残金、約800G。この世界の通貨の相場は分からないがネックレスで9000するなら少ないってことだろう。宿屋の4Gに油断した。
どうせ仕事はしようと思ってたからいいんだけど。そもそもこの世界にどういう仕事があるのか分からないからまたアレクに頼るつもりだ。
心の中でアレクに感謝しながら宿屋へ帰ってくる。
「おかえりなさい。夕飯の準備、もうしちゃって大丈夫ですか?」
「その前に、受け取ってほしいものがある」
ベルはそれを聞いて首をかしげる。無理もないだろう。受付カウンターから出てくるよう言うと、不思議そうにしながらとてとてと出てくる。
影から綺麗な包装で包んだネックレスを出す。
「なんですか、それ?」
プレゼント、と言っていいのだろうか。もちろんベルのために買ったのは間違いないが今日初対面の男に渡されるってどうなんだ?
あの場に流されて買う雰囲気になって、思わずベルへのプレゼントとして買ってきたがよくよく考えると気持ち悪いかもしれない。
買わなきゃいけない雰囲気とその場のノリ、あの店員は物を売るプロだ。まぁいい、気まずくなったら町を出よう。それが一番いい。
「アレクに町を案内してもらって、寄った店で買ったものだ。受け取ってもらえるか?」
「そんなわざわざ・・・、いいんですか?」
「買いたくて買ったんだが俺が着けるものでもないし、今プレゼントできる相手もベルくらいしかいなくてな」
自分でも何を言ってるか分からないが伝わってくれ。
伝わったのか、ベルは俺からの贈り物を受け取ってくれる。
「開けてもいいですか?」
もちろん、と答えると恐る恐る包装を外し、箱を開ける。
ネックレスを見た瞬間、ベルは目を奪われるようにそれを眺め、数秒経って現世に戻ってくる。
「綺麗・・・。これってもしかして、フラウさんのお店のものですか!?」
「フラウさんかは分からないが、町の中の小さなアクセサリー屋さんで買ったぞ」
「や、やっぱりフラウさんのお店・・・、じゃ、じゃあこれって物凄く高価なんじゃ・・・」
フラウさん、名前の響きから女性っぽいから職人の女性の方かな。
「値段は気にしないでいい。ほんの気持ちだ」
「そんな事言われても・・・」
うーん、やっぱりあんまり良くなかったかもしれない。でもやってしまったものは仕方が無いし、着けてもらえないのはそれはそれで困る。
箱からネックレスを取り、ベルの後ろに回る。ネックレスをそっと、ベルの首に着ける。
見立て通りだ。正面に回って確認すると、ちゃんと似合っていた。良かった良かった。
「うぅ・・・、本当にいいんでしょうか、こんなもの貰ってしまって・・・」
「じゃあそうだな、俺が泊まる間の宿代として受け取ってくれ」
「それでも多すぎますよ!何年泊まるつもりですか!」
確かに単純計算で大体6年は居座れるな。
「気に入らなかったなら店に返品しに行ってくるが」
「うぅ・・・、レオさんズルいですよ、その聞き方。すごく可愛くて、綺麗で、私にはもったいなさすぎるくらいで・・・」
「じゃあ問題ないな」
「それが問題なんですよ!」
「おい、何を騒がしくしとるんだ」
ベルとの話し声が気になったのか、おっさんが奥から出てくる。エプロンを着てる辺り、キッチンに居たんだろう。そういえば夕飯前だった。
「お、お父さん」
ベルがおっさんの方を向くと、ネックレスに気づいたのかベルの胸元に顔を近づける。
「こいつは・・・、そちらのお客様からもらったのか?」
「レオでいいぞ、宿屋のおっさん」
こんな見た目の俺でもしっかりお客様と呼ぶあたり、きちんとした人物なんだろうが、長くいるつもりだしあまりかしこまられてもめんどくさいだけだ。
「レオか。俺はダグラスだ。それで、このネックレスは?」
アレクに町を案内してもらったことと、その後なんとなく入ったアクセサリー屋で買った事を話す。
「なんとなくベルに似合いそうだったんで買ってきた。似合ってるだろ?」
「あぁ、とても似合っているが、どうして娘にプレゼントを?」
説明するのもまた面倒なのでなんとなく、と答えておく。
「俺が泊まる間の宿代として受け取ってくれ。あぁ、稼ぎが出ないなら普通に宿代払うが」
「いや、これを貰って宿代まで取ったらアレクに馬鹿にされちまう。何日でも泊まってってくれ。ベル、それでいいか?」
「う、うん!」
どうやら話はまとまったみたいだ。きちんと貰ってくれたし、安心して部屋に戻れるな。