩みを進めた。……長かった、遠かった。だけど、それも今日で終わり、これから彼女と話して、俺が一から鬼として育てるんだ。……無惨様(あの方)の為じゃない、他でもない俺の為。俺は、信者達の言葉を知っている、彼女達だって短く生きるのは嫌だろう。これからは老いることなく、永遠に共に生きていけるんだ。互いに笑い合って、話し合って触れ合って、親睦を深めていく、そんな夢を見た。

 

 ドン、と衝撃を受けた。腰に優しく、それでも強く押し出すように身体が動く。腰を見れば傷の癒えたカナエちゃんが俺を押し出している。ガタリ、外に続く障子が壊れて、日に身体が晒される。熱い、痛い。そう感じる前に身体は蒸発するように四散した。

 

 ……目覚めれば、見慣れた天井が視界に映る。慣れたように身を起こし、金扇をもっていつものように氷を形成すれば腰ほどの人形が現れる。ちょろちょろと童磨(どうま)と似た人形が歩き回る。最早、上弦弐に達する域になる程の力が備わっていた。

 

――ああ、あと少しだったのに。

 

 夢は遠いな、ため息を零した童磨(どうま)は再び立ち上がって信者を一人喰らった。

 

――――――――――――――――――

 

 カナエちゃんを鬼にして、これで何度目だろうか、一切食事をしてくれない時もあったし、2年間眠り続けて食事を取らず睡眠で栄養を取っていた時もあった。何度も繰り返して必ず起きるのは反抗期だった。しのぶちゃんを守りたい意思がそうさせるのかもしれない。それからは傷つけないように彼女を凍らせることにしたが、途中で出てくる黒髪の鬼殺隊の男が不愉快だった。実力は柱であることは間違いないがしのぶちゃんが彼を見つめる目が、言葉がいけなかった。

 

――冨岡さん、後は任せます

 

 柱同士だから絆が深いのかもしれない、命を互いに預け合う仲間同士、確かにそうなのかもしれないが。……まるで互いに分かり合っている様子で夫婦のようじゃないか。燃えるような嫉妬の業火に身を焦がしながら、歯を食いしばった。途中でカナエちゃんも俺に攻撃し始めて、氷の(つる)を壊したしのぶちゃんも参加する。3人がかりで俺に攻撃してきてますます面白くなかった。……なんだかやる気が削げてしまった。首は切られてやり直しになってしまったが、いい機会だった。もっと別のやり方に変えてしまおう。そして閃いた。

 

――そうだ、最初からしのぶちゃんとカナエちゃんを引き取れば良かったんだ

 

 童磨(どうま)は良いことを思いついたと言わんばかりに両手を叩き微笑んだ。早速行動に移すことにした。手始めに信者たちを使うことにした。童磨(どうま)万世極楽教(ばんせいごくらくきょう)は教団の中でも規模は小さいもので信者は250人程度だ。あまり多すぎると叱られてしまうので人数は大したことはないが、信者は要人、豪商、公家の貴族たちと人脈を重視して選んでいる。その信者達の人脈を使って、いずれ生まれる彼女たちの両親を破滅に追いやった。居所を失った彼らが此方の手に堕ちるように仕向けた。捨て子のように迷い込んだ彼女の両親に耳元で優しく諭すように語り掛けた。つらいことや苦しいことはしなくていい、と。穏やかな気持ちで楽しく生きようと万世極楽教(ばんせいごくらくきょう)の教えを口にすれば、彼らは泣き崩れて、救われていた。ああ、可哀想に。童磨(どうま)は泣いて彼らを迎え入れた。

 

――そして幼い彼女たちと出会った

 

 教祖様、もじもじと恥ずかしそうに手の平を重ねている娘たち。ああ、可愛いな。最初からこうすれば良かったんだ。適齢期になったら永遠を生きようと誓いあって、彼女達を慈しんで育て始めた。

 




独りよがりじゃ嫌われるんです、童磨さん。
多分、死に方全網羅するんじゃないかな?

鬼ルートはもうちっとだけ続くんじゃよ

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