死にたがりと少女   作:陽炎 紅炎

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戦闘シーンは難しいですね


初仕事

初仕事に向かう列車の中で、天気のいい景色を眺める俺と黙々と本を読み進めるクロ。

互いに特に会話は無く、列車の揺れる音だけが静寂を覆った。

仕事の場所はギルドのある街から列車を使わなければ行けないらしい。

そのため俺の隣には大量の荷物が置かれている。

念には念をと、死なないために死ぬほど準備をするあたりクロの性格も何となくわかってきた。

慎重で、冷静で、人を揶揄うことが好きで、揶揄われるのは苦手で、そして困ってるやつを見過ごせない性格なのだろう。

正義感が強いと言ってしまえばそれまでなのだろうが…。

 

「…街に着くまでまだ時間があります。私の顔で暇つぶしするには長いですよ?」

「ん…あぁ、悪い」

「どうかしました?」

「なんでもねぇよ」

 

ふっと目を逸らしまた外を眺める。

昔から手持ち無沙汰になると人の顔色を伺っていた。

両親の目が怖かった、クラスメイトの目が怖かった、人の目が怖かった。

だから人を疑ってかかったし人の言葉の裏を読むようになってしまった。

人から傷つけられたくないなら人と距離を取ればいい。

壁を創って、壁越しに話せばいい。

必要最低限のコミュニケーションと共感があれば人は勝手に話し続けてくれる。

ガキの頃にそう学んだ。

──ふとクロの方に目を向けるとまた本に視線が戻っていた。

こいつは顔も名前も知らない両親を戦争で失い、育て親になってくれた人も病気で失った。

俺は人を避けた。

クロは大切な人を失った。

それでもクロは生きる目的をしっかりと持っていて何度も俺の自殺を止めてくる。

きっとこいつは誰かが痛がっているのを黙って見ていられないのだろう。

 

「あの、その、あんまりジロジロ見ないでください」

「あ、すまん…」

「もう、暇ならこれでも読んでてください」

「あ、あぁ」

 

そんなつもりはなかったが長い時間クロを見つめていたらしい。

クロはさっきより本を高めに持ち、顔を完全に隠してしまった

俺も渡された本をパラパラ捲ってみたが、案の定表紙のタイトルすら読めやしない。

 

「ふっ」

「…どうかしたんですか」

「いや、なんでもない」

 

渡された本は読めなかったが、クロのことはほんの少しだけ読めた気がした。

 

 

 

 

 

 

今日はやけに彼が私を見つめてくる。

私の顔になにかついているのかと思ったが彼は「なんでもない」の一点張り。

少しモヤモヤしながら私は本に視線を戻す。

でも、内容は殆ど入ってこなかった。

目で文字を追っていても頭は彼のことを考えていた。

私から見る彼は変わった人だ、すぐ死にたがるし、割と口は悪いし、初対面で「いっそ殺してくれればよかった」と言われた時は割と本気で叩いてしまったがその時の彼の目がとても痛々しかった。

心の中の何かを失ってしまった様な、そんな目が育て親になってくれた人を失った時の私と似ていた。

彼は人の痛みを理解できる人だ。

私の両親と育て親の話の時、ボロボロになったスラム街の少年を見た時、彼は自分の体が痛むような顔をした。

その顔を見た時、彼のことが少しだけわかった気がした。

 

「ふふっ」

 

本の後ろで彼に気づかれないように静かに笑った。

彼にはいつか「生きてて良かった」と言って貰わなければ…。

その時の彼の顔を想像してしまいもう一度静かに笑った。

 

 

 

 

 

 

駅に着くと大量の荷物を持たされホームの出口に案内される。

 

「にしても重いなこいつら…何が入ってんだ?」

「保存食に野宿用品、弾薬と武器の手入れ用品、それと着替えですね」

「そんなに日数のかかる仕事なのか?」

「念の為ですよ、何事もなければ明日には帰れます」

「そうか、で、どこ行くんだ?」

「まずは宿に行きましょう。必要最低限の荷物を持ってあそこに見える森に行きます」

「はいよ、てか少しくらい持てよ」

「やです」

「ちっ!」

 

少しイラつきながらクロの後ろついていく。

辺りを見渡せばギルドのあった街より建物が少なく草木が多い。

街というより町という感じだ。

人通りは街より少ないがそれでも市場の辺りまで来ると大勢の人がいた。

 

「気になりますか?」

「まぁな、別の町に来たのは初めてだからな」

「そうですね、宿はこの通りをもう少し行ったらあるので頑張ってください」

「だから少しくらい持てっての…」

 

ため息混じりに吐き捨てるがクロは何処吹く風、気にする様子もなく「早く行きましょう」なんて言ってくる。

 

「はぁ…」

 

俺はもう一度大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、必要な分だけ持って森に行きましょう」

「あぁ…」

 

宿に着き荷物をおろして準備をする。

と言っても俺の道具はないからクロの準備になる訳だが。

部屋は何故か同室でベッドが二つあるだけの簡素なものだった。

別室も提案したが「安く済むので」で済まされてしまった。

 

「なぁ…やっぱり別室の方が良かったんじゃないか?」

「んー?別に気にしませんよ、いつもとあんまり変わらないじゃないですか」

「いや、まぁ、そうだが…もう少し警戒心ってものをな…」

「いざとなったらぶっ飛ばすので大丈夫です。それともタケルさんはそういう人だったんですか?」

「お前を襲ったら殺されそうだからやらねぇよ、死なねぇけど」

「なら良いじゃないですか。ほら、早く行きましょう」

「分かったよ」

 

