自分は何故生きているんだろう。
することの無い休日に、ふとした瞬間に、何か失敗してしまった時、そう思ってしまう人もいるだろう。
俺もそうだ。
街のどこにあるか分からないような、携帯のマップアプリにも乗っていないような廃ビルの屋上で、死ぬ理由なんて特に思い浮かばないがそれ以上に生きる理由が思い浮かばない俺はなんの躊躇いもなく屋上から飛び降りた。
屋上からアスファルトの路上までたったの数秒の筈なのにその数秒がとても長く感じた。
これが走馬灯なんだろうとアスファルトにぶつかるコンマ数秒前に俺はゆっくりと目を閉じた。
〇
捨てたはずの意識が戻ってきた。
もう二度と感じることは無いと思っていた心地よい風、ゆっくりと目を開けると洗濯物がすぐ乾きそうなほどの日差しが指して手で遮断する。
体を起こして辺りを見てみると木々が生い茂っていた。
丁度俺のいる周りにだけ木が生えていない、地面も硬いアスファルトではなく枯葉と土だった。
「ハハ…」
乾いた笑いが喉から漏れる。
いやいやまさか、冗談じゃない。
まさか死にきれなかったのか…?
「ふざけんな…」
生きる理由を見つけられず路頭に迷った挙句死を選んだというのに、また惨めに生きてしまったのか…
「ふざけてんじゃねぇぞ!まだ生きろってのか!まだ生き続けろってのか!テメェでテメェの人生も決めることすら出来ないこんな出来損ないに!他人に何かを与えることすら出来ねぇような人間に!まだ、生き続けろってのか!」
誰かに訴えるように喚き散らす。
生きているだけで万々歳、と普通の人なら思うだろう。
だが違う、俺は死を選んだんだ。
意味もなく生きるなら、ただ日常を消費するだけならいっそ死んでしまった方が楽になれると、そう思って死を選んだ。
だが生きている、生きてしまっている。
それを受け入れられなかった。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
喉が避けるんじゃないかと思うくらい声を上げた。
蹲って思い切り地面に手を叩きつけて、鈍い痛みが返ってくる事に嫌気が指して、また別の方法で暴れる。
それを繰り返すうちに少し落ち着いた。
というより暴れすぎて体力が底をついた。
叫びすぎたことと喉が渇いていることもあり張り付くような痛みがする。
「クソったれが…」
居ない誰かの悪態をつく。
もうこのままこうしていればいずれ餓死するだろうと思い意識を手放そうとした。
「あ…?」
小さな揺れを感じた。
それも一度だけでなく何度もだ。
何か生き物がいるのだろうか、それなら頼む。
救いようのないゴミのような命だが、お前の養分になれるならそれでもいい。
そんな祈りが通じたのか足音は大きくなり、やがて足音の正体が現れる。
それは黒い体毛で被われた巨大なクマのような生き物だった。
口からイノシシのような牙が二本左右から生えていて涎が歯と歯の間から垂れていた。
あぁ、今度こそ死ねる。
でももう一つだけ頼めるならどうかあまり痛くないようにしてくれ。
全身から力を抜き正に、まな板の上の鯉になる。
巨大なクマが俺に近づき大きな口を開けて俺の頭を噛み砕こうとする。
さようなら、俺を生かした誰かさん。
「危ない!」
だが、俺の淡い希望はその一言で消し飛んだ。
人の声が聞こえた瞬間、俺は吹き飛び地面から剥き出しになっていた岩に頭をぶつけ意識を失った。