「アレクシス様、どうなさいました」
マーカスが何事かと心配するように、椅子から立ち上がりアレクへと近づいていく。
「セオドアの爺さんから話を聞いて急いで来たんだ。調査はある少年に一任した、今頃マーカスからそれを聞いてる頃だろうって」
まさにその通りだが、やはりこの件、あの爺さんの単独行動だったらしい。この様子ならきっと依頼も無かったことになるだろう。
アレクが少し息を整え部屋を見渡し、俺に気づく。
「やっぱりお前さんか、レオ」
やっぱりなのか。
「爺さんが一任するって言った時は不安だったが、お前さんなら任せてもいいだろう。引き継ぎ作業もここでしてしまおう」
この世界の住人は何故こんなにも人の話を聞かないんだ。
その後何度も依頼を断る旨を伝えようとしたが何かと話を遮られ、引き継ぎを進められてしまった。
曰く、南の森は雑魚モンスターの住処で始めたての冒険者がよくクエストをしに行くらしい。だが数日前から雑魚モンスターが居なくなってしまいクエストが達成できないという苦情があったと。
アレク達で調査をしたところ、何かしらの巨大なモンスターが暴れた形跡があったがどこを探してもそんなモンスターは居なかったとのこと。
「つまりそのモンスターを見つければいいってことか?」
「そういう事になるな」
見つけるだけで報酬を貰えるなら安い方か。いや、アレク達が探しても見つからなかったものを見つけるとなると結構な重労働になりそうだ。もう少し情報を貰おう。
「その形跡というのは一度だけか?それとも、継続的についているのか?」
「継続的だな。毎日調査団を派遣しているがその日に付いたであろう形跡もちらほらとあった。それと、昼間は交代で森を見回ってもらっていたが、出てきていないところをみると夜に出てきてるんだろうな」
アレクの言葉に少し引っかかる。
まず昼に出てこないのは何故だろう。夜が活動時間だ、とも考えられるが人の目を避けているのであればそれなりの知能があることになる。
そもそも夜を狙って出てきてるとすると、昼間はどこに隠れている?昼の調査で見つからない隠れ場所があるのか。そうなるとやはり相応の知能を持ったモンスターであることは間違いない。
「分かった、この依頼引き受けよう」
夜に出てくる、人目を警戒している、どちらも俺にとっては好都合だ。
「ありがとう、助かるよ。それじゃあ俺は戻るから、後は頼むぞ」
そう言ってアレクは足早に去っていく。領主も領主で忙しそうだ。
調査の方は夜やるからそれまで簡単なクエストをこなしていたいが、ちょうどいいのはあるだろうか。
マーカスに尋ねるといくつか候補を出してくれた。採集や討伐がメインで、近くの町への護衛もあった。
「冒険者にはランクがあり、今お見せしているのは最低ランクであるランクG冒険者向きのクエストです。時間が夜までであれば遠出も出来ないでしょうしちょうど良いかと」
「なるほど、気遣いはありがたいが使い魔のおかげである程度の遠出はできるんだ」
正確なスピードは分からないが、クロでの移動はかなり早い。簡単なクエストでは報酬も低いだろうしある程度高いランクのクエストを受けたいところだ。
「分かりました。今持ってこさせます」
「別にそう畏まらなくてもいいぞ、堅苦しいのは苦手でな。それに、セオドアという爺さんがどれほど偉いのか俺は知らんが、一度会っただけで深い関わりがあるわけじゃない。だからそこまで丁重に扱われる立場の人間でもないし、自然体でいい」
「お気遣い感謝します。ですが私はこれが癖のようなものですのでお構いなく」
なるほど。こう言われては無理強いはできない。あまり気にしないことにしよう。
程なくして職員が適当な依頼をまとめた書類を持ってくる。
せっかく行くのなら同じ方向のクエストを複数受けておきたい。目に付いたのはこの町から東に行った先、岩山にいるモンスター、ロックバードとモンスターウルフの討伐、自生する植物や果実の採集。同時進行でやれば夜までには終わるだろう。
「ではこちらをお受けいただくということでよろしいですか?」
「あぁ、構わない。色々とありがとう、また来るよ」
立ち上がり、ギルマスの部屋の扉をくぐると、外に居た職員に呼び止められる。
「こちらがギルドカードになります。とはいえナンバーカードに情報を追加しただけですが。成果確認と同時にギルドへ提出いただいて、その場でクエスト達成処理を行いますのでお忘れなきようお願いします」
「分かった、ありがとう」
お礼を言い、ギルドを出る。エブリン達はついてきているが、ここまで一言もしゃべっていない。
ぷはっ、という吐息と共に、エブリンが口を開いた。
「緊張したー!私ギルマスなんて初めて会いましたよ!しかも領主様まで……。っていうかレオさん領主様と知り合いなんですか?めちゃくちゃ親密そうだったし実は凄い人なんじゃ……」
「ただの放浪人だ。道中でアレクに会っただけでな」
「領主様を呼び捨て……。絶対凄い人だ」
面倒なことになりそうだ。というかなんでついてきたんだこいつらは。
とりあえず、ここら辺で追い返しておくか。どうせ移動はクロだし、これ以上ついてこさせられないし。
「俺はクエストに行ってくる。夜も遅くなるから、夕飯は用意しなくて良いとベルに伝えてくれないか?」
「はい!分かりました師匠!」
いつから俺はこいつの師匠になったんだろう。
全力で宿屋まで走っていくエブリンと、それを追う二人の背中を眺めながらため息をつく。
とにかく、門まで行ってからクロを出そう。街中じゃ目立つしな。
俺はうなだれながら、町の門へと歩いて行った。