小さな心配事が増えたが仕事にはなんの影響もなさそうなので気にしないことにした。

きっと大して気にすることでもないのだろう、多分。

 

 

 

 

 

 

 

宿を出て暫く歩いた所に今回の仕事場、森がある。

この森の中にいるウルフ(多分普通のオオカミだろう)を討伐するのが今回の仕事だ。

森の中は昼間なのに、夕方時のように薄暗かった。

足元は木の根で歩きづらく薄暗さも相まってコケそうになる。

 

「…歩きづらいな」

 

少し声を落としてボヤいた。

 

「ここの森は年中こんな感じです。冬になると雪も降るので討伐系の仕事は難易度が上がります」

「本当に素人向けの仕事なのかよ…」

「と言っても冬になると討伐系の仕事は減るのであんまり関係ないんですけどね」

「…そうなのか」

「…しっ、いました」

 

クロの声で足を止める。

しゃがんで木から体を出すとその先には討伐対象のウルフが居た。

思っていたより大きい。

立ち上がれば俺と同じくらいだろうか、俺の身長が175cmなのでクロなら押し倒されてしまいそうだ。

 

「…でかいな」

「そうですね、普通はもう少し小さいんですけど…群れの長ですかね」

「さぁな…で、どうする」

「ウルフは基本的に五匹位の群れで行動します。見えているの一匹ですが周囲も警戒してください。渡した銃は持ってますか?」

「あぁ」

「スライドを引いていつでも打てる状態にしてください。私が隙を作るのでその隙に頭を狙ってください」

「俺がトドメか…」

「外しても私がやるので大丈夫です」

「そりゃあ頼もしいな」

「では……行きます!」

 

その声と同時にクロが飛び出した。

ウルフに近づきながら高速で二発撃つ。

一発目は腹に当たったが二発目は避けられた。

ウルフもクロを敵と認識し獣特有の体さばきで距離を詰める。

銃弾を避け、一瞬でクロの首元を噛みちぎらんと大口を開けて飛びかかる。

それを屈んで回避し左手でナイフを抜き、切りつける。

一度距離取り、慣れた手つきでリロード。

間近で行われる命をやり取りが行われ、見ている俺の手は震えていた。

心臓は煩く高鳴り、目の前の数秒が数十秒、数分に感じる。

これではダメだ。

直感でそう感じた。

目を閉じ、ゆっくり深呼吸を繰り返し頭をクリアにする。

これではダメだ、もっと冷静になれ、手の震えを止めろ、情報を確実に認識しろ。

そう意識に刷り込んだ、もう一度目を開けると状況はさっきと変わっていなかった。

クロとウルフが対峙し、両者とも距離を置いている。

ウルフが大きく鳴き声を上げ、クロに飛びかかる。

その瞬間周りから四匹のウルフがクロを囲むように飛び出してきた。

 

「っ!!クロ!!」

 

つい大声を上げて木影から飛び出してしまった。

それとほぼ同時に聞こえる五発の銃声。

クロは唯一空いていた上空へ身を躍らせ、五匹のウルフを撃ち抜いていた。

どれも的確に急所を捉えて五匹のウルフは絶命していた。

 

「そんなに大声を出さなくても大丈夫です。気づいてましたから」

「っ…そうか」

「ふふっ、心配してくれたんですか?」

「そりゃ、あんな状況なら心配もするだろうが」

「あら、珍しく素直ですね」

「ちっ!」

 

クソ、心配して損した。

銃とナイフをしまい、こちらに歩いてくるクロ。

俺も銃にセーフティをかけてベルトに指す。

 

「さて、依頼も終わりましたし帰りましょう」

「あぁ…っ!!あぶねぇ!!」

 

クロの死角、背後から絶命したはずのウルフが飛びかかってきた。

咄嗟にクロを横に突き飛ばして腕を前に出す。

肉が裂け、骨が砕かれる音と共に激痛が走る。

 

「一一ぐっ、ぎっ!」

 

そのまま腕を千切ろうと首を振り回すウルフ。

頭を押え、空いている手で顎をこじ開けようとする。

顎は空いたが牙が腕を貫通しているため腕を抜くことは出来そうにない。

 

「ぁ…タ、タケルさん!?」

「くっ…問題ねぇ!早くしろ!」

「は、はい!」

 

ナイフでウルフの首を刺すがそれでも止まらない。

どんな生命力してんだこいつ!

 

「どうして!?」

「ちぃ!く、そ、がぁぁ!!」

 

力任せに蹴りあげるとウルフの体が弾け、今度こそ止まった。

 

「はぁ…はぁ…」

「大丈夫ですか!」

「あぁ、もう治ってる」

「…すいません、私のせいで」

「お前のせいじゃねぇよ。急所抉られてんのに襲いかかって来るなんて誰も予想しねぇよ」

「どうやって動いたんでしょう…」

「さぁな、調べてわかることなのか?」

「…血を取ってギルドに持ち帰ってみましょう。何かわかるかも知れません」

「わかった…」

「私がやるのでタケルさんは休んでてください」

「あぁ」

 

近くの木にもたれ掛かり一息つく。

少し冷静になった俺はさっきのことを思い返す。

ウルフのこともそうだがただの人間の蹴りで体が爆散するのもおかしい、魔法が使えもしない、ただ死なないだけの俺がそんなパワーを出せる訳が無い。

 

「…ったく、何がどうなってんだ」

 

初仕事を成し遂げた達成感より自身への疑問と違和感ばかりがただ残った。

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